※この作品はR-18です。

短編置き場   作:バハルストスFF

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『天神乱漫』の卯花之佐久夜姫と、クリスマスデートをする話。
 ちょっと短めです。


一生もの(天神乱漫/卯花之佐久夜姫)

 ふう、と吐き出した息は、夕闇を白く染め上げた。

 ロビンの外で、俺は空を見上げる。雪でも降りそうな、重たい雲が垂れ込めていた。

「待たせたな、ハルキ」

「大丈夫だ」

 トレンチコートに身を包んだ咲夜が、店から出てくる。

「相変わらず返事が冴えとらんのー」

「悪かったな、気の利いたことが言えなくて」

「構わん。それでこそハルキじゃ、妾もその方が安心する」

「そうか……」

 なんだか複雑な気分だ。褒められている気分にならないのは何故だろうか……?

「ともかく、行くか」

「うむ」

 頷いて、一歩目を踏み出したところで、俺は足を滑らせスッ転んだ。

「……不幸だな」

「お主のドジじゃぞ。そこは朝から凍っておった」

 呆れながらも、咲夜が手を差し伸べる。俺はその手を取って立ち上がると、握りしめたまま駅へと歩き出した。

 

 

 電車に揺られ、三十分以上。雲雀よりも更に遠い繁華街が、今日の目的地。

 なのだが――

「人が多いな」

「予想通りじゃな」

 歩道を人が埋め尽くしている。今日という日を甘く見ていたわけではないが、これは正直想定外だった。

「はぐれるなよ」

「お主こそ、迷子になるでないぞ」

 握る手を更に固く、強くした。それどころか、腕を絡めて密着する。

 厚手の服越しに、仄かな熱が伝わってきた。

「じゃ、まずは飯だな」

 

 

「あー、ちょっと時間がかかったな」

 予約してたにも関わらず、迷惑な客のせいで長時間待たされる羽目になった。天罰が消えたと思えないほど不運なのだが、これは持ち前のものらしい。

 とはいえ、味は良かった。そう感じたのは咲夜も同じだったようで、満足そうに微笑んでいる。

「じゃが味は文句無しじゃ。このような店、よく見つけたの」

「テレビで見て、美味そうだと思ったんだよ。一度行ってみたかったんだ。って言っても、こういう日でもないと行く機会がな……」

「ふふ、それもそうじゃの。少々お高くとまっておるしの」

 きっと今俺の懐が寒いのは、どんどん冷え込んでいるからに違いない。気温計には氷点下何度って記されている筈なんだ。

 そんな風に逃避する俺の内心を察したのか、咲夜はやれやれと首を振る。

「全く……妾の分は妾が払うと言ったじゃろ」

「いいんだよ。こういう日くらい俺が払う」

「頑固じゃの、お主」

 だが、咲夜はそれ以上この話題を維持しようとはしなかった。代わりに質問が飛んでくる。

「それで、次は何処に向かっておるんじゃ」

「この街の名物……だと噂の場所」

 

 

 ビルの外壁や街路樹を、色とりどりの電球が彩る。この近辺では最大級の規模で開催されるイルミネーションが、俺達を出迎えた。

「ここだよ」

「……ふむ」

 光に照らされ、煌めく咲夜の眼。完全に、この光景に釘付けになっていた。しばし、言葉さえも忘れて二人佇む。

「まだ入り口だぞ。本命は奥にある」

「そうなのか。なら行くぞ」

 そう言うと、咲夜は俺の手を引いて歩き出した。

「お、おい。引っ張るなよ」

「楽しみなんじゃよ。ほれ、足を止めるでない」

 弾むような足取りで、街並みを進んでいく。やがて、大広場に辿り着いた。

 そこには一際巨大な木と、それを端まで埋め尽くすほどの光源があった。

 赤、青、白、金……目まぐるしく色を変える大樹の前に、俺たちは立ち尽くすばかりだった。

「美しい……見事じゃの」

「ああ。これをお前と見れて良かった」

「……やめんか、そういう不意討ちは」

 ごにょごにょと、何かを口ごもる咲夜。その様子がとてもいじらしくて……もっとそんな顔が見たくて、俺はそちらへ身体を向けた。

「なあ、これ……」

「ん?」

 肝心な所で、どうにも勇気が出ない。だが、ここで踏みとどまってはダメだ。恥なんて捨てて、乗り越えろ。

「これ、俺からのクリスマスプレゼントだ」

 そう言って俺は、小さく細長い箱を取り出して、咲夜へ差し出す。

「……開けても良いか?」

「ああ」

 俺に確認を取ると、咲夜は包みを解いて箱を開けた。

 そして、一際大きく目を見開いた。

「これは……簪、か?」

「そうだ。お前に似合うもの、って考えたらこれになった。ほら、お前は日本の神様だったろ。だから、やっぱり簪かなと」

 こう説明する間も、彼女の眼は俺からのプレゼントを見ている。光の反射のせいか、瞳が潤んで見えた。

 そして口元が、何か言いたげに動いていた。

「…………お主、本当は分かっててやってるじゃろ。絶対そうじゃろ」

「ん? 悪い、聞こえなかった。何か言ったか?」

「何でもない。……嬉しいぞハルキよ、一生の宝物じゃ」

「そんな大袈裟な。けど、喜んでもらえて何よりだ」

「ああ、これは是非ともお返しをせねばな。……ハルキよ、目を瞑ってくれるか」

「……わかった」

 何をされるのか何となく察しつつも、言われた通り目を閉じる。予想通り、口元に柔らかな温もりが。

「んっ、ちゅっ」

 束の間、その温度を味わう。再び目を開いた時、咲夜の顔がすぐ近くにあった。

 顔を赤らめつつ、こいつはこう言った。

「ハルキよ……末永く、よろしく頼むぞ」

 気付けば雪が降りだしているというのに、俺の胸は狂おしいほどの熱を帯びていた。

 




 今日という日にワンライのお題で推しが来るのは、一体どんな意味があったのか。


 そんな事を考えながら、これを書いていました。独り身なのでシチュエーションの想像がつきにくかったのですが、こればかりは妄想で駆け抜けるしかないと思いやり切ってしまいました。
 結果としてまた天神乱漫の話を書いている訳ですが……ちょっと割合が多すぎますね。


 それではこの辺で。お読みいただきありがとうございました。
 誤字脱字・ミスの報告、感想等お待ちしております。




 簪にも意味はあります
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