ネタバレ注意です。
日差しを遮る木々の間を貫く砂利道を、二人して歩いていた。
「……流石に、お伊勢さんともなると厳かさが段違いだな」
「そうね。自然と声が小さくなっちゃう」
実際、人工物による音は殆ど聞こえない。玉砂利を踏みしめる足音と、早鐘を打つ心臓の鼓動だけがやけにうるさく耳に残る。
ここは、それほどに神聖な場所だった。
どうして、俺たちがそんな場所に来ているのかというと。
きっかけは、家族で外食した帰りに見かけた、町内会で開かれていた在り来りなくじ引きだった。俺は運試しとばかりにそれを引いてみたが、結果は参加賞。佐奈も結果は芳しくなく、このまま終わるかと思われた矢先。
祖父さんが、とんでもない豪運を発揮した。
「金色の玉…………おっ、大当たりーっ!!」
そう、一等。最高の景品を引き抜いてしまったのだ。
「一等はなんと、伊勢旅行ペアチケットでーす!!」
そんなことがあり、祖父さんはめでたく伊勢旅行に向かう権利を手に入れた。
しかし。
「春樹よ、これはお前にやろう」
あろうことか、それを俺に譲ってくれたのだ。
「いいのか? 祖父さんが当てたんだぞ」
「それはペアチケットだろう。家族で行くには一枚足りないのだから、ワシが持っていても仕方ないじゃないか」
「それはそうだけど……うーん」
「要らないというのなら、渉君にでも渡すが」
「……要らないってわけじゃないよ。ありがとう、使わせてもらう」
というわけで、俺は葵を誘って伊勢まで来たというわけだ。
「鳥居の一つ一つが神々しいよね。写真、撮っておこう」
「おう、綺麗に撮ってみせるよ」
「…………ハールー?」
「冗談だって。ほら、一緒に撮ろうぜ」
「まったく、どうしてそんな冗談を言うかな」
文句を言いつつも、こちらに身を寄せてくる葵。そんな姿が愛らしくて体を抱き寄せると、少しばかり頬を赤らめた。
「はい、チーズ」
カシャリという音が響き渡る。葵に携帯を返すと、何故か吹き出した。
「ハル、顔赤くなってるよ」
「なっ」
言われて覗き込んでみると、確かに俺の頬も心なしか赤くなっている……ようにも見える。
とはいえ、素直に認めるのも癪だ。
「気のせいだ、気のせい」
「そう? ほら、今だって赤くなってるよ」
「なってないったらなってない。ほら行こうぜ」
「あっ、待ってよハル」
後ろの方から葵の声が聞こえてくるのだが、そちらに顔を向けることはできなかった。
一つ目のお参りを済ませ、神楽殿へ戻ってくる。
「お守り、ここで買っちゃうの?」
「ここで『も』、だな。外宮と内宮で一つずつ買いたい」
「まっ、記念だもんね。あたしも買おうっと」
「好きなの選べよ。俺が買うから」
「えっ……いいの?」
「いいよ。それくらい気にしなくて」
俺がそう言うと、葵は何かを噛み締めるように、数秒無言で見つめてきた。
やがて、おずおずと口を開く。
「じゃあ、あの勾玉の形をしたお守りがいいな」
「ん。じゃあ、俺もそれにしよう。色はどうする?」
「うーん……ハルに任せてもいい?」
「分かった。ここで待っててくれ」
「うん」
返事を聞いて、俺は列へ並ぶ。数分程度で俺の番がやってきた。
「すいません、これを二つください。えーと、色は…………」
少しばかり悩みながらも、目的のものを買い終えた俺は葵のもとへ。分けてもらった袋の内の一つを渡すと、彼女は感慨深げに呟いた。
「…………ハルに、お守りを貰うなんてね」
「そういえば、いつも俺が貰う側だったな……」
そんな不幸な日々が、遠い過去のように思えてくる。それくらい、今の俺は幸せだった。
それから時間をかけて、内宮の参拝も終えた。
「伊勢といえば、これは外せないよね」
そう葵が断言する、伊勢名物・赤福餅を買ったりもした。
「渉さんへのお土産は…………伊勢限定うみゃい棒でいいかな」
「それで喜ぶの、お姉ちゃんじゃなくて子供たちじゃない」
「あっ、確かに。……ルリへのお土産には良いかもだけど」
「……そうね。ヒメやルリのお土産も、お供えしに行かないと」
ルリや卯ノ花がいないという事実に、一抹の寂しさを覚えたりもした。
そんな事があって、俺たちは今日という日を終えた。
だが、この旅はまだ終わりじゃない。最後の最後、一番肝心な場所が残っていた。
日の出前の、空が白みかかった頃。俺たち二人は、海岸線を歩いていた。目指すは海辺に建つ、とある神社。
その名は、
「ここが、二見興玉神社」
「本当に、海の際にあるんだね」
伊勢神宮と比べればこぢんまりとはしているが、それでも歴史と風格を感じさせる建造物であることは間違いなかった。
「本当なら、こっちから先にお参りするんじゃなかった?」
「よく調べてるな。その通りなんだけど、時間の都合があってさ」
ここでもお参りを済ませた俺達は、本殿の奥へ向かう。此処こそが、俺が一番来たかった場所といっても過言ではないかもしれない。
そして、二見興玉神社の名物といえばこれしかない。
「……夫婦岩、だよね」
「そう。伊勢の、もう一つの名物だ」
二人して、しばしその巨岩を見つめる。何分経ったか分からなくなった頃になって、夫婦岩の間から太陽が姿を現した。
ちら、と横に視線を流すと、瞳を煌めかせる葵の顔が。その視線は、神秘的な光景に釘付けだった。
「綺麗だね……」
「ああ……」
思わず同意してしまうほどに、その光景は美しくて。
気付けば俺は、とんでもないことを口にしていた。
「いつか……」
「ん?」
「いつか、お前と夫婦になる日が来るといいな」
「……………………」
葵は何も言ってこない。完全に、言葉を失っているようだ。
…………待て、何言ってるんだ、俺は? これではプロポーズじゃないか。しかもスルーされて……うう、のたうち回りたくなってきたぞ。
という風にマイナスなことを考えていたのだが、そんな否定的思考を打ち砕く一言が、葵の口から帰ってきた。
「あたしも…………あたしも、ハルと夫婦になれたらいいな。ううん、なれたらいいな、じゃないよね」
そこで言葉を切ると、俺のもとへ飛び込んできた。迎えるように唇を触れ合わせる。
「んっ……ぷはっ。ハル、大好きだよ。これからもずっと、一緒にいようね」
「ああ。俺も、葵を愛してる。どんな困難だって、お前と二人で乗り越えるよ」
二人の唇が、再び触れ合う。
周りの視線すら気にすることなく、俺たちはしばし、二人の時間を楽しんでいた。
久々に書きましたね。
二か月も更新しなかったのは本当に申し訳ないです。
モチベーションがなかなか回復しませんでした。
かなり長いこと書いてなかったので、感覚を取り戻すまで大変でした。
今回の話はだいぶ端折っているので、詰めればまだまだ書けそうなのですが、一時間では書ききれませんでしたね。
今回も自己解釈を交えて書いています。時間軸はEDの後という感じですね。
主に眞一郎の運絡みですが、そちらはまた説明の機会があれば。
それでは今日はこの辺で。お読みいただきありがとうございました。
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