※この作品はR-18です。

短編置き場   作:バハルストスFF

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『天神乱漫』の市杵宍姫命と店について考える話。
 ネタバレあります。


居場所(天神乱漫/市杵宍姫命)

 未知の体験というのは、今までにない考えを与えてくれる。

 花鶏亭で働くことで、それを強く認識していた。

 例えば。

 

 

「新メニュー、だって?」

「ええ、そうよ」

 バイト終わりのまかないを食べている最中、そんな話題が飛び出してきた。

 ちら、と蘇芳に目を向けてみると、そちらは何やら神妙な面持ちでいた。つまりこれは、既にこの二人で話し合っていたんだろう。

「……って言っても、どんなものを作るんだ? 具体的に決まってたりするのか?」

「いいえ、それがまだなのよ。だから、次の木曜日に色々試してみようということになったのだけれど……」

 若葉の方は、意味ありげな視線を俺に注いでいる。要は変則的なデートのお誘いということだ。

「分かった、俺も参加する。バイトとはいえ、この店の一員だからな」

「ありがとう、それじゃ、お願いするわね」

 こうして、仕事なんだかプライベートなんだか分からない予定が入った。

 

 そして、当日。

「おはようございまーす」

「春樹さん! いらっしゃいませ」

 学校が終わってから直行した俺を、蘇芳の元気良い挨拶が出迎えた。

「いらっしゃい。……ごめんなさいね、時間を使わせてしまって」

「いいって。嫌なら断ってる」

 若葉と過ごす時間が嫌なものであるはずもない。こうして店のことを考える時間もまた楽しいものだ。そんな時間が手に入っただけでも、この店を閉じずに頑張った甲斐がある。

 ……なんてこと、正直に話せたらどれだけ良かったか。こっ恥ずかしくて、できそうもないが。

 しかし若葉は言外の意図を察していたようで、クスリと微笑んだ。

「そう。それなら良かったわ」

「……」

「……」

 しばしの間、沈黙が満ちる。それを蘇芳の咳払いが破った。

「お二人とも、今日の目的を忘れないでくださいね!」

 耳の痛い話だった。

 

「じゃあ、まずは方向性を決めるか」

「そうですねぇ……中華料理は種類が豊富ですから、地方の料理を出すのもアリだと思います」

「けれど、あまりマイナーに走っても即座に新規客の獲得には繋がらないでしょうね」

「そもそも中華料理屋に来る客って、何を食べたいかだいたい決めて来てると思う」

 中華に限らず、特定のジャンルに絞った店に来ている時点で、目的意識がある程度はっきりしているはずだ。イタリアンを食べに和食の店へ行く人間はいない。つまり、客が食べたいものも「中華料理と言えば」と考えて思いつく範囲に限られるだろう。

「あまり突拍子もないものを作ると、客の食指が伸びないかもしれない」

「そう考えると、新料理というのはいささかリスキーね」

「ああ。だから俺は、期間限定でやればいいんじゃないかと思う」

「それは、季節を区切って出すとか、そういうことかしら?」

「そういうことだな。例えば、旬の食材を使った料理とか。……どうだ?」

 そこで言葉を切ると、厨房を仕切る蘇芳の反応を伺ってみる。あれこれ考えても、それは蘇芳が実現可能でなければならない。

「……コストの問題はあると思いますが、良い案だと思いますよ。試してみましょう」

 これで、方向性は決まった。ここからは、具体的に何を作るかの協議だろう。

「じゃあ、厨房に移動しましょうか――」

 

 厨房に移動した後は、試行錯誤の連続が俺たちを待っていた。

 結論が出る頃には、腹に何も入らないと言えるくらいの満腹感で溢れていた。

「広告とかも考えないとな……」

「そうね。出前のメニューとは別に、チラシを刷りましょうか」

「……」

「何かしら?」

「いや……この店の事、真剣に考えてるなって。店を始めてすぐの頃はそうでもなかったと思ったんだけど」

 指摘を受けた若葉は、僅かに驚いたような表情を見せる。

「……そうね。これも、アナタがくれた変化だわ」

「俺が? なんで?」

「最初は、この店はあくまで仮の住まいだったでしょう? だから、いずれは畳むはずだった。……でも、今は違うわ。春樹がいて、蘇芳がいて、ワタシがいる。そんな店を、いつまでも続けたい。こう思うのは、春樹と一緒にいたいから。その為の場所を、アナタと蘇芳が守ってくれたから」

 若葉が行方不明になったあの時、店を開こうと言ったのは俺だった。若葉が帰ってくる場所を、絶対になくさないために。その甲斐あってか、若葉はこうして居場所を取り戻した。

「だから、アナタのおかげ。ありがとう、春樹」

 柔和な笑みと共にそう告げられ、俺の思考はショートしてしまった。どうにか絞り出せた言葉が、

「………………なんだそりゃ」

「照れているのね。可愛い」

 からかわれた俺の頬が熱を帯びる。それに気を良くしたのか、若葉はずずいっと身を乗り出して、

「そんな春樹には、ワタシに鞭を打つ権利を――」

「いらん!!」

 こんな時でもやっぱり、俺たちは平常運転だった。

 

 

 短く儚い日常に起きた、小さな変化。そう、これはただそれだけの話。

 このささやかな出来事を、いつまでも忘れないように――




 10周年おめでとうございます!!!!(1日遅れ)


 間に合いませんでした。力量不足を恥じるばかりです。
 しかもいつもより短いです。中々筆が進まず、腕が鈍っていることを痛感しています。


 それはそうと市杵宍姫命のHなタペ買ったんですが、攻撃力が高すぎて飾るに飾れませんでした。あれは良いものですね。


 それではこの辺で。お読みいただきありがとうございました。
 誤字脱字・ミスの報告、感想等お待ちしております。
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