時系列は、咲夜√ED後です。
「ハルキ。これ、起きぬかハルキ」
「んん……」
眠い。まだ寝ていたい。そんなことを思いながら、寝ぼけ眼で声の方を向くと……。
「ご主人様、おはようございますっ!」
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まだ夢を見ているらしい。起きたらフリフリした服を着た咲夜が傍に立っているなんて、あり得るはずがない。
そう考えて、再び目を瞑った。
「おい」
ギリギリギリギリッ! と、思い切り頬をつねられた。
「いったたたたたた! って、何すんだよ!?」
「どあほう。お主が無視するからじゃ」
「いやだっておかしいだろ! なんだよ、この状況」
「そんなに不思議か? 今までも、お主を起こしに来たことは何度もあったじゃろ」
「こんな服着てたことはないだろ。あとなんだご主人様って……」
そう言って、目の前に立つ少女の全身を眺めてみる。神様の時に来ていた服とは違う、白と黒を基調とした服。しかも、そこかしこにフリルが付いてるし。
というかこれ、もしかして?
「メイド服、というやつじゃな」
やっぱりか。道理で見覚えがあるわけだ。
「どうじゃ、可愛いか?」
むっ。この手の質問は二度目だ。もう間違えはしない。
「ああ、可愛いよ」
前回の指摘を受けて、ちゃんと質問に答えた。恥ずかしかったが、これで合ってるはずだ。
そう思ったのだが、咲夜は呆れ顔を浮かべている。……間違えたか?
「40点じゃ」
「なんでだよ」
「どこが可愛いか、が抜けておる。ただ『可愛い』だけでは足りん。だから40点じゃ。まだまだじゃな、ハルキ」
難しい……。やっぱり、こういうことはよく分からん。
「うむ。むくれるハルキも可愛いの」
「うるさいな。それより、何でこんなことするんだ」
「そりゃ、お主……プレイの一環?」
「こんな朝っぱらからか?」
冗談じゃない。昨日の晩だって、死ぬかと思うほどシたっていうのに……。
「そういう意味ではない。お主、何を考えておったんじゃ?」
「うぐっ」
ニヤニヤと、意地の悪い笑みで見つめられる。いらん恥をかいたせいで顔が熱い。そんな俺の姿に気を好くしたのか、弾むような調子で教えてくれた。
「あれじゃ、コスプレ? とかいうんじゃろ? 一度やってみたくての」
「……神様だったころに着てたのも、コスプレみたいなものだと思うけど」
「あれは正装じゃ! 失敬な奴じゃな」
怒られてしまった。確かに、神としての彼女に天罰を消してもらっておきながら、その頃の服をコスプレ呼ばわりは失礼だろう。
「悪かった。もう言わないから」
「ふん。まあ良い、お主がそういう人間であることはよく知っておる」
諦められていた。悲しい。俺ってそんなに信用無いのか?
「ともかく。今日一日、妾はお主のメイドじゃ。というわけで、よろしくお願い致しますね、ご主人様♪」
「……………………………………」
「おい。何じゃ、その反応は」
「いや。『ご主人様』って、なんか似合わないなと思って」
元が神様だからな。それに、今までさんざんからかわれてきたから、突然従順になられても違和感が強い。
「やかましい。ともかく朝食じゃ、行くぞ」
「ああ」
……いや待て。つい流してしまったが、おかしい。
「お前、その格好のまま行く気か?」
「そうじゃが、それが?」
「『それが?』じゃねえ! 少しは恥じらいというものはないのか!?」
「何故? むしろ見せつけてやる、くらいの気分でいればよかろう。ほれ、行くぞ」
臆面もなくそう言って、俺の手を引いてリビングへ向かう。拒否権はないのか、俺には。
そして案の定、朝食の席で話題に挙がることに。
「あのー、ヒメさん。その格好は」
「姫姉様、きれい」
「そうだな、実に似合っている。普段の姿とは一味違った新鮮さがあるな」
咲夜の斬新な姿は、他の家族の注目を一身に集めている。これが咲夜一人に向いている分にはまだいいのだが、
「そうか、ならばよかった。お主らにも伝えておくが、妾は今日一日ハルキのメイドじゃ。そういうわけじゃから……何でも命令してくださいね、ご主人様?」
そうもいかなかった。とんでもない爆弾を落とされた我が家のリビングは、一瞬にしてパニック状態に。
「めっ、メイド!? ということはまさか…………徹底した主従関係、逆らえないのをいいことに要求はエスカレート、最終的にはマニアックなプレイまで……っ! 兄さん!! こんな朝早くからなんてことしてるんですか!!」
「何もしてねえよ!! どうしていきなりそんな方向に話が飛ぶ!?」
「ハルキ、お主そんなことを考えておったのか? ほんと、ご主人様ったらいやらしい」
「話をややこしくするんじゃねえ!!」
「駄目だな春樹は、何も分かっておらん。そういう事は夜中、人が寝静まった頃に密やかに行うからオツなのだぞ。こんな朝っぱらから家族の前で行うものではない」
「あんたもあんたで何言ってんだ!? だからそんなんじゃないんだって!!」
「がじがじがじがじがじ」
「痛い痛い痛い、噛むな、離れろって!!」
なんで一日の最初からこんな目に遭うんだ。俺の不幸、実はまだ消えてないんじゃないだろうな?
「別にいやらしい目的じゃない! こいつが勝手にやってるだけだ!」
「…………なら良いんです。いや良くはないんですけど、兄さんがそういう趣味を持ってるわけじゃないことは分かりました」
「当たり前だろ、俺を何だと思ってるんだよ」
嘘、俺の信用無さ過ぎ……?
「ともかく、これは本当に何でもないから。ごちそうさま」
いたたまれなくなった俺は、さっさと食器を片付けて部屋を出た。本当、心臓に悪い……。
「やれやれ、メイドを置いて行ってどうするんじゃ。……ご馳走様」
「お粗末様でした」
「ああそうじゃ。サナよ、今日は妾があやつの昼食を作る故、後でキッチンを借りるぞ」
「はい、わかりました。……というか、本気なんですね」
「勿論じゃ。やるからには徹底的に、じゃぞ」
「姫姉様、無理してない? はるきに乱暴されたりしてない?」
「無理などしておらんよ。これは妾が望んだことなのじゃからな」
「……なら、いい」
「納得してもらえたようじゃな。……………………では、行くか。ふふふ」
「え? 今日の昼はお前が?」
「うむ。期待して待っておれ」
昼前。再びリビングに着いた俺に、咲夜がそんなことを言ってきた。その表情には、やけに気合が入っている。
咲夜の料理は、美味いことは美味い。見た目があまり良くないために、食欲減退効果を持っているのが玉に瑕だが……。
そんなことを考えているうちに、咲夜は早速調理に取り掛かっていた。以前に見た時は、どこから取り出したのか分からない動物やら原因不明の爆発やらてんやわんやだったが、今日はそんなことはない。あくまでも普通に、何かを作っている。不気味なほど、普通に。
それから20分ほど後。俺の前に置かれた皿には、何とも形容しがたい
紫やら青やら緑やらが入り混じった、極彩色と形容できるような毒々しい色をした何かの上に、ケチャップでハートが描かれている。
「なあ、これ何?」
「オムライスじゃよ。メイドと言えば、オムライスなんじゃろ?」
「それは違うと思うが……」
というか、これ本当にオムライスなのか? 上に乗っている物体はどう見ても卵の色をしていないし、ライスと思しき何かはサイケデリックな色合いで食欲を削り取っていく。見る限り、元の材料の色をしているのはハートの形をしたケチャップ部分だけだ。あの普通の調理で、どうしてこんなものが出来上がるというんだ?
いやでも、前に食べたのは美味かったし、今回も悪いのは見た目だけのオチだろう。半ば逃げるような思考と共にスプーンを手に取る。だがそこで、咲夜が口を挟んだ。
「待て。まだ、最後のひと手間が残っておる」
そう言うと、咲夜は怪訝そうな顔をする俺に向かって、手でハートマークを作りながら、衝撃的なフレーズを口にした。
「おいしくなぁれ、萌え、萌え、キュン♪」
………………………………………………………………は?
今、なんて? 萌え……?
「何とか言ったらどうなんじゃ」
「え? いや、でも…………ええ?」
「そうかそうか、可愛すぎて言葉も出ないか。よいよい」
あまりに突然過ぎて、何を言っていいか分からないだけです。
とは言えないので、お茶を濁すかのように、スプーンで一口分掬って口に運ぶ。途端、口の中を何かが蹂躙した。
「ごっほ!! ごっ、があああああああああああああああああああ!!」
舌が、火傷でも負ったかのように熱を持つ。口から火が出そうなほど辛い。最初から最後までクライマックス、そんな言葉がピッタリだろう。口に入れた瞬間から後味まで、全てが辛味で支配される。咄嗟に水を流し込んでも、治まる気配は全くない。
「おいっ、なんだこれ!?」
「ふふん。情熱の炎、というやつじゃよ。気に入ってもらえたか?」
「食えねえよ!! 辛過ぎるにも程があるだろ!!」
ヒリヒリする舌を必死に動かし、何とか言葉を紡ぐ。うう、口の中が痛い。
「そんな……妾の熱い想い、受け取って貰えないの?」
うるうると、瞳に涙を浮かべながら問いかけてくる。こいつ、嘘泣き上手すぎだろ!
「誰も舌を焼けとは言ってない!」
「うーむ。おかしいの、最近読んだ漫画ではこれが主流と書いてあったんじゃが」
どんな漫画だ。今すぐ焼き捨ててやる。
「まあ良い、無理に食えとは言わん。じゃが、腹を膨れさせておかんと午後がきついのではないか?」
「…………佐奈に頼むよ」
「サナならば、ルリと一緒に出掛けておるぞ」
「なら冷蔵庫の残りで――」
「全部使い切ったぞ」
してやったり、と言わんばかりの顔をする咲夜。俺に残された道は、これと向き合うことだけだというのか。
「さ、たんと召し上がれ♪」
この時俺は、本気で死を覚悟した。
30分後。激辛という概念の権化をどうにか食べ終えて突っ伏す俺を、咲夜が無理矢理引っ張り起こした。
「行くぞ。次はお主の部屋の掃除じゃ」
「それくらい自分でやるって……」
「妾がやるから意味があるんじゃ。妾に任せよ、部屋の隅まで綺麗にしてやる。お主が必死に隠しておるコレクションを、余すところなくほじくり返してやるからな、ふふん」
「俺にプライバシーはないのか!?」
「心配せずともよい。お主が何処に何を隠しておるか、妾は全部お見通しじゃ」
「なんで!?」
本格的に将来が心配になってきたぞ。へそくりなんて作ろうものなら、一瞬で暴かれてしまうじゃないか。
「ほれ、早く来い」
ベッドに腰掛けながら、ぼーっと部屋を眺めていた。
言葉通り、咲夜は俺の部屋を丁寧に掃除している。普段やらないような所まで、見事に綺麗にしていた。その姿がとても楽しそうに思えて、気付けば俺は口を開いていた。
「なあ。何で、こんなことをしてるんだよ」
「んー? 言ったじゃろ、前からやりたかった、と」
「だから、何で前からこんなことをやりたかったのか、ってことだ」
正直、意味のある質問ではなかった。「やりたい」という気持ちに理由を求めるのは無粋で無意味だ、ということは分かっている。だが分かっていても、疑問の方が今は強かった。どうせまともには取り合ってもらえないと思っていたのだが、
「ふむ。そうじゃな……強いて言うなら、人として生きることになったから、かのう」
意外にも、真面目な答えが返ってきた。だが、いまいち要領を得ない。むしろ、疑問が増えた。そんな俺の心を読んだかのように、咲夜は続けた。
「神だった頃は、人には敬われ、傅かれるばかりじゃった。故に、こうして人に傅くというのは経験がない。だから、出来るうちにやっておきたかったんじゃよ。こうして寿命を得た以上、出来ることには限りがあるんじゃからな」
……そういう、事だったのか。説明を聞いてようやく理解できた。
咲夜は、少し前までは土地神だった。人の文化を知ったところで、神様という立場では出来ないことがあまりに多かっただろう。
それが、こうして第二の生を得た。だから、神様だった時にやりたかったことを出来る限りやる。それが、咲夜という人間の望みだったのだ。
「…………そういうことなら早く言え」
何気ない行動の裏にこういう意図を隠していたというのなら、それを汲むのが俺のやるべきことだ。咲夜を人として幸せにすることが、俺の望みなのだから。
「なんじゃ。急に素直になったな」
「うるさいな。いいだろ別に」
顔が熱い。その熱は、すぐさま全身へと波及していく。体中から湯気を出しそうなほどの恥ずかしさを堪えながら、俺は告げた。
「また、こういうことがしたくなったら言え。付き合うからさ」
我慢仕切れず、大事なところでそっぽを向いてしまった。視界の端で、咲夜が驚いたように目を見開いていた気がした。あまりの恥ずかしさに彼女の顔すら見ていられず、明後日の方向を向いていると、
「んっ……」
頬に、柔らかい感触。そちらへ視線をやると、すぐ近くに咲夜の顔があった。数秒もせずにその感触は消えてしまったが、彼女の顔は相変わらず傍にある。
「本当に優しいの、ハルキは……。妾は、そんなお主が大好きじゃよ」
包み隠さない、ストレートな言葉。顔を赤らめながらそんなことを言われて、ドキリとしてしまった。全く、何度聞いても慣れない。けど、好きだと言われたからには、答えは一つだ。姿勢を正して、向き直る。
「俺も、お前の事が大好きだ。………………一緒にいるから。これから二人で、やりたい事をやれるだけやっていこうぜ」
好きな人を幸せにするのは、当たり前のことように思えて、実は難しい。今日、俺はその事を改めて実感した。だから、これは決意表明みたいなものだ。これから先、二人で幸せになるという、その意思の。
「うむ。…………ずっと、一緒じゃぞ」
そう言って、二人の唇が触れ合った。
「なあハルキ、明日は『高飛車お嬢様』というのをやってみたいんじゃが」
「……お手柔らかにお願いします……………………」
メイドの日なので、メイド服を着てもらいました。
咲夜でメイドだからって某STGの人は関係ありませんので悪しからず。
もう少しシーンがあってもよかったかも?
今回は少しお笑いに突っ走ってます。天神乱漫は、こういう作風が自然にできるからいいですよね。
誤字脱字の報告、及び感想などお待ちしてます。
それではこの辺で。
お読みいただきありがとうございました。