※この作品はR-18です。

短編置き場   作:バハルストスFF

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 ワンライのお題から、『夏空カナタ』の上坂茅羽耶と喫茶店へ行く話。
 ワンライ出来なかったんですが、完成間際だったのでやり切っちゃいました。

 茅羽耶ルートのネタバレあります。


ある冬の影法師(夏空カナタ/茅羽耶)

 12月。俺は毎年この時期に、塔弦島で親戚が経営するペンションの手伝いをしている。今年もまた、その為に島へと来ていた。

 だが、今年は一つだけ、例年と違う点があった。それは俺の目下の悩みでもあるのだが……。

「すみませーん」

 聞き覚えのある声をした来客だ。ミホさんが応対してくれる。

「いらっしゃい。そーたに用事?」

「はい。呼んでいただけますか」

「ちょっと待っててね。……そーたー!」

「今行くよ」

 そう言って、玄関まで出てみる。案の定と言うべきか、そこに立っていたのは俺の悩みの種となっている人だった。

「こんにちは、朝倉さん」

「うん。こんにちは、上坂さん」

 上坂茅羽耶という少女。それが、今俺を悩ませる最大の要因である。この島に来て以来、俺はこの少女と毎日会っている。正確には、彼女の方から会いに来ている、というのが正しい。

「今日は、どんな用事?」

「あの、一緒にコーヒーでも……と思ったんですけど」

「何時ごろから?」

「今からじゃ、ダメでしょうか」

「うーん、ミホさんが許してくれるかどうか……」

「あら、いいわよ。そーたも若いんだから、今のうちに青春を満喫しときなさいな」

 即答かよ。結構な無茶振りのはずなんだが。しかしそうなると、断る理由がないけど…………。

 まあ、構わないか。断らなきゃいけない理由もないし。

「わかった。じゃあ、行こうか」

「はいっ!」

 眩い笑顔を浮かべる上坂さん。その姿に僅かな罪悪感を覚えながら、俺はペンションを出た。

 

「ここです」

 海際にぽつんと立つ、小さめの喫茶店。初めて行く店だ。よくこんな店知ってたな、と思いながら店内を見回す。

「こんにちは、マスター」

「いらっしゃい、茅羽耶ちゃん……あれ」

 マスターと呼ばれた男性と目が合う。すると途端に、その男性は親しげな表情を浮かべてきた。

「いらっしゃい。久しぶりだね」

「えっ? ……俺達、初対面ですよね」

「覚えてないのかい? 君は、今年の8月にもここに来てるよ」

「そうなんですか?」

 記憶にない。だが、8月という単語は何度も耳にした。五郎や、隣にいる上坂さんは、8月に俺と会っているらしいのだ。

「うん。コーヒーを飲んでたと思ったら、突然店を飛び出して。何事かと思ったら、茅羽耶ちゃんの命が危ない、って」

 やはり、記憶にない。だが、これも断片的ではあるが話を聞いている。

 俺によく似た男が、8月に上坂さんを助けているらしい。その時の俺は間違いなく自分の家にいたはずなのだが……。

「すみません、やっぱり記憶にないです」

「そうか……。ならいいんだ、気にしないで。そういえば、君の名前は?」

「朝倉壮太です」

「朝倉君だね。僕は羽柴昌平。見ての通り、ここのマスターだ。よろしく」

「よろしくお願いします」

「うん。……ああ、そうだ。立ち話もなんだし、座って座って。コーヒーでいいかな」

 そう言って、窓際のボックス席へ案内される。海が良く見える、いいポジションだ。

 俺達は当然のように、向き合うようにして座った。

「…………ふふ」

 はにかむ上坂さん。こうして正面から見つめられると、何だか無性に恥ずかしい。この子、物凄く可愛いからな。こういうシチュエーションは嫌でも緊張してしまうのだが、上坂さんの場合は格別だ。

 でも、そういう浮ついた気持ちに影が差す。こうしている今も、胸の中の罪悪感は確実に存在感を増していた。

「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ」

 マスターの声に反応して視線を机に向けると、コーヒーが二人分。いい香りだ。

「いただきます」

 声を揃えて、二人同時にカップに口を付けた。示し合わせたかのように動作を取ったことに、自然と笑みが零れてくる。

 なんだか恋人みたいだな、と。そう思いながら、熱めのコーヒーを啜る。瞬間、胸がずきりとするような感覚があった。心なしか、苦みを強く感じてしまう。

「あの、朝倉さん。もしかして、美味しくなかったですか?」

 気付くと、上坂さんが心配そうにこちらを見ている。表情に出ていたか?

「そんなことないよ。美味しい」

「そうですか、なら良かったです」

「おいおい茅羽耶ちゃん、それは本来僕の台詞なんだけど?」

「うふふ」

 和やかなやり取り。だが、俺にはそれが眩しすぎて、窓の外へと視線を向けてしまう。そんな俺に、上坂さんはまた声をかけてきた。

「ここ、綺麗ですよね。私、この店で一番いい席はここだと思うんです。……朝倉さんと一緒に来れて、嬉しい」

 そちらには目を向けずに、俺も口を開いた。

「うん。俺も、嬉しいよ」

 これは、偽らざる俺の本心だ。なのに、締め付けられるように胸が痛んだ。

 遠くの海を眺めながら、思いを馳せる。彼女が探しているのは俺じゃない。俺そっくりの誰かなんだ。きっと彼女は、俺じゃない誰かとここにいたはずなのに、俺がその機会を奪っている。そのことが、俺を悩ませていた。

 五郎が言っているだけだったなら、戯言だと流していただろうに。

 どうして、上坂さんの時はこんなにも気になるんだろう?

 どうして、上坂さんを傷付けたくないと、強く願っているのだろう?

 でも、それだけじゃない。傷付けたくないなんて願いながら、真逆の事を考えている。

 どうして、俺じゃない誰かといる上坂さんを思い浮かべると、胸に穴が開いたような感覚になるんだろう?

 誤魔化すようにコーヒーを啜っても、ただ苦みが残るばかりだった。

 それからしばらく無言だった。再び会話が発生したのは、コーヒーをほぼ飲み終えたころ。上坂さんが、また話しかけてきたのだ。

「あの、朝倉さん」

「ん?」

 今にも消え入りそうな声だった。気になって目を向けると、図らずも見つめ合う形に。すると彼女は顔を赤くして、もじもじしながら尋ねてきた。

「その…………また、私と一緒に、ここに来てくれますか?」

 捉え方によっては、デートの約束ともとれてしまいそうな言葉。俺にはそれがたまらなく苦しくて、たまらなく嬉しかった。

「うん。また一緒に、ここに来よう。約束する」

 その答えに、上坂さんは満面の笑みを浮かべてくれた。その笑顔をずっと守りたい、なんて思いが自然と溢れ出てくる。

 多分、俺は彼女の事が好きなんだ。でも、彼女が見ているのは俺とは違う誰か。そのことが、この上なく悔しい。俺はきっと、嫉妬しているのだろう。

 だからこそ、頑張ろうと思える。いつかちゃんと、他の誰でもない俺を見て貰えるように。俺と一緒にいたいと、そう想って貰えるように。

 静かな海を眺めながら、密かに決意を固める。カップが空になる頃には、悩みの種は一つの恋を芽吹かせていた。

 




 前に、夏空カナタで書いたやつは消してしまいました。読み返していて物凄く気にくわなかったので。
 やはり、どうにかして幸せになってほしいという思いが強かったです。そうしたらワンライのお題が茅羽耶だったので、ちょうどよかったと思い書いてみました。

 トゥルーエンド後の二人、やっぱり気になりますね。今回は、もし二人が交流を続けていたらどうなるか……なんて妄想です。

 誤字・脱字の報告、感想・指摘等お待ちしてます。
 お読みいただきありがとうございました。
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