ワンライ出来なかったんですが、完成間際だったのでやり切っちゃいました。
茅羽耶ルートのネタバレあります。
12月。俺は毎年この時期に、塔弦島で親戚が経営するペンションの手伝いをしている。今年もまた、その為に島へと来ていた。
だが、今年は一つだけ、例年と違う点があった。それは俺の目下の悩みでもあるのだが……。
「すみませーん」
聞き覚えのある声をした来客だ。ミホさんが応対してくれる。
「いらっしゃい。そーたに用事?」
「はい。呼んでいただけますか」
「ちょっと待っててね。……そーたー!」
「今行くよ」
そう言って、玄関まで出てみる。案の定と言うべきか、そこに立っていたのは俺の悩みの種となっている人だった。
「こんにちは、朝倉さん」
「うん。こんにちは、上坂さん」
上坂茅羽耶という少女。それが、今俺を悩ませる最大の要因である。この島に来て以来、俺はこの少女と毎日会っている。正確には、彼女の方から会いに来ている、というのが正しい。
「今日は、どんな用事?」
「あの、一緒にコーヒーでも……と思ったんですけど」
「何時ごろから?」
「今からじゃ、ダメでしょうか」
「うーん、ミホさんが許してくれるかどうか……」
「あら、いいわよ。そーたも若いんだから、今のうちに青春を満喫しときなさいな」
即答かよ。結構な無茶振りのはずなんだが。しかしそうなると、断る理由がないけど…………。
まあ、構わないか。断らなきゃいけない理由もないし。
「わかった。じゃあ、行こうか」
「はいっ!」
眩い笑顔を浮かべる上坂さん。その姿に僅かな罪悪感を覚えながら、俺はペンションを出た。
「ここです」
海際にぽつんと立つ、小さめの喫茶店。初めて行く店だ。よくこんな店知ってたな、と思いながら店内を見回す。
「こんにちは、マスター」
「いらっしゃい、茅羽耶ちゃん……あれ」
マスターと呼ばれた男性と目が合う。すると途端に、その男性は親しげな表情を浮かべてきた。
「いらっしゃい。久しぶりだね」
「えっ? ……俺達、初対面ですよね」
「覚えてないのかい? 君は、今年の8月にもここに来てるよ」
「そうなんですか?」
記憶にない。だが、8月という単語は何度も耳にした。五郎や、隣にいる上坂さんは、8月に俺と会っているらしいのだ。
「うん。コーヒーを飲んでたと思ったら、突然店を飛び出して。何事かと思ったら、茅羽耶ちゃんの命が危ない、って」
やはり、記憶にない。だが、これも断片的ではあるが話を聞いている。
俺によく似た男が、8月に上坂さんを助けているらしい。その時の俺は間違いなく自分の家にいたはずなのだが……。
「すみません、やっぱり記憶にないです」
「そうか……。ならいいんだ、気にしないで。そういえば、君の名前は?」
「朝倉壮太です」
「朝倉君だね。僕は羽柴昌平。見ての通り、ここのマスターだ。よろしく」
「よろしくお願いします」
「うん。……ああ、そうだ。立ち話もなんだし、座って座って。コーヒーでいいかな」
そう言って、窓際のボックス席へ案内される。海が良く見える、いいポジションだ。
俺達は当然のように、向き合うようにして座った。
「…………ふふ」
はにかむ上坂さん。こうして正面から見つめられると、何だか無性に恥ずかしい。この子、物凄く可愛いからな。こういうシチュエーションは嫌でも緊張してしまうのだが、上坂さんの場合は格別だ。
でも、そういう浮ついた気持ちに影が差す。こうしている今も、胸の中の罪悪感は確実に存在感を増していた。
「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ」
マスターの声に反応して視線を机に向けると、コーヒーが二人分。いい香りだ。
「いただきます」
声を揃えて、二人同時にカップに口を付けた。示し合わせたかのように動作を取ったことに、自然と笑みが零れてくる。
なんだか恋人みたいだな、と。そう思いながら、熱めのコーヒーを啜る。瞬間、胸がずきりとするような感覚があった。心なしか、苦みを強く感じてしまう。
「あの、朝倉さん。もしかして、美味しくなかったですか?」
気付くと、上坂さんが心配そうにこちらを見ている。表情に出ていたか?
「そんなことないよ。美味しい」
「そうですか、なら良かったです」
「おいおい茅羽耶ちゃん、それは本来僕の台詞なんだけど?」
「うふふ」
和やかなやり取り。だが、俺にはそれが眩しすぎて、窓の外へと視線を向けてしまう。そんな俺に、上坂さんはまた声をかけてきた。
「ここ、綺麗ですよね。私、この店で一番いい席はここだと思うんです。……朝倉さんと一緒に来れて、嬉しい」
そちらには目を向けずに、俺も口を開いた。
「うん。俺も、嬉しいよ」
これは、偽らざる俺の本心だ。なのに、締め付けられるように胸が痛んだ。
遠くの海を眺めながら、思いを馳せる。彼女が探しているのは俺じゃない。俺そっくりの誰かなんだ。きっと彼女は、俺じゃない誰かとここにいたはずなのに、俺がその機会を奪っている。そのことが、俺を悩ませていた。
五郎が言っているだけだったなら、戯言だと流していただろうに。
どうして、上坂さんの時はこんなにも気になるんだろう?
どうして、上坂さんを傷付けたくないと、強く願っているのだろう?
でも、それだけじゃない。傷付けたくないなんて願いながら、真逆の事を考えている。
どうして、俺じゃない誰かといる上坂さんを思い浮かべると、胸に穴が開いたような感覚になるんだろう?
誤魔化すようにコーヒーを啜っても、ただ苦みが残るばかりだった。
それからしばらく無言だった。再び会話が発生したのは、コーヒーをほぼ飲み終えたころ。上坂さんが、また話しかけてきたのだ。
「あの、朝倉さん」
「ん?」
今にも消え入りそうな声だった。気になって目を向けると、図らずも見つめ合う形に。すると彼女は顔を赤くして、もじもじしながら尋ねてきた。
「その…………また、私と一緒に、ここに来てくれますか?」
捉え方によっては、デートの約束ともとれてしまいそうな言葉。俺にはそれがたまらなく苦しくて、たまらなく嬉しかった。
「うん。また一緒に、ここに来よう。約束する」
その答えに、上坂さんは満面の笑みを浮かべてくれた。その笑顔をずっと守りたい、なんて思いが自然と溢れ出てくる。
多分、俺は彼女の事が好きなんだ。でも、彼女が見ているのは俺とは違う誰か。そのことが、この上なく悔しい。俺はきっと、嫉妬しているのだろう。
だからこそ、頑張ろうと思える。いつかちゃんと、他の誰でもない俺を見て貰えるように。俺と一緒にいたいと、そう想って貰えるように。
静かな海を眺めながら、密かに決意を固める。カップが空になる頃には、悩みの種は一つの恋を芽吹かせていた。
前に、夏空カナタで書いたやつは消してしまいました。読み返していて物凄く気にくわなかったので。
やはり、どうにかして幸せになってほしいという思いが強かったです。そうしたらワンライのお題が茅羽耶だったので、ちょうどよかったと思い書いてみました。
トゥルーエンド後の二人、やっぱり気になりますね。今回は、もし二人が交流を続けていたらどうなるか……なんて妄想です。
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お読みいただきありがとうございました。