勇者たちをもっとイチャイチャさせたい! 作:紅氷(しょうが味)
祐樹捜索隊を組んでそれぞれの勇者たちが三つに分かれて行動を開始した。
そんな中で上里ひなたは一人別行動しある場所に赴いていた。
(ごめんなさい、皆さん……)
一度大赦に戻り、正装────巫女装束に身を包んだひなたは歩きながら今も尚探し続けている若葉たちに謝る。
「…で、ワタシを連れてきてなんのつもりかな。ひなた様?」
「こちらに」
使用設備や動力源は神樹様の一柱を通して賄われており、ひなたはエレベーターを使って階下に向かっていた。
その隣には私服姿になったラフな姿の赤嶺友奈が壁にもたれながらひなたを見やる。
「貴方たちやっぱり──」
「赤嶺さん」
赤嶺が何かを口にしようとしたところでピシャリと言葉を切られる。
ひなたは目を伏せ、勇者たちと対立している彼女の問いかけに口を開く。
「あなたにも知っておいてもらおうかと思いまして。ずっと私のことを監視していたようですし、丁度都合がよかったんです」
「へえ? 結構鋭いねー…流石はひなた様。貴方が勇者だったらさぞ苦戦を強いられていたでしょうね」
「祐樹さんは無事ですよね?」
「無事も無事ー……って言いたいところだけど、今預かっている相棒の匙加減じゃないかなぁ? みんな必死に探しているようだけど果たして見つけられるかしらね」
「それは大丈夫でしょう。若葉ちゃんたちを信用していますから」
「いやーな説得力……まぁ、自ずとそういう方向に向かっていくでしょうね。はぁ──つくづく暗躍側に立つのは疲れるよ」
「そのことを話してもよろしいんですか? 私が皆さんにバラすかもしれませんよ?」
「ふーん。それこそないんじゃない? 貴方が私をここに連れてきている時点でそれは交渉材料にはなり得ないし。それにしても……」
赤嶺はどんどん降っていくエレベーターランプを見つめながらポツリと呟く。
「ゴールドタワーだっけ? まさかここまでの設備があるとは思わなかった。しかも地下とは、ワクワクしちゃうね」
「神世紀時代……芽吹さんたち防人隊の拠点でもあります。今は封鎖させてしまっていますけど、中身は少々弄らせてもらいました」
「いいの? 私たち造反神側が攻め入ってしまうかもしれない可能性があるかもよ?」
「それは不可能です。この領域では特に──勇者としての力も封印されているはずですから」
「……なるほど。ここでは私も貴方もただの少女ってワケ」
「そういうことです。聡明な赤嶺さんなら大人しくついてきてくれることを願います」
「怖いコワイ。貴方の方が私よりよっぽどこういうのに向いているかも」
「ふふ。褒め言葉として受け取っておきますね」
などと会話をしていると、エレベーターの到着を報せる鐘が鳴る。
随分と深く地下に招かれた赤嶺はその扉の先に目をやると少しだけ驚いた様子に変化した。
ひなたはいつもの調子を崩さずに手をその先に向けながら微笑んだ。
「──どうぞこちらに。私たちの御役目をその目で確かめてみて下さい」
◇
徳島は芽吹たちが請負い捜索してもらっている最中、愛媛には残りのメンバーがその地に立っていた。
「どう? みつかった棗さん」
「……いや、この辺にはいないようだ。雪花は?」
「私のほうもだめかにゃー。いやはや、一から探すってのも骨が折れますなぁ」
「祐樹には海の加護が付いている。近づけば感覚で判るはずだ」
「へぇ。そういえばいつだか私のとこのカムイも似たようなことを言っていた気がする。祐樹っちは色んな人? に好かれてるねぇ」
「それが祐樹の良いところだ」
「ごもっとも……さて、なら地道に確実にいくとしますかな」
そう言いながら雪花は再び歩みを進める。その様子は心なしか急いているような気もしなくはないが、やはり彼女のいつも戯けた調子がそれを否定しているようにも見える。
棗はそんな彼女の機微に気がつくもどう接したら良いか悩んでいた。
「…なぁ風、大事な話がある。聞いてくれないか?」
「ふぇ!? な、なななんですか急に改まって!」
ガシッと風の両肩を掴んで棗は風を壁際に追い込む。堪らず風も敬語になってしまうほど目を回してあたふたと慌てる。
「うん? なにをそんなに慌ててるんだ?」
「あ、あんたが急にこういうことするからでしょー!?」
「?? あぁ、すまない。痛かったか……それで雪花のことなんだが」
「痛いってわけじゃ…ないけど。雪花がどうかした?」
話の内容を聞くと風も前を歩く雪花を見て首をひねる。
「──あたしから見ればいつもと変わらない気もするけど……そうじゃないんでしょ?」
「あぁ、どうしたらいい?」
「あの子の居た時間になにがあったかなんて訊いてないから分からないけれど…もしそうならあたしにも過去に心当たりがあるし、何とかしてあげたいわね……って原因はもちろん祐だと思う」
「ならやはり祐樹を早く取り戻すことが先決なんだな。他には何か声を掛けてあげた方がいいのだろうか」
「……踏み込まれたくない部分もあるから、本人がいつもの調子を崩さないでいるならこっちもそのままでいいんじゃないかしら? 部長としては一番に相談して欲しいところなのが悲しいけどね」
「…難しいな」
「言葉で詰まるなら行動で示すしかないわ。祐を取り戻したい気持ちはみんな同じなんだからパパッと取り返しちゃいましょ棗」
「あぁ。ありがとう風、お前はやっぱり優しいな」
「ちょ!? こら、抱きつくなー!」
「なら私はみーちゃんにハグするわっ!」
「ええ!? な、なんでー!」
「お前たち、何やってるんだ……」
わいわいやっていたみんなのやり取りを若葉は呆れながら見ていた。
そんな中でも風を抱きしめながら棗は再び祐樹の『気配』を探り始める。
潮の香りは辺りに漂っている。バーテックスから仄かに香るものと同じものが。
確かにこの土地に居た形跡はあった。それは徳島や香川でも同じらしい。
◇
「──銀」
「ごめんなさい東郷さん。ノックもなしに急に入っちゃって」
「その、あのね……今のは──」
「どういう、ことですか東郷さん!」
乾いた笑みを浮かべる銀にどう声をかけていいのか迷っていた東郷に自身の過去──鷲尾須美が声を上げる。
「今のお言葉……きちんと説明を要求します。銀が死ぬ? なにを──なにを言っているんですか!」
「わたしも詳しく聞かせて欲しいです、東郷先輩、園子先輩」
「──っ」
「そうだね。でも隠すつもりはなかったんよ。こういう形で教えなきゃいけないのは申し訳ないけど……話そっか、わっしー」
「そのっち……ええ。そう、ね。友奈ちゃんと樹ちゃんも聞いてくれる?」
不安に揺れる東郷の声に横にいた二人は頷いて応えた。
中学生の園子がまっすぐ三人を見つめる。
「わっしー、ミノさん、私、そして……ゆっきー。この四人で御役目を担っていた──三人からしたら今もそうなんだけどね。で、近い未来……大型バーテックスの大群が攻め入って来たの。そこが私たちの──それぞれの分岐点になってるんよ」
元の世界での近い将来に迎える遠足の日。そしてその日を境に東郷、園子、そして銀の未来は急変する。
「分岐……?」
「わっしーと私は限りなく近い未来を進んでいるんだけど、その隣にはゆっきーがいるか居ないかに差異があるんよ。共通していることは……ミノさんがその戦闘で私たち三人を守ってくれたこと」
園子(中)の言葉に須美と園子の瞳が揺れる。銀は変わらず語り手を見守るばかりだった。
「わ、私たちはその時に何をしてたんですか。祐樹さんも……」
「……ことの顛末を見たのは祐樹さんだけなの。私もそのっちもその時は気絶してしまってて気が付いた時には何もかもが終わっていて……それで、うぅ……」
「東郷さん、泣かないで」
「ごめんなさい、三人とも。黙っているつもりはなかったの。なんとかこの未来を変えることが出来ないか手段が見つかるまでは話さないでおこうって」
「………そっかぁ。なるほどなー。道理で二人のアタシを見る目が違うなって思ってたわ」
「ぎ、銀ちゃん」
樹が心配そうに見つめる中で、銀は首を横に振って東郷美森の元に歩み寄る。
「泣くなって大っきい須美。むしろアタシが困らせちゃったみたいで悪かったな。よしよし」
「なんで…銀が謝ってるのよぉ…! 私が不甲斐ないばかりにあなたは…」
「……こうやって二人が大きくなった姿を見ることが出来たのもその時のアタシが頑張った甲斐があったってわけだ。悲しませちゃったのは申し訳ないけどなぁ。あはは。園子も悪かったな」
「ミノ……さん」
園子は銀の所に近づいてその小さな身体を抱き寄せた。
「わたしこそごめんなさい。リーダーなのに……大切な親友をこの手で守れなくて」
「でも未来のアタシの託したバトンはちゃんと次に繋がってる。ね、友奈さん、樹さん」
いつもの調子で銀は笑う。東郷の横にいた友奈と樹は銀の言葉に首を縦に振った。
「うん、もちろんだよ! 銀ちゃんの想いも全て私たちがちゃんと受け継いでいる。だから東郷さんも園ちゃんも顔を上げて」
「そうですよ。頼りない後輩だと思いますけど、わたしも皆さんの力になるようにこれからも頑張りますからっ!」
「友奈ちゃん…」
「イッつん…」
「……でもそれでは納得がいかないです!!」
「須美?」
「わたしも、わっしーと同じ意見だよ。ミノさん」
「園子まで…」
拳を握り鷲尾須美は声を上げる。確かに未来での勇者部たちは三ノ輪銀の死を乗り越え、明日への力に変えて進み続けていくだろう。けれど、小学生の須美と園子は違う。未来の結末を聴かされた二人にとってはそれはとても残酷なことなのだ。
納得がいかない。ただそれだけなのだ。
「尚更この世界での御役目を終えるまでに何か方法を探さないといけないわ。記憶を持ち帰る術を、なんとしても」
「うん。友達が死ぬことが分かっているのに何もできないのは嫌だ」
「あー……そのことなんだけどさ二人とも。いや──皆さんにも相談したいんですけど。いいですか?」
園子(中)の抱擁から離れて銀は手をあげる。
「どうしたの、銀?」
「──もう一度未来のアタシに会いたいんです。ユウキさんと同じタイミングで現れたあの人とまた話がしたい」
「うん。それは私も賛成なんよ。もしかしたらあのミノさんは私たちにとって一縷の望みになり得るかもしれない」
「……あ、そっか! 銀ちゃんの未来の人がこの世界に来たという事は────」
可能性はゼロじゃない────。”三ノ輪銀の死”という道筋を乗り越えた未来の彼女ならば、解決まではいかなくとも何かヒントを得られるかもしれない。そう彼女たちはあたりを付けた。
「んー……でもアタシはそっちよりも気になることがあるんすよ。二人の話を聞いたら余計にそれを確かめたくなりました」
「確かめたいこと? それは────」
須美が訊ねようとしたところで、それぞれの端末からアラートが鳴り響いた。
バーテックスの襲来。まるで狙ったかのようにその時は訪れ、世界は樹海に呑み込まれていった────。