オーバーロード~至高のインキュバスが逝く、エロエロ珍道中~ 作:田 中太郎
クレマンティーヌがその男と出会ったのは、満月の美しい深夜の事であった。
月明りの下で、唐突に表れた長身痩躯の人影。闇夜に溶け込まんばかりの黒き衣服は、見覚えの無いデザインであり、その男が異国の者である事を匂わせていた。
一歩、また一歩と足を進めて近付いて来る男。
刻一刻と鮮明になる容姿に、クレマンティーヌはハッと息を呑んだ。おそらく青年と言える年頃であろう容貌は、酷く美しかったのだ。
まるで一流芸術家が作成した彫刻の如き秀麗さ。風に流れる黒髪は月光に眩き、きらめいている。力強い眉は青年の意思の強さを表すかの如く、鼻筋は抜身の刀のように美しい。
微笑みを携える唇は魅惑的な雰囲気を醸し出す。
そして、一番目に付いたのが穏やかな光を宿した紅瞳。
紅蓮の焔、烈火の炎、原色に近い色調の瞳は一つ間違えれば鋭い印象を与えるだろう。
しかし彼の眼に宿る光は、ただただ穏やかだった。見る者全てを惹き込む温かな眼差し、それはどのような宝石にも見出す事の出来ない輝きだ。
クレマンティーヌは思わず無防備に佇んで見惚れてしまっていた。
ただ単に『整っている』という次元の話では無い。例えるならば、そう、作成した芸術家の魂が籠った作品。
見る者全ての心を虜にする不思議な魅力に満ち溢れた美しさなのだ。
最早、狂人の域にいるクレマンティーヌですら、目を奪われ茫然と見入る事しか出来ないでいる。眼前の人影は、それ程の魅力を兼ね備える青年であった。ふと、宙空でその真っ赤な瞳と視線が交わった。
刹那、彼女の背筋に怖気が走る。脳内で高らかに鳴り響く警鐘の音。
こいつはダメだ、逃げろ。
何故かは分からない。この世に現れた神の国の住人――――そう評しても過言では無いのに。
しかし、そう本能が叫んで止まなかった。
彼女の理性もその警告に同意する。
これ程の男が、こんな辺鄙な地で――――それも森林の中に存在している時点でおかしい。
クレマンティーヌはおよそ常人とは言えない。狂人の域に達していると言っても過言では無い。
だが、それでも彼女は優秀な戦士だった――――それも非常にという前置きが付く程の。
自身の、戦士としての勘を彼女は信じた。
重心を落とし、脚に力を込める。いつでも逃走できるように、辺りの地理を脳内へ浮かべて逃げ道を選択していく。
一歩、また一歩と距離が縮まる。
青年の厚皮ブーツが草地へと沈み込む瞬間を、まばたき一つせずに見詰め続けた。
心臓が早鐘を打ち、肌の上を嫌な汗が流れ行く。少しでも隙が出きれば、逃げ切ってみせる。
彼女は奥歯を噛み締め、自身の胸の内より込み上げる訳の分からない感覚を抑え込んだ。
静寂が支配する世界に、びゅうっと一陣の風が木々の狭間より駆け抜けて来た。
刹那、セミショートの黒髪が風に弄ばれてたなびく。すると、男は鬱陶しそうに己の手を頭髪の方へ持って行く素振りを見せた。
おそらく、風で乱れた髪を直そうというのだろう。艶やかな黒髪へ、彼の指が入り込む瞬間を彼女は見逃さなかった。
今だ。クレマンティーヌは声に出さずに叫ぶ。
脚に溜め込んだ力を一気に解放すべく動き出す。とにかくこの場から離れたい、その一心で女戦士は逃走を図ろうとした。
己の勘が、この男は危険だと叫んだから。
明らかに強者だとわかる余裕っぷりに、理性が同意したから。
男が近付けば近付くほど、動悸が酷くなるばかりだから。
男を見詰めれば見詰めるほど、胸から溢れ出そうとする未知の感覚が嫌だったから。
だが、そんな彼女の想いとは裏腹に男が機先を制した。
「あの、すみません」
笑みを作っていた口が艶めかしく動き、穏やかな声が辺りへと紡がれた。
ただ単なる声掛けか、それとも謝罪の意を込めたのか。クレマンティーヌにはその判別がつかなかった。唯一、理解出来た事象は、その言の葉によって自身の身体が動きを止めてしまった事だけだ。
あれほどまで込められていた力が霧散し、緊張に凝り固まった肉体は解れていく。
一体、何が起きたと言うのだ。制御の利かない己が肉体に戦慄する女狂戦士。
彼女が出来るささやかな抵抗は、その猫のような眼をカッと見開いて、ただただ相手を睨み付ける事のみ。
そんなクレマンティーヌの内情を果たして察しているのだろうか、青年は軽やかに言葉を続けていく。
「いやぁ、地獄に仏とはこの事を言うんですかねぇ! あ、女性だから天女様とでも言いましょうか」
「あ……うっ」
「あ、これは失礼しました。初対面の方に、こんな言葉を掛けたらナンパ扱いされるだけですもんね」
謝意を口にして、上げていた手を後頭部に回す青年。どこか気恥ずかしそうに、ふふっと笑う彼の表情はとても幼く感じられた。
青年の笑みを見た瞬間、クレマンティーヌの心臓は一際大きく脈動した。
なんだ、これは。彼女は胸中で自問する。
胸が苦しいのだ。まるで締め付けられているかのように、苦しい。
この時になって彼女は、自分の呼吸が酷く荒々しい事に気が付いた。
異様な感覚に、己の肉体を把握し切れていない事実に、クレマンティーヌは衝撃を受ける。
どうにも発熱すらしているらしく、表皮には汗がひっきりなしに浮かんでいた。
このままではいけない。衝撃から完全に立ち直れないでいる女戦士は、この状況を打破すべく口を開く。
「わ、私に何かよう?」
「いやぁ、お恥ずかしい話なのですが実は……」
「じ、実は?」
「実は道に迷ってしまいまして……いや、正確には帰り道を探していたら迷ったといいますか何と言いいますか……」
青年は軽やかに身の上を語り出す。
彼の目的は端的に言えば『道に迷ったので案内して欲しい』という所に集約される。
しかしその結論へと至るまでには、しばしの時間を必要としていた。何故なら彼の話は、途中で幾度もの脱線を繰り返すからだ。
月が綺麗、森が美しい、空気が美味しい、そんな下らない事をさも楽し気に男は語る。
普段の彼女ならば一蹴に値する内容だった――――そう、普段のクレマンティーヌならば、だ。
だが、声高らかに意気揚々と紡がれる言の葉を、女戦士は聞き入ってしまう。
表面上は静かに、内面下では激しい感情の奔流に晒されながら。
頭が熱い。彼の口から綺麗と言う言葉が出る度、まるで我が事のように面映ゆく感じてしまう。
体が熱い。景色が好きだ、と紡がれた際には早鐘を打つ心臓が口から飛び出てしまいそうだ。
心が熱い。貴女に出会えて良かった、その文面が優しい声で綴られると居ても立ってもいられなくなる。
あぁ、と思わず吐息を漏らすクレマンティーヌ。その呼気は湿り気を帯び、切なげな響きを思って辺りへと小さくこだましていく。
自分はいったいどうしてしまったのだろうか。その問いに対する答えを出す事は適わない。
「あの、もしかしてどこか具合が悪いのですか?」
「えっ」
「いや、ぼうっとされていたものですから、つい……」
心配そうな口調でこちらを窺う青年。
その表情に浮かぶ憂慮の色に、彼女の心は罪悪感で一杯になる。
何か言い返さなくては、そんな思いに駆られて口を開こうとした瞬間、女戦士はある事に気が付く。
彼との距離は先ほどより随分と縮まっていたのだ。そう、それは少しでも手を伸ばせば相手の身体へ届く間合い。
自分に気取られずどうやって、頭の片隅に疑念が浮かぶ。
だが、その疑念もすぐに霧散する事となる。
新たな情報が鼻腔より伝えられたのだ。それは、どこか爽やかさを伴う甘い香りであった。
彼の匂いだ、その事実に行き当たった瞬間、彼女の身体に更なる変化が起こる。
ズグンっと下腹部から湧き上がる未知の感覚。
少しばかりの違和感、しかしその感覚は一瞬の間に耐え難いモノへと変貌する。
うっと息を詰まらせるクレマンティーヌ。思わず手を己が下腹部へと伸ばすほどの奇襲であった。
「あ、あのっ……本当に大丈夫ですかっ?」
こちらの様子に異変を察したのであろう。
美しい青年はこちらへと更なる一歩を踏み出して来た。それと同時に、深まる彼の香り。駄目だ、これは。
一呼吸ごとに強まる感覚に、彼女は危惧を抱く。ここから離れなければならない、しかし彼女の足は動いてくれない。
彼の傍にいる事が当然である、まるでそう言いたげな反応であった。
「ど、どうしよう……と、取り敢えず横になりますかっ? 寒くはないですかっ?」
おろおろと狼狽える青年は何を思ったのかクレマンティーヌの肩へと手を置いた。
左右の肩上にそれぞれの手が添えられ、次いで彼の顔がずいっと近付く。
何を、彼女がそう問い質そうとするも肝心の声が出なかった。
視界一杯に映る美貌。
紅玉の瞳にありありと浮かぶ憂慮の色。彼の吐息が、女戦士の頬を撫で付けた。
あっ、とどこか間の抜けた呻きがクレマンティーヌの喉奥より漏れ出す。
真紅の眼に、通った鼻筋に、艶やかな唇に、彼女の意識が吸い寄せられる。
これはもしかして――――と、この先に起こるであろう行為がクレマンティーヌの脳内に浮かんだ。
次いで、彼女はその結果をありのままに受け入れようと待ってしまった。普段ならば到底選択する筈の無い行動、しかし彼女は現に待ってしまったのだ。
絡まる視線、掠る鼻先と鼻先、そして唇は――――寸での所で止まり、額同士が重なり合った。
「やっぱり……熱、あるみたいですね」
「えっ」
「どこか横になれる所を探しましょうか……いや、木を切って作った方が早いかな」
「えっ」
「あ、そういえば簡易シェルターとか、お泊りキャンプセットとかあったような……」
何やら不審な動きを見せる青年だが、彼に構っている余裕などクレマンティーヌには無かった。
今、自分は何を想像していた。女戦士は己が心に問い掛ける。頬が熱い――――いや、頬と言わず顔から火が吹き出しそうなほどだ。
醜態。そう、まさしく醜態だ。
彼女の胸中に感情の波が荒れ狂った。もし、目の前の青年がいなければ羞恥の余りに、地べたをのた打ち回っていたであろう。
一方で、それほどまでの恥辱に晒されながらも、彼女の身体は持ち主の言う事を聞いてはくれない。
発熱する肢体、荒れ狂う感情の渦、舌を噛み切りたくなるほどの屈辱。茹で上がる思考の中でクレマンティーヌは泣き出しそうになるほど追い込まれていた。
「よし、簡易シェルターの設置が終わりましたよ」
「……え」
「取り敢えず、中に入って休みましょう」
「えっ、いやっ、ちょっ」
「ほら、早く」
再び接近した香しき匂いと、人肌の温かさ。
いつの間にか鎮座する大型テントを背に、こちらへと向き直る青年の姿が目に入って来た。
次いで彼は、クレマンティーヌの手を取り、そのテントの中へと誘おうとする。
温かな指がクレマンティーヌの手に触れた瞬間、彼女の体内で激しい電流が走った。
それはまさしく稲妻の如く、女戦士の内側を激しく貫いて行く。余りにも大きな衝撃の波に、うっと息を詰まらせるクレマンティーヌ。
彼女の身体は、湧き上がる衝動に突き動かされるようにして一歩、また一歩と足を踏み出してしまう。
あぁ、ダメなのにどうして。先程からちっとも自分の言う事を聞いてくれない身体に、クレマンティーヌは胸中で文句を吐く。
視線の先に見えるテントの入口は、真っ暗で中の様子を窺う事は出来なかった。
まるで地獄の入口のように暗く、不気味な気配を感じ取るのに、彼女の足は止まらない。
ただただ、この神々しさすら感じられる青年に手を引かれるがまま。
彼女は、よろよろと無様な姿で歩んで行くしかなかった。深淵なる闇の口に彼の身体が消えて行く。次いで、彼女もまた不自然なほど真っ暗闇なテントの入口に呑み込まれて行った。
「ごめん、簡易シェルターだから最低限の設備しかないけど許してね」
「……は?」
視界に映し出される光景に、女戦士の口から驚きの声が零れる。
どこか申し訳なさそうな青年の言葉すら耳に入らないほど彼女は驚いていた。
地獄の入口かと、霧掛かった思考で想像していたクレマンティーヌであるが、実際に目にした光景は彼女の予想と全く異なっていたのだ。
明るいのだ。そう、深淵の暗闇を抜けたソコは日中であるかと錯覚するほどに明るかったのだ。
次いで、目に付くのはテントの中とは思えないほどの設備。寝台は勿論の事、机や椅子と言った家具すら備え付けられている。
装飾に乏しくはあるが、その清潔さや家具類の材質に並々ならぬモノを感じていた。
恐らくマジックアイテムの類いなのだろう。それも彼女の人生で一度としてお目に掛かった事の無い代物だ。
呆然と佇むクレマンティーヌだったが、彼はお構いなしにズンズン先へと進む。
そして手を繋がれたままの彼女も、成すがまま青年の後を追って歩み行く。目指す先には大きな寝台が鎮座していた。
清潔感を醸し出す純白のシーツへと、青年はクレマンティーヌを誘う。
身を包んでいた外套はいつの間にか彼に取られ、彼女は露出の多い軽鎧の姿でベッドへと腰を降ろした。
「ひゃっ」
刹那、声が漏れた。可愛らしいとも形容できる小娘の如き悲鳴。
しかし、彼女は自身の口から飛び出した声だとも気付かなかった。
肌色が晒された己が太腿から伝わる感触に――――心地良さに思わず、竦んでしまったのだ。
それはまさしく極上の肌触り。クレマンティーヌの素肌を優しく受け止め、温かく包み込む布地。
――――何なのよ、いったい何だって言うのよッ
たかが、布生地にすら惑わされる自分が情けなく、そのクセこの心地良さから逃げ出せそうに無い身体に、彼女は泣き出してしまいそうな思いだった。
「ほら、いつまでも座ってないで横になって」
「あっ、ちょ、ちょっと何するのよ!」
真剣味を帯びた青年の声と、上体を押し倒そうとする力にクレマンティーヌは僅かながらも理性を取り戻す。
肩に置かれた彼の手は、ちょっとやそっとの抵抗にもびくともしない。
我に返った女戦士の脳内に鳴り響くは警戒の音色。こいつ抵抗できない私に厭らしい事を、そんな思いが彼女に過る。
クレマンティーヌは軽蔑の眼差しを目の前の青年へと向け――――ひるんでしまった。
そこにある紅の瞳に、負の感情なぞ一寸たりとも見受けられなかったのだ。
むしろ、その瞳には真剣な光が爛々ときらめていた。自分が助けねば、そんな強い義務感と温かな親切心。
真っ直ぐな想いが狂戦士――――クレマンティーヌだけに注がれていた。
果たしてこんな目で自分を見てくれる人が、今までに存在したであろうか。
眩いばかりの善意に、そして自分なんかを心の底から心配してくれる想いに、クレマンティーヌは口を閉ざしてしまう。
自然と強張っていた上体は弛緩し、背中がゆっくりと寝台に沈んだ。
あれよあれよという間に、青年の手によって装備が剥がされて行く。肩当て、籠手、胸甲、腰当。
急所を守る装甲から解放された身体は、いつもと違う不思議な解放感に満たされていた。
ふわりと、そよ風が彼女の頬を撫でる。
視界に映し出されたのは、宙に舞うフカフカの毛布と柔らかそうな掛布団。二つの寝具がクレマンティーヌの身体を包み込んだ。
硬い硬い鎧では無く、優しい温かさと柔らかさを兼ね備えた衣。
心身を満たす心地良さに、彼女の口から思わず吐息が漏れ出た。何故だろうか身体に力が入らない。女戦士は心中独り言ちる。脱力とは、また違う不思議な感覚にクレマンティーヌは身を任せてしまっていた。
「よし、あとは濡れタオルを額に――――って、あれ?」
その場から離れようとした青年が声を上げる。
困惑の色に満ちたソレと共に気まずそうな雰囲気を漂わせていた。
いったいどうしたのだろうか、先程までの確固たる決意を秘めた彼の姿は無い。
青年は、ただただ困り顔でこちらを見詰めるばかりであった。
そんな様子に、理性が再び霧散し最早ぼんやりと現実を受け入れるがままだったクレマンティーヌは、思わず声を掛けてしまった。
「……どうしたの?」
「いや、その……」
「……なに?」
「ごめんだけど……手、放してくれないかな」
「えっ」
毛布の端から飛び出す肌色の物体。
それが、青年の手と繋がっていた。まじまじと見詰めるクレマンティーヌ。どうもソレが己の手であるらしい。そういえば、と彼女は思い出す。自分を押し倒す時に置かれていた彼の手は、片方だけであったと。
深く深く、指と指を絡み合わせる繋がり方。恋人繋ぎとでも言えば良いだろうか。二人の体温が入り混じり、一つのモノとして共有される感覚。手汗すら浮かび上がるほど硬く、そして長く繋がり合っていたであろう手と手。
つまり、私は彼に誘われた時からずっと手を繋いだままだったのか。
その事実に行き当たったクレマンティーヌは、声に成らない絶叫を迸らせていた。
次いで彼女は勢い良く毛布を引き上げ、頭までスッポリと隠す。それは衝動的な行動であった。何か深い意図があった訳でも無く、ただただ隠れたかっただけ。
顔から火が吹き出しような程の羞恥に、その身を悶えさせ苦しむ女戦士。その姿は傍から見れば、生娘の如き反応なのだが、今の彼女では気付けないだろう。
――――何なの……いったい何なのよぉッ!!
彼女の胸の内で響き渡る咆哮。青年に会ってから自分は壊れてしまった――――元々壊れていなかったのかと問われれば否定は出来ないのだが。
兎にも角にも、身体の底から湧き上がる得も言われぬ感覚に、クレマンティーヌは翻弄されていた。
「まぁ。確かにそうですよね」
布生地の向こう側から青年の声が発せられた。
どこか一人で納得するかのような響きを帯びる、そんな声だ。同時に、彼の気配が彼女のすぐ隣まで近付く。クレマンティーヌは思わず、ぎゅっと目を閉じた。
何かに備えるかのように、視覚からの情報を断つ。しかし、五感の内の一つを断ったが故なのか、他の感覚が鋭くなってしまう。
元々、英雄の領域に足を踏み入れている彼女だ。最早、青年の息遣いはおろか、僅かな身動きや体臭まで感じ取ってしまっていた。
もう駄目だ、死んでしまう。
そこに存在するだけで心臓が飛び出してしまいそうなのだ。これ以上、何かあったら爆発してしまう。そう確信してしまう程、クレマンティーヌは追い詰められていた。
ガタガタと何かを動かす音が鳴り響く。
次いで、軋む音。青年が椅子か何かに座ったのをクレマンティーヌは理解した。
「風邪を引いた時とか、誰か傍にいて欲しいですよね」
その気持ち分かる、と言わんばかりな青年の発言。
彼は勘違いしているのだが、その事実を正すほどの余裕がクレマンティーヌには無かった。握り合った手が更に深く――――それも彼の方から繋がって来たのだから。
刹那、彼女の身体に電流が走る。
ピリピリとした刺激が女体の芯を焼いた。喉奥から溢れ出そうになった感情の奔流を、寸での所で押し留める。
おかしい、こんなのおかしい。
幾度と無く呟かれた想い。しかし、何度呟いた所で事実が変わる訳でも無い。女戦士は何かに怯える少女のように、ただただ身体を震わせ続けていた。
そんな彼女に青年は何をするでもなく、静かに寄り添い、優しく手を繋ぎ続ける。
静寂が支配する世界。刻々と時間が過ぎて行く中、クレマンティーヌの呼吸は乱れる一方だった。
極上の寝具は、この世のモノとは思えない心地良さを彼女に与えていたのだ。
僅かな身じろぎで擦れる素肌と生地。そこから生まれる快感は最早性的な領域にまで昇華していた。
元々、露出の多い装備を身に着けていた彼女である。装備を外された今となっては、露出具合に拍車を掛けて下着姿も同然。
全身をくまなく撫でられ湧き上がる快楽。
あぁ、と思わず零れた吐息は湿り気を帯びている。そして豊満な胸を隠す黒いインナーには、小さな隆起すら浮かび上がっていた。
悦楽のぬるま湯の中で、彼女はのぼせ上っていく。
脳内に靄が掛かり、思考は鈍る。何を思ったのか青年がゆっくり毛布を捲り上げても、明確な反応を示す事は無かった。
瞼越しに感じる眩い照明。
外界に晒された彼女の顔に、何かが当たる。その柔らかな感触は、現在クレマンティーヌの身体を包む寝具と似ている。心地良い生地が首筋を這い、頬を撫で上げ、額の上を滑った。
「汗びっしょりだ……大丈夫ですか?」
紡がれる言の葉が彼女の鼓膜を優しく震わせる。
あっ、とクレマンティーヌ口から息が漏れ出た。思わず零れてしまった吐息、ソレは女戦士が築き上げた内なる堤防を潜り抜け、外界へと突き抜けた奔流の証だ。
あ、ダメだ。
ほんの数瞬だけ弛緩した身体。その内側から這い上がって来る快楽信号の波。再び力を入れて耐えようにも、一度空いた穴を塞ぐ事は難しい。
みるみる間に高まって行く己の性感をクレマンティーヌはどこか他人事のように眺めていた。
現実感の喪失とでも言えばよいのだろうか。極度の緊張下にあった彼女の正気は最早失われていた。
どちらにせよ、今からもう一度我慢しようにも無理な話である。
時すでに遅し。引き返せない所にまで到達した悦びは、穿った穴を起点に堤防そのものを破壊する激流と成ろうとしているのだから。
無意識の内に彼女は閉じていた瞼を開き、その眼で青年の顔をしかと捉える。
真っ赤な瞳と視線が交わった。彼は人懐っこい笑みを浮かべ、慈愛に満ちた眼差しを返す。
あぁ、とクレマンティーヌは静かに息を吐いた。
この紅玉の瞳と視線を交えてしまった瞬間、もう詰んでいたのだ。彼女はぼんやりと頭の片隅でそう思った。
「もう一度、熱測りますね」
そんな宣言と共に迫り来る美貌。
ピタッと額が重なり合う。触れた個所からじんわりと広がる彼の体温、鼻腔一杯に広がる彼の香り、こちらを覗き込む彼の双眸。
それらをクレマンティーヌの脳が認識した刹那、彼女は達していた。
オーガズムの快楽が女体の芯で爆発する。グッと背筋が反り上がり、毛布の中から豊満な乳房が飛び出す。
次いで完全に隆起した乳首が、インナーの生地越しから青年の身体と接触を果たした。
そう大した接触では無い、ただただ彼の服の上を掠めた程度のモノ。しかし、極限まで高まった女の身体は僅かな刺激にも苛烈な反応を見せた。
乳頭より迸る快楽電流が、クレマンティーヌを貫く。
その衝撃が、喉元で詰まっていた感情の奔流を押し出す。絶叫が、室内にこだました。人の声とは思えない程の叫び、それはまるで獣の咆哮とも評せるものだ。
雌豹の如き肢体はビクンッと跳ね上がり、毛布の下で細腰が卑猥な上下運動を繰り返す。
高々と舞い上がる絶頂感に、彼女は翻弄されていた。傍らにいる青年の存在を認識しつつも、焦げ付いた獣欲は止めどなく溢れ出て行く。
そんな、あられもない雌の痴態。しかし果てしない狂悦を貪る浅ましい姿は、青年にどう映ったのだろうか。
彼は何を思ったのか、跳ね回る女体を羽交い絞めにして抱いたのだ。覆い被さり、暴れるクレマンティーヌを宥めるかの如く青年は声を発す。
「ちょっ、ごめんっ! 急におでこ引っ付けたの謝るから落ち着いて!」
「ひぅッ!? あっ、だ……だめッ、だめぇッ!!」
「わわッ!? ごめんって!!」
どうにも熱を測るための行為が、クレマンティーヌの逆鱗に触れたと勘違いしたようだ。
熱を発する肢体をぎゅっと抱き締め、必死に謝意を見せる青年。しかし、それは今の女戦士にとって悪手でしかない。
青年の胸板によって押し潰される双丘。肉厚の果実は形を変え、卑猥な姿を露わにする。勃起した先端は、より深まった擦れ具合に狂喜し、宿主へと容赦なく快楽を味合わせていった。
クレマンティーヌは新たな法悦を前に、目を限界まで見開き咆哮する。
嫌々と駄々をこねるように首を振り手繰り、激しく空腰を使う。
毛布の下、下着によって隠された肉裂は完全に花開き、肉ヒダが生々しい収縮運動を垣間見せていた。
そして真っ赤な沼よりドロリとした粘液が吹き出し、クロッチ部分に浮かぶ黒染みを広げていく。
体内を荒れ狂うオーガズムの嵐に彼女は自身の無力さを教え込まれる。
本能的な恐怖心に襲われたクレマンティーヌは、助けを求めるかのようにして眼前の温もりへと縋り付いた。
「えっ!? お、おぶッ!?」
何事か発せられた声に耳を傾ける余裕は彼女の中に存在しない。
ただただ、襲い掛かる快感から逃れる事に必死であった。それがより一層性感を刺激する行為であったとしても、だ。
いつの間にか解かれた手は彼の背中へと周り、唯一無二な温もりを己へと引き寄せる。
刹那、深まった圧力が彼女の突起をこねくり回す。ひぃっ、と潤んだ悲鳴を上げてクレマンティーヌは更に縋れるモノを探した。
毛布越しに絡まり合う4本の足。心地良い生地がしなやかな脚を撫で上げる。
ぷしゃッと水気に富んだ音色が秘処より迸った。駄目だ、このままでは死んでしまう。
はらはらと涙すら流す女戦士は、眼前に映る肌色へと顔を突っ込んだ。
手も足も、身体ですらこの恐怖の前には心許ない。そんな彼女に残された数少ない選択肢の一つ、彼の唇へ。
重なり合う朱と朱。割れ目が深く重なり合って交わる。腹の空かした乳飲み子が如く、クレマンティーヌは青年の唇を貪った。
艶めかしい水音が二人の結合部から奏でられる。無意識の内に舌すら伸ばして、彼の口内の温もりを求めたのだ。鮮やかな赤色の軟体が青年の舌を絡め取り、唾液をこそぎ取って行く。
喉を鳴らして彼の体液を啜るクレマンティーヌ。次の瞬間、彼女は全身を硬直させた。
熱い、熱いのだ。身体が、腹の奥底から。次いで閃光が彼女の眼前で瞬いた。
「————————————ッッッ!!!!」
喉奥から迸る唸り声。
恥骨を高々と浮かせ、限界まで身体を弓なりに逸らす。膣皺が蠢動を繰り返し、一気に窄まった。
焦点の合わない視線が宙を泳ぎ、全身の穴という穴から体液を撒き散らした。
果てしない絶頂の最中、クレマンティーヌの意識は遠退いて行く。
数十秒は続いたであろうオーガズムがようやく終わりを見せ始めた頃に、彼女の意識は深い闇の中へと沈んで行くのであった。
「……いや、え? なにこれ……どうしよ、モモちゃん。俺、またとんでもない事やらかしちゃったかも」
女戦士に拘束されたまま、しばらくの時を過ごした青年が言葉を零す。
訳の分からぬまま罪悪感に苛まれているのか、彼は誰ともなく懺悔した。
ノリと勢いで書く息抜き的な作品
更新頻度は作者の時間とモチベーション次第。