新人オーナーの百合色エンパイアクラブ運営日誌 作:楠富 つかさ
初めて入ったエンパイアクラブのサロンは驚くほど広く、静まりかえっていると妙に寂しく思えた。こんな場所で待たせるのはあんまりだとも思った。採用前のメイドはすぐ近くのテーブルにいた。グラス二つと瓶に入った水のボトル。面接で接客練習でもするのだろうか。……というか。
「朱乃? もしかして、朱乃なの?」
そこにいたのは大隅朱乃。私の小学校からの親友だった。スーツ姿で広い空間に一人所在なさげに座っていた。
「え、かがみん!? なんで? 私、凜さんに……」
お互いに驚きまくりだ。朱乃は短大を卒業して地元の企業に就職したものの労働条件が悪い上に上司のセクハラがひどく、仕事を辞めたばかりだと言う。そこで何かと顔の広い凜さんを頼ったとのことだ。昔から子供好きな朱乃のことだから、施設でのお手伝いとかしたかったんだろうけれど、まさかこっちを紹介されるなんて思いもしなかっただろう。
そんな彼女に、私がオーナー代理をするに至った経緯……といっても、さっき凜さんと話した内容を軽くまとめただけなんだけど、伝えた。夏頃に就職が決まったら連絡すると言ってしまった手前、今まで会話がなかったこともあって、世間話が大半だけれど大いに盛り上がった。
「ご主人さま、メイドとして雇うかどうか決まりましたか?」
あまりにも話が長くなったせいか、藍依さんにそう問われてしまった。おっといけない、これは面接なんだった。ずっと受ける側だったから、こういう時どんな話をすればいいか分からないけれど……。
「いいの? こういう水商売で。その、エッチなことだってするし」
いきなり一番重要な質問をしてしまった。大丈夫だろうか。
「け、経験はないけど……頑張るよ。え? 女性とすることもあり得る? うぅ……抵抗はないけど、その、初めてはかがみんだったら嬉しいな」
「じゃ、じゃあ採用! 一緒に頑張ろうね。えへへ、じゃあご主人さまとして朱乃にえっちなことしてもいいんだ……えへ、えへへ」
思わず頬が緩む。朱乃は昔から可愛くって胸も大きくて、前に服の上から触らせてもらったけど、もしや生で触れるのでは……って、いけないいけない。セクハラを受けて仕事辞めた人しかも親友にこんな態度はいけない。
「さて、ご主人さまも大隅さんも夜伽の経験がないのですね。エンパイアクラブに名を連ねる者としてそれではなりません。不肖この椎名がお二人にビアンのテクニックを教授したいと思います」
私も椎名なんだけど、というツッコミは通用しない。あっけにとられる私と朱乃に、着いてくるよう行って藍依さんはサロンから廊下に移り、建物の東館へと歩き出した。エンパイアクラブは概ね国会議事堂のような形状で、廊下の正面がサロン。西側に応接間や執務室、私室さらにメイド寮やエステルームが配置されていて、反対側がいわゆるプレイルーム全般やバーがあるとのことだ。さらに中庭やプールや大浴場それにペントハウスを兼ね備えており最早なんでもありといった様相だ。さて、私らが連れて来られたのはプレイルームの一室。基本的な部屋で大きいベッドとテレビやらクローゼットといった至って普通の部屋。そういえば栞子は何してるんだろう……。
「ではお召し物を預かります。脱いでください」
部屋に入るや否やそう言われ、抵抗も出来ず裸になる。朱乃の胸はやっぱりすごく大きい。
「ではまずキスの練習から――」
そう言って藍依さんが朱乃の顎に指を添える。私は慌てて二人の間に割って入る。
「待って待って。朱乃、キスはしたことあるの?」
「ない、よ?」
じゃあ、と前置きして朱乃に口づけした。私だってファーストキスだ。でも、初めては朱乃が良かった。唇は柔らかく、抱き寄せた朱乃の身体は柔らかくそして熱かった。
「んちゅ……はぁ」
「ご主人さま、感動のファーストキスは満足ですか?」
藍依さんの冷たい視線が刺さる。すると藍依さんは私の顎に指を添える。
「ご主人さまが大隅さんにご執心なのは分かりました。ですので、ご自分で指導されることですね。では、失礼します」
すると藍依さんに唇を奪われた。さっきの唇をただ重ねるだけのキスではなく、唇を押し開けて舌を絡めるディープなキス。唾液が絡まり、歯茎を愛撫され、だんだんと頭がぼーっとする、そんな卑猥な接吻。どれほどの間、そうしていたか分からない。朱乃に見られているということすら忘れ、次第に私から求めていた。
「っぷは……はあ、はぁ」
浅く呼吸を繰り返しながら何とか意識をたぐり寄せる。めくるめく官能の世界に飲み込まれそうになっていた。
「では今のように、大隅さんにキスをしてください」
呼吸も整わない私に、息一つ切らさず告げる藍依さん。深呼吸をしてから、朱乃と向き合う。朱乃はもう瞳をとじていた。腰と後頭部に手を回し、二度目のキスを交わす。今度は舌を入れる。舌先と舌先が触れあうだけで雷に打たれたような……そんな経験はないけれど、痺れるような何かが奔った。薄く目を開けると朱乃の顔がすごく近くて、あといい匂いするし、あとなんか甘い。五感の全てが朱乃に向いていて、藍依さんがいることをすっかり忘れて、私は朱乃をベッドに横たえた。もう、覚悟は決まった。
次回やっと☆つきエピソードになりそうですね。せめて週1で更新したいですね。はい。