新人オーナーの百合色エンパイアクラブ運営日誌 作:楠富 つかさ
目の前がチカチカするほど深い絶頂だった。一人じゃ決して得られないその快感に、私は半ば放心状態で……自らの置かれている状況をすっかり失念していた。
「お姉ちゃんエッロ……。ねぇ藍依さん、アレわたしにも仕込んでもらえるの?」
「えぇ、お望みとあらば」
「へぇ。女の子同士もいいね。お願いするよ」
「承知いたしました」
いつからだろう。藍依さんのみならず栞子もそこにいた。
「ひゃ……!!」
朱乃がベッドの縁に座る私の背後に隠れる。
「大隅さんの夜伽適性は充分のようですね」
そっか……エンパイアクラブで働くってことは、朱乃が他の人ともセックスするっていうことだよね。それは……イヤだな。
「ねぇ藍依さん。朱乃を秘書にしてもいい? 私だけのメイドに」
「それは構いませんが、接客メイドの不足が予想されますね。お酌にせよ夜伽にせよ」
藍依さんの言葉で私は現実を見直す。今、この店には新人メイドが二人だけ。そんな状況じゃ営業なんて出来っこないし、その上で朱乃を私専属なんてわがまま……通らないよね。
「かがみん、私は大丈夫。お客さんとその……肌を重ねることがあっても、心はもうかがみんのものだから。ね?」
「朱乃……うん、私も朱乃を愛しているわ。ふふ、ありがと。でも、やっぱり人手不足は否めないよね。暇を出したメイドさんを再雇用できないの?」
いそいそと服を着ながら藍依さんに尋ねる。二月のこの時期に全裸は寒い。……エッチの最中は全く気にならなかったのに。
「ポラリスのメイドは凜さまに仕えているという意識で働いていた方が多数でしたから。呼び戻すのは難しいですね。何名かはお客様と結婚して退店されていますし、メイド職に拘っていた方は既に他のクラブへ転籍されています。既に本部へ面接希望者を優先して手配するよう申請済ですが、時間がかかるかと」
藍依さんに頼れるのは一ヶ月だけ。それまでに私がオーナーとして、朱乃が秘書として、あと栞子がメイド長として成長しないと。でもメイドの頭数が足りないとなると……。
「ねぇ、わたしが大学の友達に声かけてみようか? それに三月過ぎれば撫子も使えるんじゃない?」
撫子は十八歳になったばかりの我が家の三女。少し人見知りな性格だけれど胸はやたらと大きいのよね。嫌がるんじゃないかなぁと思うけど。
「漫画家になるために通信教育を四月から受けるって言ってたからなぁ。取り敢えず言うだけタダだし帰ったら言おうか」
「ご主人さま、今日からここが貴女の帰る場所ですよ。資料やもろもろ見てもらわなければならないものも多いですし。いいですね?」
有無を聞かさぬ藍依さんの言葉。
「無論、メイドの皆さんも各自個室を割り当てますのでそちらへ。よろしいですね?」
妹は学校を卒業してから改めて誘おう。
「人手不足については凜さまの気まぐれが多少絡んでおりますので、こちらでも最大限の支援はさせていただきます。本日はひとまずお休みになってください。ご夕食の際にまたお声かけしますので」
そう言って藍依さんはどこからともなく取り出した鍵束からそれぞれの私室の鍵と、私にマスターキーを手渡した。
あてがわれた私室には凜さんのコレクションとおぼしき卑猥なグッズや、出発前に口にしていた資料とおぼしき分厚いファイルが並んでいた。
「はぁ……ヤバい一日だった」
語彙力を失っていた。怒濤というか波乱というか、急転直下の一日だった。窓から覗く空は茜色を通り越して既に群青。まさか性風俗店のオーナーになるなんてという疲労感と、朱乃とセックスしたという多幸感で、お酒は飲んでいないのに少し酔っ払ったような気分だった。私は部屋に備え付けられたシャワーで汗やべたつきを流すと、全裸のままベッドに沈んだ。