新人オーナーの百合色エンパイアクラブ運営日誌 作:楠富 つかさ
夕食時にたたき起こされ、藍依さんの作ってくれた夕食を摂った後、あらためてゆっくりと休んだ。そして、夜が明けた。……のだが。
「もう!! 顧客多すぎ!! はぁ……」
「かがみん……あ、ご主人さま、コーヒーです」
私は今、ポラリスの顧客リストに登録されているメールアドレスに、オーナー交代に伴う休業についてのメールを送っていた。ひな形は藍依さんが用意してくれていたので、それを貼り付けて送信するだけなのだが……数が数であるため送るのが困難なのだ。エンパイアクラブは紳士淑女のサロンなのでメルマガみたいなそんな一斉送信サービスなぞなく、また個人情報の取り扱いの都合でもメールの一斉送信は出来ないため、個々へ送信するという作業に忙殺されているのだ。また、休業明けについてもしばらくは女性客だけを招き入れる体勢を取る宣言をしたため、男性の顧客からはお怒りのメールが別途返信されてきているわけで、そちらの対応にも追われてしまっている。
「朱乃ぉ……後で癒して……」
「えぇ、私の身体……その、好きに使ってください」
「あぅう、朱乃がいてくれるから私も頑張れるよ……」
顧客へのメールとは別に、他のエンパイアクラブへメイドの派遣とくにレズセックスが得意なメイドを回してもらえないかという打診もしている。ちなみに今、栞子は藍依さんにメイドとしてのスキルを仕込まれているところだ。
「朱乃さーん。あ、やっぱりここにいた。交代のお時間ですよー」
「……そっか、朱乃も藍依さんとセックスのレッスンするんだよね……」
「あのね、ご主人さま。そのことなんだけど、その……一緒にしない?」
「え?」
驚く私に朱乃はぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
「その、藍依さんが帰ったらご主人さまがメイドにそういうことするわけでしょう? だからその……今くらい、いっぱい、ご主人さまとしたいの。ダメ?」
「ダメなわけないじゃない!」
私は書類を放り出して朱乃を抱きしめる。二人で腕を組んで渡り廊下を歩き、レッスン用のプレイルームへ足を運んだ。……だがしかし。
「ご主人さまはお引き取りください。業務は終わったのですか?」
「あんなコピペ作業栞子にでもやらせておけばいいのよ」
「お言葉を返すようですが、お酒にせよメイドにせよプレイにせよ、お客様の求められているものを把握し記憶することもオーナーの責務にございます。ポラリスは元々、女性客の多いクラブでもあります。早々に営業を再開せねばなりません。ここの維持費にいくらかかるかおわかりになりませんか? 分かればすぐにお戻りください」
藍依さんに怒られ私はすごすごとプレイルームを後にした。朱乃の申し訳なさそうな顔を見て、ますます落ち込む私。一人で歩くと渡り廊下がやけに長く思えた。自室に戻ると私のベッドでテレビを見ていた栞子が不思議そうな顔をする。
「お姉ちゃんどったの?」
「藍依さんに仕事に戻れって怒られた」
「まぁ、そらそうでよ。あぁそうそう、友達の四人がクラブの仕事に興味あるって」
「四人も!? そ、そう。どんな子なの?」
「めちゃめちゃおっぱいの大きいコスプレイヤーの先輩とぉ、すぐダメな男に貢ぐせいで万年金欠の後輩とぉ、チアやってる別の学部の同期とぉ、高校の時の同級生で今はオナニー配信で糊口をしのいでいる女の子の四人かな」
「濃いぃな……あんたの交友関係どうなってんのよ」
「えへへ。そうだ、藍依さんにも言ってあるから、このアドレスに面接の案内を送ってよ」
「私の仕事が増えた!!! もう、アンタも手伝いなさいよ」
栞子の手も借りてなんとかメールの送信は完了した。顧客の中には気に入っていたメイドが移籍した別のクラブをこれからは贔屓にするという返信を送ってくる人もおり、今後の運営には影が差す形となった。また、栞子の友人達は明日が土曜ということもあり全員時間差で面接を行うこととなった。