がたん、がたん。
「つまり、早見も近付けなかったって訳だ」
「ああ。聞いてるだけで頭が蕩けさせるような声だ。あれは男じゃ誰でも呑まれちまう」
「早見が惚れっぽいからじゃあなくて?」
「俺が惚れてるのは一人だけだ」
「あはぁ、そうだったねぇ」
がたん。がたたん。
「嘆き女っていうのはそれだけ強い力を持つものなのか。聞いた話じゃ、死人を眷属だかにするらしいな?」
「ま、そんなようなものさ」
「生きてる内から誘うのは、どうにも腑に落ちないというか、違う気がするが」
「確かに、ねぇ。ここいらには嘆き女はいなかったから、どういう娘なのかが分からないからねぇ」
「となると、国の内外問わずの学があり、妖娘について強い者の話が欲しい」
がったん、がったん。がたん。
「だから、帽子屋の話は必要で──こうしなきゃいけない訳だ。だからそれそろ暴れるのをお止めなよ」
がたがた、がたたっ、がたん。
お依の言葉に反抗するように椅子の脚が鳴る。
その様子に良心が痛んだのか、早見がお依に囁く。
「やっぱり止めるか?」
「私が? これを? いやだよ」
早々に匙を投げるお依。早見はそれを抗議するような目線を投げるが、そうは長持ちしなかった。
なにせ、早見自身もいやだった。上機嫌に『準備』をする帽子屋の邪魔をするほど、野暮では無かった。
「そもそも捕まえなければ良かったのに」
「急に逃げようとしてつい」
帽子屋の言う『味見』という言葉の意味と対象を真っ先に理解したのは関朗で、行動を起こしたのも関朗が一番早かった。なにせ、自分がそういうコトに巻き込まれるのは御免だと考えていた。
しかし席を立とうとした瞬間に、渦巻いていた煙が荒縄の様に彼を締め上げ、現在に至る。
「ふー……」
たっぷりと吸った黒煙を、ぶわりと天井へと吐く早見。まるで、天幕で覆い隠そうとするかのよう。
そうして作り出された闇には、椅子に縛り付けられた関朗と、服を緩めようとする帽子屋だけがぼうと浮かんでいた。
「──」
声にならない悲鳴を上げる関朗。猿轡を噛まされた様は、まるで拷問でも受けるかのような姿だ。
執行人として傍に立つ帽子屋は、それを愛おしそうに眺める。
「大丈夫。そんなに怯えなくとも、ひどい事なんてしないさ。言ったろう? 味見なのだから」
肩に手を置き、宥めるように言う帽子屋。落ち着いた声色に反して、関朗の抵抗は激しくなる。だから恐ろしいのだ、と言わんばかりに。
「ふむ。それほど私は君のお眼鏡には適わないかな? これでもプロポーションには自信があったのだけれど」
帽子屋はそう言いながら、関朗の膝に腰掛けた。
微笑みのまま関朗の顎を撫でる姿は、闇の中であろうとも、ひどく優し気に映る。
帽子屋の柔らかな尻肉の感触が、関朗の脚へとじんわり広がる。
気恥ずかしさからか関朗は顔を背けるが、それは悪手だった。次に何をされるのか、まるで分からず心構えが出来なくなるのだから。
「ほぅら、こんな格好をしていても、女の温もりというものは伝わるだろう?」
関朗の頭に、帽子屋の両腕が巻き付く。強引に引き寄せられる先には、張り詰めた燕尾服に包まれた胸がある。
蝶ネクタイが解かれ、釦も外れ、僅かに汗ばむ様子の見える谷間へと、抵抗する間もなく埋もれてしまう。廓でも嗅いだ事のない妖しい香りに頭が痺れる。
椅子の動きが自然と止まり、関朗の身じろぎも少なくなる。その様子に、帽子屋は満足そうに頷いた。
「そう、そう。素直になってもらえれば、私も嬉しい。何も怖いことも、痛いこともするつもりは無いとも」
その言葉を鵜呑みにした訳では無いが、関朗の気持ちは少しずつ落ち着きを取り戻す。単に動いて突き落としてしまったら事かもしれないと、捨てきれなかった情が湧いてしまっただけだったが、かえってそれが己の冷静さを取り戻させていた。
無駄に動かず、どうにか抜け出す隙を伺えばいい──そう考える頭は一見すると理知的だが、そもそも闇に包まれている時点で袋小路なのだということに、彼は気付いていなかった。
「関朗くんは、女性の部位でどこが好きなのかな? 顔? 胸? お尻かな? どれも好きと言う人もいるし、体に関わらずという人もいるけど、君はどうなんだろう」
猿轡のままで応えられる術は無い。関朗は適当に帽子屋を眺めていたが、それを帽子屋は別の解釈をしたらしい。
「ああ、そうかそうか。やっぱり胸が好きなのか。ふぅん、君はそういう人間だったんだね」
嘲るような言葉を、至極嬉しそうに話す。その差異に関朗は理解に苦しむが、帽子屋は構わず一人語りを止めようとしない。
「やはり、乳房という母性の顕れは男性にとって象徴的であるのは当然だね。どの様な形であっても、胸が嫌いな男はいないだろう。十人に聞いても八人は好きと答えるだろうし、残りの一人は主神教の人間で、もう一人は大嘘つきだ。こうやって柔らかな谷間に鼻先を包まれて、嫌な気分がするものか。そうだろう? ああ、答えなくても分かるとも。そうやって鼻息を荒くしていれば、言葉なんて無粋だと分かるからね」
数少ない呼吸口が塞がれたらそうもなるだろう──という訴えは当然言葉にならない。
上着を脱ぎ捨てた帽子屋は、ワイシャツからこぼれ落ちそうな胸を両手で支え、関朗の顔を挟み込んでいた。むっとするような女の汗の匂いが包むが、不快さは無い。
「少し汗くさいかな? そう考えるとちょっと恥ずかしい気がしてしまうけど、男性というのはそういう匂いでも興奮すると聞いたよ。君もそうなのかな? ──ああ、そうみたいだね。良かった、良かった」
ちょうど帽子屋の太ももに挟まる形で、関朗の分身は硬さを増していっていた。胸と同時に脚を動かしての責めは、傍から見ればまるで交わるかのように動いていた。
軋む椅子の音がその妄想を掻き立て、余計に関朗は興奮を強いられる。
「ああ、ああ。君は挟まりたがりなのかな? 小さい頃、よく細い柵なんかを無理に通ろうとしたり、人の脚の隙間に頭を通そうとしてたりしてたんじゃあないのかな? 眠る時には布団の上に置きものでも置いて圧迫してないと落ち着かないとか? 好きなら仕方がない。君が求めている事なんだから、それを否定する必要はないよ」
また関朗の頭を抱きかかえ、一層強く胸へと押しつける帽子屋。童をあやすような手付きで撫でられる頭。尚も息苦しく、しかし心底心地の良い谷間。
天国と見紛うが、抵抗することも逃げることも出来ず、されるがまま。関朗は必死に呼吸をしようとするが、上気した肌が塞ぐ。
「ううん。君は嬉しそうだけど、苦しそうでもあるみたいだ。……そうだ」
何か閃いたのか、すべり落ちるように関朗の膝から降りる帽子屋。絶え間なく続いていた女の感触から解放され、関朗の息が少し緩くなる。
帽子屋は床に膝立ちになったまま、ワイシャツの留まっていた残りの釦を全て外した。
二つの乳房は形良く、均整美を備えたものだった。服で包まれている時にははち切れんばかりに主張していた印象が強かったが、解かれてみれば彼女の自然体であると理解出来るほどにつり合いが取れた大きさだ。男装と称していたのは服の大きさもあるのかもしれない、とぼんやり関朗は考えた。
つり合いが取れた、と言っても、その中でもたわわに実っている部類というのも見て取れる。包み込んだ柔らかさとは裏腹に、はりのある肌は弛みをまるで感じさせない。なぜかそこだけ重力の影響を受けていないようにも見えた。乳首は美しい楕円を描き、その先端はつん、と上を向いている。汗ばんだ肌の質感が、その魅力に拍車を掛ける。
関朗の目は帽子屋の姿に釘付けになっていた。呑み込めない筈の唾を呑み込もうとしてしまうほどだった。
「君は素直で良い。見せる甲斐あるというものだ」
からかいながらも、帽子屋は関朗の下腹部へ手を伸ばす。手慣れた様子で衣服をはだけさせ、怒張した逸物を曝け出させた。
関朗は羞恥を感じつつも、何を今更と腹をくくり、下手に身じろぎはしなかった。
「挟まりたがりの君には、これが丁度いいかな?」
そう言いながら、帽子屋は胸で逸物を包み込んだ。
顔が挟まれた時とは違う快感が、関朗の下半身を駆け巡る。敏感な部位だから、と言うだけではない。大して動かず、ただ谷間の中で埋もれているだけだが、自分の目の前で美女が跪き、己の分身へと奉仕をしているという事が、見るだけで昂ぶりを覚える。胸から伝わる体温は、逸物と共に腹にも触れ、充足感を生み出した。興奮した様子の帽子屋の吐息は、谷間から顔を覗かせる亀頭をくすぐり、まるで羽毛が撫でるかのような優しく、しかし耐えがたい責めのようにもなっている。
「まだ挟んであげただけなのに、大分興奮しているみたいだね。そんな様子じゃあ、すぐに終わってしまいそうだ」
胸を支えていた手に、ぎゅう、と力を籠める帽子屋。関朗の逸物は、強い柔らかさに埋もれながらも同じく強く圧迫される。
急な強い刺激に身をよじるが、すぐに圧は緩む。優しく包まれ、そしてまた加圧。
ただ胸を押して引いてを繰り返すだけの刺激。それだけで逸物は膨れ上がり、帽子屋の乳肉を押しのけていく。
「ふふふ。辛抱溜まらないと言った風だね。それなら……」
俯き、口を開く帽子屋。ちろ、と出された舌先から、唾が滴り落ちる。唐突な感覚に、逸物がびくりと震えた。
そのまま帽子屋は、唾を垂らしたまま胸をゆすり始めた。少し持ち上げて落とす程度の、責めと言うには先の圧迫の方が強い程度のもの。しかし今の関朗には、こういった繊細な動きのほど、動きが確かに感じ取れ、余計に快楽へと繋がった。
その上、だんだんと唾液が谷間と逸物へと馴染んでいく。最初は擦れて引っ掛かりを覚えてしまっていたが、その違和感もすぐに消えた。卑猥な水音が立つ頃には、てかる乳房が上下するごとに逸物に絡みつき、左右に振れば吸い付き、決して逃さない口の様に捕えていた。
「我慢する必要は無いよ。好きなように気持ちよくなって……私の身体に、顔に、注いでくれたまえ♥」
帽子屋の言葉は、関朗の耳に届いていなかった。我慢なんて出来るものじゃない。ただただ強すぎる刺激に、身体が付いていかなくなっていた。
それを見抜いていて尚、帽子屋は胸の動きを止めなかった。微笑みながら扱き続け、ぱくぱくと動く鈴口をじっと見つめる。
快感で神経が焼き切れる。僅かばかりに残っていた関朗の思考にはそれしか無く、残りは全て与えられた快楽に埋め尽くされていた。
猿轡の奥から涎と共に声にならない喘ぎが湧いて出る。
身体の髄が反射で震えるが、帽子屋は全く意に介さない。胸で挟んでいるだけだというのに、関朗を押さえつけているかのように、ずれる事も無い。
終わらない、終わらない、終わらない──
限界をとうに超えた快楽の出口が見つからないまま、関朗の身悶えが特段に強まった。
それを合図にしてか、ぴたり、と帽子屋の動きが止まる。挟んだままに、その扱きを止めてしまった。
急な空白。しかし、それに反応する程の気力は関朗に残されていなかった。なんとか一息が付ける。──そう、認識出来た瞬間。
「良いよ♥」
ぎゅう、と。乳による圧を掛けたまま、再び上下の動きが再開する。先ほど以上の圧迫は、滑る乳房が逃げ場無く逸物へと刺激を与える。
緩急が付けられた逸物は、忘れていた限界を無理矢理に刺激され、程なく胸の中で果てた。
溜められた欲望は帽子屋の谷間から容易く溢れる。それだけでは止まらず、壊れた蛇口のように帽子屋の口元にまで飛び散る。永遠に思われた快楽のように、放たれる精も長々と続いていた。
ようやく逸物の脈動が落ち着いた時には、帽子屋の谷間には白い溜まりが出来ていた。凛々しさがあった顔は女としての艶と共に、関朗の欲望によって汚れ、しかしそれを満足げにしていた。
谷間に関朗の分身を挟み込んだまま、帽子屋は口元の精をぺろりと舐める。その姿に、快感以上に強い、征服欲のようなものが刺激された。
この美しい女を、俺の色で染め上げたい──そういう類の欲望がどういうわけか脳裏に芽生え、関朗の分身もそれに忠実に従おうと、再び硬さを取り戻そうとした。
その様子に、帽子屋は変わらず微笑みを浮かべたまま、目の前の雄へと囁く。
「君の気が済むまで、私は付き合うよ♥ なにせ、『闇』はまだ深いのだから♥」