Fleets.5 戦友
「なんか、質問ばっかりしてるみたいだけど、またいいかな?」
仲間が増えた、とよろこぶ女性士官と女性軍医に、青年は問いかけた。
「何かしら?」
「あの少女兵士もそうだけど、ここ、軍事施設の割に男を見ないんだが、それはなぜ?」
「この前進鎮守府もいちおう、男性はいるわよ。
ただ、西側の鉄道引き込み線での荷役作業員がほとんどだけどね」
とは女性軍医。
「じゃ、兵士はいないってこと?」
「こういうご時世だから、軍部も産業界も
だから、女性で代われるところは代えていこう、ということになったのよ。
かくいう私もそう。
医師免許をもらってすぐ、半年ほど徴用されたわ。いまは志願して軍医をしてるの」
「うーん。それにしたって、兵士をやらせるのは酷なんじゃ? だいたい、あの子はどうみてもまだ中高生くらいだったけど?」
これには女性士官のほうが答えた。
「その点も、ちゃんと考慮されてるわよ。
撃ち合いの最前線に投入されることは無いし、おもに後方勤務がほとんどね。
撤退前の大陸戦線では、もろもろの武器弾薬食糧資材、合計60㎏ほどを背負って毎日40㎞を徒歩で行軍、というのが歩兵だったけど、さすがにそこまでは、女性では無理なわけだからね。
女性兵士は、負傷兵対応や施設警備とかがメインよ。
対空機銃の射手も、短期間なら男性なみの体力なんて、とくに必要ないし」
「まあ、それは妥当だなぁ」
「年齢については、学生や生徒でも、年間合計20日ほど、そういう後方の任務に動員されることになってるの。
当然これは、恒久的な制度ではなく、戦況が安定するまでの時限措置よ。
若い女性の数は人口増加率に直結するから、女性兵士制度は長期的にみたら戦略的にマイナスでしかないのだから。
あの少女兵士は、この鎮守府の北側に隣接する女子学校の生徒よ。
1年を通して全員が交代して配属されるから、空襲の日だったのは巡り合わせが悪かった、としか言えないわね」
「ふ~ん、そういうものか」
「あとは、あれね。
戦友艦隊は艦娘の部隊だから、同性が多い方が余計な問題も起こりにくいだろう、という側面もあって、のことでしょうね」
「俺は男だけど?」
「あなたの妖精さん交流能力、それとみずから戦うと決めた意志の強さは、そんな懸念なんて問題にならないくらい、貴重なのよ」
室外に足音。それも複数。
「――御舩少将はおられますか。書類をお持ちしました」
いいわよ、入ってと促せば、
「失礼します」
と、3人の女性。
セーラー服でショートカットの女の子。
やはりショートで、長門と同じような衣装の女性。
白い弓道着に、青袴の女性、の3人。
セーラー服の子は、左右の瞳の色が違っていた。
「少将、こちらです」
大きめの封筒を複数、その子が御舩少将にわたす。
「古鷹ちゃん、ありがとう。五月雨ちゃんは、工廠に行った?」
「はい、用件をつたえてすぐに」
「わかったわ。――陸奥と加賀がいるのは?」
陸奥、加賀と呼ばれた女性たちは、部屋のすみから、食事用の飯台を持ってくる。
「私? 私は、司令官候補たる殿方の顔を見たかったからよ?」
どことなく色気がある側が、悪びれずに答えた。
「私は、頼まれごとがあって――あ。こら、待ちなさい」
ベッドで身を起こす青年の前に飯台がくると、弓道着の女性の肩口から、何かが飛び出してきた。
妖精さんだ。
女性の腕を駆け下りてくる。
飛行帽にゴーグル、飛行服。頬に大きめの傷がある妖精さんが、飯台のうえで青年を見上げる。
【よぉ! あんたが提督候補かい?】
「あ、ああ」
【まず、礼を言わせてくれ!
仲間や俺を援護してくれて、ありがとうな! 恩に着るぜ!】
「援護……?」
【俺は、震電017号機のパイロット! あんたの援護が無ければ、離陸間際に撃墜されていただろうな!】
震電と聞いて、青年はすぐに思い出した。
あの日、青年が対空機銃で離陸を援護した震電。
どうやらあの戦いを、無事に生き残ったらしい。
「ああ、あの時の……」
【それでな! 俺は艦載機パイロットじゃないけど、空母艦娘にお願いしてたんだ! あの機銃手に、礼を言わせてくれってな! だからいま、加賀に頼んでここにきたのさ!】
「あ、ああ。ありがとう。……けど――」
【ん? どうした?!】
青年は、はっきり思い出していた。
震電のふたつ前に離陸した機体は、撃墜されていたことを。
「――俺がもっとはやく気付いていれば、あの機体も救えたかもしれない。すまない」
青年は、妖精さんに頭を下げた。
【ん、ん、ま、あの機体は残念だった! けど、それが戦場、ってもんでもある! 仲間のために
見れば、その妖精さん、震電017号機のパイロットは、笑顔だった。
【何はともあれ、あんたは俺の恩人で、そして、戦友だ!
助けてくれて、ありがとうな!】
パイロットが、腕を前に出す。
「……握手、かい?」
青年はちょっと考えて、人差し指を出す。
【いやいやいや! 拳を握ってくんな!】
「ん、そうだよな」
青年もほほえんで、握り拳を差し出す。
パイロットたる妖精さんも拳を出して。
ちょん。
一瞬だけ、ふれ合った。
【これでお互い、仲間で、戦友だ!
何かあったら、遠慮無く言ってくれよ!】
妖精さんは笑ってうなずいて、
【わりぃ、加賀! 手間かけさせちゃったな!】
飯台を走り出す。
差し出された手を駆け上り、肩の上で、振り向く。
ニカッと笑って、くだけた敬礼。
青年もおもわず敬礼のように右手をこめかみまであげて。
【またな!】
妖精さんは、加賀と呼ばれた女性のうしろに、姿を消した。
(……戦友、か――)
青年にとっては、けっして、けっして軽くない言葉だった。
「……名前は教えてくれなかったけど、彼のためにも、頑張らないと、な!」
「個々の妖精さんの名前は、明かされることはないわ。
どうやら、
加賀が教えてくれた。
「固有の名前があるらしい、というのも確かなことではないようですけどね」
古鷹、という名前らしい少女が補足する。
「ちょっと、あなた。“彼”って、誰よ?」
陸奥と呼ばれた女性が問うてきた。
「え、今の妖精さん、男でしょ?」
青年は、口ぶりと顔の傷から、そう思った。
「いいえ。
妖精さんに、男性はいないわ。女性だけよ……」
今度は加賀が答える。
「そ、そうなんだ……」
「大丈夫です。戦場での友情は、男女の性別に関係無く
とは古鷹。
「艦娘は女性だけ。妖精さんも女性だけ。人間も女性が多数派。
男性にとってはある意味、楽園よね♪」
陸奥が楽しげに、からかいじみた口調。
「う、うん。そうかもな……」
「――書類の作成、はじめましょう」
御舩少将は、封筒から取り出した書類を、飯台にならべ始めた。
「あ、ああ」
(こんな、女だらけの環境で、ちゃんとやっていけるかなぁ?)
一抹の不安を覚える、青年だった。