気が付くと私は、廃墟街に立っていた。
少なくとも私の近所では家屋の解体現場でしか見かけないような、壁が崩れて天井のなくなった元建物の数々。
壊れた建物よりまともな建物を数えた方が早そうなここは、廃墟街に違いないだろう。
っていうか、ちょ、まともな建物ある?
キョロキョロと辺りを見回せば、なるほど、一軒だけ家屋として機能してそうな建物がある。
ついでにその建物には、BARの看板が。
BARすなわち酒場。
別に酒を飲みたい気分でもないので、酒場はまた今度。
で。
ここどこよ?
廃墟街と言ったけど、実は
なので誰かに尋ねるという選択肢も存在はするが、チラチラ見える人気の正体がことごとく外人。
私、英語わーかりーませーん。
アイ キャン トーク ジャパニーズ オンリー。
どこなのかわからない土地で日本語を話せる外国人に出会える可能性になど、期待できない。
尋ねることができないんだから、自力で調べるしかないのよね。
日本ならバス停や駅前に周辺の地図の看板があるからそれで調べられるけど、果たして海外にもあるのだろうか。
そして、この廃墟街にあるだろうか。
……ない気がする。
地図がないならせめて、高いところから現在地を確認しようか。
辺りを見回した時に廃墟街を囲う外壁が見えたのだけれど、階段が付いていて上に登れるようになっているらしいので、そこから"いろいろ"確認しようと思う。
いろいろって何よって言うと。
なんだかさっきから変な、既視感のような感覚が、心に絡みついてくるようで落ち着かないでいる。
廃墟街の崩れた建物の配置に心当たりを感じたり、太陽が肌を焼きそうに眩しい割には暑さを感じなかったり、キョロキョロした時に首や関節からモーター音を感じたり。
普通に歩いて外壁の階段へ行き、1段目に足をかけた時に気付いた。
人は階段を上る時に足元を確認する生き物だが……。
足元が。いや、足が人間じゃない。
機械だ。
まるで、外見を取り繕っていない義足のような。
……。
……うん。
このまま立ち止まるのは通行の邪魔になりそうだから、階段登りきって邪魔にならない位置にどいてから考えようか。
考えるのは後でいい。
取り返しのつかない状態にならないのであれば、考える前に行動するべき。
……ってなんかのゲームのキャラが言ってた気がする。
うん、ゲームのことを考えられるのなら精神的異常はないな。
あるいは、元から異常なまま変化がないとも。
くだらないことを考えながら階段を上がりきり、視界が開ける。
「わぁ……!」
私はその場で立ち尽くした。
より正確に言うなら、景色に圧倒された。
すみやかに晴れ渡った青空から太陽が地上を照り付け、視界一面に広がる砂漠に吹く風が砂埃を踊らせる。
数少ない謎の植物は目印や景色のアクセントになり、遠くに見える変な兜を被った集団は蜃気楼でゆらゆら歪んで見える。
何より私を感動させたのは、地平線が広がっていることだ。
日本は島国な上に土地がないため、海や建物や山で地平線を見ることはできないのだ。
なので地平線が見たければ、海外まで旅行しなければならない。
海外ということは、パスポートだのビザだのが必要な上に言葉の壁貨幣の壁税関の壁文化の壁などなどが立ち塞がり……うん、考えただけで面倒になる。
そんな数々の障害を乗り越えねば見られない景色が、今ここに、私の目の前に広がっているのだ。
私はしばし立ち尽くし、雲一つない晴天や眼下に広がる砂漠の地平線を堪能した。
影が長さを増したので、そろそろ違う行動に移ろう。
景色の素晴らしさに気を持っていかれていたが、ここがどこなのかどんな場所なのかを知るために外壁の上まで来たのだった。
ここがどこなのかという疑問と感じていた既視感の正体は、私の推測が正しければ一つの解にまとまる。
眩しいから日差しを遮らせていた手を、目の前に持ってくる。
うーん、機械だ。
まるで外見を取り繕っていな……以下略。
鏡がないから顔の確認はできないが、少なくとも首から下の体は、すべて機械になっている。
この機械の体はとあるゲームで見たことがある。
そのゲームの名前は、kenshi。
ストラテジー型のRPGでオープンワールドだとか、いちユーザーが投稿した動画が日本にパンデミックブレイクを起こしただとか、このゲームについて語れることは多々あるが直近知っておくべき情報はただ一つ。
このゲーム、シビアなんだよなぁ……。
プレイヤーの操るキャラクターも(最初は)只人に過ぎないってコンセプトだから、用心しないとすぐ死んだり手足が飛んでったりする。
そうでなくても奴隷落ちしたり……生きたまま柱にくくりつけられて食べられるなんて死に方もあったっけ。
少なくとも異世界転生したくないゲームランキングで、そこそこな成績を叩きだすだろうね。
なぜそこそこかというと、このゲームは利益なんかよりも制作者さんがやりたいことを詰め込むことに注力した作品なので、理不尽なバグや理不尽なストーリーや理不尽なシステムがないという素晴らしいゲームなのだ。
いや、理不尽と言えば理不尽に違いないけど、納得できる、楽しめる理不尽なのだ。
しかし、ゲーム内のキャラの人生はハード。
現在の私はゲーム内のキャラ。
つらたん。
しかしながら希望はある。
私はkenshiを知っている。
しかもこの機械の体、私にとっては大当たりだ。
人型機械のような種族、スケルトン。
最大HPが高いとか酸性雨やガスや砂嵐が効かないとかもあるが、私にとって大きなものが2つ。
体が機械なので捕食されない!
機械なので食事がいらない!!
つまり、お肉を食べようとオオカミに挑んで自分がお肉にされることがないのだ!!!
しかし利点ばかりなわけもなく。
怪我の治療に生身の生き物とは違う道具とスキルが必要だったり、怪我の度合いによってHPの最大値が減ったり、減ったHPの最大値を回復するのに特殊なベッドが必要だったり、一部の大勢力が信仰によって敵対してたりするが、私にとっては些細なことだ。
ともあれ。
どうやら私は、kenshiというゲームの世界に転生して、スケルトンと呼ばれるメカメカしい種族で生きねばならないようだ。
ここはkenshiの世界で、私のよく知った世界だ。
幾多ある
まあきっと、それなりに生きられるだろうさ。