※この作品はR-18です。

グレイブディガー   作:歌川

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グレイブディガー

 月の上に建つ施設の一室、白い部屋の真ん中に人が簡単に入れそうな大きなカプセル状のものが置いてある。

その側にはメガネを掛けたいかにも科学者といった感じの白衣の男がノートPCに表示されるメーターを見つめながらじっと待っていた。

『インストールが終了しました』とディスプレイに表示されると、

カプセルの表面に浮かび上がる数値とノートPCに表示される数値を睨めつけるように見比べて、しばらくすると「よし!」と一声あげるとノートPCを閉じてその場に置いた。

白衣の男はカプセルの横にあるスイッチを押すと、駆動音を唸らせながらカプセルが開くと、

カプセルの中には黒いドレスを着たネコ耳を生やした女の子が入っていた。

カプセルが完全に開くと女の子はゆっくりと目蓋を開くと青い瞳に叙々に光が灯っていく。

「わ…たし…は……」

何かを確認するようにそう呟く。

「私……違うな。俺、わたくし、自分、妾、ミー、拙者、予、僕……妾、うむ!妾だな!」

女の子は一人称を並べて、しっくり来るものを見つけると白衣の男の方を向く。

「それで妾にどんな要件があるのじゃ?申してみよ」

女の子が突然言葉を並び立て始めた事に呆気を取られていた白衣の男は、その問いかけに戸惑いながらも答えた。

「あっ、ああ。悪かったね。まず君にはこの契約書に目を通してもらいたい」

「いや、待て。そんな話よりするべき話があるだろう?まずは妾に名前を与えよ」

高慢な態度の女の子の勢いに押されて、白衣の男は名前の候補を探るためにノートPCを開いた。

「ああ、そうだね。まずは名前が無いと色々と不便か」

画面の中にずらりと並んだ名前候補の文字に目を通す。

「しかし君には驚かされたよ。生まれたばかりなのにそこまで自意識を持った個体は初めて見たよ」

「そんな事で驚かれても妾は知らぬ。ただこう喋るのが自然なだけじゃ」

男は引き気味に笑いながらも名前を探し続ける。

「あとその横柄な態度も初めて見たよ、まあ自我が強いのは悪い事じゃ無いけど……

 これなんか良いんじゃないかな!ヒイラギ!君みたいな剛直そうな子にピッタリだと思うんだけど」

ヒイラギと呼ばれた女の子は目をつぶると自身の中にあるデータのアーカイブから柊を探し出す。

刺々しい葉を持ちながら可愛らしい白い花を咲かせ、冬には赤い小さな実を付けるその姿を見て満足そうに口角を上げる。

「ヒイラギ…柊か……悪くないのう」

「気に入ってくれたならヒイラギで名前を登録するけど問題ないかな?」

「ああ、気に入ったぞ。良い名前じゃ。では妾に何をさせたいのか話を聞くぞ」

 白衣の男は一枚の紙を取り出すと、ヒイラギに差し出す。ヒイラギはその紙を見て眉に皺を寄せた。

これから先の20年間、もしくは提示される任務の完了までイムラへの絶対的な隷属を誓う事。

そして任務の放棄は許されない、といった内容だった。

そしてその契約書の中には任務の内容がどういう物かを指し示す事は一切記述されていなかった。

「わざわざ面倒な物を誓わせようとするのはどういう意図じゃ?正直はい、とは言い難い内容だしのう」

「ああ、アンドロイドにも人権があるからね。本人に意志確認が必要なんだ」

「詭弁じゃのう!じゃあ妾が契約をせぬと言ったらどうなるんじゃ?」

「荒い事はしないけど、今のままカプセルから出さないで監禁かな……」

ヒイラギが試しに手をカプセルの外に出そうとすると、目に見えない透明な膜に指が触れる。

爪を立ててみてもカスリ傷の一つもつかなかった。

「あぁ、これ出れぬのか!遠回しなやり口をするのう……

 まあ良い、どの道拒否する気はない。20年でも何年でもしたがってやるわい」

そうヒイラギが言うと男はヒイラギに契約書とペンを渡す。

「外側からの干渉は受けるのか、便利な檻じゃのう」

「起動したのらきゃっとが強い殺意を持っているって可能性もあるからこれはしょうがない事なんだ、

 それにサインしたらもう閉じ込めておく必要もないから我慢してくれ」

契約書に名付けてもらったばかりの名を記すと、ヒイラギは少し嬉しげに自分の書いた名前を眺めた。

「ほれ、書いたぞ。さっさとこの狭苦しい場所から解放せい」

ヒイラギの言葉を聞くと、男はカプセルの横にある端末にパスワードを入力した。

「これで大丈夫、出てきていいよ」

ヒイラギは手を伸ばして、先ほどまで張られていた膜が無くなったのを確認するとゆっくりとカプセルから起き上がった。

ヒイラギから契約書を渡された男は、ふとヒイラギの様子が気になった。

「どうしたんだい?妙に気分が良さそうだけど」

「ん?ああ、なんて事ないぞ。それじゃよ、それ」

男の手に渡した契約書を指差す。

「これ?」

「特別な事なぞ何もない。ただ名前を貰った事、妾が今ここに生きる事を認められたみたいで嬉しいんじゃよ」

ヒイラギは生まれて初めての笑顔を作り、男の手を握る。

「ありがとうございます、お父様」

 

 ここで話をしてても落ち着かないからと白衣の男、クヌギと名乗った男と食堂に行くことになった。

クヌギが紅茶を2杯注文すると、ヒイラギが「何か食べたい」とわがままを言うので一緒にカレーを注文した。

テーブルに着き、ヒイラギが満足そうにカレーを食べ終えるとクヌギは話を始めた。

「食事も終わったし、そろそろ本題に入ってもいいかな?」

「ああ…食事の時間とはなんとも幸福な物じゃ……うむ、妾は今とても機嫌が良い。好きに話すがよい」

ヒイラギは満足そうに食後の紅茶を口にしながら答えた。

「じゃあ始めよう。ヒイラギ、君の仕事はお墓を掘る事なんだ」

「墓?わざわざ妾がそんな物を作らなければいけない理由はなんじゃ?」

「ただの墓じゃない、のらきゃっとの墓さ」

クヌギは戦争の末期の一つの戦場の事を語った。

宇宙港の一つを巡っての大規模戦闘、地球連合の月への攻撃手段を得るための苦し紛れの戦いだった。

人とのらきゃっと、その他にも大量の無人兵器が敵も味方も見境もなく殺し合う、世界の終わりのような戦いだった。

「のんびり紅茶を飲みながら聞くには重い話じゃのう」

ヒイラギはサービスとして運ばれてきたクッキーを摘みながら口を漏らす。

「まあ、そこは本題じゃないから大量にのらきゃっとも人も死んだって位に捉えてくれればいいんだ」

釣られて、クヌギもクッキーを一口食べるとそれを紅茶で流し込んだ。

「問題はそこから先なんだ。今でもあそこで死んだのらきゃっとはそのまま放置されているままでね。

 死者の弔いが終わらなけれ戰爭は終わっていない!って上層部ずーーっと、文句を行ってくるのさ」

「それで妾を生み出してやらせようって話かのう?

 しかし、わざわざ妾にやらせずとも地球に大勢のらきゃっとはおるのだろう?」

「そこはね……結構良い条件で仕事を斡旋しても誰も受けてくれなくてね……戦争も終わって数十年経つ今でもそのまんまなのさ。

まあ数を聞けば誰でも断るよなあってのは分かるけどね」

「数か…何人いるのじゃ?」

ヒイラギのその問いを最後にしばしの沈黙が訪れる。

クヌギは気まずそうにしながらも紅茶を一気に飲み干して答えた。

「……1万人だ。1万人ののらきゃっとを弔ってほしい」

ヒイラギは両腕を組み、思案に暮れる。

やるまでも無く分かっていたが、1万という数を頭でしっかりとシュミレートしてから口を開く。

「1万か……クヌギよ、お主はバカじゃろ、というかイムラか。どう考えても1人に任せられる規模じゃないじゃろ」

ヒイラギは深くため息を尽き、頬杖をついて心底呆れたと態度で表す。

「バカみたいな任務だというのは承知の上だ。多数の人員を割くほどの優先度でもない。

 だけど上から圧力はそろそろ爆発しそうなんだ……」

「なるほどのう……つまり妾は人身御供のようなものか」

「すまない……だけど、人身御供…生贄になる為に生まれた、なんて風には考えないでほしい。

 こんな事を言えた立場じゃないが、不幸になって欲しい訳じゃない。それだけは信じて欲しいんだ」

クヌギは机に頭を押し付けるような勢いで頭を下げる。

ヒイラギはもう一度深くため息を吐き出すと、重々しく口を開いた。

「そう大仰に謝らずとも良い。お主が好き好んで我が子を極地に送るような者ではないというのは態度でわかるわ」

「わかってくれるかな?」

「ああ、クヌギの事は恨まぬよ」

「ありがとう……所で…最初のお父様呼びはどこに行ったのかな?」

「自分が父と呼ばれるほど親らしい存在か、胸に手を当てて考えて見ろ、愚か者が」

 

 ヒイラギは緊急用にと数時間、戦い方の訓練を受けた。

言われた通りの訓練をこなすと、クヌギは興奮しながら

「君の体は戦時中はコストの問題で通らなかった特殊機体を改良した物、

 しかも多数ののらきゃっとの戦闘データを元に作り直された最新の体なんだ!」

とヒイラギの体が如何に素晴らしいかを説くと、ヒイラギの中でクヌギの評価は更に下がった。

 次に回収した遺体の扱い方のレクチャーを受けた。

ホワイトボードに描かれたのらきゃっとの頭部の分解図をしっかりと画像として頭に収めながら、やるべき作業の説明を受ける。

「再起動にかけて反応がなければ頭を開いて記憶回路は回収、残りの体は月に一度来る回収部隊に渡す。

 そして記憶回路は地面に埋めればいい。なるほどのう。何故埋めるのじゃ?」

「君たちの記憶回路は基本的に1年以上起動しないと中身が消滅してしまうのさ、比喩で無く完全にね。

 壊れるとか劣化する、とかそういう物ではなくて何も入っていなかったかのように消滅してしまうんだ」

「ほう?」

「ボディのほうは色々と再利用できるんだけど、頭脳はそうもいかないんだ。

 一度AIのインストールをされた記憶回路は何故か再利用できない。理由は今でも明かされていないけど、

 君たちアンドロイドの基礎AIの土台がそうなってるのさ」

「つまり上層部の何某は、その回路こそが妾達のようなアンドロイドの魂が宿っている箇所と考えておる訳か」

「そうなんだ、この辺りは根本の設計をした人の思想が強く反映されてるんだろうね。

 とにかくアンドロイドが類似性を持つ事を嫌っていたみたいなんだ。

 記憶が空の機体に他の機体の記憶と精神を移植すると、元々の機体は動かなくなるっていう仕様もあったりするんだ。」

「なるほどのう。面倒な話はよく分からぬが、妾がやらなければならぬ事はよく理解した」

「話が早くて助かるよ、それじゃあ呼び出しがかかるまで後はゆっくり待とうか。

 船の準備が時間かかっているみたいだからね」

 

 待てと言われてから10分ほど、ヒイラギは何をするでもなく椅子を揺らし、天井を眺めながらボーっとしていた。

「暇じゃ……」

そう一言つぶやくと同時にトイレに行っていたクヌギがジュースの缶を二つ持って戻ってくる。

「ずいぶん暇そうだね」

「この部屋には何もないしのう。窓から見える景色も何もない岩場ばかりじゃ生まれたばかりの妾だって何も感動を覚えんぞ」

クヌギが差し出すジュースを受け取り、一口飲むと不機嫌そうな顔を崩した。

「シンプルなオレンジジュースだけど気に入ったかな?」

「うむ、悪くないな。そうだ、気になった事があるのじゃが、聞いても良いか?」

「質問ならどんどんしてくれていいよ、何かな?」

「何故、わざわざ再起動にかける必要があるのじゃ?消えると言っておったじゃろ」

ヒイラギは美味しそうにジュースを飲みながら質問をした。クヌギはその様子を見て顔がニヤケるのを我慢しながら答える。

「単純な話だよ、死んでいると思ったら生きていたっていうパターンが実際何件も報告されているからね。

 スクラップ置き場から奇妙な音がしたと思ったら、

 紛れていたのらきゃっとが助けを求める音だった何て事は今でもたまに報告があるし、

 戦闘によるダメージで直接エネルギー系統が破壊されてなきゃ結構生き残っているものなんだよ」

「そうは言うが、流石に動かんじゃろ?戦闘で破壊されたから戦場に残されている訳だろうに。

 それもこの馬鹿げた任務を作った奴の命令の一つか?」

クヌギは気が重そうに缶を開けるとグッとジュースをあおった。

「そうだよ、まあ気持ちは分かるけど流石に誰かにやらせるにしては面倒すぎるよね……

 おかげでたまに来ていた希望者も全員無理ですって連絡口で回れ右だったし……」

ヒイラギは改めて自分に課せられた物の途方もない物量に嫌気がさして口を閉ざし、若干重苦しい空気になったタイミングでクヌギの携帯に着信が入った。

 

 通話が終わると、ヒイラギは発着場に連れていかれ、ガチガチの宇宙服を着せられると一人用の移動ポッドに乗せられた。

細長く白い、人1人が入るとそれ以上何も載せられない様な大きさに、ヒイラギは強い不安を覚えた。

「なあ、このポッドにはどうみても推進力を生み出す機構がない様に見えたんじゃが……」

「そこは大丈夫、マスドライバーで目的地まで直接吹っ飛ばすからブースターとかいらないんだ」

カチッとクヌギが何かのスイッチを押すとポッドの蓋がしまり、ヒイラギの来た宇宙服が拘束具のようにヒイラギを動きを阻害し始めた。

「はあ!ちょっと待たぬか!危険すぎぬか!!」

「大丈夫!戦時中は多くののらきゃっと地球に送り込んで90パーセントが無事に辿りついてるから問題ない!

「残りの10パーセントはどうなったんじゃ!どういう事じゃ!体が動かぬ!!おい!話を聞けい!」

ポッドがクレーンに吊るされて、発射口へ運ばれていく。

「すまない!君の建造費が思いの外、嵩んでしまって宇宙船を用意する費用が足りなかったんだ!

 成果を出すまでにバックアップ用の費用まで考えるとここが一番安く出来るし早いんだ、我慢してくれ!」

「お前の事は金輪際親とは思わぬぞ!この鬼畜が!」

ヒイラギはひたすら罵詈雑言を喚き立てるが、着々と準備は進んでいった。

「慌ただしい別れですまないが、一旦君の電源を切らせてもらうぞ。恐怖から精神に異常を来す可能性もあるからね」

ノートPCからコードを実行すると、やかましかったポッドは急に静まり返った。

「よろしかったんですか?こんなに無理矢理で」

側に控えたのらきゃっとがクヌギに伺う。

「ああ、これで良い。あまり側に置いておくと別れがたくなるからね……それじゃあ後は任せていいかな?」

「お疲れですか?」

「んー……寂しいだけかな……あの体の完成は戦時中からの夢だったからね。

 まああれだけ気の強い子だから心配はいらないと思うけど……あーーー!今から私の所有にできないかなあ!!」

「ヒイラギさんの体がどれだけ強いのかは知りませんが月にいても持て余すだけでしょう?

 とにかく人間のあなたが発着場にいると射出もできないのでさっさと出て行ってください」

肩を落としてクヌギは発着場から出て行った。

重くしまった扉の前でがっくりと腰を下ろして扉を眺めていると、施設全体がわずかに揺れる。

「いってらっしゃい、ヒイラギ」

誰に届くでもない、1人切りの廊下で呟いた。

 

 

 

 ほとんど機械任せの大きな農場、まれに起きる不具合の修理と週に一度のメンテナンス。

それが私に任された全てだった。

 

 その日、私は青い空に流れ星が落ちるのを見た。

1日位サボった所で何も問題が起きない作業を止めて、ついついその星が落ちた辺りへと足を伸ばしてしまった。

大きな山の先、野生化した無人兵器が暴れているかもしれないから、と立ち入りを禁じられていたがそんな事を気にせずに山を登った。

そもそも山の上までは年に何度も行っているし、自衛の用意位はしているので問題はない。

 古びた山道の歩き、山の上まで登ると古びた展望台から宇宙センターが見える、その周りにはいつも通りのおびただしい数の機械の死体が溢れている。

その片隅にポツンと一軒だけ家が見える。

数ヶ月前に突然何台ものドローンが飛んできたかと思うと突然家を作り上げそのまま放置されていたが、その家の前に見慣れない筒状の物が見えた。

流れ星の正体だろうか?何が入っているのだろう?

もしかしてあの中には人が入っていて、あの家はあの人が住む為に作られたのだろうか?

色々と疑問は尽きないが、眺めている内に空は茜色に染まっていたので気にはなるが帰る事にした。

もし、あの中に誰かがいるとしたら、もしかしたら何も無い私の生活に変化があるんじゃないか。

少しばかり心を弾ませて、私は家路を急いだ。

 それからしばらく。

度々山を登りあの家の様子を確認するのが私の週に一度の楽しみになっていた。

タイミングが悪いのか、直接姿を見る事はなかったが家の周りに有る残骸、

とりわけのらきゃっとの死体が行く度に減っているのが確認できたので確実にあの家に誰かがいるのだろうというのは確認できた。

家の横にあるガレージで分解し、パーツでも集めているスカベンジャーなのだろうか?

何故、宇宙から来たあの人はそんな事をしているのか私には皆目見当もつかなかったがそこに人がいる。

それだけで心に沸き立つ物を感じた。

 

 

 

 油断をしていた訳でもない、覚悟が無かった訳でもない。

いつ死ぬ事になってもすんなり死を受け入れられる。そんな気すらしていた。

だけど実際、それが目の前に現れた時、想像以上の恐怖にただ逃げ回ることしかできなかった。

 

 何時ものようにあの家の観察しに行く為に山道を歩いていると、3体の大きな牛の様な体躯をした四つ足の機械に出会ってしまった。

突然の出来事と恐怖から「ひっ…」と小さく悲鳴が口から溢れると、牛の様な化け物は頭部に搭載されたマシンガンの銃口を私に向けて来た。

銃が放たれるよりも早く、私は懐に仕込んでいたEMP手榴弾を投げつけて私は山の深くへと逃げ出した。

冷静な判断をできる状況ではなかったとはいえ、それが良く無かった。

そもそも民間の作業用機械が暴走した時の為のEMP手榴弾では戦闘用の機械には効果は薄く、

わずかな時間、機能を停止させるだけで決定打にはなっていなかった。

その上、私は道を完全に見失い、徐々に距離を詰めてくる機械からただ木々の間を抜けて逃げ回る事しかできなかった。

 枝や根っこに足を取られて、傷つき、熱と痛みで動かす事も辛くなっていく。

呼吸もままならずヒューヒューと口から悲鳴がこぼれ落ちるだけ。

朦朧とする意識の中、自分が歩いているのかも意識できないでいるとガン!と頭に思い切り衝撃が走った。

大木に頭をぶつけた私はその場に崩れ落ちる様に倒れてしまった。

「こんな所で死んじゃうんだ……」

遠くに聞こえる私を探す機械の音が聞こえる。足跡を精密に追ってきているのだろう、どこに逃げても無駄だと私は諦める事にした。

ただ、地面に這いつくばったカエルの様に死ぬのは勘弁だった。

残された力で立ち上がり、今頭をぶつけた木を背にして座りながら最後の時を待つ。

錆びた関節部を無理矢理動かす不愉快な音を響かせながら、私の前に彼等はやってきた。

「痛くないといいけどな……」

彼等の出すサーチライトが眩しくて、それを遮る様に私は目を瞑った。

瞳の裏まで届くその光に騒がしさを覚えていると、それを遮る影。何かが私の前に降りてきた感覚がした。

次の瞬間、私に狙いをつけた3門の銃口からけたたましい音が響き渡る。

身を強張らせ、その最後の時を覚悟するが私の体には一切の衝撃も訪れることはなかった。

恐る恐る目を開くと、煌々とした緑色の光を腕から発する猫耳を生やした少女が私の前に立っていた。

「ははははは!子鹿の様に震えておるのう!!だが安心するがよい!この程度の奴ら物の数ではないからな!」

再び銃声が響き渡る。しかし、発された銃弾は全て緑色をした光の壁に当たると何も無かったかのように消滅していった。

銃弾を撃ち切り、機械達が装填を始めると少女は腕を下ろして、手に収まるサイズの黒い筒の様な物を取り出した。

一足に機械達との距離を縮めるとその筒を振り下ろすと一瞬だけ光の帯のようなものが見えたかと思うと一体の機械は真っ二つになり稼働を止めていた。

その後も2回、周囲が光で照らされると3体いた機械の化け物達はピクリとも動かなくなっていた。

 

その光景を呆然と見つめていた私の前に少女が膝を下ろして、目線を合わせると口を開く。

「まあ……色々と聞きたい事はあるがまずは自己紹介じゃな……

 妾はヒイラギだ、山の向こうで色々とやっておる。お主は?」

開いた口が塞がらない、というよりも言葉を話そうとすると口がカタカタと震えて言葉を話す事ができなかった。

「随分と怯えてるようじゃな、どれ。手を出してみよ」

言われるままに自分の手を、ガタガタを震える右手をヒイラギに向けて差し出すと、

ヒイラギはそっと私の右手を両手で包みこむ。

「何かで読んだがこうすると少しは恐怖も治ろう?」

そう言って私に笑顔を向ける。

笑顔か、手に広がるぬくもりか。

私を支配する恐怖は遠く、どこかへ消えていった。

「ありがとう……ヒイラギさん、私は……せいか……姫木青花……」

「青花、なるほどよい名前じゃのう」

ヒイラギは満足気になり、立ち上がる。

「ほれ、家まで送っていくぞ。早う立たぬか」

はっとして私も立ち上がろうとするが足に上手く力が入らなかった。

踏ん張ろうとするも足元の落ち葉を払うだけで一切体は持ち上がらなかった。

「すいません、ちょっと歩けそうにないかも……」

「しょうがないのう、妾はこの辺りには詳しくない。おぶってやるから口で支持するのじゃ」

私よりも小さな背丈だが、ヒイラギ軽々と私を背負いあげた。

そこで私はヒイラギの頭に猫耳がある事に気がついた。

「あら?もしかしてあなたのらきゃっとなの?」

「なんじゃ?気づいておらんかったのか?」

「うん。生きてるのらきゃっと何て初めて見たしね」

「なんじゃ、のらきゃっとと人間は共存して生きていると聞いていたが例外もあるのか?」

「それはね、そもそも人間だって私しかいないからね、ここは」

「ずいぶん特殊な事情のようじゃな、青花はここで何をしているのじゃ?」

走り周った疲れと背負われている揺れ、そして安心感からか、私の頭はどんどんとモヤがかかってくる。

「ごめん、私も色々人と話したいけどもう限界……寝てもいい?私の家のビーコン今携帯から起動させたからそれを追えば……」

話の最中、スッパリと意識を失った私は全てをヒイラギに委ねて眠ってしまった。

 

 翌日、目を覚ますとベッドの上に寝かされていて足もしっかりと治療がされている。

『山に登る時は妾に連絡をいれるように!!』と連絡先の書かれた紙がベッドの横に置かれていた。

「色々とお礼しないとね……」

ヒイラギには何か好きな物があるのだろうか?色々と彼女の事を考え、不器用に巻かれた包帯を撫でながら私は微笑んだ。

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