展望台から帰った私は、自分の部屋に戻るとベッドに身を投げた、
ベッドの上で天井を仰ぎ見ると、一度大きく深呼吸をする。そうする事で気持ちで溢れそうになった頭はようやく冷静になった。
ヒイラギさんは今日の昼食を気に入ってくれたようで本当に嬉しかった。
どれが一番気に入ったんだろう?猫耳が付いているだけにツナマヨだったりするのかな?
もしそんなふうに聞いたらヒイラギさんはきっと怒るだろうな。猫みたいに扱うでない!って。
そんな事を考えながら足をパタパタとさせていると、ハラリと包帯がほどけかけているのに気がついた。
「これはもういらないかな」
包帯をほどくとそこからは擦り傷は残っているが、腫れていない足があらわれた。
足が痛いなんていうのは嘘だった。彼女に甘えたい、そんな気持ちからつい嘘をついてしまった。
結果としてはそれは上手く行った。ヒイラギに背負ってもらい家路を共にしたのだ、目論見は大成功だ。
だけど心に引っかかる物がある。騙した事への罪悪感。
「こんな事はコレっきりにしよ」
包帯をくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に放り投げる。
後先考えた所で意味なんて無い。次からは自分の願望を真っ直ぐに伝えようと心に決める。
きっとその方が私の想いも伝わるはずだから。
ーーーーーー
青花と展望台に行った次の日、家の中にある物で出来るだけ再現を目指してタマゴサンドに挑戦してみた。
「むぅ……やはり粉の卵では再現は無理じゃな……」
当然の事だが家の中には生鮮食品に類は無く、保存食品と調味料で作ったタマゴペーストを味見して見たが、
比べるまでも無く青花の作った物には及ばなかった。
「食えなくはないが……マヨネーズでも足せばマシになるかかのう?」
味をいじってから缶詰のパンに挟んで食べる。パンの方が意外に美味しかったおかげで不満はなかった。
そんな食事休憩の最中、青花から連絡が来る。
「今度、私の家でゆっくりお話しでもしませんか?」と妾を家に招待したいとの事だった。
確かに今まで腰を落ち着けての会話はした覚えがない。先日のピクニックも落ち着いて後にはサンドイッチに夢中になっていた記憶が強い。
「そうじゃな、妾も青花とのんびり話がしたいのじゃ。しかし今すぐには予定が立てられん。
こちらから予定を立てたら連絡するがそれで良いか?」
「はい、ヒイラギさんの都合に合わせるからいつでも大丈夫ですよ」
「うむ、了解した。それで……あー、少し確認したいのじゃが……」
何となく聞きたかった事。わざわざ口にするのも可笑しいとは思うがどうしても確認したい事があった。
だが、いざ聞いて見ようと思った瞬間、言葉が出ずに言い澱む。
「どうしたんですか?」
青花が少し低いトーンで声を出す。いらぬ心配を掛けて不安にさせてしまっただろうか?悩んでも仕方ないと勇気を出して聞いてみる。
「あれじゃよ……そのな、妾と青花は友達……で良いのかのう?」
フフッと少し笑ってから青花は答える。
「当然ですよ、ヒイラギさんは私の大事な人です」
墓作りが進むと問題も増えていく。
単純に大きな兵器の処理。完全に壊れていても分解してスクラップ置き場に持って行くだけで時間もエネルギーも消費させられる。
塹壕の跡を埋めるのもかなり面倒だ、最悪土を山まで掘りに行かなければ行けないし、どれだけ妾の力が強くても一度に出来る作業はシャベルやトンボの範囲が限界だ。
そして何よりも一番の不安は自動兵器達の動きだった。
今までは単一的な動きしか見せて来なかったが、協力して動いている気配を見せて来たのだ。
当たれば妾の身体でも貫通しそうな威力を持つ弾丸を撃ち出すスナイパーと遊撃兵の挟撃に合い、(結果的には無傷だったが)死ぬ様な思いをした。
「戦闘用のAIが学習し、敵を見定めて攻撃する事などあるのか?」
妾よりはその手の知識が有るだろうクヌギに質問してみる。
「無いとは言い切れない。AIに関しては当時でもそこまで大きな差が有った訳じゃ無いしね。
長い時間を掛けて何か……その場所を守るとか、何か理由を見出してヒイラギを襲っている可能性も考えられるよ」
「そうか…中々困った状況じゃな。今日の襲撃は偶然だと良いのじゃが」
「もし、危険を感じる様なら護衛部隊でも送るよ?」
身の危険を感じないと言えば嘘になる。
しかし通話相手の、仮にも妾を作り出した父とも言える此奴は妾の事を自慢の兵器、娘だと思っている筈だ。
そう考えると自分の危険よりも見栄を選択したくなる。
「むぅ……杞憂かもしれん。まだしばらく様子を見てからにするのじゃ」
「ヒイラギがそう言うならそれでいいよ。だけど間違っても死なないでくれよ、
墓掘りが墓場で死ぬなんて全く笑えないからね」
「ああ、それは全く笑えんのう」
怖気を悟られぬ様に強気に笑って返した。
友人の家に遊びに行くのだから、何か料理でも一品作って持って行きたい。
そう思って簡単に作れる食材のセットを頼んでみたが、結局約束をした日には間に合わなかった。
なんでも一般の物流から大きく離れている為、青花の家に訪れる定期便に紛れ込ませる形になるとか何とか。
詳しい事は分からないが、妾の住んでいる所は通販もままならないと思い知らされた。
かと言って何も持って行かないのは気が引ける。しょうがなく、妾は高級そうな缶詰を袋にいくつか入れて家を出た。
ーーーーー
今日は珍しく朝から大変な目に合った。
農薬散布用のドローンが故障して麦畑の中に落ちてしまったのでわざわざ取りに行く羽目になり、
畑の移動中にスクーターが壊れてしまい帰りは大きなドローンを背負いながらスクーターを押して家まで帰るのはかなりの時間を喰われてしまった。
家に帰り、時間を確認すると既に11時をまわっていた、12時の約束の時間までに急いで準備をしなければいけない。
私は急いで汚れたツナギを洗濯機に放り込み、急いで部屋の掃除を始める、
掃除と言っても普段から整理整頓は心掛けているので軽く掃除機を掛けるなどのモノだが。
ロビーの棚の埃を払っていると、その上に有る写真が目に入った。
写真の中に写っている笑顔のお母さんを見て、なんとなく釣られて私も笑顔になる。
「ここに来るまでお母さん何時も泣いてたっけ…」
写真を手に取り眺めていると、この農場に来る前のお母さんが思い出された。
『ごめんなさい、私のせいで』夜眠りに着く前の私にお母さんは何時も謝っていた。
私は一度でもお母さんを悪いと思った事ないのに、それでもあの人はずっと、ずっと私の許しを求め続けていた。
そんなだったお母さんがここに来てからは毎日元気いっぱいに土に汚れて、
私と一緒に駆け回って子供みたいにはしゃぎ回る様になるのだから人間どう変わるかなんて分からない物だ。
写真を棚に戻して掃除に戻ろうした時、不意にお母さんの残した遺言を思い出す。
『青花、あなたは自由に生きなさい』
自由って何だろう。結局その自由の意味を見つけられ無いまま生きて来たが、今になってようやく私は自由を見つける事が出来た気がした。
「私……頑張るから、だから見守っててね。お母さん」
急いで掃除を終わらせて、清潔な服に着替えてから昨晩作っておいたコーンポタージュに火をかけて温まるのを待つ。
しかし何故なんだろうか。ヒイラギへ向けて料理を作ろうとすると、何故か妙に子供っぽい物を選んでしまう。
多分ヒイラギが生まれたばかりだと聞いて、そこの所を意識するとどうしても子供向けのチョイスをしてしまうのだろう。
子供扱いをしている訳ではない、やはり味を楽しむのも経験が有ってこそだと思っているから分かりやすく美味しい料理を選んでいるだけなのだ。
その考えの元、用意した今日のお昼ご飯はハンバーグ付きオムライスにコーンポタージュのセットになった。
旗を刺せば完全にお子様ランチだが、流石にそれは止めておく事にした。
そして後は温めるだけで良い様に仕上げておいた料理を手早く完成させた。
出来上がった料理を食卓に並べる、久方ぶりに二人分の料理を並べられた食卓を眺めると心が弾んだ。
後はヒイラギさんが来るのを待つだけ、そう思った瞬間に家のチャイムが鳴る。
駆け足で玄関に向かい、笑顔で扉を開く。
「いらっしゃい、今丁度準備が出来た所なんですよ」
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妾がチャイムを押すと、青花は笑顔で迎えてくれた。
「うむ、邪魔するぞ」
少し緊張しながら、挨拶をして玄関を上がるが、緊張からなのか落ち着かず、辺りを見渡して冷静さを取り戻そうとする。
前に来た時は気にしなったが青花の家はログハウス風とで言うのか、木材が多く使われており妾の家と違い随分と暖かみを感じる雰囲気だった。
「どうかしたの?なんかソワソワしてるけど」
「ん?いや、すまない。人の家に入るのは初めてでな。ちょっと落ち着かんのじゃ」
「あれ?ヒイラギさん最初に私を助けてくれた時に入ってますよね?」
「あの時はそんな状況でもなかったのじゃ、倒れた人の介抱なぞ始めてだったしのう。そういえば足はもう大丈夫か?」
「はい、もうとっくに治ってます。さて、立ち話はここまでにしてご飯にしましょう。せっかく出来立てなのに冷めちゃ勿体ないですし」
そうしてロビーに入ると良い匂いが漂ってくる、一人では広過ぎるテーブルの上には二人分の食事が向かい合うように並べられていた。
ロビーには食卓に他に4人がけのソファーが二つと大きなテレビがあり、昔は複数の人がここで暮らしていた名残を見せている。
「「いただきます」」
二人共席について食事を始める。並んでいた料理は知識としては知っていたがどれも食べたことの無い物しかなかった。
味を評価するほど食事の経験が無いので詳しい事は分からないが、とにかくとても美味しいのは間違い無い。
「凄い勢いで食べるからビックリしちゃった」と青花は嬉しそうに笑っていたが、
食い意地が張ってるみたいで恥ずかしいので落ち着いて食べるように注意したいと思う。
昼食を終えた後は二人で映画を見ながらのんびりと過ごした。
映画は一人でも良く見ているが、二人で見るのはなんだか違った体験をしているような不思議な気持ちになった。
時間を共有する楽しさ。とでも言えばいいのだろうか?青花と過ごしたその時間は心から有意義なものだと思えた。
気がつけばすっかり日も暮れており「急ぎじゃないなら、帰るのは明日でも平気ですよね?」と青花に誘われたので断る理由も無いので泊まって行く事にした。
別に一人で家に帰るのが寂しい訳では無い。
晩ご飯は妾が持って来た缶詰を青花が皿に盛り付けた物だった。青花は「わざわざこの値段帯を買う人っているんだ」と驚いていた。
「そんなに高いのか?物の価値は妾にはさっぱり分からんが」
「私だったらこれに払うお金でレストランに行くね」
ビーフシチューやらカニやらでまとまりの無いメニューだったがこれも美味しかった。
イムラの金の使い方には疑問を覚えざるを得ないが。
目を覚ますと、見知らぬ光景が目の前に広がっている。
今の状況を思い出す為に寝ぼけた頭を働かせる。
「……そうじゃ……確か……」
ゲームなどで遊んで風呂に入った後に寝る場所をどうしようかと青花と話した事を思い出した。
使えるベッドは青花の自室の一台だけと言われ、妾は別に床でも良かったのだが、
お客さんだけそんな扱いをする訳にはいかない!となり二人でロビーのソファーで寝る事にしたのだった。
向かいのソファーの上に青花がいるのを確認する。
よく眠っているのを確認すると、妾は体をゆっくりと起こして青花へと近づいた。
「気持ち良さそうに眠っておるのう」
ぐっすりと眠っている青花を優しく持ち上げる。妾の方は問題無いがやはり人間はしっかりとベッドで眠った方が良いだろう。
そう思い、青花を青花の自室へと運んでいった。
ベッドの上に寝かしつけて布団を掛けるが、青花は起きる事なく静かな寝息を立て続けている。
起こさずに運び終える事が出来てほっと安堵した。
そしてベッドから離れようとした瞬間、映画やドラマでよく有るシーンが頭をよぎる。
眠る恋人や子供の額にキスをして、おやすみと部屋から出て行く。そんなシーンが思い起こされた。
青花には、わずかな間に本当に色々な物を与えて貰った。だから、自分の気持ちを送りたいと思い、跪く。
おかしな事では無いはずだ。これはただ親しい人へと送る細やかな祈りの様な物なのだから。
朝までゆっくりとおやすみなさい。
そう心で思いながら、額の髪を掻き分けてそっと青花の額に唇を付ける。
額から唇を離してソッとその場に立ち上がる。妙だ。体の中で回路が妙に早く動き回っている感じがする。
顔は火照り、普段何も感覚の無いエネルギー炉が締め付けられる様な感覚が走る。
とりあえずここに居るのは良くないと思い、踵を返して部屋を出ようとすると左手の裾を掴まれる感覚に阻まれた。
「一人にしないで……」
その一言でさっき妾がした事がバレたのではないかと一気に身が引き締まったが、その場を離れる気配に反応しただけの寝言のようだった。
ほっして掴まれた指を離すが、気がつくと青花の瞼から涙がこぼれていた。
「一人は嫌か……」
そっと、ベッドの上に腰を下ろして、窓から月を見上げながら想う。
あまり親しみを感じないあの父親が死んで、妾が一人になったら。そう考えてみたがあまり実感が湧かないし、
そんな事を考えるのも縁起が悪い気がしたので考えるのは止めて眠る事にした。
ベッドの端で横になり目を瞑る。今日のような日をずっと青花と過ごせればいいな、そう思いながら眠りについた。
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目を覚ますと妙な違和感を感じる。
そうだ、私はソファーで寝ていたはずなのになぜベッドで寝ているのだろう?
疑問を感じながら起き上がると、隣で何故かヒイラギさんが寝息を立てていた。
イマイチ状況は理解出来ないが、ヒイラギさんが私に気を利かせて運んでくれたのだろうか?
「ヒイラギさん、朝ですよ」
とりあえず声を掛けてみたが返事も無く、眠り続けている。
そんな気の抜けた寝顔を見ている内になんだか私ももう少し眠っていたい気持ちになった。
「たまにはこういう朝は有ってもいいよね」
布団をヒイラギさんにも掛けてから、気持ちの良い二度寝の波に呑まれていった。