※この作品はR-18です。

グレイブディガー   作:歌川

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始まりは何処か

「特別な事にはしたくないんです」

遅く起きた朝。遅めの朝食のスクタンブルエッグを頬張っていると青花が提案をしてきた。

「これから週に一度、二人で遊ぶ日を作りませんか?」

妾からも同じ事を提案をしようと思っていたので嬉しく思いつつ、その提案を承諾して週に一日、日曜日に遊ぶ約束を二人で結んだ。

「私もヒイラギさんの家に遊びに行きたいんですけど、来週はヒイラギさんの家に行っても良いですか?」

青花からすれば何気ない要望を口にしただけなのだろうが、どう考えても承諾を出来る物ではなかった。

もしもあの機械兵達が統一した動きをしたら青花を守って戦える自信は流石に無い。

「無茶を言うな、あんな危険地帯に青花を近づけさせる訳にはいかん。次、自動兵器に襲われた時も助けてやれるとは限らないしのう」

「そっか、それもそうですね。でもその内安全になったら行ってもいいですよね?」

最近襲われたばかりなのだからアイツ等の危険性はしっかりと認識しているのだろう。

少しの文句も言わずに青花は納得してくれた。

「安全か。いつになるか分からんがそうなったら案内したいのじゃ」

「はい!じゃあ楽しみに待ってますね」

朝食を食べ終えると、妾はすぐに青花の家を後にした。

「それじゃあ、また来週。それまでお互い頑張りましょう」

「ああ。また来週、それまでお互い役目に励むのじゃ」

笑顔で手を振る青花を見て、若干の別れ難い気持ちになったが、それを抑えて山に向かって走り出した。

 

ーーーーー

 

 和やかで平凡な二人で過ごす時間が出来てからひと月の時が流れた。

週に一日の二人で過ごす時間は特別な事は何もなく。だけどヒイラギにも青花にも、とても大事な時間になっていった。

 

 そして雨の続く日が続いた後の日曜日。

何日も続く雨は墓を掘る事もスクラップの山を片付けるのにも邪魔になりストレスの溜まる日が続いた、

しかし今日は気にしなくても良いと気分良くヒイラギは家を出た。

雨音の響く中、ぬかるんだ道を歩きながらヒイラギは奇妙な感覚を覚える。

肌がチリチリと焼ける様な感覚。痛覚にストレスを感じない様に作られていたがその感覚には思わず眉をひそめた。

その感覚に導かれるようにレーザーブレードを構える。

「ディフェンスマトリクス、起動」

 ヒイラギは自身に備え付けられている自己防衛用システム、ディフェンスマトリクスを起動させる。

使用していないレーザーの射出口を利用して、オートで被弾を防ぐシステム、万全の状態ならどんな攻撃でもレーザーで斬る、弾く、溶かす等して防ぐ事が出来る。

だがヒイラギの意思の及ばない機能であるが故に、多大なメモリを使用する等の影響で脳内を他人にいじられている様な感覚があり、

あまり好んで使用はしない。

 そんなシステムを使わなければ行けないと即断するほどにヒイラギは危機感を覚えた。

辺りを探る為に近くにあるスクラップの山に足を掛ける。その山から頭を覗かせた瞬間、ヒイラギの目には自分に向けて放たれた銃弾を目にした。

瞬間、仰け反りながら飛び退き銃弾を回避した。しかし空に飛んで隙が生まれるのを待っていた様に2体の自動兵器が山から飛び出し、ヒイラギに機銃を浴びせかけた。

前後に挟まれる形で奇襲を受けたが、幸いにもディフェンスマトリクスのお陰で無傷で地上に着地する。

ヒイラギの両腕から発された二つの光の線が辺りを照らすと、2体の自動兵器は縦に2つに裂かれて崩れ落ちた。

「そうか、嫌な予感はしておったが、ついに仕掛けて来た様じゃな」

ヒイラギの感じていた嫌な予感は当たっていた。盆地のどこからでもヒイラギを捕捉した瞬間に狙撃出来るように、

多数の大口径狙撃型自動兵器が陣形を敷いていたのだ。

 

 今までヒイラギの家から一定範囲内なら、家の防衛機構によるジャミングによって直接自動兵器に見られたとしても認識される事はなかったが、

範囲から外れると流石に見つかってしまう。

しかしそれでも盆地の中なら、目視されなければ襲われる事がない程度のジャミングは行き渡っていた。

これまでスクラップの山の中に数多といる生き残った自動兵器に一斉に襲われる事がなかったのも、その優れた防衛機構のお陰だった。

熱源、動体、音感。自動兵器達はそれ等が封じられていたのでヒイラギを見つける事が難しかったのだ。

しかし今、数多の視線、視界によりヒイラギを捉えている。相互通信による絶対的な認識。無数の個体となった自動兵器達。

ヒイラギは絶対的な窮地の中にいた。

 

「絶体絶命とはこういう事を言うのかのう…」

雨の止まない空を見上げながらヒイラギは呟いた、そしてほんの僅かな安全地帯の中で思考を巡らせる。

目の前に広がるスクラップの山の上に登ればどれ程の数がいるかも分からない自動兵器達との戦いが始まるだろう。

だが、家に帰って救援を要請すれば無謀な戦いに挑む必要も無いのではないか?

そう思い、一歩後ろに下がるが青花の事が頭によぎった。

(あやつ等の目的は分からぬ……だが妾に戦う気が無いと知った時、青花に危険が及ぶ可能性も十分有るか…)

大事な友人の危険、それを考えると撤退する選択は有り得ない物になった。

そして戦う事を決意したヒイラギは、装備の確認をする。

レーザーブレード、威力は有るが距離は伸ばして10m。大体の自動兵器はこれで壊す事が出来る。

レーザービーム、威力は有るが射程距離を伸ばせば伸ばすほどエネルギー効率が悪くなる。ディフェンスマトリクスとの併用を考えるとあまり頼れそうにもない。

拳銃、基本兵装として渡されたが威力、弾数共に頼り無い。

未知数の敵と戦うには明らかに心許ない僅かな武器しかヒイラギの元には無かった。

「こんな状況で取れる作戦など、たかが知れてるおるじゃろ……」

ヒイラギはレーザーブレードを胸の前で構えて目を瞑り、深く息を吸う。

「こういう時、人間なら神にでも祈るのじゃろうな……だが妾には祈る神はおらぬ……

 代わりにしては何だが今は頼りにはしておるぞ、お父様」

自分を作った父に心の中で感謝の気持ちを送りながら、高笑いを上げると走り出す。

「ハッハッハッハ!走って斬って躱して斬って、それで最後まで生きていれば妾の勝利じゃ!」

 

 一足にスクラップの山を駆け上がると一番近くの狙撃型に向かい走り始める。

おおよそ100m離れた場所に居るソレに接近するまでにヒイラギは嵐ような銃弾の中を走り抜けた。

狙撃型を射程範囲に入れたヒイラギは、横に思い切りレーザーブレードを薙ぎ払うと、狙撃型はその巨大な砲身と共に崩れ落ちた。

間髪を入れず、遠くからの狙撃はまだヒイラギを狙っていた。

ディフェンスマトリクスにより直撃こそはしないが、その圧力による一瞬の怯みは回避動作を僅かに鈍らせる。

その隙を狙う様にして遊撃型自動兵器から機関銃による襲撃を受けるが、あっさりとそれ等を破壊する。

「総攻撃だとは思うが妙じゃな…」

僅かに違和感を感じて、ヒイラギは考えながら次の標的に向かう。

ヒイラギが向かう方向からは、先程までは弾幕が貼られていたはずなのだが、ピタリと止まり、まるでその先に進めとばかりの様子を見せる。

「ああ、なるほど。理解したぞ、お主達のやりたい事を」

自動兵器達の目的はヒイラギの体力を削る事だった。

正面から戦う数を減らし、支援射撃でひたすらにヒイラギに攻撃を加えそのエネルギーが切れるまで打ち続ける。

そして無力になったヒイラギにとどめを刺す作戦、それが自動兵器の考えた作戦の中でヒイラギを殺す一番の有効だと思える作戦だったのだ。

「根比べとはのう。まあ良い、妾のやる事はどの道変わらんのじゃ」

戦う事には何の憂いも無いが、状況を知らずに自分の事を待つ青花の事を考えると少しだけ気持ちが焦った。

しかし今は他の事に気を掛けている余裕は無い。青花の事を考えるなら自分の身を守る事が一番なのだと自分に言い聞かせて冷静に足を進めた。

 

 青花はロビーのソファーに深く座りながら漫画雑誌を読み進めていた。

しかし、どうにも身が入らないのか話の途中にも関わらずため息を吐きながら雑誌を閉じる。

「雨、止まないな」

小麦(品種改良により三カ月で収穫が出来る)の収穫時期が近いのだが、最近の天候の悪さから質が悪くなりそうで気持ちも沈むのも当然だった。

窓から広がる麦畑はまだ青々としていて、薄暗い雨空の光景を寒々しいモノにするのを手伝っている。

だらりとソファーに埋まっていた青花はふと時計に視線を送ると12時を過ぎていた。

「あっ……ボーっとしすぎた!」

ソファーから飛び起き、急いで台所へ向かう。調理を始めようと今日の献立を思い出そうとしていると、違和感を覚える。

「あれ?ヒイラギさん、今まで早く来た事はあっても遅れる事なんてあったかな?」

少しだけ引っかかる、しかし考えた所で答えは出ないのでとりあえず青花は料理に集中する事にした。

 

 青花が台所に立ったと同時刻。

広く積み重なったスクラップの山の上で、ヒイラギは確認出来る最後の自動兵器を切り払っていた。

先程までけたたましく響いていた銃弾の音は止み、雨音だけがヒイラギの耳に入る。

「ああ、クソ…ドレスが台無しじゃ」

激しく、長い時間に及んだ戦いはヒイラギの姿をすっかりとボロボロにしていた。

泥や自動兵器達の劣化した擬似体液の汚れに加えて、

エネルギー切れによって精度を欠いたディフェンスマトリクスにより何発かの狙撃弾が体を掠めた為に、

皮膚の下の機械部分が露出している部分も何箇所か存在した。

数多の兵を集結しての自動兵器達の戦いはヒイラギを殺す事に届かず、僅かに傷を付ける程度だったのだ。

「まずは体を洗って、服も着替えなければな。こんな格好では青花を驚かせてしまうのじゃ」

ヒイラギは周囲に敵がいないのを確認すると家に向かおうとした、しかし突然辺りに地響きが広がる。

「なんじゃ?」

足を止めて周囲を警戒するが、どこにも異変はない。しかし急いで離れた方がいいだろうと思った瞬間、ヒイラギは空中に投げ出されていた。

 

 ヒイラギが走り出そうと、足に力を込めた瞬間にヒイラギの真下から巨大な4つ足の戦車が飛び出し、

その戦車が自身に積もっていたスクラップごとヒイラギを吹き飛ばした。

空中で制御を失ったヒイラギは頭を動かし、戦車を睨みつける。

これが奴らの切り札だったのか、逃げ回っていたのはここに誘い込む為だったのか。

自動兵器達の動きの理由がコレだったのかと、今となっては考える意味の無い事を思考してしまう。

「落ち着け…落ち着くのじゃ……今考えるべきはそんな事ではない……

だが、何故じゃ?アレは有人機のはずじゃ……」

ヒイラギは解体する為に、ここで使われていた兵器の情報は全てを把握している。

だからこそ、目の前で起きている理解不能な出来事にわずかに動揺していた。

空中で身動きも出来ず、思考も揺らいでいるヒイラギに向けて戦車は冷静に照準を合わせる。

主砲のレールガンが唸りをあげ今にも放たれようとしている。ヒイラギはどうにか姿勢を直して戦車と向き合う。

しかし空中に投げ出され、回避行動も不可能。残りのエネルギーを防御に回した所で防げるとも思えない。

「やりおるのう…誰か知らぬが褒めてやるぞ」

諦めからなのか純粋な賛美だったのか、ヒイラギは不敵に笑い掛ける。その返事の様に戦車はレールガンを発射した。

圧倒的な質量の銃弾が音速を超える速さでヒイラギに襲いかかった。

人一人にぶつかった所で何の異にもならぬ銃弾はヒイラギを貫き、遥か彼方へと飛んで行く。

遥か先まで響く轟音はまるで勝利の咆哮のように長い間盆地の中に響き渡った。

 

 べしゃり、と体の一部を欠いた人型の物が空から落ちて来る。

戦車の中にいる者は有り得ない物を見たかのように驚き、外部を映すモニターを凝視する。

モニターに映るその人型はゆらりと立ち上がり戦車を睨みつけた。

「ふは…ははは……ははははは!!どうじゃ!防いだぞ!右腕を欠いたが、まあ命に比べれば安いものじゃ」

ヒイラギは笑い声を上げながらふらふらと戦車へ近づいて行った。

 ヒイラギはレールガンが発射された瞬間に残された全てのエネルギーを右手に集中させて出来る限りのバリアを貼った。

そして右腕で銃弾を上から殴りつけ、上空に吹き飛ばされる事でレールガンから生き延びたのだった。

当然、ただ生き延びられた訳ではない。レーザーブレードは弾き飛ばされた時に紛失し、内部の破損も稼動限界に近かった。

「驚くべき生存能力だな、アレを喰らって生きているとは思わなかったぞ」

戦車の中から声が響く。

「なんじゃ?喋れるのかお主、じゃあ一つ聞くが何故、妾を殺そうとする」

「答える義理は無い、ただ王の判断としてそうしたまでだ」

「王?こんな場所の?お主は頭がどうかしておるのか?それに国民も居らぬ、それなのに何故王などと名乗るのじゃ?」

「貴様が殺した」

静かに王は答えた。

「そうか、それはすまなかったのう」

「それはもう良い、済んだ話だ。お前を殺して全ては終わる。

コイツももう、ろくに動けないが機銃位は撃てるからな」

先程のレールガンを撃った反動で四つ足戦車もまた多くの損害を受けた、砲身も経年劣化と反動で完全に壊れ、駆動系も破損してしまった。

「まあ、少し待て。お主、不思議に思わないか?」

「何がだ」

「妾はこの通り、満身創痍。歩く事もままならぬオンボロよ。しかし何故お主に歩み寄るのか。

死んだフリをしていた方が利口とは思わぬか?」

「どうでもいい事だ。死に掛けのお前が出来る事など命乞い位しかないと思うが……

頭を下げて降参でもしたいのか?残念ながらそれは出来ない相談だ」

おおよそ5メートルの距離までゆっくりと近づいたヒイラギはそこで足を止める。

「めでたいな、ゴミ山の王よ。もう勝ったつもりでいる様じゃな。

何、単純な話じゃ。使った事のない兵器の射程が分からない、だから近づいたのじゃ!」

突然ヒイラギの尻尾が伸び、その先端からレーザーが照射され、ヒイラギを狙っていた機銃を全てなぎ払った。

「馬鹿な!まだ武器が有ったか!しかしもうエネルギーは無いはずだ!」

「出力のリミッターなぞ既に切ってある。オーバーロードじゃ!ここで死ぬならタダでは死なんわ!」

ヒイラギは強力なレーザーにより戦車を中にいる王諸共、切断しようとした。しかし王もタダでは終わらなかった。

「潰れて死ねえ!」

戦車は崩れながらヒイラギに飛びかかって行った。

しかし破損した足ではろくに推進力も出ず、レーザーに圧力に負けて縦に2つに分かれてその場に落ちた。

「妾の勝ちじゃな」

ヒイラギはそう呟くとその場で崩れ落ち、膝を地面に付けたままその意識を閉じた。

 

ーーーーー

 

 暗闇の中、焦燥感と重々しい足音が妾を目覚めへと導いた。

体はどこも動かない。自己診断機能の結果は無事な箇所は何処にも無く、即座にオーバーホールをしろと警告してくる。

首を動かすのも辛い、まぶたが重くて開けるのも大変だ。それでもゆっくりと近づいてくる者に視線を向けた。

「まだ動けるか…お互いにしつこいな……」

妾の前にはゴミ山の王がいた。その姿には妾も驚きを隠せなかった。

妾と同じ姿をアンドロイド。赤目で粗雑な義足をしている以外はほとんど妾と変わりのない、のらきゃっとがそこにいた。

「お主は一体何者なんじゃ?」

「何者か……悪いが記憶は無くてな。私はただこの土地に残された者達を統べていた者だ」

土地を統べていた。その言葉で何故妾が襲われたのか何となく理解する。

「ああ、それでか。この場を荒らす妾が邪魔だった、だから妾を襲ったのじゃな」

「荒らす?ああ、なにやらゴチャゴチャとやっているアレの事か。アレはどうでもいい。分からないのか?自分のやった事が」

「分からないのう、何故じゃ?」

「最初に撃ったのはお前じゃないか。私達を敵とみなしたのはお前の方だろう」

そういうと腰に挿した刀を抜き、妾の首筋に突きつけた。

何の事を言っているのか理解できない、何のこと言っているのか考えてみる。

ああ、なるほど。思い当たる物が頭に過ぎった。地球に来てすぐに現れた小さな四脚のロボット。

思い返してみればアレは何の武装もしていなかった。

「なるほど、アイツか。申し訳ない事をしたな、すまない」

「もう良い、これで全て方がつく」

首筋に突きつけた刀を離し高めに構え直す。

アレが振り下ろされたら、妾は確実にそこで終わりだろう。こんな状況でも取れる手段は一つだけ残されていた。

自爆同然の最終手段。流石に少しばかり躊躇したが、青花の事を考えたらどうしても生きなければならないと思えた。

どうせ死ぬなら生存の可能性が高い方に賭けるしか選択肢はないだろう。

「悪いな、お主の復讐に付き合ってやる事は出来んのじゃ」

思い切り目を見開き、ゴミ山の王の胸を注視する。

刃が振り下ろされる瞬間、右目から強烈な光の線が放たれた。光はゴミ山の王の胸を貫き、彼女のコアを消滅させた。

 

 仕込める場所には極力何かを仕込みたい、わざわざ目にレーザー砲が仕込まれたのはそんな理由だったか。

部位が部位だけに一度撃てば目が確実に壊れるし、その熱量から頭脳回路にもダメージが行くから使うなとは言われていたが案の定、妾は死に掛けていた。

その場に倒れて最早体のどこも動かない。じわじわとやってくる暗闇に少しづつ飲まれて行く。

 

 こんな事になるのなら前に遊びに行った時、もう少し青花の料理を食べておけば良かった。

青花と見ていたドラマのシリーズ。続きを一緒に見ようと約束をしたのにそれも果たせそうにない。

死を目の前に感じながら妾はずっと青花の事ばかり考えていた。

今日青花は何を作っていたのだろう?妾が何時迄も来ない事を心配していないだろうか?

今日破ってしまった約束をただただ申し訳無く思う。何故こんな事になってしまったのだろう?自業自得か。

雨の冷たさも感じない。残された目ももう何も映さない。

ただ訪れる死を待っていると大きな足音が聞こえてくる。

ああ、残された自動兵器がまだいたのか。中々訪れない終わりにもどかしさを感じていた所だ。早く終わらせてくれ。

そう思っていると妾の体に浮遊感が訪れる。なんだかどこかで嗅いだ覚えのある匂いもする。

どこだろう?思い出せない。

分からないけど悪い気分はしない。そうだ、あの子とあったあの日……………

 

 深い、深い闇の中で目を覚ました。今感じられる感覚はそんな所だろうか。

生きているのか、死んでいるのか、光も届かない深海の中をふわふわと浮かんでいる様な感覚だった。

以前にも経験をした覚えがある様な気がする。そうだ、あの白くて広い天井を始めて見る前の事。妾が生まれる前の事。

何も難しい話ではない、ただ目を開けばいい。ただ目を開けば、それで目覚める事が出来るのだから。

 

 目をゆっくりと開く。

そこは地下のメンテナンスルームだった。しかしどうも状況は掴めない。

身を起こそうとするが体は上手く動かない、エネルギーの循環がかなり弱めに設定されており人間よりもひ弱な出力に設定されている様だった。

右手をメンテナンス用のベッドに着きのろのろとベッドから降りると、違和感を覚えた。

失ったはずの腕は付け直されており、潰れたはずの右目もしっかりと機能している。そうだ、誰だ、誰が妾を修理した?

それに服も着せられていない、ほぼボロ切れだったから仕方のない事か?

とりあえず右手の動作を確認しているとガタンと大き目の音が響き、そちらの方を向いた。

ガラス越しのPCルームには青花が腰を抜かした様子でコチラを見つめていた。

「あ……ヒイラギさん………目が……覚めたんですね……」

青花は涙を流し震えていた。目の下もクマが酷い、もしかしたら妾はずいぶんと心配を掛けてしまったのか?

当たり前か、今生きている事が自分で奇跡だと思えるほどの状況だったのだから。

「ああ……すまない、心配を掛けたようじゃな」

「心配なんてモノじゃないですよ…」

青花はふらりと立ち上がり、妾の肩を掴む。

「普段聞こえ無いような爆音がして、それで不安になって防衛用のパワースーツで急いで行ってみたら何ですかあの状況は!

あちらこちらに自動兵器が壊れてるし、やっと見つけたらアナタは全く動かないし大変だったんですよ!

修理をしても何時までも起きないし、私が何か間違ったんじゃ無いかと不安で不安でずっと眠れなくて………

それで………良かった……目を覚ましてくれて本当に良かった……」

妾を力強く抱き締めると、青花は良かった、良かったと言いながら泣き続けた。

「ありがとう」

それ以外に言葉は出なかった。そして自然に青花の後ろに手がまわっていた。

「うん」

青花は消え入りそうな声で答える。

暖かかった、胸元に落ちる青花の涙はただ暖かく感じた。

 

 青花が泣き止むまでしばらくの時間が必要だった。涙を止めた後は、一度顔を洗い少しリフレッシュしてから妾の現状について話始めた。

「とりあえず横になってていいよ、まだ立つのも辛いでしょ?」

「うむ、そうさせてもらおう」

言われるままにメンテナンス用のベッドの上に横になる。硬くて枕も無いので気の休まる物ではないが立っているよりは楽だった。

「ヒイラギさんの体の事なんだけど、今は大分動き難い感じだよね?

それについては申し訳ないけどエネルギーの出力を最低にさせてもらってるんだ」

「ああ、確かに動き難いのう。何故わざわざそんな設定にしたんじゃ?」

「内部機関が本当に酷い壊れ方してたんだ。代わりのパーツを探しても内部機関の予備パーツが全然見つからなくてびっくりしたよ。

それでしょうがないから壊れたのらきゃっとのパーツをツギハギして応急処置で作ったパイプでエネルギーを送ってるから最低限動ける設定にしてあるの」

「ほう。お主以外に器用なことやるものじゃな」

今更ながら体の中をいじくり回された事を理解して少し恥ずかしくなる。

青花によって作られたパーツで生かされているというのも妙な気持ちが湧いてくる。

「まあ、私一人でやったことじゃないけどね。ヒイラギさんのお父さん、クヌギさんに色々教えてもらえたから出来ただけだし」

「え?どうやって連絡を取ったんじゃ?」

「PCつけたらアッサリ出来たよ。そうだ!ダメでしょ、ちゃんとパスワード設定しておかないと!

今回は助かったけど、もしもって可能性だってあるんだからね!」

突然話は脇道にそれて何故だか叱られた、今度やっておくからと誤魔化して次の話に進める様に促す。

「もう、ちゃんとしてね。後もしもの事が有るかも知れないから私にも共有してね」

「そううるさくしなくても分かったのじゃ、決めたら伝えておくが悪用はするでないぞ」

「しないよ、そんな事。それで体の方は近い内に修理パーツ来るまでは無理は禁物だから休んでいて良いってさ。後は一番の問題なんだけど……」

青花が黙って手鏡を差し出すので受け取り、そこに写る自分の顔を見ると今までと明らかに違う点があった。

「探したんだ…探したんだけどやっぱ目の部品って繊細なせいなのかな?壊れたのらきゃっとの目はどれも濁ってて使えそうになかったの。

私もね、そんなに察しが悪い訳じゃないから状況を考えればすっごい悪趣味な事してるなって思った。だけどそれ以外には選択肢が無くて…」

赤い。右の目には今までの青い瞳ではなく、見慣れない赤く光る瞳が鏡に写った。

「殺し合いをした相手の目を入れるってどうかと思ったけど、

やっぱり出来るだけヒイラギさんには綺麗でいて欲しくて……嫌だったかな?」

「………有りじゃな」

「ですよね!しょうがなくって所はあったんですけど凄くカッコいいですよね!」

ふざけた事を言いながら二人で笑い合う。その後も青花はどう大変だったかを嬉しそうに語り続けた。

 

 一通り話終えると、青花は神妙な顔になりベッドの上に腰を掛けた。

「あのね、ヒイラギさん。私、貴方が目を覚ましたら絶対言おうって決めてたんです」

「どうしたんじゃ?何か問題でもあったのか?」

「問題というよりは私の気持ちの変化ですね。ヒイラギさん、私は貴方が絶対無敵の存在なんだって錯覚してたんです。

だからいつでもいい、そういう機会とか雰囲気とか……チャンスが来るまで待ってれば良いってそう思ってました」

青花は震える手を妾の手の上に乗せる。何も意識はしていなかったが自然とその手を握り返していた。

「だけどそうじゃなかった。貴方の時間が絶対に私よりも長い訳じゃないってわかった。だから、言うね……

ヒイラギさん、貴方の事を愛しています」

青花の震える手は妾の手を強く握る。だけど、それでも青花の手の震えは止まらない。

妾の位置からは青花の顔を伺う事も出来ない。青花の気持ちに答える事が出来ずに時間が過ぎて行く、何分?何秒?部屋の中に静けさがだけが響き渡る。

何と答えればいいのか?答えが見つからない。一度冷静に考えよう、妾が青花に望むモノ。それはどうすれば引き出されるのか。

落ち着こう、余計な思考は捨てろ。自分に素直になれば答えは簡単に見つかる筈だ。そう、最初から考える必要も無い単純な答えだ。

「妾も同じじゃ。愛しておるぞ、青花」

 

 長い時間、青花の唇が妾の口を塞いでいた気がする。

熱いという感覚と暴走する思考回路は意識を朦朧とさせて何がなんだか分からなくさせる。

「ヒイラギさん、なんだか冷たいですね」

妾の始めての口づけを奪っておいて第一声がそれはどうかと思う。

「元々高出力で動く前提じゃからな、出力を下げれば体温も下がるのは当然じゃ」

「そっか、それじゃあしょうがないですね」

ニコニコと微笑みながら、青花は妾を持ち上げた。

「とりあえず今日はもう眠りましょう。私も3日間全然眠れなくて疲れてるので」

「妾は3日も寝てたのか…それでなぜ妾を持ち上げるのじゃ?」

「冷たいですねえ、せっかく恋人になったんだから添い寝位良いじゃないですか」

「こ…恋人では……嫌、あのタイミングの告白はそうなるモノじゃな……言い訳は出来ぬか………」

頭の中の歯車がただ空回りする様な落ち着かない感覚と、元々動きが鈍くなってるのも有り抵抗出来ないまま青花のベッドへと運ばれていった。

 ベッドに運ばれると妾が逃げられない様になのか奥の方に寝かされた。

青花は布団に入ると妾を抱き寄せ、とても満足そうにしている。常に距離が近いのは気持ちが高揚しているからだと思いたい。

「ヒイラギさんひんやりしてて気持ち良い……」

「まだ言うか、まあそれは良い。青花よ、まだ起きていられるかのう?」

「んーー………無理………」

「その様子じゃ話し相手は難しそうじゃのう」

「ごめんね……明日起きたらゆっくりお話しましょう………」

青花あくび混じりにポツポツと喋るとそのまま安らかに眠りに落ちていった。

正直言えば目覚めたばかりで眠気は全然無いので少し困ってしまう。

何も考えずに天井でも見つめていればその内眠れるか、そう思っていると寝ぼけた青花がぎゅっと手に力を込めた。

「そう力を込めずとも逃げたりはしないぞ」

たしなめてみるが勿論反応は無い。しょうがないと思いそっとしておく事にした。

青花の暖かさが心地良い、そう思いながらボーッとしているとふと、思い出す。

「おやすみなさい」

軽く青花の額にキスをする。

前と違い、心が乱される様な事はなく自然な行動として出来た気がした。

行く当てなく迷うばかりだった気持ちを導いてもらったような、そんな事を考えている内にまぶたは自然に閉じていった。

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