マスターはサーヴァントの夢を見る。事実、私はカルデアのサーヴァントの事を夢に見た経験が何度もある。炎のように熱い氷の戦乙女、生まれてくることすらできなかった殺人鬼、愛する人を思うあまりに竜になった少女。英雄譚もホラーも悲劇も何でもありだった。
とはいえ、銀色の宇宙の中で言葉にできない恐怖を覚えながら、ほぼほぼ言葉にできない異形のもの…唯一分かるのが目の前のテーブルに座っている銀髪の少女一人だけ…に囲まれる夢というのは初めてだ。
「あら、マスター。ようこそ、私の夢にいらっしゃい。何も無いところだけれど、ここには何でもあるわ…。ああ、でも残念、マスターが来てくれるなんて思ってなかったの。散らかった世界でごめんなさい」
額に鍵穴のある、白い肌に銀の髪の少女が屈託のない笑みで迎えてくれる。リ。リ。という鳴き声を上げる不定形の何かが、椅子を用意してくれた。おぞましく、冒涜的で、それでもこの世界こそがアビゲイルの世界なのだと理解する。
視界の端々に見えるミミズのようなウナギのようなのたくっている何かとか、真っ黒い木のように見える蠢く何かは頭が理解することを拒否しているが。
「大丈夫よ、マスター。ここは夢の世界だもの、彼らに触れなければ、彼らを真に認識することにはならないわ。それとも、彼らに興味があるのかしら? 星を渡り世界を覗く覚悟は出来て?」
「あー…ううん、遠慮しとく。うん、私にはまだ難しいと思うから、それ」
そう、と、少し拗ねた顔で残念そうに呟く彼女は、きっと孤独なのだ。彼女の隣に、本当は居るべき人が居ない。ラヴィニア…セイレムでの出会いは胡蝶の夢のようなものだったが、出会いや記憶そのものが無くなったわけじゃない。
そして、彼女を死地に追いやり、アビゲイルを門へと覚醒させてしまったのは…。
「だけど、そうだね。世界が平和になったら、そういう世界を見るのもいいかもしれない」
「ん…。ふふふ、マスターって優しいのね。ますます、お父様に紹介したくなっちゃうわ。将来は、私のお嫁さんなんてどうかしら?」
テーブル越しに彼女の頬と頭をなでる。サラサラの冷たい銀髪を少しくしゃくしゃにすると、穏やかそうに、意地の悪そうないつもの笑顔を私に見せてくれる。彼女のお嫁さん、という言葉がよく分からないけれど、清姫や頼光さんみたいなものだろう。
困った顔を見せる私に、くすくすと口元を押さえながら笑う。少し意地悪で悪戯が好きで、普通の少女のようにしか見えないのに、ふと彼女の纏う雰囲気が少し歪なものになった気がした。
「うふふ、冗談よ、マスター。でも、せっかく来てくださったんだもの。何かおもてなしを…そうだ。この前、●●●●●●●●●から素敵なものを貰ったの。星から星へ●●●●の●●●●●……あら、検閲されているのかしら。無粋ね、夢なのに」
一部の言葉が全く聞き取れない。言葉そのものは耳に入るのに、全く頭に入らない。それよりも、素敵なもの、という言葉だけが頭の中に残った。私が何かを言う前に、彼女がテーブルの上を指で指し示す。
「金色の液体…?アビー、これがその…素敵なもの?」
夢の世界だから何でもありなのだろう。私の手元には、小さなガラスのコップとそこに注がれた黄金色の液体があった。
「ええ、そうよ。きっとマスターのお口にも合うと思うわ、どうぞ召し上がれ?」
「あ、ありがと。…ん、これ、蜂蜜? えっと、それじゃいただきます。美味し…いっ!?」
甘ったるくて優しい香りのする蜂蜜水だと思った。一口分の量しかなかったので、少しだけ口の中で味わって飲み込む。ちょっとアルコールのような香りはしたけど、夢の中だし、アビーが飲みたいと言っていたお酒でも混ざっているのかと思った。
「な…に、これっ。お酒、じゃないのっ。うぁっ…あぁっ、ぅぐうぅぅっ!?」
それが喉を通り、お腹の中に入った瞬間、体の感覚が揺らいだ。おかしい、おかしい、だって、私は英霊の毒も鬼の酒も通用しない…。だけど、あの黄金色の液体を飲み干した私の感覚は、夢を見ているとは思えないくらいに、鋭敏になっていく。
「っふぅっ…あ、は、ぁぁっ!! あ、アビー…、何を…したのっ」
自分の体が自分のものではない感覚に、肌が粟立つ。頭は酩酊しているくせに、体だけは無様に熱を灯されたようになった。呼吸は苦しいはずなのに、別になんとも無い気もする。
「何って、ただのお酒よ。マスターが、いけない子になるように、少し細工したけれど」
カチリ、と、鍵の回る音が背後から聞こえた。振り向いた私の目の前に黒い穴が開き、そこから、紫色の細い触手が溢れ出る。
何かを考える前に椅子から立ち上がろうとして、体が動かずにつんのめった。いつの間にか、私の足には太い触手が絡みついている。魔術の行使をと思った腕は、それを察したのか、細い触手が絡みついて指ごと後ろ手に縛られる。
声も出せない、あっという間の出来事に、目の前の白い少女は私を見て口元を愉しげにゆがめていた。
「逃げようとしても無駄よ、マスター。それとも、逃げられなくされる方が好きかしら?」
少女の額の鍵穴の中に、紫色の瞳が生まれる。瞬間、絡みついている全ての触手が、私の腕と足と指をあらぬ方向に曲げようと力を強めて…。
「ぅぎいぃぃっ!? や、やめてっ、アビー、逃げないっ、逃げないからぁっ!」
あられもない私の悲鳴に、けれど触手はその動きをぴたりと止めた。恐る恐るアビーを見ると、手のかかる妹でも見るような目つきで私を見ている。助かったことに、胸の奥からほっと息を吐き出した。
「そうね、それでいいの。やっぱり、座長さんは良い人ね…それじゃ、始めましょう?」
座長さん!?
しかし、その疑問はアビーの触手にカルデアの礼装はあっさりと引き裂かれたことで霧散した。胸も大事なところも丸見えになるように大股を広げた状態で椅子に座らせられ、手と足はがっちりと触手に縛り上げられている。
「あむ、んちゅっ…ちゅっ…んっ、れろっ、はむっ…じゅるるっ」
「ふぁっ…じゅるっ…ちゅっ、ちゅぅ…ふぅあぁぁっ!」
年端もいかない少女に脅され凌辱されているというのに、今の私はアビーの唇を夢中に貪っていた。薄い唇に冷たい肌、なのに彼女の唾液は甘く、一度その口の中に舌を這わせれば蕩けるような快楽が襲ってくる。
アビーの舌も私の舌に絡み合い、二人で唾液を口の端から零れさせながら、熱く甘いキスを続ける。
「ぷぁっ。驚いた…座長さん、接吻に慣れているのね。お相手は誰かしら。清姫さん? 肌の黒い暗殺者さん?…いいえ、やっぱり、マシュさんかしら?」
言葉に詰まる。私は、いわゆる同性愛者だ。それに、可愛らしい女の子なら、カルデアの子達は全員ストライクゾーンに入っている。それをマシュに相談した時に、ランスロットを見る目で最低ですと言われたのは割と効いた。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、アビーの指が少し蜜を垂らし始めた私のスリットをつーっと上下に撫でた。
「ふっ、うぁぁっ。ふああぁっ!!」
「もう、答えないマスターがいけないのよ。でも…私知っているの、マスターが、私のお尻やお胸を、ちらちら見ていることを…。ううん、私だけじゃないわ、霧の暗殺者さんや絵本のサーヴァントさんにも…」
「や、やめて、アビー…いひいぃぃっ!! ゆ、指入れないでぇぇっ」
性癖の暴露が恥ずかしくて、制止しようと口を開いた途端、くちり、と、アビーの指が私の秘所にねじ込まれた。そのまま、ぐにぐにと膣の中をこね回される。
「んああぁぁっ! やらっ、壊れるっ。私の、そこ、壊れるうぅぅっ!」
さっき飲んだ蜂蜜のお酒の影響で、鋭敏になりすぎた体は、少女の指にされるがままに、蜜を垂れ流し、潮か何か分からないものを漏らしながら踊らされる。
「嘘。これくらいじゃ、気も狂わないし、壊れたりしないわ。本当に壊れるって…例えば、これくらいのことかしら?」
カチリ、と、鍵の音がする。その瞬間、私のお尻の窄まりに、何か滑るようなものが触れて…それが、一気にその窄まりに進入し、排出するはずの孔から逆流したのだ。
「んおおぉっ!? お、お尻の孔あぁぁっ!?」
「あはは、座長さんったらケダモノみたい。いいえ、私たちのような女の子に欲情する変態さんだもの、ケダモノで間違いないわ」
「待って、待っで。アビー、これ、抜いてぇぇっ! お尻、お尻おかしくなっちゃううぅっ!」
それは哀願だった。お尻の孔にねじ込まれたモノは、私の直腸を舐るようにこすり上げながら蠕動しているのだ。前はアビーの指で、膣の中をこれまた肉をほぐすように丁寧に撫でられている。
一擦り、一撫で、それだけで頭の奥にバチバチと電気ショックを受けたような快楽が走り抜ける。腰を前に突き出すように、アビー目掛けて愛液を吹き出しながら、私は狂ったように腰を振っていた。
「いっぱい、おかしくなってくださいな」
「んひゅひいぃぃっ。ふあっ、ふあああぁっ、お、おかしくなりゅっ。お、お尻も、お、おまんこも舐められてるぅぅっ!? にゅるにゅるって、ぺろぺろってえぇぇっ!」
アビーの責め方が変わった。お尻に入り込んでいたものも、アビーの指も、私の中身を舐め上げるように犯し始めている。体内を直接舐め上げられる、そんな怖気の走る感覚さえも、全て頭の奥を狂わせる快楽に変換してしまう。
口から漏れ出ている言葉も、普段出るはずのない酷い言葉だ。
「ほら、マスター。理性の無くなった頭で、真っ当じゃない思考で、俯瞰した霊基で、どうか果てを見てくださいな。マスターなら、●●●●●●●を、ほんの少し垣間見るくらいなら、きっと、きっと耐えられるはず」
「いやっ、いやあああっ。怖いっ、怖いのっ、んぐぅいぃぃっ、いぐっ、いぐううぅぅっ!!」
銀色の闇の世界に満ちたアビーの世界の向こう側、目を見開きながら中身を犯しつくされる私が、何者かに覗かれている気がした。いや、覗かれてなんていない、ソレは、ずっとここにいた。ここにいて、私が認識できていなかっただけだ。
だって、それは、ああ、それは、全ての、闇の、闇から、生まれ。
『まぁ……。マスター、その先は見てはならぬもの。何より、そろそろお目覚めの時にございます。さあ、つまらぬ夢より、解脱なさいませ?』
「先」を見ようとした私の目は、慈母のように優しい手でふさがれる。嫉妬と愛欲の混ざった背筋の凍るような邪悪な呼び声とともに、首根っこを掴まれて、一気に意識を浮上させられ、銀色と闇色の世界が遠ざかる。見えない筈なのに、どうしてかアビーが驚いた顔で私を見つめているのが分かった。そして、そのアビーの隣には、隣には……。
「わあああああぁっっ!!」
悲鳴とともに目が覚めた。場所はカルデアのマイルーム。
「せ、先輩。ああ、良かった、酷くうなされていましたが…大丈夫ですか?」
「あ、う、うん。私は大丈夫…大丈夫、だけど……」
酷い夢を見た気がした。人が見てはいけない夢、それも、この世界に住む人は接することすらできないような、そんな夢を見ていた気がした。
心配そうなマシュに、思わず手を伸ばそうとして…自分の股間が、何やら冷たいことに気づいた。まさか…漏らした?
「先輩?」
シーツをそっとめくりあげると、ああ、うん。やっちゃってる。子供みたいに、シーツの上に派手に世界地図を描きあげていた。人理修復の旅を続けて、ときどきこうなることはあったけど、本当に久々だ。
「マシュ、あの、あのね、すっごく恥ずかしい話なんだけど…その、バスタオルか何か持ってきてくれないかな!?」
私の言葉で、何かを察したマシュが顔を真っ赤にしてルームから出て行った。ああ、もう、人生の中でも本当に最低の目覚めだ。こんなんじゃ、●●●に嫌われてしまう。
…あれ、●●●って何だったっけ。それを思い出そうとした時、部屋の隅から何かが私を見つめているような気がして、ぶるりと体が震える。
「…もう、本当に、何だって言うのよ」
訳の分からない夢を見て、訳の分からないものを怖がって、亜種特異点を修復した私は、少し疲れているようだ。リ。リ。なんて、耳鳴りもするし、鏡に映った私の瞳は充血して真っ赤になっている。
バスタオルを持ってやってきたマシュと一緒に、部屋の電気を消してマイルームから出る。早く、シャワーを浴びて服を着替えたかった。
だから、その直前、真っ暗で無人の筈の部屋の隅で、炎のように嗤う闇が見えたって、それも全部、疲れからきている幻覚に違いないのだ。