建物が倒壊し、人気の無い炎に包まれた街で少年は祈る。
金払いが良いと応募したバイトでまさか命の危機を感じるだなんて。
街を覆う熱で汗がダラダラと流れ、服は既にぐっしょりと重い。そんな事すらも気付かず、彼は最後に残された希望とばかりに絶望の顔を隠しもせずに祈る。
急遽敷かれた魔法陣。過去の英霊を召喚させるのに使う簡易魔法陣だ。本来ならばもっと厳重な管理された場で行うのが正しいのだが、現状はそんな余裕がない。
偶然手に入れた召喚石と呼ばれる魔力の塊。それらを手に魔法陣に対しあってないような自身の魔力を送る。
魔法陣がぐるぐると光を放ち始める。最初は目で見ていることが出来たが、次第に光は強くなり目を瞑るしかなかった。
光が治まり魔法陣の中心に人型の影が残る。背丈は小さく自分と比べたら頭一つ分はあるのだろうか。
しかし侮ってはならない。何故ならこの召喚で現れたのは英霊。英霊に値する過去を持つ者だ。
只の一般人でしかない自分とは比べる事すらも烏滸がましい。
「へぇ、私を召喚したのか司馬仲達参上……いや、私はライネス・エルメロイ・アーチゾルテの擬似サーヴァントなんだけどね?あぁ、安心してくれ力は引き継いでいるからさ。司馬懿でも仲達でもライネスでも好きに呼んでくれたたまえ我がマスター?」
「えっ?あ、いや疑似サーヴァントって……あなたサーヴァントの偽物?」
「そこからか……いや、状況を見るに仕方がないのか?まぁいい、説明をしてあげよう。サーヴァントは英霊と呼ばれる者と使い魔し使役すること。英霊にも格という物が存在する。簡単に言えば強い奴もいれば弱い奴もいるって事かな。力が弱かったり、召喚で顕現する程の魔力を得られなかったなど様々な理由で召喚に応じる者もいるんだ。私もその一人でライネスという身体に司馬懿殿が入ったといえば分かるだろうか。まぁ、私自身は英霊ではないが司馬懿殿は英霊だから疑似サーヴァントというわけさ」
混乱のあまり失礼なことを口走ってしまった。それでも教えてくれた辺り彼女はライネスさんは善良な方なのだろうか。
「じゃ、じゃあライネスさんとお呼びしても?俺の記憶が正しければアーチボルトって……」
「ああ、キミは知っているのかな?アーチボルト家は現在進行形没落さ。それに私の事はライネスと呼び捨てで構わないよ。疑似とは言えサーヴァント。マスターであるキミが遜る必要はない」
カルデアに採用されてからは知識を埋める日々を送った。
一般応募枠で合格した者のうち俺が一番知識が足りてないと理解し、カルデア内に存在する書庫で知識を詰め込んでいた。
その知識が正しければアーチボルト家は時計塔のロードの1人ケイネス・エルメロイ・アーチボルトを輩出した栄誉ある家だ。
だが彼女は現在進行形で没落と言った。嘘をいう訳はないだろうし、必要もない。となるとこの違いは一体?
「えっとライネス。俺の記憶が正しければアートボルト家は没落どころか今が最も輝いているんじゃあないのかな」
「えっ?いや、そんな筈は……あぁそうか。キミは並行世界というものを知っているかな?こことは違う世界。つまりだ。私はこの世界のライネスとは違い、並行世界を送っていたライネスという事だ。だからアーチボルト家も没落していないと。中々に皮肉な事だ。疑似サーヴァントとして呼ばれたと思ったら家は没落してないと来た」
「並行世界……ま、まぁ英霊なんてものを呼べるんだから不思議じゃあないのか……ってそれよりもライネスは戦えるってことで良い?」
「勿論さ!ライネスとしての私は戦いは苦手だが、司馬懿殿と融合している今なら戦えるよ」
「じゃあお願いだ。俺たちを助けてくれ」
「あぁ任せたまえ。キミのサーヴァントとして華々しく……は分からないけど全力を尽くそうじゃないか」
☆☆☆
「懐かしい夢だ……あの頃の俺は未熟も過ぎたものだったなぁ」
眠っていた体を起こし、呟く。夢の出来事をはっきりと思い出せるのは彼女との繋がりだろう。
隣で寝息を立てる少女を見る。普段の勝気な瞳は閉じられており、年相応の寝顔を見せてくれる。
金色の輝くような髪がベッドに広がっている。手で触れると指の間からスルりと抜けていく。彼女の髪を何度も櫛を通してきたが、何時触っても肌触りが良い。
疑似サーヴァント故、他のサーヴァント達と異なり彼女は睡眠や食事と言った人間らしい欲求に労力を割かなければならない。
最近になって一緒に眠ることが多くなった。付き合い始めた頃は別々に過ごしていたが、甘えていいと言われてからは俺の方が我慢できなくなった。
彼女を誘い添い寝をしてもらっているうちに彼女も一緒に眠れば良いと判断し、今では同じベッドで眠る。
「んっ……朝なのか?」
「起こしちゃった?ごめんね」
「んーん、構わないよ。必要最低限の睡眠さえ取れれば良いのだからね。結構便利なのだよこの身体」
「ははっ、確かに便利そうだ」
寝起きで瞼がうっすらと開いている。
うっすらと開いている瞼からは彼女の透き通るような青い瞳が見える。純度の高い水晶のような瞳は見ていて楽しい。
「起こした罰だ。私はキスを所望しよう。しないと起きないからね」
「ん、任された」
唇をくっ付け合う。
何度もしているのに慣れず照れ臭くなってしまう。彼女も俺と同じように頬を赤らめている。
お互い起きたばかりで潤いが足りず少し乾燥した唇。唇に潤いを与えるかのように舌を絡め唾液で口元をベタベタに汚す。
「れろっ♡んっ♡れろれろ♡んー……ぷはっ」
「どう?起きる気になった」
「それは勿論。好きな人に一番にキスされたら機嫌が良くなるよ。今日の予定って何かあったかな」
「まだ新しい特異点も見つかっていないから俺は書庫で勉強しようかなと」
「そっか……じゃあ私もそれに付き合おう。英霊たちの対策を考えるに軍師は必要だろう?」
「それは心強い。うちには軍師が沢山いるからね。作戦を立てる俺としては助かるよ」
ライネスと融合している司馬懿をはじめ、軍師レベルの知能を持つ英霊が沢山カルデアには居る。
彼女の義兄であるエルメロイ二世も孔明と融合している疑似サーヴァントだし、彼が王と仰ぐイスカンダルも知略に長けている。
偉大な英霊と話せる機会は凡人な俺ながらも楽しく、知識が深まる喜びを感じる。カルデアに入る前は勉強が嫌いだったのに今となってはそれも昔。
生きるためとはいえ勉強で頭を働かせるのが楽しくなっている自分が面白いのだ。ライネスはこれを未知の体験と称するがその通りだ。
未知とは怖いながらも楽しい。触れる前はどんなものだと想像のあまり恐怖するが、触れてしまえば既知になる。
「じゃあ私は着替えるからキミは先に向かっておいてくれ」
「ああ、じゃあ後で」
彼女を自室に残し部屋を後にする。
カルデアには似たような扉が多い。防犯対策になるのだろうが、中で暮らすには大変だ。
最初のうちは何度も部屋を間違え怒られた。今ではすべて把握しているものの、階層を間違えることがある。
どんな奴が作ったのか顔が見てみたいものだ。
幾つもの階段を上り、部屋を潜った先に書庫がある。書庫の中は本棚でいっぱいだ。
カルデアを創設したアニムスフィア家の叡智が詰まっている。此処に置いてある本の多くは過去の英霊たちに関する本だ。
おかげで特異点の際に敵性サーヴァントに対する作戦を練ることが出来る。勿論、全ての英霊を網羅しているわけじゃないし覚えきれるほど俺の頭は良くない。それでも、生き残るためには必要な事だ。
入り口付近の本は読み終えているので、奥にある別の小部屋に入る。カルデアの書庫は数個の小部屋が連なって構成されている。
上から見ると卍型のようになっているとダヴィンチちゃんが言っていた。
「さて、今日は……この本にするか」
適当に目についた本を手に取る。最初こそ背表紙にあるタイトルで選んでいたが、浅く広く知識を深めるには適当の方が合う。
書庫に設置されている椅子に座ると読み始める。結構分厚い本なので時間がかかりそうだ。
どれ程の間読んでいたのか気が付いたら目の前にライネスがニコニコと俺を見つめていた。
「ら、ライネス!?来たなら声を掛けてくれよ」
「キミの真剣に読んでいる顔に夢中になっちゃってね。指示を出している時みたいでカッコ良かったよ。生き残ってやるってキミの意志を感じられて」
「そ、そう?ライネスに言われるなら嬉しいけどさ」
「キミって本を読むのって早いよね?速読っていうのかな。でも内容もちゃんと覚えている。私好みで授業をするのも楽でいいもんだ」
「んー、昔から本は読んでたからな。漫画や小説など雑多にわたるけど」
「結果として速読が見に付いたなら過程はいいのさ。勿論過程が必要な場面もあるがね」
用意しておいた紙とペンに今読んでいた本の内容を纏めていく。
もしこの本の登場人物と出会った場合の作戦等をつらつらと書き、ライネスに訂正や意見などを貰う。
このような事をもう半年も彼女としている。ライネスが忙しい時は違う人に頼んでいるが、大抵の場合はライネスだ。
そも、他の人に頼んだ時は何時もの嬢ちゃんには振られたのかと笑われることが多いけど。
「うん、これほど練っておけばイザってときも何とかなりそうだね。その時の戦力によって細かいところは変わるだろうけど大枠はこれで良いと思うよ」
「うーん、でもこれだけでいいのかな。いや、俺って魔力回路とか少ないじゃん?おかげで練れる作戦も少ないし」
「弟子であるキミは何か勘違いをしていないか?」
「勘違い?少なくとも客観的に自分の事を見れてると思うけど」
「あのさ、私たちサーヴァントが何のためにいるのさ。普通の聖杯戦争なら足りないかもしれないが、多くの味方を持つキミはこれぐらいでいいのさ。準備は大事だが、私たちをもう少し信頼してくれてもいいんじゃないかな。これでも英霊だよ?無理はこなしてきたんだから」
「……そっか。信頼しないってのも失礼だもんな。俺なりに信頼してたんだけどもう少し上げたほうが良いのか」
「そうそう。皆キミの事を心配しているのさ。もっと私たちを頼ってもいいのにと結構な人が言ってるのを聞くよ」
「うぐっ……」
戦闘時に一緒に戦えない俺としては戦闘に頼ってるだけでも結構な部分だと思っていたんだが。
それに人類の最後の希望は俺なんだから俺が頑張らない取って肩肘を張りすぎていたのか。流石は英霊だよく見ている。
「だ・か・らほら私に甘えたまえ」
抱き着けと言わんばかりに腕を広げる。
俺が抱き着くのを確信しているのか表情は笑顔を浮かべている。
「しょ、書庫にも人は来るんだぞ?」
「滅多に来ないから大丈夫さ。ほら、私の胸においで」
「う……うぐぐ、分かりました」
観念して彼女の胸に顔を埋める。小さいながらも柔らかい感触が頬に伝わる。
それに温かい彼女の身体は俺に安心感をくれる。人肌がいかに大事か分かる瞬間だ。
「よしよし、キミが頑張り屋なのは知っているがもう少しはゆっくりしたまえ。確かに危険な旅路だが、休めるときに体を休めとかないと、イザって時に動けないからね」
「……うん。あのさ、ライネス」
「ん?どうしたんだい」
「ちょっと眠ってもいいかな。寝たけど勉強して疲れちゃったみたい」
「いいよ。子守唄の代わりに頭を撫でていてあげる。ゆっくりと休みなさい」
母親に甘える子供のように俺は彼女の胸で目を閉じた。
視覚情報がない代わりに聴覚では彼女の息を吸う音や心臓の鼓動、嗅覚では彼女の柑橘系に似た爽やかながらも甘い匂い。
触覚を通して柔らかく温かい身体を通して熱が伝わる。
疲れた頭らしく簡単に意識が沈んでいくのを感じる。
「ゆっくり休みたまえ。キミが頑張っているのは師である私が一番理解しているつもりさ。だからこそ心配なんだキミが限界という壁にぶつかった時が。だからゆっくりと進もう。壁なんてなくして……ね」
まさかの日間5位に驚きました。皆ライネスちゃん好きなのね。
それとお気に入り100人越えにも驚きました。2話しか投稿してない作品にそれだけの人が登録してくれたと思うと感激です。
本編で書いたカルデアの構造とかは独自設定の適当設定なので許してください。