その日の夜、野宿をすることになった一行は、荒野の一ヶ所で焚き火を囲んでいた。
すると、弓の手入れが終わった上妖精が
「そういえば、皆はなんで冒険者になったのかしら?」
と問い掛けた。全員が視線を向けると、上妖精は
「少し気になったのよ」
と言った。どうやら、好奇心からのようだ。
すると、神官娘が最初に
「私は、その……少しでも、地母神樣の教えを広げられたら、と」
と教えた。どうやら、自身が崇める宗教を広めたいかららしい。それに続いて
「私は、自分の拳が何処まで通じるのかが、知りたかったからです」
と格闘家娘が告げた。ある意味、格闘家らしい考えだ。それに続くように、魔術使い娘が
「私は……弟に研究所以外の道を示したかったからよ……主に、龍退治とかでね」
と言った。
「弟さんが居らっしゃるんですか?」
「ええ。今は、学院に居るわ」
「その弟も、魔術を使うのね」
どうやら、姉弟揃って魔術使いらしい。話から察するに、弟は研究所に行くのを目的にしているようだ。
「……俺は、戦場育ちでな……散々人を斬ってきたから、今度は助けられる命は助けたい……そう思っただけだ」
「戦場育ちとな」
剣舞士の話を聞いて、全員の視線が剣舞士に集まった。すると、剣舞士は
「物心着いた頃から、刀を振るっていてな……戦場を駆け抜けてきた……」
と語った。
「あの、ご両親は……」
「……聞いた話では、戦場で死んだらしい……ある宗教が原因で始まった戦争……その戦争でな」
「宗教が原因の戦争……」
格闘家娘の問い掛けに答えると、神官娘が神妙そうな表情を浮かべた。
やはり、神官なだけあって、思うことがあったのだろう。
「……君が気にする必要は無い……そいつらがトチ狂ってただけだ……自分達が崇める神以外は認めず、他の神々を崇めた者は異端者として、圧倒的武力で弾圧する……そんなことを繰り返し……幾つもの街を地図から消した……街に居た人々は異端審問と称して惨殺か、運良くて奴隷として扱われた……」
「何よ、それ……」
剣舞士の話を聞いて、上妖精は怒りと困惑が入り交じった表情を浮かべた。
理解出来ない、といったところか。
「しかし、そんなことをしていれば、反発が起こるは必至……ある時、聖なる者への刃。という組織が立ち上がり、その宗教への反抗戦争が勃発……100年近くの歳月を掛けて、戦争は終結。俺達の代で、その宗教の大司教が討たれた……その後俺は、一人で旅をしていた訳だ……」
「その年で御主……とんでもない修羅場を乗り越えておったな……」
「然り……あの動きも、納得ですな」
剣舞士の話を聞いて、鉱人術士は驚き、蜥蜴人僧侶は納得していた。実は現在地に来る途中で、はぐれらしい熊型モンスター。バグベアーと遭遇したのだが、それを剣舞士が一太刀で切り捨てたのだ。(そのバグベアーは、食糧になりました)
「それで、貴方方は?」
「ワシは世界中の旨い物を知るためじゃ!」
「拙僧は、功徳を積んで位階を高めて、大いなる龍へといたるため」
剣舞士の問い掛けに、鉱人術士は酒を飲みながら、蜥蜴人僧侶は両手を合わせながら答えた。
鉱人術士は予想通りだが、蜥蜴人僧侶は特殊だが、種族としての夢を語った。
蜥蜴人は、遥か昔は龍だったとされている種族で、それに成ることを目指しているという。
「私は、外の世界を知るためよ! 心踊るじゃない!」
好奇心が強いらしく、上妖精は目を輝かせながら語った。上妖精の種族は、おおよそが二種に大分される。種族の領地から出ないで長い生涯を終えるか、外に出るか。彼女はどうやら、後者のようだった。
「俺は……」
「あ、あんたは予想着くから、いいわ」
「おめえ……自分から言っといて、それはねぇじゃろ……」
ゴブリンスレイヤーが言おうとしたが、それを上妖精が被せ気味に制止し、鉱人術士が半目で睨んだ。
確かに予想着くだろうが、あんまりである。
その後も、様々な話をしていた。
そんな中、ある話題が出た。それは、何故ゴブリンが居なくならないのか。
様々な通説が交わされたが、ゴブリンスレイヤーが
「俺は……あの月から来ると聞いた……緑色のほうだ」
と言いながら、満天の夜空を見上げた。その遥か頭上には、赤と緑に輝く二つの月があった。
「月から……ですか?」
「ああ……緑色の月は物が乏しく、生活するのも苦慮する……だから、物が欲しくなり、ゴブリンになってしまう……姉さんは、そう言っていた……」
「お姉さんが居るの?」
「ああ……居た……」
魔術使い娘の問い掛けに、ゴブリンスレイヤーは短く答えながら頷いた。
(過去形……か)
剣舞士はその過去形から、ゴブリンスレイヤーの復讐心の理由に行き着いた。
その時、顔を少し赤くした上妖精が
「というか、あんたも何か出しなさいよー!」
と絡んできた。どうやら、酒で酔っているようだ。
食事が終わり、鉱人術士が持っていた酒で軽く乾杯したのだが、かなり度数が強い火酒だった。
「おーおー……目が座っておるわ……」
「ゴブリンスレイヤーさん、何やら考えてますね……」
「よく分かるわね……」
「まだよく分からないわ……」
と鉱人術士、神官娘、格闘家娘、魔術使い娘が会話していると、ゴブリンスレイヤーは雑嚢から一つの包みを取り出して
「これで、どうだ……」
と開いた。中から出てきたのは、チーズだった。
「これは、なんですかな?」
と首を傾げたのは、蜥蜴人僧侶だ。すると、鉱人術士が
「なんじゃ、鱗の。御主、チーズを知らんのか?」
と驚いた表情で問い掛けた。
「拙僧らにとって、獣は狩るもの……育むという考えは無い故」
「貸してー! 切ってあげる!」
上妖精はそう言いながら、黒曜石のナイフを抜いた。その後、上妖精によってチーズは一口サイズに切られて、用意してあった鉄串に刺して、焚き火にかざした。
熱で溶けたチーズを、蜥蜴人僧侶が一口で食べた。その数秒後、目をカッと見開いて
「甘露! 甘露!!」
と歓喜の声を挙げた。どうやら、お気に召したようだ。
「んー……美味しい!」
「本当。凄い美味しいわ」
「まるで、よく熟れたバナナみたいね!」
「これ、あの牧場で作られたんですか?」
「ああ……」
格闘家娘、魔術使い娘、上妖精の三人はその美味しさに驚き、神官娘の問い掛けに、ゴブリンスレイヤーは短く答えた。
「丁寧に育てられた牛に、丁寧に作られているんだな……まさに、職人技だ」
と言ったのは、焼いたチーズを一口食べた剣舞士である。その後、持ち回りで夜間警戒の順番を決めて、この日は終わった。
その翌日の夕方、一行は目的地たる遺跡近くに到着。
いよいよ、冒険の幕が開く。