剣舞士も、その可能性を考慮していなかった。
それは、剣聖となった者の絵が流派の道場に飾られている事だった。
買い物から帰った白髪剣姫を見た剣聖が
「そのお姿……! 間違いない……十の流派の皆伝を成し遂げられた偉大なる白髪剣姫様……!?」
「しまった……」
なるべく白髪剣姫の事を隠しておきたかった剣舞士は、頭を抱えた。
もしかしたら、王城に隠れている邪神崇拝者に露見するかもしれないからだ。
「安心してほしい……私は口は硬いほうだ。彼女の事は秘匿する事を約束する」
「心配なのは、勇者」
「えー!? なんでー!?」
「貴女、喋るの好きじゃないですか」
剣聖と賢者の二人から、白い目で見られる勇者。
恐らくだが、それで失敗したのかもしれない。
「しかし、まさか白髪剣姫様が……」
「……詳しく話すと、あるエルフの隠れ里の近くにあった遺跡に、リッチが居てな……相性の悪さ故か捕まり、二千年近く使役されていたんだ……リッチからは解放したが、自身の体に魂を縛られ過ぎたのか魂は浄化されず、俺が持っていた聖遺物で肉体が再生されたらしい……喋れないのは、二千年近く骨で居たからだろうと予想している」
「なるほど……」
「聖遺物?」
「指輪だ。今は無いようだがな」
賢者の問い掛けに、剣舞士は白髪剣姫の指を見ながら答えた。白髪剣姫の肉体を再構成した直後には、聖遺物の指輪は無くなっていた。
「奇跡の効果は、恐らく魂の情報を読み取り物質化する、というところだろう……」
「……大魔法に匹敵する……私でも無理……」
剣舞士の推測に、賢者は首を振った。
「だからこそ、聖遺物と呼ばれたんだろうな……」
「確かに」
剣舞士の言葉に、剣聖が頷いた。
その後、追加で買い物を手早く済ませると、夕食の準備を始めた。
「しかし、なぜ次元の狭間を通ろうと考えたんだ?」
「ボク達、火山に居た邪神崇拝者と魔物達を殲滅する役目を終わらせたんだけど、そこから人里まで2週間近く掛かるんだ。だったら、次元を斬って狭間を通れば時間を短縮出来るかな、って考えたんだ!」
どうやら、勇者の咄嗟の思い付きからのようだ。
「しかし、中々狭間から戻れなくなり、気付けば西の街だったわけだがな」
「そもそも、思い付きでやる事じゃない」
「あ痛」
どうやら、彼女達も苦労したらしい。
賢者が杖で軽く、勇者の頭を叩いた。
「ご飯出来ましたよー!」
「座ってくださーい!」
監査嬢と見習い少女の言葉に、ソファーに座って話していた一同はは、机に向かった。
食後、お風呂を貸して、剣舞士は一人部屋で窓から空を見ていた。
「……約十年か……刀を振って、魔法を使って……殺し合いをし続けて……」
そう言いながら、一口お茶を飲んだが
「……血の味しか、感じないな……」
小さく呟いた。
余りにも、戦って血に塗れすぎた。殺人鬼には成らなかったが、もう血の匂いと血の味しか感じられないようになっていた。
これはある意味、剣士の行く末の一つだろう。
そう考えながら、剣舞士はまたお茶を一口飲んだ。
ふと気付けば、部屋の入り口に白髪剣姫と剣聖の二人の姿が有った。
「どうした?」
「風呂が空いたから、報せに来た」
「そうか、分かった」
剣聖の言葉を聞いた剣舞士は、残っていたお茶を飲み干すと机に置いて、立ち上がった。
すると剣聖が
「一つ聞きたい……貴殿は、何人斬った?」
「さてね……詳しくは数えていないが……万は斬ったと思うぞ」
剣聖からの問い掛けに答えながら、剣舞士は部屋から出た。