街を出て、数日後。一行は件の遺跡に到着した。
そして、それなりに離れた場所から見ていたのだが
「……狼を飼っているか」
「それなりに、余裕がある群れのようだな」
その遺跡の入り口に、ゴブリンが狼と一緒に見張りに立っていた。狼を飼っているのは、そのゴブリンの群れが余裕を持っている証拠で、余裕が無ければ、餌になる。
「私に任せて」
上妖精はそう言うと、無造作に弓を射ったのだが
「どこを狙っておるんじゃ!」
彼女が放った矢は、てんで違う方向に飛んでいっている。しかし、上妖精は慌てずに第二射を放った。その矢は、真っ直ぐに飛んでいき、最初に放った矢とほぼ同時に狼の頭に命中。一射目の矢は、見張りに立っていた二体のゴブリンの頭を射抜いた。
それを確認した上妖精は、自信満々と言った風体で
「熟達した弓はね、魔法と見分けが出来ないのよ」
「それを、ワシの前で言うか……」
倒したの以外に見張りが居ないか確認しつつ、一行は遺跡の入り口に近づいた。そして居ないのを確認すると、突如ゴブリンスレイヤーがゴブリンの死体に刃を突き立てた。
「ちょっ!? 何してんのよ!?」
それを見た上妖精が慌てていると、ゴブリンスレイヤーはゴブリンの内臓を布で絞りながら
「奴等は、匂いに敏感だ……特に、エルフの匂いにはな」
と告げて、布を持ちながら、上妖精に迫った。
「嘘……ちょっ。辞めてよ!? 誰か、こいつ止めて!?」
ゴブリンスレイヤーが何をしようとしているのかを察し、上妖精は神官娘達に助けを求めた。しかし、三人娘達は
「慣れますよ」
「慣れるわ」
「慣れます」
死んだ目をしながら、それだけ告げた。なお、三人娘は既に一度経験しており、それ以来匂い消し用の匂い袋を身に着けている。
そして上妖精は、ゴブリンスレイヤーを止められないと悟り、頬をひくつかせた。
その数秒後、声なき悲鳴が上がった。
そして、中に突入。ゴブリンスレイヤーと剣舞士はそれぞれ剣と鞘で床や壁を軽く叩きながら進んでいた。
「ふむ……この遺跡……どうやら、古い城塞のようですな……」
と呟いたのは、蜥蜴人僧侶だった。
「そうなんですか?」
「以前に行った古城塞で、似たような壁画を見た……恐らくは、最低でも数百年前の城塞であろう……それが今や、ゴブリン達の巣……時は残酷なものだ……」
神官娘の問い掛けに、蜥蜴人僧侶は壁の絵を見ながら教え、最後に両手を合わせた。すると、鉱人術士が
「残酷といやぁ……」
と後ろを見た。その先には
「うぅ……気持ち悪いよぉ……」
ゴブリンの血に濡れた上妖精が、複雑な表情を浮かべていた。
「お湯で踏み洗いすれば、匂いは落ちますから……」
「まあ、根気よく洗うしかないけれど……」
既に一度経験した三人娘は、何処か遠い目をしている。そんな三人娘の横を通り過ぎて、上妖精は
「後で覚えてなさいよ!」
とゴブリンスレイヤーに告げて、前に出た。
彼女は弓師だが、野伏の役割もこなすのだ。
「……覚えておこう」
本当に覚えておくだけになりそうだが、ゴブリンスレイヤーは返答した。その直後
「全員、ストップ」
と告げると同時に、上妖精は少しも先の床をジッと見つめている。よく見れば、石畳が少し新しい。
「鳴子か……?」
「多分……罠は専門外だから、確約出来ないけど……」
ゴブリンスレイヤーの問い掛けに、上妖精は優しく石畳を触りながら答えた。そこに、剣舞士が歩み寄ってから、周囲の壁や天井を軽く見回して
「……いや、鳴子ではないな……恐らく、矢だろう」
と言って、壁の一ヶ所を指差した。よく見れば、そこには薄く小さい穴がある。
「多分、矢も毒が塗られた物だろう……踏まないように、目印を書いておく」
剣舞士はそう言って、床に落ちていた焼けた枝の先端で、その石畳に円を書いた。それを見ながら、ゴブリンスレイヤーが
「……気に入らないな……」
と呟いた。
「どうしたんですか、ゴブリンスレイヤーさん?」
「入り口や途中に、トーテムが無かった……」
ゴブリンスレイヤーのその言葉に、三人娘はあっと声を漏らした。その意味が分からず、上妖精が
「どういうことよ」
とゴブリンスレイヤーに問い掛けた。
「奴等に、ゴブリンシャーマンが居ない……」
「あら、術使いが居ないなら楽じゃない」
「いえ、むしろ居ないのがおかしいんです……」
「狼の調教もだけど、罠の設置まで……」
「知識層に当たるシャーマンが居ないのにね……」
上妖精の言葉に、三人娘はそう教えた。
上妖精を含めた三人は、確かにゴブリンスレイヤーと同じ銀等級だ。しかし、ゴブリンに関する知識はゴブリンスレイヤーが群を抜いて有している。
「ゴブリンは基本、略奪種族……確かに毒や石を使った武器等の製作はするが、基本は何処かから奪うのが習性……そのゴブリンが、シャーマンが居ないのに罠を設置したりするとなると……」
「より上位の個体が居る……ということですかな?」
蜥蜴人僧侶の言葉に、ゴブリンスレイヤーは無言で頷いた。
そして一行は更に奥に進み、ある程度すると、別れ道に出た。
「……」
「ワシに任せろ」
ゴブリンスレイヤーが無言で左右を見ていると、鉱人術士がそう言って床を少し触り
「ふむ……奴等は、左から来ているようじゃな」
と告げた。
「なんで分かるのよ」
「石畳のスリ減り具合じゃよ……連中はどうやら、この入り口と左をしょっちゅう行き来しているようじゃな……少数が、この右に行っているようじゃが……」
上妖精の問い掛けに鉱人術士が答えていると、ゴブリンスレイヤーが剣を抜いて
「右に行くぞ」
と告げた。
「なんでよ、ゴブリンは左に居るんでしょ?」
「恐らくな……だが、間に合わなくなる」
上妖精は抗議するが、ゴブリンスレイヤーは強い語気で告げて歩き始めた。
その後を、他のメンバーも着いていった。この先で見るのを、知らぬまま。