ゴブリンスレイヤーに促されて、一行は右に進んでいた。ある程度進むと、異様な臭いが鼻に突いた。
「むっ!?」
「これは……!?」
その先にあるのは、ボロボロの木製のドア。
「鼻で呼吸しろ。すぐに慣れる」
ゴブリンスレイヤーはそう言うと、そのドアを蹴り破った。そうして見えたのは、骨や腐敗した物が適当に突っ込まれた樽やらが置かれた部屋だった。
「なんじゃい、ここは……」
「ゴブリン共の汚物部屋だ」
「汚物!?」
鉱人術士の問い掛けにゴブリンスレイヤーが答えると、上妖精弓使いは驚いた。なぜ、そんな場所に来たのか、と。すると剣舞士が奥の方を松明で照らした。そこには、全裸で両手を拘束されて、左半身が痛々しい怪我だらけの妖精が居た。よく見れば、まだ胸元が動いている。
「うぶっ……!」
「まだ生きてます!」
そんな光景に慣れてない上妖精は吐き気からか口元を押さえて、神官娘は治療しようと一歩踏み出した。だがそんな神官娘を、ゴブリンスレイヤーが手で遮った。
「ゴブリンスレイヤーさん?」
「動くな」
神官娘の呼び掛けに、ゴブリンスレイヤーはそれだけ言った。それと同時に、剣舞士は空いていた右手で肩当ての裏から短刀を抜いた。
「……ろして……殺して……!」
「ああ……」
「待って!?」
捕まっていた妖精の言葉に応えるように、ゴブリンスレイヤーは剣を抜きながらその妖精の方に歩み始め、それを見た上妖精は妖精を殺すのかと思ったのか制止した。しかし
「殺して……こいつらを!!」
捕まっていた妖精の足元の瓦礫の陰から、一匹のゴブリンがナイフを構えながら飛び掛かったが、ゴブリンスレイヤーが頭をかち割った。
更に同時に、魔法使い娘と格闘家娘の近くの影から計二体のゴブリンが飛び掛かってきたが、それは剣舞士が抜いていた二本の短刀を見事にゴブリンの眉間に投げて撃破した。
「こいつらを……全部、殺してよ……」
「当然だ……そのために、来たのだからな」
妖精の言葉に答えながら、ゴブリンスレイヤーは剣に着いた血を振って飛ばした。
その後、蜥蜴人僧侶が呼び出した竜牙兵が神官娘によって治療した妖精を、毛布にくるませて運んでいった。なお、一緒に神官娘が書いた手紙も近くの妖精の隠れ里にまで運ばせた。
そして、汚物部屋の入り口辺りで一先ず休んでいたのだが
「なによ、あれ……訳分かんない!」
そこで上妖精弓使いは、涙を流していた。
剣舞士はゴブリンから抜いた短刀の調子を確認してから、再び肩当て裏に士舞い込んでいた。そこに、汚物部屋から雑嚢を持って出てきて
「ふむ……やはり、左側の先にゴブリンの寝床が有るようだな」
と中から出した地図を見ていた。
どうやら、先の妖精冒険者が書いた地図らしい。
「お主、信じとらんかったのか」
「いや、確信が得たかっただけだ」
ゴブリンスレイヤーはそう言うと、地図を雑嚢に入れてから
「これは、お前が持っていろ」
と上妖精弓使いに投げ渡した。
「ゴブリンスレイヤーさん!」
「いくらなんでも……!」
神官娘と魔法使い娘が非難がましい目を向けるが、上妖精弓使いはその雑嚢を掴み
「退かないわよ……この依頼を持ってきたのは、私達……何より、あんなことにした奴等を許す訳にはいかないわ!」
と立ち上がった。その目には、強い決意の光が宿っている。その後、一度あの別れ道まで戻った後に左の道を進み始めた。途中で見張りに立っていたゴブリンを逃がすことも声を上げさせることもなく撃破し、更に奥へと向かった。
そして、螺旋回廊に到着。天井は崩落したらしく、夕焼け空が見える。しかしその下。一番下の床には、かなりの数のゴブリンが寝ている。
「どうだ?」
「見ての通りよ……軽く50は超えてるわね……」
「……俺に任せてくれないか?」
ゴブリンスレイヤーが手を考えていると、剣舞士がそう進言した。
そして数十分後、一行はある程度回廊を降りたのだが、剣舞士は手すりの上に立ち
「小さき王、八足の蜥蜴、邪眼の主よ。時を奪う毒の息吹きを……石化の息吹き!」
と呪文を唱えた。その直後、ゴブリン達が寝ていたエリアで灰色の煙が一気に広がった。そして数秒後に煙が収まった。その光景を見ていた鉱人術士が
「まさか、石化の呪文とはの……聞いたことのない術式じゃったが……」
と驚いていた。
それを軽く聞き流し、剣舞士は
「漏らしは無い筈だが、確認しに行こう……」
と降りていった。降りた先では、ゴブリン達が寝た状態で石像と化していた。そして石化していないのが居ないか確認しながら、他にゴブリンが居ないか探していると
「静か過ぎると思えば……ゴブリン共では、戦力の足しにもならなかったか……」
と重い声が聞こえてきて、大きなドアが重い音を立てながら開いていく。そうして現れたのは、優に3mを超える巨駆に青い肌と柱と間違いそうな鉄の棍棒を持った鬼が現れた。
「な……お、
故に、倒すには最低でも金等級が妥当とされている。
「貴様ら……ここを我……魔神将の前線砦と知っての狼藉か!!」
とオーガは、その棍棒を構えた。それを見た一行はそれぞれ構えた。その時だった、オーガが出てきたドアから影が飛び出してきた。
「んっ!!」
その影の侵攻方向、魔法使い娘の前に剣舞士が陣取り、受け止めた。そうして見えたのは、その手に刀を持った妖精冒険者だった。
「ちょっと!? そいつって、さっき助けた冒険者の相方って奴じゃ!?」
実は汚物部屋から助けた妖精冒険者は一人ではなく、二人でこの古要塞を調べに来ていたのだ。その証拠に、刀を持った妖精冒険者の胸元には、鋼鉄のドックタグがあった。
「師匠!」
「こいつは、俺が対処する!」
剣舞士はそう言うと、その妖精冒険者の腹部を思い切り蹴飛ばした。そして、妖精冒険者が持っている禍々しい雰囲気の刀を見て
「なぜ、呪装具がある……!」
と声を漏らした。
すると、オーガが
「それは、我らが偉大なる魔神様より承りし武具よ。役に立つとな……そうしたら、中々面白い能力を持っていたのでな……その雑魚冒険者を人形にしてやったわ!」
と教えてくれた。
なんとも律儀なことだが、余程負ける気はしないのだろう。そして、対オーガ戦が始まった。