「フェイヒリッター!」
「こいつは、俺が対処する! 他は、オーガを!」
剣舞士はそう言いながら、相手が振るった呪装具の一撃を受け流した。
(受け流したんだが、腕が痺れる……!)
その強力な一撃に、剣舞士は腕が痺れた。本来エルフは、後方系の戦闘を得意とする種族である。弓矢然り魔法然り。中には剣を使う者も居るが、速度を優先して短剣か細剣が殆どである。
それは、所謂体質的なものが理由なのだろう。エルフは筋肉が着き難い種族のようで、細身の者達ばかりである。そのエルフの一撃に、剣舞士は腕が痺れた。
(ということは、それがあの呪装具の効果か!)
そもそも、呪装具とは何か。
要するに、呪われた装備と言える。絶大な効果を使用者に与えるが、その分強い副作用も有るのだ。
(察するに、高い身体能力の強化……それに)
「があぁぁぁぁぁ!!」
エルフの振るった一撃で、避けた剣舞士の背後に有った瓦礫が両断された。
(それに、高い切断力か……副作用として、破壊衝動か戦闘衝動と言ったところか……)
「アアァァァァァ!」
明らかに正常な状態ではないエルフは、デタラメに刀を振り回して剣舞士に襲い掛かった。だが剣舞士は、その通り名の通りにまるで踊るかのように避け続ける。
その時、他の一行は
「貴様らごとき、一捻りにしてくれるわ!」
「来ますぞ!」
「避けっぞい!」
こちらも、オーガとの戦端を開いていた。
初撃は、オーガのその柱のような鉄棒だった。それを間一髪で回避したが、当たれば致命傷は避けられないだろう。
それを回避した上妖精弓手は、螺旋通路の手摺の上を走りながら
「援護するわ!」
と言って、素早く弓を構えてから矢を放った。彼女が放った矢は、まっすぐにオーガに向かって飛んでいって当たったが、体表で弾かれた。
「わかってたけど、硬い……!」
上妖精弓手は歯噛みしながら、更に矢を放った。それに合わせるように、鉱人術士が鞄から砂を取り出し
「仕事だ仕事だ、
とオーガを狙い、石弾の魔法を放った。だがこちらも、大したダメージになっていなかった。
しかしオーガは、苛立った様子で
「鬱陶しいわ、雑兵が!」
と鉄棒を振った。その一撃で大きな瓦礫が砕け、先の鉱人術士の比ではないサイズの石弾が飛んだ。殆どは避けたが、蜥蜴人僧侶が呼び出した竜牙兵がその瓦礫に埋まった。
「皆、無事!?」
「私は、大丈夫です!」
「全員、無事です!」
素早く手摺の上から降りた上妖精弓手の呼び掛けに、無事だった一行は次々と答えた。
「小賢しい!」
オーガは声を張り上げると、片手を肩の高さに上げて
「カリブンクルス……クレスケント……!」
と詠唱を始めた。その直後、オーガの手の上に巨大な火球が現れた。
「
オーガが放とうとしている魔法に気付いて、魔法使い娘は声を張り上げた。しかし、その規模が見たこと無いものだった。
魔法使い娘が見た中では、最大サイズだった。
「なんとか避けるんじゃ!」
「どうやって!?」
その火玉の規模から察するに、今居る場所では回避は難しいだろう。その時、魔法使い娘が
「カリブンクルス……クレスケント」
とオーガと同じ火玉の詠唱を始めた。そのサイズは、至って平均的な物に過ぎない。だが、そこに
「クレスケント、クレスケント、クレスケント!!」
と重ね掛けで、更に火玉のサイズを大きくし始めた。
それは、この遺跡に来るまでの道中でのことだった。
どうすれば、強力な魔法を使えるのか、と剣舞士と鉱人術士に問い掛けた。
剣舞士が度々無詠唱で魔法を使っていたのを見ていたのと、鉱人術士は銀等級だったので強い術が使えるだろうと思って問い掛けたのだ。
そこで返ってきた答えが
『創意工夫じゃのう』
『後は、本人の強いイメージだ。それで、魔法の威力は変わる』
と聞かされた。そこから魔法使い娘は、基本的な魔法の一つの火玉。それを構成する三小節の内の一つ。強くさせる成長という意味のクレスケントを、重ね掛けすることを思い付いたのだ。そして、その効果は劇的だった。
最初は平均的なサイズだった火玉が、最終的にはオーガの火玉と同サイズになったのだ。
そして
「ヤクタ!」
「ヤクタ!!」
二つの火玉は、同時に放たれた。放たれた火玉は、ちょうど真ん中で激突。轟熱と炎を撒き散らした。そこに
「《いと慈悲深き地母神よ、か弱い我らを御守りください!
神官娘が、聖なる護りを展開した。魔法使い娘の迎撃と神官娘の聖壁による防御。しかし、凄まじい熱と炎が一行を襲った。
「ぐっ……つぅ……」
「こりゃ……たまらんわい……!」
神官娘の後ろで、一行はなんとか耐え続けていた。しかし、そうしている間にも一行を守っていた聖壁にヒビが入っていく。
「っ……あぁっ!」
神官娘が苦悶の声を漏らした直後に、炎は収まった。本当に間一髪だった。
オーガの魔法を防ぎきった神官娘は、疲労から倒れそうになったが、それはゴブリンスレイヤーが支えた。
「……後は、任せろ」
「……はい」
ゴブリンスレイヤーの短い言葉に、神官娘は頷いた。
無事な一行を見て、オーガは苛立たしげに
「冒険者一人を始末するのに、何時まで時間を掛けている! 早く来い!」
と呪装具で操っている妖精冒険者を呼んだ。しかし
「それは、出来ぬ相談だな」
それに返答したのは、剣舞士だった。
その背後には、手首を折られた妖精冒険者が倒れていた。そして、対オーガ戦は佳境に向かう。