古遺跡から離れて、近くの街の宿で休んだ日のことだった。
「フェイヒリッター! その刀の事を教えてもらうわよ!」
と上妖精弓手が、剣舞士を指差した。
彼女が言っているのは、呪装具のことだ。
「……これか」
察した剣舞士は、小さく呟きながら呪装具を机の上に置いた。一見すれば、普通の刀と見分けはつかない。
「これは、呪装具と言う」
「呪装具……とな」
「その字面からは、何やら魔剣に近いモノを感じるわな」
机の上に置かれた呪装具を見ながら、蜥蜴人僧侶と鉱人術士は腕組みした。魔剣というのは、特殊な能力が付与された武器のことである。その能力はまさに、千差万別。確認されているのは、炎の魔剣等である。
「この呪装具の能力は、身体能力の向上と高い切断能力。副作用は、殺戮衝動だ」
「なんと……!」
「風剣。お前さん、よく普通に使えるの……」
剣舞士の説明に、蜥蜴人僧侶は驚きで目を見開き、鉱人術士は思わずといった様子で剣舞士に問い掛けた。すると、剣舞士は
「まあ、昔にもっと強いのを使っていたからな……それの副作用に比べれば、まだ可愛いほうだ……それに、殺戮衝動の質も大したことなかったからな」
と答えた。
「殺戮衝動の質?」
「ああ……これは、いわゆる本能的な殺戮衝動。昔俺が使っていたのは、恨みからの殺戮衝動の呪装具だった……恐らく、素材が理由だろう」
意味が分からず魔法使い娘が首を傾げると、剣舞士はそう答えながらその呪装具を回収した。
「素材とな?」
「ああ……恐らくこの呪装具は、造る際に魔獣を素材にしたんだろう……大方、魔狼あたりか……素材は……牙と血かな……」
「なっ……」
剣舞士の説明に、神官娘が驚きの声を漏らした。
「つまり……その造る際に使う素材によって、能力と副作用が変わる……つぅことか?」
「ああ……俺が知っている他の呪装具は、剛力と刃物で一切傷付かない鎧に、あらゆる魔法を弾く盾……ああ、伸縮自在の槍もあったか」
「なんと……呪装具というのは、剣だけではないと!?」
「ああ……前に言った戦争中に、宗教側と俺達側の双方により、様々な呪装具が造られて、戦争に投入された……かつて俺が使っていたのも、そんな呪装具の一つに過ぎない……」
説明を終えた剣舞士は、呪装具の柄の目釘を外すと、刀身を外して、根元部分を見た。
「む、銘が彫られてるな……
「飢狼……師匠の読み通り、狼の名前……」
剣舞士が言った銘に、格闘家娘は小さく呟いた。そして銘を確認した剣舞士は、飢狼を元に戻すと腰に差した。
その後、食事を済ませると借りた部屋で休むことになった。
その部屋で剣舞士は、二本の刀の手入れをしていた。付着した血脂を拭き取り、粉を当てていた。最早慣れた手つきであり、手早く済ませると貰ったお湯で体を拭き始めた。
その時
『師匠、入っても大丈夫ですか?』
と格闘家娘の声が、ドア越しに聞こえた。
「ああ、構わん」
「失礼しまっ……!」
剣舞士が許すと、格闘家娘が入ってきたのだが、下着一枚姿の剣舞士に、顔を真っ赤にした。
「師匠! そういう時は入れないでください!」
「俺は気にしないんだが……」
「私が気になりますっ!」
剣舞士の言葉に格闘家娘はそう反論するが、視線は剣舞士に釘付けだった。細身な体なのだが、かなりの筋肉質な体。無駄なく鍛えられていることが伺えるが、格闘家娘はそれよりも、剣舞士の身体中にある傷が気になった。
傷が無い処を探す方が困難な程で、様々な傷がある。
刺し傷、切り傷、火傷etc……。まさに、歴戦の証が全身に刻まれている。
すると、剣舞士が格闘家娘の視線に気付いたらしく
「すまんな、醜いモノを見せた」
淡々と言いながら、軽く頭を下げた。しかし、格闘家娘は
「いえ……それは、師匠の歴戦の証です……醜いとは、思いません……」
と言いながら、背中にある広範囲に渡る火傷の痕に触れた。
一瞬気になった剣舞士だったが、体を拭くのに意識を戻したらしい。格闘家娘は、高鳴る鼓動を抑えられなかった。
剣舞士に師事するようになってから、約一ヶ月近く経つ。それだけ一緒に居れば、かなり分かるようになっていた。
普段は寡黙で少し無愛想な類いだが、それでも面倒見がよく、要所要所で気にかける視野の広さ。意識するには、十分過ぎた。
「師匠……その、背中……拭きましょうか?」
剣舞士が一段落したタイミングを伺ってから、格闘家娘はそう切り出した。それを聞いた剣舞士は、少し間を置くと
「頼めるか?」
と言ってきて、それを聞いた格闘家娘は無言で頷いた。
その後、剣舞士には背中を拭きやすいようにと、ベッドに腰掛けてもらい、格闘家娘は剣舞士の背中を拭き始めた。
格闘家娘が動きを見せるのは、この後のことだ。