「階位が上がると魔法や奇跡が使える回数が増えたり、使える魔法の種類が増えるのは、精神力が鍛えられるからだ。冒険を繰り返す内に、何回か死にかけたり、危機に陥る。それを乗り越えていくと、自ずと精神力が鍛えられる……ということだな」
「なるほど……」
その日、剣舞士は魔法使い娘に軽く講義をしていた。階位が上がった彼女だが階位が上がったことで、使える魔法の種類と回数が増えた。増えたのだが、その事を不思議に思い、剣舞士に問い掛けたのだ。
それに対する解答が、今の説明だ。その説明に魔法使い娘が納得した様子で頷いていると、ギルドのドアが開き、ゴブリンスレイヤーがドカドカと入ってきた。それ自体は、何ら不思議ではない。しかし、何時もより早い時間だった。
依頼書が貼り出されるまで、まだ大分時間がある。ゴブリンスレイヤーは、何時もだったら貼り出される数分前に来る。
それを不思議に思った一党が視線を向けると
「……すまん、聞いてくれ」
とゴブリンスレイヤーが、他の冒険者達の前で声を挙げた。
「……ここから西にある牧場に、ゴブリンが攻め込もうとしてきている……斥候の数から、最低でも100体は下らん……その数が、早くても今夜攻めてくる」
「100体のゴブリンだと!?」
「あり得るのか!?」
通常、ゴブリンは数体から多くても約50までで群れを作って過ごす種族だ。それ以上では内部でケンカが多発し、内部分裂を起こす確率が高くなるらしい。
しかし、今回はそれを大きく越す100を越えるゴブリンの群れが攻め込もうとしてきているという。
「……そこから推察するに、群れのボスはゴブリンロードだ」
「ゴブリン……ロード?」
「ゴブリンの中でも、統率力に特化した存在だ……滅多に現れない個体らしいが……」
格闘家娘が首を傾げていると、剣舞士はそう説明した。剣舞士のその知恵も、ギルドの書庫から知り得た情報だ。
「……洞窟の中なら、あらゆる手を尽くしてでも勝つ……しかし、平原では勝てない……すまん……力を貸してくれ」
ゴブリンスレイヤーは、そう言いながら深々と頭を下げた。それを見た上妖精弓手が動こうとしたが、それは蜥蜴人僧侶によって静止され、それに上妖精弓手は顔をしかめた。すると、槍使いが立ち上がり
「おい、何か勘違いしてねぇか? 俺達は冒険者だぞ? 俺達を動かしたいんなら、御願いじゃなく、依頼を出しな……報酬はどうすんだ?」
「……俺に出せる物、全て」
槍使いの問い掛けに、ゴブリンスレイヤーは淡々と答えた。すると槍使いが
「じゃあ、受付嬢さんや、てめぇの命つったら?」
「……彼女は俺のモノではない……それに、俺の命は俺だけのモノではないから無理だ……だが、それ以外なら、あらゆるモノを」
槍使いの問い掛けに、ゴブリンスレイヤーはそう返答した。気付けば、受付からあの受付嬢の姿が無くなっていた。だが、奥からギルドマスターと共に現れて
「ギルドからも、報酬を出します! ゴブリン一体につき、金貨一枚出します!」
その破格の報酬に、他の冒険者達はざわついた。普通は、ゴブリン三体で金貨一枚程だからだ。すると、一人の青年剣士が立ち上がり
「俺、あいつと同じ日に冒険者になったからな」
と呟いた。どうやら、動くつもりらしい。それに続くように
「俺ぁ、あいつに家族が助けられたからな」
「俺も」
「私、あの人に故郷の村が助けられたので」
続々と、他の冒険者達も立ち上がる。そこに、上妖精弓手も
「あたしも行くわよ!」
と言いながら、一党が居た二階から飛び降りた。そして、ゴブリンスレイヤーを指差して
「ただし、次にあたしの冒険に付き合いなさいよ」
とゴブリンスレイヤーに告げた。
「……分かった」
ゴブリンスレイヤーが頷くと、二階に居た一党も階段を降りながら
「仲間の危機を、見捨てるという選択肢は無いな」
「そうじゃな」
「本当です」
と口々に言いながら、ゴブリンスレイヤーの近くに向かった。すると、蜥蜴人僧侶が
「ゴブリンスレイヤー殿、拙僧はチーズを所望するのだが……」
「それは俺のではないが、掛け合ってみよう……ゴブリン達が攻め込もうとしている牧場で作っている」
「しからば、小鬼共を斬って捨てるのみですな」
ゴブリンスレイヤーの話を聞いた蜥蜴人僧侶は、戦意をみなぎらせながら、宣言した。
最早彼の好物と化したチーズの生産地たる牧場のピンチに、彼が動かない訳がない。
それから、ゴブリンスレイヤーを中心とした作戦会議を行い、夕方頃には全員で牧場へと向かった。
そして、夜。数人一組となり、牧場の外縁部を哨戒していた。その時、森に程近い方角から、口笛の音が響き渡ってきた。
それを聞いた待機していた冒険者達、剣舞士や格闘家娘、魔法使い娘達も一気に戦闘態勢に移行し、待機していた納屋の一つから駆け出した。
「来たぞ! ゴブリン共が来たぞぉ!!」
「戦闘配備! 構えろ!!」
熟練の冒険者達はあっという間に態勢を整えると、次々と森の方角に集まり、視線を向けていく。しかし、まだ冒険に慣れていない冒険者、先日に失礼な質問をしてきた少年剣士や、それを諌めた新人聖女は少しもたつきながら出てきた。
聞いた限りでは、今回が初めての対ゴブリン戦らしい。緊張で体がガチガチになって、呼吸も荒い。
それに気づいた剣舞士は、二人の背後に回ると二人の肩に手を置いて
「気負うな。最前衛は、俺達が立つ。後ろに行くのは、こちらの打ち漏らしになるだろう。それに、後衛には弓手や術使いも多数居る……いいか、一人じゃない。仲間が居る……忘れるな」
「は、はい!」
「わ、分かった!」
二人が頷いたのを確認すると、剣舞士は格闘家娘を伴って前に出た。そして、長い永い夜が始まる。