剣舞士が、今の世界に来てから数ヶ月。
剣舞士は、一人旅を続けながら魔物退治や護衛、救援をしたりしていた。そんなある日、剣舞士はある洞窟の近くで、片膝を突いて地面をよく見た。
地面には、複数の足跡が見受けられる。
「人数は……3……いや、4人……その内の3人は女で、二人は後衛か……」
それは、足跡から察したパーティーの内訳だ。
察した理由だが、2人はしっかりとバランス良く足跡が残っているが、片方は足跡が小さいからだ。
そして、残り2人分は足跡が小さいのもあるが、不規則に足跡が残されていて、体幹が鍛えられておらず、更には足跡の近くに小さな丸い跡があったからだ。
それにより、剣舞士は4人パーティーで、前衛2の後衛2。更には男が1に女が3と気付いたのだ。
そして剣舞士は、そのパーティーが洞窟に入っていったことに気付いたが、その洞窟の入り口に、動物の骨や木の枝で作られたトーテムが有ることに気付いた。
そのトーテムは、その拠点にゴブリンの術士、ゴブリンシャーマンが居ることを示しているのだ。
剣舞士はそれを、数ヶ月の旅で把握していた。
「さて……全滅していないといいが……」
剣舞士はそう言いながら、洞窟に入っていった。
その頃、中では
「があァァァァァァァ!?」
「そんなっ!?」
今しがた、パーティーのリーダーだった少年剣士がゴブリンの群れに滅多打ちにされてしまった。
あれでは、もはや生存は絶望的で、よしんば生きられたとしても、冒険者どころか日常生活すら支障を来すだろう。
そんな現場を視認した格闘家娘だったが、すぐに気を引き締めて構え直した。
今彼女の後ろには、残る2人。神官娘と魔術娘が居るのだが、魔術娘は背後から奇襲を受けて負傷し、それを神官娘が治療しているのだが
「なんで、どうして!?」
どうやら、治療が上手くいっていないらしい。
目に見えるゴブリンの数は、約十数体。
それら通常のゴブリンは、大したことがなく、彼女の蹴りや拳で十分に撃破出来る。
しかし、目の前で棍棒を握っている格闘家娘より一回り大きいゴブリン。
通称、ホブゴブリンが居た。
ホブゴブリンは先祖帰りを起こしたとか、戦闘を生き残ったゴブリンが、訓練を繰り返し行ったとか言われているが、確証はない。
だが、やはり体格が大きいために格闘家娘の拳では、大したダメージにならなかった。
既に数発打ち込んだが、気にした様子がない。
(っく……私の拳が、効かないなんて……!)
格闘家娘は、自身の技にそれなりに自信があった。彼女に格闘技を教えたのは、亡くなった父親だ。
父親も昔は、その格闘技を駆使して冒険者をしていたらしい。しかしある日、冒険中に負傷。その傷を理由に、冒険者を引退した。
そんな父親は故郷に戻ってからは、牧場を営むようになっていたが、時々格闘技の訓練をしていて、彼女はそんな父親に魅せられて、父親に願って格闘技を習った。
その父親は、今から二ヶ月程前に病気で他界。
それを期に、同じ村で育った少年剣士と一緒に村を出て、冒険者になることにした。
しかし、その少年剣士も死んでしまい、まともに戦えるのは彼女だけ。
頼みの綱だった魔術娘は、ゴブリンの奇襲により戦闘不能になってしまっている。
(状況が、最悪過ぎる……! どうする……どうすれば……!?)
と格闘家娘は、ホブゴブリンとの間合いを測りながら、頭を必死に動かしていた。だがその間に、少年剣士を惨殺したゴブリン達がジリジリと迫ってきていることに気付いた。
数の差は、圧倒的に不利。
更には、地の利も相手にある。
(どうすれば……!?)
と再び思考した時だった。
「GOOOOOOOB!!」
とホブゴブリンが雄叫びを挙げて、棍棒を振りかぶってきた。
「つっ!!」
その一撃を格闘家娘は、しゃがんで回避し、ホブゴブリンの足を狙って蹴りを放った。
がその直後、ホブゴブリンの背後から一匹のゴブリンが跳躍し、格闘家娘に飛び掛かった。
「くあっ!?」
予想外の奇襲に、格闘家娘は地面に叩き付けられてしまい、その格闘家娘に更に数匹のゴブリンが迫ってきた。
「この、放せ!?」
格闘家娘は必死にゴブリンを引き剥がそうとするが、ゴブリンの数に排除が追い付かない。
とうとう、一匹のゴブリンにより彼女の着ていた胴着が引き裂かれてしまった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
この後に起こるだろう凌辱に、格闘家娘は思わず悲鳴を挙げてしまった。
その時だった。
「全員、その場に伏せていろ」
という声が聞こえ、一筋の閃光が走った。
「GOB!?」
ふと気付けば、一匹のゴブリンの頭に、一本の細長い剣が深々と突き刺さっていた。
「……え?」
その光景に、格闘家娘も思わず呆然とした。
剣、刀は今まさに彼女を凌辱しようとしていたゴブリンを貫いていたからだ。
そして、走る音が聞こえて
「目標、視認……参る!」
と頭の先からマントを被った人物が、走ってきた。
そしてその人物は、霞むような速度で両手を振って、何かを投擲した。
それは、短いナイフ。投剣だった。
剣舞士が投げた投剣は、格闘家娘に覆い被さっていたゴブリン達の眉間に狙い違わず命中。
ゴブリンに、身動き一つ取らせることなく撃破した。
「しっ!」
そして剣舞士は、まだ残っていたゴブリンに蹴りを放ち、洞窟壁面に叩きつけて撃破した。
これで、今この場に居るのはホブゴブリンのみ。
すると剣舞士は、被っていたマントを脱いで
「着ていろ……」
と格闘家娘に羽織らせた。
無謀にも、ホブゴブリンに背を向けて。それに怒ったのか、ホブゴブリンは雄叫びを上げたが
「黙っていろ、木偶風情が」
というたった一言で、ホブゴブリンは体を震わせながら、動きを止めた。
そんなに語気の強くないたった一言に、ホブゴブリンは怯えたのだ。
その間に、剣舞士は倒れている魔術娘に視線を向けて
「おい、そいつが刺されてから、どの位になる?」
と問い掛けながら、ポシェットに手を入れて、中から一つの瓶を取り出した。
「そんなには、経っていません……約八分位です!」
神官娘がそう答えると、剣舞士は取り出した瓶を神官娘に投げ渡して
「解毒薬だ、飲ませてやれ」
「解毒薬?」
剣舞士の言葉に、神官娘は首を傾げた。
すると剣舞士は、地面に落ちていたゴブリンの剣を拾い上げて
「毒が塗られてある。今なら、まだ間に合う筈だ」
と告げて、その剣をホブゴブリンに投げ付けた。
剣舞士が投げた剣は、ホブゴブリンが辛うじて掲げた棍棒に弾かれたが、ホブゴブリンは前に出ようとしない。
「毒!?」
剣舞士の言葉を聞いた神官娘は、急いで瓶のコルクを抜いた後に、魔術娘の薄く開いていた口に、少しずつ流し込んでいった。
少しすると
「がはっ……はぁ……はぁ……」
と少しずつだが、魔術娘の呼吸が整い始めてきた。
「顔色が、良くなってきました……これなら!」
魔術娘の顔色が良くなったのを確認した神官娘は、両手を魔術娘の腹部に翳して、聖句を唱え始めた。
それは、治療の奇跡。神官職が使える奇跡の一つだ。
それを傍目に見ながら、ホブゴブリンに視線を向けて
「……こいつを始末するか」
と言って、ゴブリンに突き刺さっていた刀を抜いて構えた。そして、次の瞬間
「え、消え……」
格闘家娘の目前で、剣舞士の姿が消えた。
その直後、ホブゴブリンの首が飛んだ。
「は、早い……」
そして格闘家娘は、倒れたホブゴブリンの後ろに刀を振って血を飛ばしてから、納刀している剣舞士を見つけた。
それを見て、格闘家娘は剣舞士がホブゴブリンの首を切り飛ばしたことを察した。
そこに
「……どうなっている?」
と全身鎧を着た男。
ゴブリンスレイヤーが現れた。