「来たか……つっ!?」
「くそっ!?」
ゴブリン軍の迎撃をしようと身構えていた冒険者達の目に入ったのは、浚われて激しく凌辱され、ぐったりとした女性達が縛り付けた板だった。それを見せられ、冒険者達は固まり、それを見たゴブリン達は嘲るように笑う。バカな奴等だと笑う。
しかし、ある一定のラインを超えた時、不意にゴブリン達の足が止まる。
「
「
それは、後方に居た鉱人術士と魔女による足止めだった。二人が発動した術が、ゴブリン達に効いて動きを止めたのだ。
「今だ!」
「人質を回収! ゴブリン共は無視しろ!」
それを見て、隠れていた足に自信がある冒険者達が一気に駆け出し、女性達を次々と回収を始めた。勿論だが、ゴブリン達はそれを阻止しようと矢をつがえたり、術を唱え始めた。しかしそのゴブリン達に、次々と矢が命中する。それを放ったのは、物置の屋根の上や木の枝に乗った冒険者達だった。
「あれが盾ね……悪趣味ったらないわ……!」
それを優れた視力で見た上妖精弓手は、怒りを滲ませながら更に矢を放った。
「人質は全員回収したぞ!!」
「こっちも、弓と術使いは見える限りは潰したわ!!」
「よし!!」
人質を回収した冒険者は屋根の上に居た上妖精弓手とやり取りをすると、近くのランタンを手に持って大きく動かした。その直後、背の高い草から大勢の冒険者達が姿を現した。
「てめぇら、稼ぎ時だ! かっ跳べ!!」
「皆様、掛かりませい!!」
槍使いと蜥蜴人僧侶の号令を受けて、姿を見せた冒険者達が一気にゴブリン達に攻撃を開始した。そして、一体のゴブリンを両断した女聖騎士が
「なるほどな……あんな成りでも、銀等級ということか」
と何処か納得していた。それは、ギルドで行った作戦会議でのことだ。
『奴等は、待ち伏せすることは慣れているが、されることは慣れていない。待ち伏せしろ。奴等は肉の盾を使うはずだ……魔術で足止めし、すぐに回収しろ。眠った奴等には、手出しするな。目覚めて、面倒になる……大きい群れを吸収しているのなら、騎兵が居る筈だ……この辺に槍襖を展開し、対処する……魔術で出来ることは魔術で……それ以外は、俺達の手でやるんだ』
ゴブリンスレイヤーは箇条書きで、対ゴブリン迎撃作戦を各冒険者達に指示を出していたのだ。そして、その作戦が悉く的中している。
何事も無ければ、ゴブリンスレイヤーの作戦通りに事は進むのは間違いなかった。
「ひゃっほー! 向こうから金貨がやってくるわよ!!」
一人の女冒険者が、ハイテンションで斧を振り回して次々とゴブリンを両断していく。それを、少し後方で見ていた斥候達が
「いいなぁ、俺もあっちに行けばよかったかなぁ」
「ダメですよ、作戦があるんですから……んっ! 来た!」
とある方向から、狼に跨がったゴブリン達が来ていることに気付いた。
それを見て、一人が口笛を鳴らした。
「騎兵だ!」
「騎兵が来たぞ!」
「作戦メンバー、一時後退! 所定の位置に就け!!」
最前列で戦っていた冒険者達の中から、十数名がある方向に走っていき、しゃがんだ。
「いいか、まだだ……まだ……」
号令役らしい槍使いは、ゴブリンライダー達との距離を冷静に見極めていた。早ければ、回避されて横から攻撃される。遅かったら、意味が無い。
そして数体の狼が跳んだ時
「今だ! 上げろ!!」
槍使いの号令の直後、冒険者達は一気にそれを上げた。本来は、柵を作るために用意されていた木材。それを加工し、即席の槍襖にし、隠しておいたのだ。
そして、跳んでいた狼達に避ける術は無かった。次々と貫かれ、屍となり果てる。しかし中には、その屍を足場にして、冒険者達に飛び掛かってくる狼やゴブリンも居た。
「はっ!」
「しっ!」
だがそこに、剣舞士と格闘家娘が切り込んで、そのゴブリン達と狼を空中で斬った。
「槍襖の維持に専念を!」
「横槍や回避した個体は、俺達が対処する」
二人はそう言いながら、回り込んだゴブリン達を切り捨てた。
「師匠、何か……早いのが来ます!」
「ん……あれは……」
格闘家娘が指差した先から、素早い群れが近づいてくる。
「ダイアーウルフを手懐けたのか……いや、あれは……」
そのゴブリンライダー達は、ダイアーウルフに乗っていた。本来ならば、ダイアーウルフは簡単には手懐けられる個体ではない。それも、ゴブリンに手懐けられるものではない。しかし剣舞士は、そのゴブリンが握っている手綱に気付いた。
「俺が行く……お前は、近づいてくるゴブリンライダー達を対処しろ」
「わかりました! 御武運を!!」
格闘家娘の言葉に頷くと、剣舞士は身を低くして駆け出した。するとゴブリンライダー達も気付いたらしく、方向転換して剣舞士に向かってきた。
「やはり、ダイアーウルフなだけあって速いか……だが」
剣舞士は、走りながらもう一本抜刀した。黒い刀身の刀。
「奥の弐……
周囲からほぼ同時に、数体のダイアーウルフ達が飛び掛かってきたが、剣舞士は一瞬にしてその全てを、ゴブリン諸とも切り捨てた。そして、足下に落ちたダイアーウルフの頭を無造作に拾い上げると、口に嵌められてある黒い紐をジッと見て
「やはり……呪装具……確か、グレイプニル……だったか」
と呟いた。だがすぐに、放り投げて
「さて、主戦域に行く前に……少しでも、数を減らすか」
と呟いて、肩当ての裏から折り畳まれた物を取り出して、即座に組み立てた。それは、緑色の弓。剣舞士は、矢をつがえずに弦を引いた。すると、轟々と音を立てながら風が集まり、矢を複数形成する。
「銘解放……空牙……貫け」
剣舞士が弦を放すと、風。否、嵐の矢は正に風の速度で飛んでいき、数体のゴブリンを凪ぎ払った。
「この数……二百は届くか……先は長くなりそうだ」
倒したゴブリンの数は数十に届くが、まだ終わる気配が無い。剣舞士は、ある方向を見て
「ゴブリンスレイヤー殿……頼むぞ」
と祈るように呟いた。