ゴブリン軍との戦端が開いてから、数十分後
「やれやれ……この数、嫌になってくるぜ」
槍使いは新たに飛び掛かってきた数体のゴブリンを切り刻むと、両手に牙剣を持った蜥蜴人僧侶が
「あの小鬼殺し殿も、お手上げの数ですからな」
と同意するように頷いた。
「あー、やだやだ」
それを聞いた槍使いが心底嫌そうにしていると、二人に向かって矢が飛んできていたが、突如不自然に逸れた。
「どうでも、いいけど、《矢避け》の効果範囲から、出ない、でね?」
これは、一定範囲では矢が当たらないという術だ。
その範囲内に居れば、絶対に矢は当たらない。
「あんがとよ」
「感謝いたす」
魔女の言葉に、槍使いと蜥蜴人僧侶は感謝の言葉を述べた。そして、僅か後方
「す、すげえ……俺居る必要あるのかな……」
新人剣士が、ベテラン達の戦闘に魅いっていると、そこに一体のゴブリンが飛んできて、新人剣士の前に落ちてきた。
「うわっ!? し、死んでる……?」
新人剣士は、血塗れのそのゴブリンが死んでいるか確認しようと、近づいて覗き込んだ。その直後、そのゴブリンが短剣を突き出しながら起き上がり、新人剣士の胸当てに当たって金属音を立てた。
「しっ!!」
その瞬間、そのゴブリンの首に蹴りが叩き込まれて、そのゴブリンは首の骨が折れて、息絶えた。
「ボーっとしない! ここは戦場よ!? 死体の確認でも、剣を突き立てなさい!」
蹴りを放った張本人の格闘家娘は、尻餅を突いた新人剣士を叱責し、続いて飛んできたゴブリンの頭を掴んで、地面に叩き付けてから、頭を思い切り踏んだ。そこに、新人聖女が駆け寄り
「大丈夫!?」
と怪我がないか、確認してきた。
「ああ……大丈夫……」
新人剣士はそう返答すると、先ほどゴブリンが突き立てた胸当てを見て
「防具、買っておいて良かった……」
と声を漏らした。実は、その胸当ては数日前に新しく買ったばかりの胸当てだった。もしその胸当てが無かったら、無事では済まなかっただろうことは分かる。
そこから少し離れた小高い丘には、未だに凄まじい数のゴブリン軍が待機していた。そのゴブリン達は、長たるゴブリンロードの指示を待っていた。
そしてゴブリンロードは、駆け寄ってきたゴブリン達の報告を聞くと頷いてから戦斧を高々と掲げて
「GOB! GOBBGOOOOB!!」
と号令を下した。それを受けて、待機していたゴブリン達は進軍を開始した。
少し時は進み、森の中
「ったくよ……こんな場所にまで、逃げやがって!」
「ゴブリンの癖によ!」
二人の冒険者が、森に逃げ込んだゴブリンを追い掛けて、倒していた。
「よし、そんじゃあ戻るとするか」
一人がそう言って、背後に居たもう一人に声を掛けようとして、固まった。何故ならば、その冒険者の目の前には巨大な斧を掲げている巨体のゴブリンが居たからだ。
場所は戻り、牧場。そこでは、第一陣のゴブリン達の残存が隠れていないか確認中だった。だが
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
と森の方から、悲鳴が響いてきて、全員がそちらの方に向いた。そして気づいたのは、優れた視力を有する上妖精弓手だった。
「何か飛んでくるわ! 気をつけて!」
「何か飛んできよるぞ!! 気ぃつけろ!!」
上妖精弓手の声を聞いた鉱人術士が、繰り返し注意喚起した。その直後、森の方から何かが飛んできて、新人剣士と新人聖女の間を通り抜けて、二人の背後にあった石垣に当たった。
振り返った二人が見たのは、少し前に逃げたゴブリンを追い掛けて森に入った冒険者の
「ひっ!?」
「うっ……」
二人はそれに怖じ気づくが、森の中から現れた敵により、強制的に意識が呼び戻された。
数体のホブゴブリンと、ホブゴブリンを上回る巨体のゴブリンだった。
「次はホブか!」
「ホブだけじゃないぜ……あれは、チャンピオンだ」
ゴブリンチャンピオン。ゴブリンロードが統率に特化した個体ならば、チャンピオンは戦闘力に特化した個体で、通常のゴブリンでは扱えない大きな武器すら扱える膂力を有している。
その証拠に、現れた三体のゴブリンチャンピオンの手にはそれぞれ、巨大な鉄棒、モーニングスター、そして戦斧が握られている。当たれば、一撃で致命傷は間違いなしだろう。
「こっから先は、腕利きのみの戦場だ! 腕に自信が無い奴は下がってろ!」
槍使いはそう言って、モーニングスターを持っているゴブリンチャンピオンの前に布陣。それに僅かに遅れて、重戦士と女聖騎士は鉄棒を持っているチャンピオンの前に布陣した。残る戦斧のチャンピオンの前には、誰も立たない。何人かの冒険者は、尻込みしているのか中々前に出ない。そのチャンピオンは、自身がフリーだと気づいたのか、一歩前に踏み出した。そこに
「こいつは、俺が受け持つ」
と剣舞士が滑り込んだ。
「剣舞士か」
「おめぇ、ライダー共をやってた筈じゃ……」
「あっちなら、既に片付けた」
重戦士の問い掛けに、剣舞士は右手の刀を肩に乗せ、左手は逆手持ちにして脇に挟むという特殊な構えをしながら戦斧を持ったチャンピオンの前に立った。
剣舞士の言葉を聞いた槍使いと重戦士は、僅かに視線を動かして、先ほどまで剣舞士が戦っていた場所を見た。そこには、夥しい数のゴブリンと狼の骸が転がっている。一人で、数十のゴブリンライダーを殲滅したようだ
。
「さて……行くぜぇ!!」
槍使いの雄叫びを合図に、ゴブリンと冒険者双方の英雄達が動いた。