夢というのは、寝ている間に脳が行う記憶の整理が主な理由で見るもので、時折その人の願望が理由のものも見る。しかし、その中には見覚えのある光景や人物が混ざるのが普通だ。しかし格闘家娘は、あのゴブリンロード軍との戦いから三日程経ってからだった。
最初見えたのは、濃密な死だった。
広大な荒野に夥しい数の骸が打ち捨てられており、血の河が出来ていた。まさに、死山血河。
片方は白を基調にした法衣に金色の十字架が背中に刺繍された勢力で、凄まじい数が居る。
もう片方は、服装はバラバラだが、肩に黒地に赤の逆十字が彫られた肩当てを装着している。こちらは、数は少ないものの士気が比較にならない程に高い。
その光景は、まさに戦場。
人の命が、容易く喪われる地上の地獄。
その日は、そこで眼が覚めて飛び起きた。というより、起こされたが正しい。一緒の部屋で寝ていた少女が、格闘家娘が魘されていることに気付いて、起こしてくれたのだ。
その日は、少女と抱き合うようにして眠ったからか、同じ夢は見なかった。しかし、その翌日からは同じ光景を見る。人の命が、ゴミのように喪われる戦場。
何回か見るうち、あることに気付いた。その戦場を不釣り合いな子供が両手に刀を持って走っていたのだ。
外見から判断するに、7歳位の子供。
その子供が、両手に刀を持って戦場を駆けながら敵を切り裂いていく。その戦い方に、見覚えがあった。他でもない、格闘家娘の師匠たる剣舞士だ。
今より動きは拙いが、それでも次々と交戦距離に入った相手を切り裂いていく。
だから格闘家娘は、今見ている夢は剣舞士の記憶だと思った。
だから格闘家娘は、魔法使い娘に聞くことにした。
この日、格闘家娘は何時ものように剣舞士との修業を終えると、冒険は休んで同じように休むことにした魔法使い娘に近寄った。
この日、神官娘は教会の上官に呼ばれたとかで、休んでいる。魔法使い娘は、新たに覚えた魔法に関して創意工夫したいらしい。
剣舞士とゴブリンスレイヤーの二人は、槍使い、重剣士の二人と共にある場所に出来た高い塔に調査兼討伐に向かった。
そして格闘家娘は、魔法使い娘の部屋に向かった。
「あら、珍しいわね……貴女が私の部屋に来るなんて」
部屋に訪れた格闘家娘を、魔法使い娘は普通に出迎えると、部屋に入れた。
「聞きたいことって、何かしら?」
「……他人の記憶を、夢に見ることってあるの?」
格闘家娘のその問い掛けに、魔法使い娘は僅かに眉を動かした。そして格闘家娘は、ことの次第を魔法使い娘に語った。それを聞いた魔法使い娘は、しばらく黙考した後
「ねえ……剣舞士とヤッたの?」
と言いながら、右手の親指を人差し指と中指の間に挟んだ。
「ゴフッ!?」
あまりにどストレートな問い掛けに、格闘家娘は飲んでいた水を吹き出した。
(可愛い反応するわね……弄り甲斐があるわ)
むせる格闘家娘を見ながら、魔法使い娘はそう思った。中々な性格のようだ。
「い、いきなり何を!?」
顔を赤くした格闘家娘が問い掛けると、魔法使い娘はピッと人差し指を立てて
「実はね、ある論文があるのよ」
と告げた。
その論文というのは、要約すれば魔法使い同士が交わったり、魔法使いとそうでない者が交わると、相手の記憶を見ることがある、という論文らしい。しかし、どうして起きるのかが一切分かっていないために、半信半疑の論文。魔法使い娘も信じていなかったが、格闘家娘の話を聞いて
(だったら、あの論文も……)
と学院に居た頃に読んだある論文を思い出した。それから数時間後、少しずつ水に混ぜた酒で格闘家娘を酔い潰した魔法使い娘は、格闘家娘を少女が待つ部屋のベッドに放り投げ、剣舞士が帰ってくるのを待った。
剣舞士が帰ってきたのは、夜に差し掛かろうかという時間だった。
どうやら、塔の調査と首謀者の討伐は上手くいったらしい。まあ、槍使い、重剣士、ゴブリンスレイヤーの銀等級三人だけでなく、周囲からは等級詐欺だろと言われている剣舞士まで揃っているのだから、失敗するという光景が浮かばないのだが。
四人は受付嬢に報告した後、それぞれ帰路に着いた。そして魔法使い娘は、剣舞士が部屋に入る直前に
「ちょっといいかしら?」
と声を掛けた。
「……そちらからとは、珍しいな」
実を言えば、魔法使い娘から剣舞士に話し掛けた回数は非常に少なく、その何れもが魔法に関することだった。
剣舞士はどうやら、魔法使い娘の姿から魔法に関する質問ではないと察したようだ。今の魔法使い娘の格好は、部屋着にしている1サイズ大きい長袖のYシャツ一枚に下着のみ。廊下で待つには、些か不向きな格好だ。
「ちょっと、貴方に聞きたいことがあるの。中、いいかしら?」
「……構わない」
僅かに黙考した剣舞士は、魔法使い娘を伴って部屋に入った。中に入ると剣舞士は、指を鳴らして部屋の灯りを灯すと、装備一式を外していく。その間に魔法使い娘は、部屋の中を軽く見回した。部屋備え付けの机に少し大きめのベッド。机の横には本棚が有るが、そこには数冊の本が並んでいる。その何れも、小難しい学術書か魔物に関する本だ。
(勉強熱心……いえ、情報収集の一環かしら?)
魔法使い娘は、剣舞士が情報収集を頻繁にしているのを知っている。
「それで、聞きたいこととはなんだ?」
気付けば、剣舞士はゆったりとした部屋着に着替えていた。それを確認し魔法使い娘は、スッと剣舞士に近寄り
「ねえ……私と……シない?」
と言いながら、シャツのボタンを外した。この時、固まった剣舞士は決して悪くないだろう。