水の都に到着して、数時間後。地下深く
「ふっ!」
「はっ!」
地下水道に入った一党は、数多くのゴブリンと交戦していた。しかも一度ではなく、すでに三度目。その総数は、約50に迫っている。
「……こいつら、やけに装備が整っているな」
一匹を水流に叩き落としたゴブリンスレイヤーは、他のメンバーが倒したゴブリンを見て言葉を漏らした。
確かに、革製だが鎧を着ていたり、金属製の剣や兜を装備しているゴブリンが結構居る。
そして、最後のゴブリンを戦士娘が倒した後、剣舞士が壁にもたれ掛かるように死んでいる遺体を見て
「間違いない。件の冒険者の最後の一人だ」
と言いながら、その遺体の首に掛かっていたタグを外した。実はここに至るまでに、既に三人の遺体を発見し、タグは回収していた。剣舞士がその遺体から離れると、入れ替わる形でゴブリンスレイヤーがその遺体に歩み寄り、剣帯から刺さっていた剣を抜いた。
どうやら奇襲され、一撃で意識を失い、そのまま殺されたようだ。ゴブリンスレイヤーは、剣が刃零れしてないのを確認すると、自身の剣帯にそれを刺した。持ってきた剣は、既に使えなくなり、一匹のゴブリンに投げていた。
「よし」
「よしじゃないですよ、ゴブリンスレイヤーさん……では」
神官娘はゴブリンスレイヤーの横を通り過ぎ、遺体の前で祈りを唱えた。その間、他のメンバーは周囲で警戒態勢を取っていた。ふとその時、上妖精弓手がゴブリンの死骸から矢を引き抜いて、腰の矢筒に戻していた。
それを見た鉱人術師がいぶかしんでいると、上妖精弓手が
「オルクボルグの真似じゃないわよ? 今回の依頼、結構長くなりそうだから、使えるなら再利用するだけよ」
と説明した。
確かに、地下水道の規模を考えると、まだ数多くのゴブリンが居ても可笑しくはない。だが
「じゃが、どうやって此処まで入り込んだんじゃ?」
「確かに、そうですね……一匹二匹なら、何処からか入り込む可能性は有りますが……この数となると……」
「街でも、女性が行方不明になった。なんて話は聞いてないわね……」
鉱人術師の疑問に、戦士娘と魔法使い娘は同意した。しかも、装備も整っていたことを考えると、何処か作為的なものすら感じる。
そして一党は、ある通路に入るとそこで簡易的だが食事を取ることにした。
「……此処までで、地図との違いは?」
「ふむ……途中、二ヶ所程通路が崩壊している所は有りましたが、それ以外は正確ですな……しかし、問題はこの先ですな……この広さから、貯水槽かと思いますが……」
ゴブリンスレイヤーの問い掛けに、蜥蜴人僧侶はそう言いながら、×と書き込んだ場所の後に、かなり広い場所を指差した。確かに、他の場所に比べてかなり広い。貯水槽と考えるのが自然だろう。
その時、上妖精弓手の耳がピクピクと動いて
「この音……上?」
と視線を上に向けた。すると、天井の隙間から水が垂れてきた。
「……地上で雨が降り始めたようだな」
剣舞士はそう言いながら、雑嚢から取り出したマントを羽織った。それに続くように、他のメンバーもマントを羽織り、更にゴブリンスレイヤーは灯りを松明からランタンに変えた。それを見た上妖精弓手が
「そう言えば、オルクボルグってランタン余り使わないわよね」
と疑問を口にした。確かに、思い出す限り、殆どの場合は松明だ。
「……松明ならば、棍棒代わりにも使えるし、火種にもなるからな」
ゴブリンスレイヤーはそう言って、ランタンを一党の中央に置いた。そして、食事が一段落した時、上妖精弓手の耳がピクピクと動き
「……水路、変な音がする」
と告げた。それを聞いて、ゴブリンスレイヤーと剣舞士が即座に立ち上がった。すると、鉱人術師がランタンを掴み
「かみきり丸!」
とランタンを、ゴブリンスレイヤーの方に投げた。ランタンを受け止めたゴブリンスレイヤーは、ランタンを腰の帯に固定。水路の方に出て、橋の中央に布陣。その両隣に剣舞士と蜥蜴人僧侶が布陣し、剣舞士の隣に戦士娘が布陣。ゴブリンスレイヤーの真後ろに神官娘が布陣し、その両隣に鉱人術師と魔法使い娘が布陣。魔法使い娘の横に、上妖精弓手が布陣した。
「近づいてくる……何、この音……」
上妖精弓手はそう言いながら、弓に矢をつがえた。その直後、一党の視界にそれは見えた。数多くのゴブリンが乗った、大きな船だった。
「ゴブリン!?」
「の!?」
「船!?」
上妖精弓手、鉱人術師、蜥蜴人僧侶が驚きの声を挙げた直後、その船から矢が一斉に放たれた。その矢は、神官娘が張った
「まず、一匹」
と言って剣を投擲。矢を射っていたゴブリンに指示を出していた、シャーマンの頭を貫いた。そしてゴブリンスレイヤーは、鉱人術師に
「術の用意だ」
「ほいさ!」
「穴を掘れ」
「街を崩すつもりか!?」
「上ではない、下だ……奴等を叩き落とす」
「下水の氾濫が起きるぞ!?」
「他の手!」
鉱人術師とゴブリンスレイヤーが口論している間に、上妖精弓手が矢を放ち、剣舞士は投剣を投擲し、更に数体倒した。するとゴブリンスレイヤーは、腰の雑嚢から手のひらサイズの陶器製の入れ物を取り出し、それを船の方に投げた。ゴブリンスレイヤーが投げたそれは、船の甲板で割れて、何やら赤黒い煙が広がった。
その数秒後、ゴブリン達が涙を流しながら目を抑えてのたうち始めた。どうやら、唐辛子等を擂り潰した粉末を積むた物で、目潰し用に作ったものだったらしい。
「うわぁ……」
その惨状に、上妖精弓手が引いていると、ゴブリンスレイヤーが船に跳ぼうとした。だが
「ああ、お待ちを」
と蜥蜴人僧侶が呼び止め、術で作った牙剣をゴブリンスレイヤーに渡した。
「お好みの刃渡りかと思いますが……ああ、出来れば投げずに」
「……努力しよう」
「先に行く」
剣舞士は短く言うと、戦士娘と一緒に船に跳び移って手近なゴブリンを数体切り殺した。それに僅かに遅れて、ゴブリンスレイヤーと蜥蜴人僧侶も船に跳び移って、戦闘を開始した。とはいえ、戦闘は一方的に進んだ。
四人はゴブリン達を切り殺すか、下水に蹴り飛ばして溺れさせた。その間に、上妖精弓手は矢を次々と放ち、そして鉱人術師が上に大きな岩を作っていた。石弾の呪文で数を作るのではなく、一個を大きくしたのだ。
これもまた、創意工夫になる。
「大玉、行きます!」
魔法使い娘の喚起を受けて、四人は船から通路に跳び移った。それを確認した鉱人術師は
「
その岩を、船に落とした。岩の直撃を受けた船は、真っ二つに折れて沈没。生き残っていたゴブリン達も、沈んでいった。それを確認した剣舞士は
「一度、ここから出よう……情報の整理と道具の補充をした方がいいと思う」
と提案した。それに同意するように、蜥蜴人僧侶も
「そうですな。それに、予想外の事もありましたからな。一度、態勢を整えた方がよろしいかと」
と告げた。それを聞いて、ゴブリンスレイヤーも頷いたので、一党は脱出するために出入口に向かおうとした。
だがその時、水路の水が大きく動いた。
「なに?」
それを不思議に思い、魔法使い娘が水路の方に顔を向けた。その瞬間、水中から白い巨体が姿を現した。
「なっ!?」
「走れ!!」
まさか、下水道にそんな存在が居るとは思わず、魔法使い娘は固まったが、すぐに剣舞士が肩に担ぐようにして走り出し、ほぼ同時にゴブリンスレイヤーが神官娘を、蜥蜴人僧侶が鉱人術師を脇に抱えて走り出した。
「まさか、こんな所に、沼竜が居るなんて!?」
「沼竜……アリゲーター!」
沼竜、アリゲーターは水中に沈んでいたゴブリンを食いながら、一党の方に向かってきている。
アリゲーターは水中のみでなく、地上でも活動が可能で、このままでは一党も食べられる可能性があった。その時
「つっ!? 前から、またゴブリンの船! それも、複数!!」
と上妖精弓手が報告してきた。つまり、挟撃になる。考える限り、かなり危機的状況だ。しかし、ゴブリンスレイヤーは冷静に
「……この先に、上に行き曲がる通路はあるか?」
と蜥蜴人僧侶に問い掛けた。蜥蜴人僧侶は、空いてる手で地図を開き
「ちょうど、この先に有るようですな!」
と告げた。それを聞き、ゴブリンスレイヤーは、脇に抱えていた神官娘に
「術の用意をしておけ」
と告げた。それから数分後、ゴブリン達が乗った船が三隻。貯水槽区域に近付いていた。ゴブリン達の視線の先には、明かりがユラユラと揺れている。それを見たゴブリン達は、ゲラゲラと嗤う。
あの先に、間抜けな冒険者達が居る。
男は殺して食べ、女は捕まえて、孕ませる。
さあ、俺達の楽しみの時間だ。
そうして、船が貯水槽区域に入った。その直後、船をアリゲーターが襲った。そのアリゲーターの尻尾には、奇跡による光があった。
そんな光景を、少し上の通路から見ていた一党は、船が全て沈んだのを確認してから、その通路を進み、出入口に向かった。
「……今回の依頼、長くなりそうだ……それに……嫌な予感もする……」
ゴブリンスレイヤーはそう言いながら、雨が降る空を見上げた。