「数を減らすわ」
そう言って構えたのは、魔法使い娘だ。魔法使い娘は、キッとゴブリン達を睨みつけて
「カリブンクルス」
とお馴染みの火玉の呪文の詠唱を始めた。だが
「カリブンクルス、カリブンクルス、カリブンクルス、カリブンクルス、カリブンクルス、カリブンクルス、カリブンクルス!!」
火の生成を意味する単語を、繰り返し唱えた。すると、空中に総計8個の火玉が現れた。それを確認した魔法使い娘は
「クレスケント、ヤクタ!!」
8個の火玉を、ゴブリン達目掛けて投射した。本来なら、1個でも広い空間を焼き尽くすことも可能な火玉。それを8個も生成し、放った。既に中に突入していたゴブリン達は、慌てて逃げようとしたが、時既に遅し。半数以上が焼かれ、更には残っていたドアに引火した。
「少し、やり過ぎたかしら……」
「いや……そうでもないようだ」
魔法使い娘が恐る恐ると言った様子で言うと、それを剣舞士が否定した。次の瞬間、燃えていたドアが大きく破砕された。破砕したのは、ゴブリンチャンピオンだ。
ゴブリンチャンピオンは持っていたゴブリンの焼死体を無造作に放り投げると、右手の棍棒を掲げて
「GOOOOOOOOB!!」
と吼えた。それに触発されたのか、それまで逃げようとしていた残存ゴブリン達が一斉に反転し、突撃してきた。
「矢避けを張れ」
「ええ」
剣舞士の短い指事を受けて、魔法使い娘は続いて
しかし、一人に集中していては、何時しか破綻するのが見えている。
それは魔法使い娘も危惧していた。だから新しい魔法を覚える時、矢避けを覚えたのだ。遠距離限定だが、魔法使い娘が防御を担えば、神官娘の負担が減るからだ。
「……斬り込むぞ」
「ああ」
「了解!」
「心得ましたぞ!」
ゴブリンスレイヤーが先頭を走り、僅かに遅れて剣舞士と蜥蜴人僧侶。最後に、戦士娘が斬り込んだ。
この一党だが、かなり前衛が充実している。戦士兼斥候のゴブリンスレイヤー。術も使える蜥蜴人僧侶。遊撃手の剣舞士。そして、修行中の身ではあるが、メキメキと力を付けつつある戦士娘。
その四人は駆け出すと、まず先頭に居た数体のゴブリンを切り捨てた。
四人だが、剣舞士が事前に用意し突き立てた武器を使って戦っていた。ゴブリンの数が多いために、一つの武器で戦うと、武器が損耗する。
そして当然ながら、損耗した状態で戦えば刃零れし、折れる。特に今回は、ゴブリン達がどれだけ居るのか分からない。
故に剣舞士は、次に槍を掴むと全身を使って槍を投擲した。剣舞士が投げた槍は、まるで飛燕を彷彿させる速さで飛んでいき、直線上に居た数体のゴブリンを容易く貫通し、床に突き刺さった。しかし剣舞士は止まらず、続いて大剣を掴む。そしてそこから、体をまるで独楽のように横回転させて、飛び掛かってきたゴブリン達を両断した。
次にゴブリンスレイヤーは、素早く足下の斧を掴み、正面のゴブリンの頭をカチ割り、次に投げて一匹のゴブリンの首を飛ばした。ゴブリンスレイヤーは、先に自分が殺したゴブリンが持っていた短剣を拾うと、また投擲。投げた短剣は、一匹の頭に深々と突き刺さった。
蜥蜴人僧侶は、両手に握った牙剣で次々とゴブリンを切り裂き、後ろから飛び掛かってきたゴブリンは、尻尾で床に叩き付けた。
最後に戦士娘は、手近な片手直剣を掴むと右から左に横凪ぎに振るい、一匹の胴体を両断。その勢いのまま体をクルリと回転させ蹴りを近づいてきたゴブリンに叩き込んだ。伝わる手応えで、ゴブリンの骨を折ったことが伝わってくる。嫌な手応えだが、最近は慣れてきた。
そこから今度は、剣で一匹の首を斬り飛ばす。
しかし、倒しても倒しても押し寄せるゴブリンの群れ。
「くっ……数が……!?」
「攻撃の手を緩めるな。チャンピオンならば、数は最大で50近くの筈だ」
戦士娘が歯噛みすると、剣舞士は片手曲剣で縦に真っ二つ。蹴りで首を折った。その間にゴブリンスレイヤーは、ゴブリンを殺しながらチャンピオンに接近。チャンピオンが振るった棍棒を回避し、胸部目掛けて剣を突き出した。タイミング的には、回避は出来ない。だがチャンピオンは、手近なゴブリンの一匹を盾にして防いでいた。戦慣れしたからこその業。捨て駒を盾にしたのだ。
ゴブリンスレイヤーは突き出すために大きく踏み出していて、体勢が変えられない。そこを狙い、チャンピオンは再度棍棒を振るう。そこに
「動くなよ……奥の一・改……斬鉄・閃」
剣舞士が大きく踏み込み、ゴブリンスレイヤー目掛けて振るわれた棍棒狙いに、抜刀術の要領で刀を抜いた。この時戦士娘には、三日月が飛んだように見えた。
その三日月がゴブリンスレイヤーとチャンピオンの間、棍棒をすり抜けた直後、棍棒が真ん中から割れた。
先端部はクルクルと回りながらゴブリンスレイヤーの横を通りすぎ、途中のゴブリン達の頭を粉砕しながら奥に向かって飛んでいき
「伏せて!」
「きゃあぁ!?」
上妖精弓手が神官娘を押し倒すと、二人の頭上を棍棒が通過。一つの石棺を破砕してから、床に突き立った。
「ちい……やはりこの技は、負担が大きいか……」
剣舞士のその言葉を聞いた戦士娘は、刀が落ちたことに驚き、剣舞士の腕を見た。鎧越しに分かる程に、剣舞士の右腕が震えていた。
「師匠!?」
「構うな!」
しかし剣舞士は、左手で近くの剣を掴んで戦闘を続行した。しかし、そこに
「GOOOOOOOOB!?」
と悲鳴が轟いた。見てみれば、チャンピオンの右目に拳を叩き込んでいた。剣はどうやら、直前で別のゴブリンの頭に叩き付けて、折れたようだ。
「よく見ろ、ゴブリン……! 今から、お前達を殺す存在だ……!!」
ゴブリンスレイヤーは、執念の声を漏らしながら、更に抉る。チャンピオンはその痛みに絶叫しながら、激しく身悶えした。
それにより、壁や柱に打ち付けられるゴブリンスレイヤー。だがゴブリンスレイヤーはそれでも離れずに、チャンピオンを倒すために更に深く手を突き込もうとした。しかし、その直前。滔々チャンピオンがゴブリンスレイヤーを叩き落とすことに成功。ゴブリンスレイヤーは、床に激しく叩き付けられた。
「ガハッ」
「ゴブリンスレイヤーさん!?」
チャンピオンの膂力で床に叩き付けられたゴブリンスレイヤーは、口から血を吐き出した。どうやらまともに受け身も取れず、内臓にダメージを負ったようだ。
それでもゴブリンスレイヤーは、近くにあった剣を杖代わりにして震えながら立ち上がり
「次は……お前か……!?」
と別のゴブリンを睨んだ。最早、立っているのもやっとという有り様だが、ゴブリン達はゴブリンスレイヤーの気迫に呑まれていた。しかもボスたるチャンピオンは、傷口を抑えて弱々しい声を漏らしながら、逃げていく。
そこからは、あっという間だった。
ゴブリン達は、我先にと逃走を開始。部屋に残されたのは一党とゴブリン達の骸だけになった。
ゴブリンスレイヤーはヨロヨロとしながらも、死んだ振りをしているゴブリンが居ないか確認しようとしたが、前のめりになり、倒れる直前に上妖精弓手が支えた。
「無理しないで、オルグボルグ……さっき叩き付けられた時、碌に受け身取れなかったでしょう……変な音が聞こえた」
「……助かる……」
「フェイヒリッターは?」
上妖精弓手が視線を向けると、右腕をダラリと下ろした剣舞士が
「……右腕が少し使い物にならないだけで、ダメージは無い」
とだけ答えた。
すると、蜥蜴人僧侶が
「先程は、何をしたのですかな? 剣舞士殿からチャンピオンまでは、軽く10mは離れていた筈ですが、気付いたらチャンピオンの得物が断たれていた」
と問い掛けた。
「……あれは、斬撃を飛ばしたんだ……だがあの一撃を放つのに、短時間だが肉体的制限を外す必要がある……」
「肉体的制限って……」
「ふん……右腕は今、疲労骨折といったところか……」
そう言いながら剣舞士は、右腕に視線を向けた。
本来人間は、本来の力の約三割程しか使えない。その理由は、自身の体を守るためだ。だから脳が、体に制限を掛けているのだ。全力を使うことで、体が壊れるのを防ぐために。
そしてどうやら、剣舞士は自力で肉体的制限を外せるようだ。
「ゴブリンスレイヤーさんも剣舞士さんも、一度治療してから地上に戻りましょう」
神官娘はそう言って、ゴブリンスレイヤーに駆け寄った。その直後、ゴブリンスレイヤーの足から力が抜けて膝を突いた。
「オルグボルグ!?」
「ゴブリンスレイヤーさん!?」
上妖精弓手と神官娘が呼び掛けるが、返事はなかった。