それは、過去の記憶だった。彼、ゴブリンスレイヤーがまだ幼かった頃のことだ。ゴブリンスレイヤーは姉と二人でその村に住んでいて、牛飼い娘が幼馴染みだった。
ゴブリンスレイヤーは冒険者に憧れ、牛飼い娘は街に憧れていた。そんなある日、ゴブリンスレイヤーと牛飼い娘は些細なことでケンカしてしまい、牛飼い娘はそのまま街に行ってしまった。その日の夜、悲劇が起きた。
その村にゴブリンの群れが襲撃し、ゴブリンスレイヤー一人を残して全滅した。ゴブリンスレイヤーは姉から教わったことを思い出しながら脱出を目指すが、ゴブリンに見つかり、危機に陥った。そこを助けたのが、ゴブリンスレイヤーの師匠となる年老いた圓人だった。
そこから、ゴブリンスレイヤーの修行が始まった。
その師匠から、様々なことを習った。失敗を恐れるな、失敗から学習しろ、気になったことは調べて覚えろ、そして、考えることを止めるな。
それらが、今のゴブリンスレイヤーの基礎となっている。
そこで、ゴブリンスレイヤーの目が覚めた。
そんなゴブリンスレイヤーの視界に入ったのは、白い天井。
「……ここは……」
現状を把握するためにゴブリンスレイヤーは、上半身を起こしたのだが、隣には一糸纏わぬ姿の神官娘が寝ていた。
とりあえずゴブリンスレイヤーは、彼女を起こさないようにゆっくりと離れてから、彼女にシーツを掛け、ベッドの淵に腰かけた。
そこに、ドアが開き
「あら、目覚めたようですね」
と剣の乙女が入室してきた。そこからゴブリンスレイヤーは、今居るのが教会だと察した。そうして、剣の乙女はゴブリンスレイヤーの隣に腰掛け
「如何でしたか、清らかな少女との同禽は」
「……処女同禽の奇跡……
「あら、ご存知だったんですね……」
ゴブリンスレイヤーが言い当てると、剣の乙女は少しつまらなさそうにした。
その効果は、死者ですら復活させることが出きる(遺体が激しく損傷していないことが条件)程だ。
そう、ゴブリンスレイヤーはゴブリンチャンピオンに叩き付けられたダメージが余りにも大きく、瀕死の重傷に陥っていたのだ。
それに気付いた神官娘は、回復の術を掛けながら急いで脱出を促し、蜥蜴人僧侶がゴブリンスレイヤーを背負って走り、上妖精弓手と剣舞士(片手で)が殿。戦士娘と鉱人術士が前に立って確認。魔法使い娘が真ん中で支援という布陣で脱出を開始。
不期遭遇することもなく地下から脱出。神殿に駆け込み、ゴブリンスレイヤーを今居る部屋で運び込み、蘇生を試みたのだ。
その結果、ゴブリンスレイヤーは見事に復活したのである。
「以前に、話だけは聞いていた……」
ゴブリンスレイヤーは調子を確かめるために体を動かしながら、剣の乙女にそう返答した。
「今回の費用は、与えられる予定の報酬からの天引きということになりますが……」
「協定通りで構わない……」
協定というのは、冒険者ギルドと各宗教の間で交わされたもので、その中には蘇生に関する取り決めもあった。
蘇生は処女と共に寝なければならないので、教会側は必ず一人は処女が教会に居る必要がある。
そして冒険者側は、教会側に費用を支払うとなっており、その費用は報酬から天引きすると決められている。
「私は処女ではないので、そちらの神官さんに一緒に寝てもらいましたが……」
そう語りながら、剣の乙女は目元を覆っていた布を外した。その下、つまりは両目は火傷の跡があり、光は失われていた。そして、カタカタと僅かに震えているのが、ゴブリンスレイヤーにも分かった。
そこからゴブリンスレイヤーは、思考を巡らせて
「……ゴブリンか……」
と呟いた。その言葉に、剣の乙女は頷き
「ええ……もう、何年も前のことになります……その時の私は、まだ新人の冒険者で……仲間と一緒にあるクエストに行ったんですが……」
そこで剣の乙女は止めたが、ゴブリンスレイヤーには予想がついた。ゴブリンの奇襲にあい、敢えなく彼女以外は全滅。彼女はゴブリンに凌辱され、更にはゴブリンからしたら戯れで、目を焼かれたのだろう。そしてそれが、剣の乙女にとってトラウマになってしまい、今回の依頼の要因の一つなのだと、ゴブリンスレイヤーは察した。ゴブリンスレイヤーが思考している間に、剣の乙女は布を再び目元に巻いている。そして、立ち上がると
「では、私は自室に戻ります……貴方の装備は、そちらに置いてあります」
と言って、部屋の一角を指差した。ゴブリンスレイヤーが見てみると、確かにそこにはゴブリンスレイヤーの装備一式が置いてある。その隣には、神官娘の装備もあった。
「一応、近くの部屋に他の神官も待機しています。もし、体の調子が悪かったら、言ってください。それでは」
剣の乙女はそう言うと、部屋から去った。すると、ドアが閉まって少ししてから神官娘とポヤーという表情で起き上がって、ゴブリンスレイヤーに気付くと
「あ、ああああ、あの……見ました?」
顔を真っ赤にしながらずり落ちていたシーツで、胸元を隠した。彼女が言いたいのは、彼女の裸体を。ということだろう。ゴブリンスレイヤーは、肌着を着て、神官娘の分の装備をベッドに置いてから
「いや……」
とだけ呟いた。そこから二人は、装備の装着を始めたのだが
「ゴブリンスレイヤーさん……無理、してませんか?」
と神官娘が問い掛けた。
「いや、していないが……」
「それならいいんですが……でも、もっと私達を頼ってください……今の貴方は、一人じゃないんですから」
「ああ、分かった……」
短い言葉だが、神官娘は安心したのか表情が和らいだ。そして装備の確認が終わると
「ゴブリンスレイヤーさん、お身体は大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない……他のメンバーは……」
とゴブリンスレイヤーが問い掛けた時、何やら廊下から騒がしい声が聞こえ始めた。すると
「二人が居るのは、ここね!!」
と上妖精弓手が、ドアを一気に開け放った。
「ちょっ、いきなり過ぎですよっ」
「もう少し、静かに……」
そんな上妖精弓手を、戦士娘と魔法使い娘が嗜めたが、上妖精弓手は部屋に入り
「あ、居た居た! オルクボルグ、大丈夫?」
とゴブリンスレイヤーに歩み寄った。その後に、他のメンバーも入ってきたが、その中に右腕を三角巾で吊った剣舞士の姿もあった。
「お前は、大丈夫か?」
「問題ない。回復の術を掛けてもらい、今日一日休めば、戦闘に支障は出ない」
ゴブリンスレイヤーの問い掛けに、剣舞士は視線を右腕に向けながら答えた。よく見れば、右腕の装備は外して、腰に引っ掛けてある。
「おう、かみきり丸! 目覚めたんなら、飯食いに行くぞ!」
その一言で、一党の一日が始まった。