剣舞士が駆け出した数瞬後、ケルベロスが剣舞士に気付いたらしく、雄叫びを挙げた。その次の瞬間、ケルベロスの姿が消えて、剣舞士は黒刀を逆手持ちで抜刀し、頭上に掲げた。その直後、激しい火花が散った。
それは、ケルベロスの爪による一撃を黒刀で防いだからだ。
剣舞士は直ぐ様、餓狼をケルベロスに突き出すが、ケルベロスは空中で身を捻って回避。そのまま柱に着地すると、その身を横回転させながら剣舞士に突撃してきた。
剣舞士は体を大きく後ろに反らして回避したが、右頬から出血した。
「なっ!? 今のは、回避しきった筈なのに!?」
「攻撃が、見えなかった?」
「ううん……あいつから、凄い風の音が聞こえる……暴風なんて生易しいレベルじゃない……嵐よ……それも、特大の嵐レベルの風を、あいつは纏ってる!」
「なるほどの……戦術級とは、よく言ったものじゃ……」
「ですな……あれ一体で、並の軍隊なら確実に大規模が壊滅的大打撃を受けるでしょうな……あのようなモノまでもが、呪装具とは……」
自律型戦術級呪装具、その意味を理解して彼らは戦慄した。自ら考え行動し、更に強力な能力を駆使して非常に高い戦闘力まで有している。
「だったら、私達も加勢した方がいいのでは……」
「いや……それは、悪手だ……下手したら、剣舞士の足を引っ張ることになる……」
神官娘の言葉をゴブリンスレイヤーは否定しながら、戦域を指差した。剣舞士とケルベロスの戦いは、既に常人の域を越えていた。
風で加速しているらしいケルベロスは、最早空中を駆けており、それを追い掛ける剣舞士は餓狼の身体強化を最大限発揮しているようで、残像を幾つも残しながら壁や天井を駆けていた。
「なんて、戦い……」
「しかし、あんな戦い……長時間続くわけが……」
魔法使い娘と神官娘が驚いている中、戦士娘は気付いた。時々、壁や柱に火花が走ることに。そこは、剣舞士が走った場所。
「……何かを、狙ってる?」
戦士娘がそう言った直後、剣舞士が着地した。そこを狙い、ケルベロスが咆哮を挙げながら突撃してきた。その直後、剣舞士が黒刀を床に突き立てた。その瞬間、ケルベロスに多方向から様々な色の刃が伸びた。
「……八色刃……散華」
「あれは……様々な属性の魔法の刃……?」
最初に気付いたのは、魔法使い娘だった。ケルベロスに次々と襲い掛かる魔法の刃。普通ならば、空中に居るケルベロスに回避する術は無い。だがケルベロスは、風を鎧のように纏ってその尽くを防ぎきる。
「あれだけの攻撃を!?」
「まあ、予想通りか……だが、これはどうかな……地隆槍・貫」
剣舞士はそう言って、更に黒刀を深く突き刺した。その直後、床が鋭く隆起して、ケルベロスに襲い掛かる。その地の槍は、確かに風の鎧を貫通した。
だがケルベロスは、その名の由来を晒す。
それまでは首は一つだったが、肩付近の装甲が動き、頭に変わる。その二つの頭の口が開き、雄叫びを挙げたかと思ったら、地の槍はバラバラに裁断された。
「ちいっ!? 予想より高い出力の鎌鼬だな!?」
鎌鼬は予想していたらしいが、裁断されるとは思っていなかったらしい。舌打ちした剣舞士は即座に黒刀を床から抜いて
「目覚めろ……黒翼」
と呟いた。その直後、剣舞士の全身から凄まじい圧が放たれた。否、正確にはその鎧からだ。
「まさか……あの鎧も呪装具!?」
「幾つ持っとるんじゃ、あやつは」
上妖精弓手と鉱人術士が話している間にも、剣舞士が纏っている鎧から、凄まじい圧が放たれている。すると、戦士娘が
「まさか……あの鎧も、戦術級呪装具?」
と呟いた。その直後、凄まじい音と共に剣舞士の姿が消えた。そこからは、一党には音と火花しか見えない。そこから予想出来るのは、今剣舞士とケルベロスは視認出来ない速度で戦っているということだけ。
「駄目じゃ……ワシらじゃどうにも出来んわ」
鉱人術士がそう言った直後、一際大きい音が鳴り響いて、剣舞士とケルベロスの姿が現れた。その瞬間、剣舞士の肩から激しく血が噴き出した。
「ぐっ」
「師匠!」
剣舞士を心配してか、戦士娘は飛び出そうとした。しかしそれは、蜥蜴人僧侶に止められた。ケルベロスが一党の方に向いていた。だが
「駄犬……余所見をしている場合か……お前は、俺の一撃を喰らってるんだぞ」
一度は膝を突いた剣舞士だったが、剣舞士はユラリと立ち上がって黒刀を向けた。よく見れば、ケルベロスの真ん中の頭の額に切り傷があった。
「忌剣……揚羽」
剣舞士はそう言って黒刀を鞘に納めた。その直後、ケルベロスが内側から血を噴き出して倒れた。
「……まさか、対魔防御を有するとはな……対物理はなかったようだが……だが装甲は堅くとも、内側からは弱いだろう……衝撃波の内部増幅……これは、一ヶ所に切り傷さえ出来れば、そこから衝撃を流し込み、堅牢な装甲を使って衝撃を反射させて、増幅させる……貴様のような相手専用の技だ……」
剣舞士が倒したのを確認し、一党は中に入った。そして、血を流して倒れてるケルベロスを見て
「こんな呪装具があるなんて……」
「本当、あんたが関わった戦争はどんな規模だったのよ……」
「しかし、一体どんな素材を……」
素材が気になったのか、戦士娘は動かなくなったケルベロスに近づいた。すると、剣舞士は
「それの素材は……」
と言って、胴体の一ヶ所を斬った。そうして中を見た一党は、思わず息を飲んだ。
そこに見えたのは、最早骨と皮のみと言える程に痩せ細った子供の姿があった。
その子供は頭を切り開かれて、脳には針が刺さり、口には太い管がくわえさせられていた。
「……宗教側からしたら、異端者の子供……それの命をエネルギー源にして動いている……」
「うぶっ……おぐっ」
「つっ! 下がって……一旦全部吐いてから、水で口をすすいで」
神官娘が吐き気を覚えたことに気付き、それを魔法使い娘が下がらせた。
その間に剣舞士は、その子供の胸部に刀を突き立てた。
「こうなったら……楽にしてやるしかない……助けることは出来ない……」
そう語る剣舞士は、どこか泣いているように、戦士娘には見えたのだった。