スクロール「解せぬ」
一党が準備を進めているなか、剣舞士がゴブリンスレイヤーに近寄り
「何か、策が有るようだな」
と問い掛けた。
「ああ、ある……」
ゴブリンスレイヤーは短く答えながら、雑嚢に手を入れてゴソゴソと何かを探してから
「確認するが、ここはもう街から離れているんだな?」
と鉱人術士に問い掛けた。すると鉱人術士は、武器を配置しながら
「そうさな。かなり歩いたし、街から離れたのは確実じゃな。感覚的には、野原辺りではないかの?」
と首を傾げた。地下に居るために、方角までは分からないようだ。
そうしてゴブリンスレイヤーは、蜥蜴人僧侶に
「確か、
「然り然り。そこらの岩石ならば、持ち上げて投げられる程に」
ゴブリンスレイヤーからの問い掛けに、蜥蜴人僧侶は快活そうに答えた。すると、ゴブリンスレイヤーは鏡を見て
「それを発動し、アレを外してくれ」
と鏡を指差した。
「む? あの鏡を取り外すのですかな?」
「ああ……あれが、ある意味切り札になる」
「承りましたぞ。それと、竜牙兵も出しますかな?」
「頼む……後衛組を守ってやってくれ」
「承知しましたぞ」
ゴブリンスレイヤーの指示に頷くと、蜥蜴人僧侶は触媒を使って竜牙兵を召喚した。その直後
「来るわよ! 正面から大量に!」
上妖精弓手がそう言いながら、矢をつがえた。
「配置に着け」
ゴブリンスレイヤーの短い指示に従い、一党は事前に決めた配置に着いた。最前衛に、ゴブリンスレイヤー、戦士娘、白雪。中衛に鉱人術士。後衛に、蜥蜴人僧侶、魔法使い娘、神官娘、剣舞士。となっている。
剣舞士は以前使った緑色の弓を展開し
「銘解放……空牙」
と呟いた。すると、剣舞士の周囲に風が集まり始めて、幾つかの風による矢を形成した。
「それ、確か……ゴブリンロード戦の時にも使ってたわね……」
「ああ……弓型の呪装具……名を空牙。能力は風を操るというシンプルな物だが、使い手のイメージ次第でこのように矢にしたり、移動時の加速に使えたりする……」
上妖精弓手の問い掛けに、剣舞士はそう答えたが、敢えてデメリットは言わなかった。そのデメリットとは、使い手の周囲の空気が薄くなるのだ。大体、高度4000m級の山に登った位の薄さになる。だから剣舞士は、他とは少し離れた位置に居る。
そして、開戦の合図になったのは、上妖精弓手が放った矢だった。上妖精弓手が放った矢は、飛燕の如く飛んでいき、容易く一体のゴブリンを貫いた。
それに続き、魔法使い娘が
「カリブンクルス、カリブンクルス、カリブンクルス、カリブンクルス、カリブンクルス、カリブンクルス……クレスケント……ヤクタ!!」
計六つの炎の球を形成し、放った。放たれた炎の球は複雑な軌道を描きながら飛翔し、通路に飛び込むと、一気にその威力を解放した。通路一杯に広がる炎。それを見たからか、白雪が床を足でダンッと力強く踏みつけた。その瞬間、講堂の入り口を塞ぐように氷の壁が造られて、炎を受け止めた。
魔力で形成されたとはいえ、氷は氷。灼熱の炎に焼かれて、少しずつ溶けていく。
だが氷の壁は、最後までその役割を全うした。炎が消えるまで氷の壁は維持され、一党を炎から守りきった。
その時、通路一杯に広がった炎を見て、魔法使い娘が
「ふむ……これは使えるわね」
とニヤリと笑っていたが、誰も気付かなかった。
それはさておき、薄くなった氷の壁に次々とゴブリン達が取り付き、破砕を始めた。だが、それとは違い
「つっ! 横の穴から、ゴブリン達が来るわ!!」
と上妖精弓手が、旧上水道らしい穴に矢を放った。そこからゴブリンが現れた直後、上妖精弓手が放った矢が命中した。実は今居る講堂には、幾つかの道があり、一番大きな道は一党も通った道だが、他に大小合わせて複数ある。主道はまだ突破されていないが、他の道から続々とゴブリン達が現れては侵攻してきた。
「はあっ!」
「ふっ!」
戦士娘は最初に持っていた剣で一体のゴブリンの頭をかち割り、更には横から来たゴブリンの首に蹴りを叩き込む。ゴブリンスレイヤーは剣を相手の胴体に叩き込み両断し、更に首を切り飛ばすと、その剣を投げて頭に突き刺し、次の剣を取った。
そうして白雪は、両手に形成した氷の剣で次々とゴブリンを撫で斬りにしていき、飛び掛かってきたゴブリンを見ると、力を発動。そのゴブリンは空中で凍り、砕けた。凍らせる能力は単純だが、非常に強力だろう。
なにせ、視線の範囲ならば何でも凍らせられるのだから。
「右から三体! 左から二体来ます!」
「忙しいわねっ!」
神官娘が告げる度に、上妖精弓手が弓を放って撃破していく。その時
「氷が、突破される!」
と戦士娘が声を挙げた。その直後、ゴブリンチャンピオンにより氷の壁が破壊された。その手に持つのは、巨大な棍棒。何処かの柱をへし折ったと言われた方が納得出来る太さだった。
「鏡はどうだ!?」
「中々外れませんな……一体、どうやっているのか……」
「私も手伝います!」
ゴブリンスレイヤーが問い掛けると、蜥蜴人僧侶は首を振ってから困ったように鏡を見つめ、神官娘が錫杖を引っ張ったことで出来たらしい隙間に差し込み、テコの原理で力を入れ始めた。下手したら錫杖が折れるが、今はそんなことを気にしている余裕は無かった。
そして蜥蜴人僧侶は、身体強化の術を更に強め、鏡を取り外そうと力を込めた。
それを確認したゴブリンスレイヤーは、ゴブリンチャンピオンと相対し、構えた。
そのゴブリンスレイヤーに気付いたのか、ゴブリンチャンピオンは怒りに燃えた雄叫びを挙げた。どうやら、石棺室でのことを思い出したようだ。
しかし、ゴブリンスレイヤーは気にした様子もなく
「来い、ゴブリン共……!」
呟くように、そう告げた。そうして、主道から殺到してくるゴブリン達。しかし、雑兵はゴブリンスレイヤーに近づけない。何故ならば、その悉くが、戦士娘と白雪に倒されていたからだ。
二人はまるで、踊るかのように、入れ替わり立ち替わりに位置を変えてゴブリン達を撃破していく。
それに驚いていたのは、戦士娘だった。
(何でだろ……彼女の動きの先が、分かる……どうすればいいのか、分かる……!)
事実、今白雪が大きく跳んだ直後、戦士娘は体をまるで独楽のように回転させ、周囲から包囲する形で接近してきていたゴブリン達を次々と両断していく。
そして砂埃を上げながら戦士娘が止まると、数体のゴブリンが手に武器を持って飛び掛かった。
だがそれらは、上から降り注いだ鋭利な氷柱の雨で串刺しにされる。
白雪の能力で形成した氷柱である。
その氷柱を足場にし、戦士娘は後方で弓を構えていたゴブリンに槍を投げた。全身を使って投げられた槍は、一筋の流星のように飛翔し、容易くそのゴブリンを貫いた。
「誰か、矢!!」
その言葉が聞こえた戦士娘は、貫いた拍子に落ちた矢筒を拾い
「鉱人術士さん!」
と鉱人術士の方に、大きく投げた。矢筒を受け取った鉱人術士は、その矢筒を上妖精弓手へと投げ渡した。
そこに、見えない矢が飛来し、ゴブリンを細切れに切り刻んだ。
剣舞士の風の矢である。
不可視の矢が走る度に、ゴブリン達が肉片に変わっていく。だが、まだゴブリン達の侵攻は止まらない。
「一体、どれだけの数が、ここに居るのよ!?」
「口じゃなく、手足を動かして!」
戦士娘の愚痴に、魔法使い娘が反論しながら矢避けの魔法を発動。更に、右手に持っていた投石紐で石を飛ばしていく。
「鱗の! まだかいの!?」
「もう一息ですぞ!」
鉱人術士の呼び掛けに答えた直後、鏡が破砕音を響かせながら壁から外れた。
「ゴブリンスレイヤー殿! 外れましたぞ!」
蜥蜴人僧侶の声を聞いたゴブリンスレイヤーは、右手に持っていた剣をチャンピオンに投擲。それをチャンピオンが防いだ瞬間、左手に装備していた盾の渕でチャンピオンの指を切断。チャンピオンが痛みで怯んだ瞬間、戦士娘と白雪に
「あの鏡の場所まで後退しろ!」
と指示を飛ばした。
それを聞いた戦士娘と白雪は、適度に切り上げて後退を開始。その援護を剣舞士と上妖精弓手が開始し、戦士娘は途中で新たに矢筒を拾うと鉱人術士を介して上妖精弓手へと送った。
その間に蜥蜴人僧侶は鏡を竜牙兵と一緒に、鏡面を上にして持ち上げた。
すると、神官娘が
「いと慈悲深き地母神よ。迷える我らの為に、その光をお恵みくださいませ……聖光!」
光の奇跡を発動し、ゴブリン達の目を潰すと同時に動きを止めた。その間に、全員が鏡の下に集結。それを確認したゴブリンスレイヤーは、雑嚢から一つのスクロールを取り出して紐をほどきながら、そのスクロールを天井の方に向けた。
そうして、スクロールが開ききった直後に、天井に穴が空き、そこからヒビが全体に広がった。
それを見たゴブリンスレイヤーは、鉱人術士に
「落とせ!」
と短く指示を出した。
「土精や土精、バケツを回せ、ぐんぐん回せ、回して離せ!
ゴブリンスレイヤーの指示に従い、鉱人術士は降下の術を発動させ、砕けた天井を落とした。
落とした天井は大小様々な礫となって、ゴブリン達に降り注ぐ。
後日、水の都から離れた場所に新たに湖が出来ることになる。