水の都から少し離れた野原、そこに大きな窪みが出来ていた。そこの底から、数人が這うように姿を現し
「全くもう……! 何を考えてるのよ、オルクボルグ!」
「こんなことだが……」
「ぶっ飛ばすわよっ……!」
「はぁ……びっくりしました……」
「びっくりしたで済むの!?」
「いや、もう、慣れたというべきか……」
「慣れるしかない……が正しいわね……」
上から、上妖精弓手、ゴブリンスレイヤー、神官娘、戦士娘、魔法使い娘である。そこに、白雪に支えられながら剣舞士も現れて
「この匂い……海水か?」
と首を傾げた。
「ああ……《転移》のスクロールの先を、知り合いに頼んで深海の底に固定した。その圧力を使い、水を超高圧で放った……」
「ウォーターカッターか……」
「ウォーターカッター?」
「ああ……水を超高圧で放つことで、理論的にはほぼ何でも切断出きる刃物になる……それで、地表まで穴を穿ったんだな……」
剣舞士はそう言って、岩に腰掛けた。どうやら、黒翼の反動が辛いらしい。そして神官娘は、前に西の街で
「いやはや……しかし、腰に来ましたな……」
「こいつ、相当重かったからのう……お疲れ様じゃて」
蜥蜴人僧侶は、持ち上げていた鏡を置くと腰と肩を叩いたり、軽く動かし始め、鉱人術士はそんな蜥蜴人僧侶を労った。
「ゴブリンスレイヤーさん……この鏡、どうするんですか?」
「……」
少し時は経ち、教会の中庭。そこに、彼女。剣の乙女が居た。彼女は布に覆われたその両目で、月を見上げていた。その時、彼女は覚えのある足音を耳にし
「あら、ゴブリンスレイヤーさん……でしたか?」
「ああ……少し前に、依頼は終わった……その報告に来た」
剣の乙女が首を傾げながら問い掛けると、ゴブリンスレイヤーは頷きながら肯定した。そしてゴブリンスレイヤーは、少し間を置いてから
「今回の小鬼災禍……お前が関わっているな?」
と問い掛けた。同時刻、教会から少し離れた場所。
「え……今回の小鬼災禍に、剣の乙女様が関与していた!?」
「ああ……まあ、間接的に、だろうがな……」
剣舞士の推理を聞いた神官娘は、驚愕していた。
「その考えに至った理由は?」
「今回の依頼、色々と不審な点がある……」
上妖精弓手からの問い掛けに、剣舞士はそう言ってから幾つかを箇条書き形式に挙げ始めた。
1、見つかった少女の遺体。
2、ゴブリン達はどうやって鏡の使い方を知ったのか
3、ゴブリン達はどこで、船を入手。または作り方を知ったのか
4、あの沼竜は、どこから入ったのか
5、ゴブリン達はどうやって、地上に出たのか
「まず、ゴブリンが殺したとされる少女……詳しく聞いた話によれば、一撃で殺されていたらしい……凌辱された形跡もなく……それがまずおかしい……もしゴブリンが殺したのならば、食料に持っていった筈だ……俺達が調べた範囲で見つけた食料は、あの数にしては明らかに少なかった……」
「確かに……見つけて、壺が三つってところだったわね……」
「けど、消費したのでは?」
「にしても、残っていた壺の数も少なかった……それを合わせても、10というところ……あのチャンピオンが、多く食べるだろうに、少な過ぎる……」
「そう言われると、納得ですな」
剣舞士の推察に、蜥蜴人僧侶が納得した様子で頷いている。彼も大柄な体格で、酒場でもよく食べる。チャンピオンの体格はそんな蜥蜴人僧侶より大きいので、消費する量は多いのは明白だ。
「次に、ゴブリン達があの鏡の使い方を知る方法……偶然も考えられるだろう……偶々、あれに触れて、その先に転移した……だが、もし教えた者が居たら? 実はあの祭壇に至る道の途中で、こんなマークを見つけた」
剣舞士がそう言って掲げたのは、一枚の羊皮紙。その羊皮紙には、不思議な模様が描かれていたのだが、それを見た神官娘が
「それは……覚知神の紋様……!」
と驚いていた。やはり、宗教に関わっているだけに、知っていたようだ。
「覚知神は知識を司る神ですが、その属性は邪に属します……ある日に、ふと世界に災いを起こしたらどうなるのか、とか考えた者に、その方法を教える……そうやって、災禍を引き起こすと聞きます……」
「実は、俺はそこの二人に頼み、情報を集めてもらった……その中で、怪しい奴がこの水の都に入り、更には地下のことを調べていた。という情報を得ていた……」
神官娘の話を聞いた剣舞士は、魔法使い娘と戦士娘を見ながらそう告げた。
「つまり、そいつが鏡の使い方を教えた……?」
「十中八九な……更には、船に関する知識も同じだろう」
確かに、そう考えたほうが納得出きる。
「次に、どうやって地上に出たのか……これは、俺が独自に調べた情報からだが……下水道を登ってきた可能性が高い」
「下水道を?」
剣舞士の話を聞いて、魔法使い娘が首を傾げた。
「ああ……例の女性を襲ったというゴブリンが現れた二日後、その近くの下水道が詰まったから、その原因を取り除いてほしい。という依頼がもたらされた……調査の結果、布が詰まっていたことが分かった……」
「つまり、ゴブリンが布を詰め込んだ?」
「恐らくな……流れが弱いタイミングで詰め込み、そこを通って地上に出た……」
「なるほど……」
「それならば、確かに地上に出れますな」
「そして、最後にあの沼竜だが……あれは、使徒だろう」
「あ! お話に聞いたことあります! 高位の神官になると、神の使いたる使徒を呼べると!」
剣舞士に同意する形で、神官娘が手をポンと叩いた。余り数は多くないが、高位の神官は神の使いたる使徒を使役出きるのだ。
「どうやら、姿は千差万別のようでな……ただ特徴として、白いのが特徴らしい」
「そういえば、あの沼竜は白かった……!」
「なるほど……そうなれば、この街で一番高位の神官たる剣の乙女殿ならば、確実に使役を呼べるでしょうや」
剣の乙女は、最高司祭となっている。彼女ほどならば、使徒を呼んでいない訳がない。
「剣の乙女は恐らく、あの沼竜を使って、できるだけゴブリンが地上に出ないようにしていただろう……しかし、あまりにも数が多いために、対症療法しか出来なかった……根本的に解決するには、殲滅し、尚且つゴブリン達が地下に現れた原因を排除する必要がある」
「それで、我々を呼んだ……と?」
蜥蜴人僧侶が首を傾げると、剣舞士は頷いて
「まあ、全ては集めた情報から推測したに過ぎないがな……」
「まあ、多分合ってるんじゃないかしら? ああいう立場になると、迂闊に動けなくなるらしいしね」
「身分が高いと、苦労することもあるんですね……」
と一党が会話していると、教会の方から耳慣れた足音がし始め、全員が視線を向けると、ゴブリンスレイヤーが歩いてきていた。
「お帰りー!」
「おかえりなさい、ゴブリンスレイヤーさん。報告は済みましたか?」
「ああ……明日の昼頃に、馬車を用意してくれるらしいから、それで西の街に帰ることになる」
「そんじゃま、宿屋に戻るとするかの」
鉱人術士の言葉に同意するように全員は頷き、宿屋に向けて歩き出した。すると、戦士娘が
「あの、師匠……」
と剣舞士に声を掛けた。
「どうした?」
「実は、あの戦いで白雪殿と一緒に戦った際に白雪殿の動きの先が読めたんですが……どうしてでしょうか……」
「ああ……それは恐らく、白雪の格闘戦技が俺が教えたものだからだろう……」
「つまりは、私の姉弟子……ということですか?」
「そうなるな……動きの端々に、似た動きが有ったから、予想出来たんだろうな……」
「なるほど……」
剣舞士の説明に納得した戦士娘は、小さく頷いた。そして翌日、一党は用意された馬車に乗って、西の街に戻っていったのだった。