水の都から帰ってきて、約二週間後。
ギルド・武器屋の工房。そこに、剣舞士の姿があった。剣舞士は眼鏡を掛けて、右手に木槌、左手に
「ふむ……完成だな」
と呟いて、その鎖帷子を置いた。すると、後ろに居た工房長が
「それで、魔法使いが装備しても魔法の威力が変わらないのか」
と関心した様子で、鎖帷子を持ち上げて、目を細めて見つめた。遠目から見ると分からないが、よく見ると鎖のひとつひとつに何らかの印が刻印されている。
「ああ……確かに、ミスリル以外の金属だと、魔法使いの魔力の外への流れが阻害され、威力が落ちる。しかし、その加工を施すことで阻害されなくなり、威力が落ちなくなるんだ」
「ほう……なるほどの……」
気付けば、工房長だけでなくその弟子も鎖帷子を見つめている。
「それに、ミスリルは精製が難しいから流通自体が少なく、単価が高い……まあ、こちらは加工の手間が掛かるが、ミスリルに比べれば単価が安く、初心者にも手頃だ……」
「なるほど……つまり、生存率が低い初心者魔法使いの生存率向上に繋がるか……!」
工房長もギルドの一人であるため、食堂を使う。そこで、受付嬢達の話を聞くことがあり、その中の話題のひとつに初心者魔法使いの生存率の低さがあった。
しかし、防具となるとどうにも出来なかった。
「ふむ、しかし……この印を刻印するのは……」
「それに関しては……これを使えば楽に出きる」
剣舞士はそう言って、先ほど置いた鏝を掲げた。よく見れば、鏝は全部で十数本はあり、その先の印はひとつひとつが違う。
「なるほどの……」
「なんなら、くれてやるが……」
「いいのか!?」
剣舞士の言葉が予想外だった工房長は、驚いた表情で剣舞士を見た。工房長からしたら、工具というのは大事な仕事道具で、他人に譲渡するというのは引退する時位しかないからだ。
「ああ、構わない……予備がもう1セットあるし……作れるからな」
「ほう……お主、それで商売が出来そうじゃな」
「それで、工房の使用料は、本当にあれで良かったのか?」
剣舞士が言うアレというのは、刀を見せることだ。剣舞士は当初、お金を払おうとした。だがそれを止めて、工房長は刀を見せるように頼んできたのだ。
「構わん。お陰で、新しい武器の案も出来た」
工房長はそう言って、視線を壁際に向けた。そこには、数本の刀と長柄の刀があった。
「薙刀か……」
「薙刀? あの槍のことか?」
「ああ……多少扱いが難しいが、女性でも威力の高い一撃を繰り出せる武器だ……リーチも長いから、中距離向きの武器だな……なるほど。刀身を厚めにして、耐久性を上げたのか」
剣舞士は薙刀の一本を取ると、刀身を見た。刀はかなり薄い刀身が特徴で、下手に使うと簡単に折れてしまう程だ。しかし工房長は、その刀身を厚く作ることで耐久性を高く取ったらしい。だがその分重量が増し、少々トップヘビーになり扱いが難しいだろう。
「既に、試験運用を槍使いに頼んでおいた。今頃、ぶつくさ言いながらしておるだろうて」
どうやら、既に槍使いに試験運用を頼んでいたらしい。工房長から話を聞いた剣舞士は、取り敢えず槍使いに心中でエールを送った。何せ、新武装の試験というのは信頼性が無い新武装に信頼性を付与するために行うことで、繰り返し行う必要がある。
それは刀も同じで、手近な冒険者が行うことになるだろう。
それはさておき
「では、俺はこれで」
「おう、何時でも来い!」
工房長のその言葉を背に、剣舞士は工房から去った。その後、魔法使い娘に宛がわれた部屋に向かい
「待たせた。これが、例の防具だ」
と魔法使い娘に、先ほどの鎖帷子を差し出した。
「見た感じは、普通の鎖帷子だけど……あら、よく見たら細かい印が刻印されてるのね……」
「ああ。これで、魔法の威力は損なわれない……一応、予備を含めて三つ用意した……」
「ありがとう、助かったわ……これで、防御の懸念が減ったわ」
二週間も掛かったのは、冒険をしながらだったので、合間合間に作っていたのだ。
「だけど、貴方が関わった戦争……こんな防具まで有るのね……
「……そうだな。魔法使いが呪装具を持って、直接戦っていた。魔法を矢に付与したり、剣に付与したり……まあ、反宗教組織は人数が少なかったからな。その分は連携でカバーした……それでも、数えきれない命が喪われたがね……さて、俺はそろそろ失礼する」
「分かったわ、ありがとうね」
「気にするな……」
渡し終わった剣舞士は、魔法使い娘の下から離れて街中を歩き始めた。そして、ある店の張り紙を見ると、小さく
「ふむ……もう少しか」
と呟いた。季節は、秋になってきていた。少し肌寒くなり始め、売り物もそれに影響されて、ラインナップが変わっている。剣舞士は、幾つかの買い物を終えて歩いていると、その張り紙を見つけた。
「収穫祭……か」
どうやら、近日中に秋の収穫を祝い、神に祈りを捧げる祭が行われるらしい。それを見た剣舞士は、受付嬢がゴブリンスレイヤーを誘った事を思い出した。
それを思い出した剣舞士は、収穫祭の張り紙を見ながら
「祭りか……初めて……かな」
と呟いて、目的地に向かおうと振り向いた。その時
「おっと!?」
「む、すまん」
どうやら背後近くに居たらしい女性にぶつかり、転びそうになった女性の手を掴み、更に軽く引いてから腰に手を回して支えた。
「す、すまない、助かった……」
「いや、こちらも周りをよく見てなかったからな……怪我はしてないか?」
長い黒髪をポニーテールにした女性剣士は、少し顔を赤くしている。そこに
「お兄さん、ごめんね? ボク達の仲間が」
「ごめんなさい」
と新たに、二人の少女が現れた。二人とも小柄で、片方は黒髪を長く伸ばし、軽装の鎧を纏っていて、腰には豪華な印象の剣が携わっている。そしてもう一人は、ローブを纏い長い杖を持っており、目は眠そうな印象だ。
その三人の首もとには、白金のタグがあった。
「同業者か……しかも白金ということは……まさか、噂に聞く勇者の一党か?」
「んえ? お兄さんも冒険者?」
「タグは……鋼鉄?」
「その細い二本の剣……まさか、貴殿が噂の剣舞士殿か?」
剣舞士の言葉を聞いた三人は、剣舞士の全身を軽く見て、最初にぶつかった女性が剣舞士ということに気付いた。
「まあ、そう呼ばれているな……」
「ほお……貴殿が……」
剣舞士が肯定すると、女性。剣聖が剣舞士をよく見た。特に、二本の刀に目を向けて
「噂では、近接戦闘で非常に高い戦闘力を有していると聞くが……そのような細い剣で大丈夫なのか?」
と問い掛けてきた。
「これは刀と言ってな……こちらを見てくれ」
剣舞士はそう言って、刀を軽く抜いて剣聖に峰の方を見せた。それを見て、剣聖は息を飲み
「これは、凄いな……金属が何重にも重なっているのか……強度を上げるためにか……それに、刃も薄いから切れ味も凄そうだ……」
「切れ味に関しては、使い手によるな……腕次第では、相手を鎧諸とも両断することも出来る」
「ほう……それは凄いな」
剣舞士から見たら、この世界に普及している剣は、西洋剣という部類となり、その性質は棍棒に近い物を有している。刀に比べると刃が分厚いために、金属鎧を着た相手には懺斬撃というよりも殴る、という攻撃に近くなるのだ。
それに対して刀は、刃がかなり薄いために金属鎧の隙間を狙って攻撃が可能。更に腕次第では、兜割りという技で相手の頭を兜諸とも斬れることが可能。
実は剣舞士は知らなかったが、剣舞士の世界では刀は、最も完成された近接戦闘兵装という評価だったのだ。
「噂通りの腕ならば、一度手合わせしてほしいが……今我々は、託宣を受けて行動中でな……」
「託宣だと?」
「うん! 新しい出会いとこの街で困難が起きるって託宣」
剣舞士が首を傾げると、少女。勇者が朗らかにその内容を告げた。それを聞いた剣舞士は、片眉を上げた。
託宣は、神が告げるもの。つまり、その確度は高い。
基本的に神を信じていない剣舞士だが、こうなると話は別だった。
「やれやれ……備えるしかないか」
剣舞士はそう言って、青空を見上げた。