収穫祭。それはその名前の通りに、秋の収穫の時に行われる祭り。地母神の神官が舞を踊ったり、広場で街の人が踊ったりするらしい。
そんな街中を、一人剣舞士は歩いていた。
戦士娘と魔法使い娘は、どうやら買い物に向かったらしい。そしてあの子供は、最近ギルドの中庭の一角にあるポーションの材料になる薬草を育てている。
なんでも、村に居た時は農作物を育てるのを手伝っていたらしい。剣舞士はそれい否定せず、好きにさせることにした。
その方が、子供にはいいと判断したからだ。
そして剣舞士は、街を歩きながら
「なるほどな……これが祭か……」
と呟いた。実は剣舞士は、祭に参加するのは初めてだった。物心着いた頃から戦争に参戦していた剣舞士は、祭に興じる暇が一切無かった。
だから、正真正銘初めての祭である。
「賑やかだな……」
剣舞士が知るのは、殺伐とした賑やかな怒号と悲鳴。
それに比べれば、非常に微笑ましい。剣舞士はフラフラと歩き始めた。
「ん、あれは……ゴブリンスレイヤーか……」
ふとその時、剣舞士はゴブリンスレイヤーを見つけた。街中でも相変わらず鎧姿だが、その隣には着飾った牧場娘の姿もある。どうやら、石で作られたカエルの口の中に、金属製の玉を投げ込んで、その数で貰える景品の数も変わるらしい。
そしてゴブリンスレイヤーは、見事に全部を口の中に入れていた。今までの冒険による経験から、狙った通りに投げられるのだ。
それを見た剣舞士も、同じのに挑戦。剣舞士も全部入れた。
「いや、見事だな。兄ちゃん。待ってな」
「一人だから、ひとつで構わない」
剣舞士のその言葉の通り、出店の男性はレモン水をひとつ持ってきて手渡した。それを貰った剣舞士は、その後も一人でフラフラと歩き続けた。
祭も佳境に差し掛かり、広場に設営された舞台上では、神官娘が舞っている。
「ふむ……流石は、本職か……見事だな」
それを遠くから見た剣舞士は、神官娘を称賛した。その神官娘は、着ている衣装が恥ずかしいからか、少し顔が赤い。その舞を最後まで見た剣舞士は、また一人でフラフラしだした。その時、剣舞士はある気配を感じた。
「……祭の日位は、穏やかに過ごしたいが……」
剣舞士は一人呟くと、ある路地に入り
「そこで何をしている」
と声をあげた。その路地の奥。光が僅かにしか当たらない場所で、数人の男が一人の女性。
はっきり言ってしまうと、監査嬢を押し倒し、上半身の服を引き裂き、短刀を突き付けていた。
「んだ、テメェ!」
「こっちはお楽しみ中だ! 失せろ!」
男達はそう言うが、剣舞士はその男達の顔に見覚えがあった。
「お前達……少し前に依頼人の商人と揉め事を起こして、降格された連中か」
その男達は、今から約一ヶ月前にある商人の護衛を引き受けたのだが、依頼達成後にその料金の引き上げを要求。依頼人に掴みかかった時、偶々近くを通った他の冒険者に見られて、敢えなく捕まった。
その後、白磁まで降格されて、街を去ったのだ。
「大方、祭で街の警備が薄くなった隙に入り込み、そちらの監査嬢を見つけて、襲った……といったところか」
剣舞士は推測を交えた内容を呟きながら、一歩踏み出した。その直後
「動くな! それ以上近づけば、こいつの顔を切り刻むぞ!」
と監査嬢を羽交い締めにしていた男が、監査嬢の顔近くに短刀を近づけた。それを見た剣舞士が、足を止めると
「その腰の二本の剣を、地面に置いてから、こっちに蹴りやがれ!」
と別の男が指示してきた。それを聞いた監査嬢が、何やら言っているが、口を押さえられているために、何を言っているか分からない。
(大方、こいつらの言うことを聞かないでいい。と言っているのだろうがな……)
剣舞士はそう考えながら、腰の二本の刀を外し
「こうすればいいんだな?」
と言って手放し、二本が足下に落ちて音を響かせた直後、思い切り蹴り飛ばした。剣舞士が蹴った二本の刀は、監査嬢の左右に居た男達の顔面に見事命中し、吹き飛ばした。
「なっ!? てめ……えっ!?」
「判断が遅い」
「ぐげっ!?」
そして、最後の短刀を持っていた男は、剣舞士の蹴りが顔面にめり込み、壁に叩き付けられた。
男達が動かなくなったのを確認した剣舞士は、刀を差してから、監査嬢を助け起こし
「無事か」
とだけ、声を掛けた。
すると監査嬢は、声を震わせながら
「何やってるんですか……下手したら、貴方が死んでたかもしれないのに……」
と喋っている途中で、涙を流し始めた。それを見た剣舞士は、監査嬢を優しく抱きしめて
「まあ、一度は捨てた命だから惜しくはないが……そちらは、今は泣いていい……」
と言って、頭を撫でた。一応監査嬢の方が年上だが、今この場に於いてはそれを指摘するのは、野暮というものだろう。
促された監査嬢は、剣舞士の肩に顔を埋めて
「いきなり、あいつらに襲われて……服を破かれて……あいつらに犯されて、殺されるって思ったら……諦めと、嫌だなって……うあぁぁぁぁぁぁぁ」
と泣き始めた。
実はギルドの受付嬢や監査嬢といった人員は、良いとこの出。いわゆる、お嬢様やお坊っちゃんといった立場の人員が多い。これは、ギルドの業務の殆んどが事務系なもののために、字の読み書きが必須であり、この世界で字の読み書きを教えられるのは、大概が貴族か商人ばかりだ。中には冒険者になって覚えたや、教会で教えられた、という人物も居るが、そちらの方が稀だろう。
そして、事務系のことしか知らないのが大半なので、荒事を知らず、慣れていないのだ。
だから監査嬢は、襲われた時は恐怖感でむしろ冷静になってしまったのだ。
ああ、私の初めては、こんな形なんだな、ここで死ぬんだな、と。
そんな矢先に剣舞士に助けられ、感情の堰が壊れて泣いたのだ。
剣舞士は、監査嬢が落ち着くまで頭を撫でた。
そして、監査嬢が落ち着き、剣舞士が羽織っていた
「師匠!?」
「この男達は……」
と戦士娘と魔法使い娘が現れた。
「すまんが、彼女を頼む……こいらは、片手と片足を折って、衛兵に引き渡す……襲撃が来るぞ」
剣舞士は監査嬢を魔法使い娘に引き渡し、男達の手足に蹴りを叩き付けて手足を折ってから、そう告げた。剣舞士の告げた内容を聞いて、二人の表情が引き締まる。
「二人は、ゴブリンスレイヤー達と合流を」
剣舞士はそう言って、ある方角を見た。その方角には、上がっている灯篭の影響で分かり難いが、一際明るい光が上がっていた。
「師匠は?」
「……俺は、北の方に向かう……ゴブリンスレイヤーには、北は任せろと伝えてくれ」
剣舞士はそう言って、北の方に走り出した。途中で壁に登り、屋根に跳び移り、屋根の上を走った。
もし、その姿を見ていた人物が居たら、こう言っていただろう。
黒い風が走っていた、と。
そして、数分と経たずに剣舞士は北の大門に到着した。
この西の街は、東西南北に大門があり、普段はその前に幾人もの衛兵が立ち、通行人の身元を照会し、照会出来た人物のみを通している。
しかし、その大門の前に衛兵の姿は無い。
着地した剣舞士は、懐から鍵を取りだし
「白雪」
妹を呼んだ。
「白雪……門を氷で塞げ……それと、ここより前に来た敵は、問答無用で撃滅しろ……通すつもりは無いが、念のためにな」
剣舞士の指示を受けて、白雪は頷いてから北の大門を氷で塞いだ。
それを確認した剣舞士は、北の大通り。そのすぐ近くにある森に、視線を向けた。
すると、暗闇に染まった森の中から、ゴブリンが姿を現した。
その数は、おおよそ20程。剣舞士一人で、十分に殲滅出きる数だ。しかし、剣舞士はゴブリンは気にしていなかった。
剣舞士が見ていたのは、そのゴブリン達の奥に居る
「さあ、ここからは戦争だ……通りたくば、命を賭けてこい……!」
剣舞士はそう言って、刀を抜いた。
ここから、剣舞士の剣舞士たる由来が見せられる。