その後、三人娘や受付嬢達によりなんとか動物が引き剥がされ(それでも一匹、猫が肩に乗っているが)、会議室のような部屋に案内された。
そこには剣舞士の他に、受付嬢と監査嬢、ギルド支部長、そして隅に重戦士と槍使いが居た。
冒険者二人が居るのは、要するに万が一の為だろう。
(両者共に、かなりの手練れか……もし二人を同時に相手にしたら、勝てるかは微妙だな……)
剣舞士は二人の力量を、ほぼ正確に把握していた。
そしてその二人は、銀等級の冒険者だ。
冒険者には等級があり、一番最初は白磁から始まり、一番上は白金となっている。
そして銀等級だが、上から三番目の等級で、各地方に於いては最高位クラスの戦力となる。
そして、ゴブリンスレイヤーも銀等級の一人である。
「この度は、呼び掛けに応じてくださり、感謝します」
「いや、こちらも根なし草の一人旅故。気にしないでほしい」
先に口を開いたのは、剣舞士の正面に座っていた支部長だった。
支部長は、受付嬢が手渡した羊皮紙を受け取り
「こちらでは、約4ヶ月程前から貴方の活動は確認しておりましたが、どうでしょうか?」
「俺がこちらに来たのは、おおよそ半年程前になるか……」
剣舞士がそう答えると、支部長は監査嬢に視線を向け、監査嬢は首を振った。
(ふむ……嘘かどうかを見分けられる……ようだな)
よく見れば、監査嬢は胸元の十字架のロザリオを掴んでいる。
それは、神官が使える
「失礼ですが、貴方の武器は見たことが無いのですが……」
「刀と言ってな……切れ味がかなり高い武器になる……見るか?」
剣舞士がそう言って掲げると、槍使いがそれを受け取り鞘から抜いた。
「こいつは……かなりの業物のようだな……こんなに細くて、耐久力は大丈夫なのか?」
「峰……刃じゃない方を見てくれ」
剣舞士の言葉を聞いた槍使いは、峰の方を見て、息を飲んだ。
「こいつは……とんだ執念を感じるな……金属が何重にも重なってやがる……」
「外側に硬い金属、内側に芯として柔らかい金属を使って作られてる……使い手の技量によるが、上手く使えば何体でも斬れる」
剣舞士の説明を聞いた槍使いは、刀を鞘に納めると剣舞士に返却した。
それを確認したからか、支部長が
「それで、貴方は冒険者……ではないですよね? こちらで調べた限り、貴方の情報は出てこなかった」
「旅人だな。気の向くままに、旅をしてきたからな……」
「なるほど……それで、依頼を受けた訳でもないのに、魔物と戦った理由は?」
「……単なる、偽善だな……助けられるなら、助けたい……そう思っただけのこと……戦場育ちだからな……」
「戦場育ち……」
剣舞士の言葉に、思わず受付嬢が反応して声を漏らした。
しかし、支部長も気になったようで
「戦場育ちとは?」
と問い掛けた。
「俺は、物心着いた頃から戦場に居てな……その時から刀を振ってきた……つまりは、敵を殺し続けてきた……だからか、助けられる命は助けたいと思っただけだ」
その言葉に、監査嬢は固まってしまった。
嘘は一切無かった。つまり、本当に小さい頃から戦闘に参加し、その全てを生き残り、今ここに居ると思った。
剣舞士の年齢は、監査嬢より少し幼い位の十代後半だろう。
それほどの少年が、戦場を駆け抜けながら生きてきた。
(……どんな地獄を見たら、あんな目が出来るの……あんな……光を一切感じない目が……)
監査嬢は、剣舞士の目に一切感情を感じることが出来なかった。だが、同時に分かったこともある。
(彼は、信用出来る……嘘は一切言ってなかった……)
だから監査嬢は、支部長に
「支部長、彼は信用出来ます……嘘は一切言ってません」
と耳元で告げた。
それを聞いた支部長は、頷いてから
「では次に、貴方が討伐した魔物の種類と数を聞かせてください。あ、覚えてる限りで構いませんよ」
と剣舞士に言った。
すると剣舞士は、思い出すようにしながら
「一番多く倒したのは、ゴブリンだな……数は、百を越えた辺りから数えるのを止めた……次に、薄紫色の体毛の狼……これが、20程」
「ダイアーウルフ……まさか、隊商を襲ってたって奴か……そういやぁ、聞かなくなったが……」
と重戦士が、少し驚いた表情を浮かべた。
魔狼、ダイアーウルフ。長生きした狼が成るとされる狼で、通常の狼よりズル賢く、強い。
その速さには、簡単には追い付けない。
「ああ、確かに商人を襲っていたな……もう少し早ければ、護衛の一人が死ななかったが……次に、銀色の毛並みに四本腕の巨大な猿……これが、15……だったか」
「シルバーバック……! まさか、森の古要塞に巣食ってた連中をやったのは……!」
「俺になるか……もしや、先に戦っていたのは、そちらの仲間だったか? だったら、獲物を横取りしてしまい、すまない」
「ああ、いや……あいつらじゃあ、ヤられる可能性が高かったからな……こっちとしちゃあ、古馴染みを助けてもらったってところだな」
シルバーバック。
四本腕によるバランスの良い遠距離、近接戦闘を可能とした強力な魔物で、その毛並みは非常に固く、並の武器では傷付けることも難しいとされている。
銀等級でも、油断すれば重傷を負ってしまう魔物とされる。
「次は……ああ、人や動物を丸呑みにして溶かす植物が居たな……まあ、こちらは19か」
「エビルプランター! もしかして、一ヶ月程前に来た依頼で、行ってみたら残骸だけが見つかったって……」
「多分、俺だな……酸を飛ばしてきたり、蔦で殴ろうとしてきたりしたが……」
エビルプランター。
一番小さい個体でも大の大人を捕まえて溶かすことが出来る大きさを誇り、最大級で牛を丸呑みに出来るサイズに成長する。
常に集団で群れており、遠距離から一体ずつ倒すか、強力な火炎魔法で倒すことを推奨されている。
その後々も剣舞士は、思い出せる限り魔物の特徴と数を言い続けた。
すると、五人は集まり
「どう思うかね?」
「あいつ、間違いなく手練れだ……それも、相当な」
「ああ……武器は刀が二本だけだが、多分魔法も使うだろうな……」
「それに、人格的にも問題は無いかと……悪い話等は、一切聞いてませんし……」
「嘘も言ってなかったから、間違いなく信用出来る……私としては、彼を冒険者にするべきだと思います……」
と話し始めた。
監査嬢がチラリと見ると、剣舞士は馴れた手つきで肩に乗っている猫の喉元を掻いている。
その仕草からも、動物に慣れているのが伺える。
「それは、俺達も賛成だ」
「けどよ、問題はランクだ……あいつを白磁にしとくのはもったいねぇと思うぜ……? 少なくとも、鋼鉄は与えても損はねえ……」
「しかし、そんなことをして要らないヤッカミを受けたら……」
「だったら、彼が討伐した魔物の一覧表を張ったらどうでしょうか?」
監査嬢はそう言いながら、また剣舞士を視界の端で見た。今度は、雑貨入れから出したらしい干し肉を猫に食べさせている。
「ふむ……それしかないか……」
支部長がそう言うと、五人は離れた。
そして、支部長は
「今しがた話し合った結果、貴方を冒険者にするべきだと決まりました。どうでしょうか?」
と剣舞士に切り出した。
すると剣舞士は、猫を肩に乗せて
「断る理由もない……受けさせてもらいます」
と頷いた。
「等級だが、貴方は鋼鉄を与えます」
「む? 白磁からではないのか?」
支部長の話を聞いて、剣舞士は片眉を上げた。
戻る間に、三人娘が新人だと聞いていたので、そこから判断したようだ。
「はい。ですが、貴方を白磁から始めるには惜しいと判断しまして、特例として鋼鉄からにするべきだと決まりました」
「……わかった。そちらの判断を尊重します」
剣舞士が頷くと、受付嬢が安堵した表情でそれを取り出した。
鋼鉄のタグである。
「これを、貴方に渡します。これにより、貴方は冒険者となります。そうすれば、各地方のギルドの協力も得られますし、何よりも依頼を達成すれば報酬が得られます」
「報酬か……」
「はい……今まで貴方が討伐した魔物の総数からすれば、貴方は十分に鋼鉄の資格があります……報酬も、ざっと換算すれば金貨数千枚は下りません……」
支部長はそう言いながら、鋼鉄のタグを剣舞士の前に置いた。
それを受け取り、剣舞士は装着した。
こうして、剣舞士は正式に冒険者になった。