「白雪、西の街全体を覆うように氷の幕を作れ」
剣舞士の指示を受けて、白雪は西の街を覆う形の氷の幕を形成した。竜なのだから、最低でも
「おぉー! 凄い魔法! この子、魔法使い?」
と興味深い様子で、白雪を見ている。だが、賢者は
(こんな魔法の使い手が居るなんて、聞いたこと無いし、こんな魔法も知らない……この子は……)
と白雪に注意を向けた。すると、剣聖が
「そろそろ来るぞ!」
と剣を抜いて、構えた。その直後、竜。ニーズヘッグが咆哮を上げた。そして同時に、横凪ぎに爪が振るわれた。その一撃は、剣舞士、勇者、剣聖の三人は単身で跳躍回避。賢者は白雪が抱えて回避し無事だった。
だが、ただの横凪ぎとはいえ、その巨体から繰り出された一撃は強力だった。風圧で近くの木々が薙ぎ倒され、直撃の岩は破砕された。
人の身で受ければ、どうなるかは一目瞭然だ。
「うっわぁ……凄い一撃……絶対に受けたくないなぁ」
勇者の言葉には同意するが、気楽そうに聞こえるのは何故か。剣舞士はそう思った。
「次、尻尾だ!」
次にニーズヘッグは、剣舞士の方に尻尾を振り下ろしてきた。振り下ろされた尻尾は、まるで鞭のようにしなりながら、剣舞士に迫った。
「歩法の奥……月虹」
だがその一撃は、剣舞士の分身を叩き潰すに留まった。しかし、尻尾が振り下ろされた地面は、数m程のクレーターができた。こちらも、直撃を受けたらひとかたまりもない。
「さて、問題は……」
剣舞士がそう言った直後、ニーズヘッグの牙の隙間から黒い炎が漏れた。
「息吹がくるよ!」
「任せろ……水流障壁・重!」
勇者の忠告に合わせて、剣舞士が水の障壁を展開した。三重に展開された水の障壁は、ニーズヘッグが放った黒い炎を防いだが、一枚目は10秒程で蒸発。二枚目は倍近くは保ったが、これも蒸発。三枚目で、何とか最後まで保った。
(凄まじい威力だな……念のために三重にしたが、辛うじてか……)
しかも、黒い炎は土すら燃やしている。それを見た賢者が
「……文献で読んだ通りなら……ニーズヘッグの炎は一度燃えたら、灰になるまで決して消えない……着いたら最後……あらゆる命は燃え尽きる……故に、死竜……」
呟くように、そう教えた。遥か過去、神代の戦場にて確認されたという邪竜の一体。それが死竜ニーズヘッグ。
その一体を倒すのに、神代の戦士は幾多の屍を積み上げた。
そして倒した後、また似た存在と戦えるようにと資料を残した。その資料は大事に保管され、脈々と受け継がれてきた。その成果が、今発揮されている。
「……付与魔法、いくよ……!」
賢者は宣言した後、高速詠唱を開始。剣舞士と剣聖の剣と刀に炎を付与させた。それを確認した二人は駆け出し、それに僅かに遅れて勇者が聖剣を抜いて駆け出した。
三人は狙いを定めさせないために、一直線に走るのではなく、不規則に体を左右に振りながら走った。それが効を奏し、ニーズヘッグは中々攻撃してこない。しかし、苛立ったのか雄叫びを上げて右手を振り下ろした。
「くっ!?」
その一撃で新しくクレーターが生まれ、更には石礫がまるで砲弾のように飛んでくる。剣聖は体を傾けて回避しそのまま走り、剣舞士は刀で弾く。
(ちっ……かなりの威力だな……手が痺れる……だが、間合いに入った!)
間合いに入ったのを確認した剣舞士は、次の右足を大きく踏み込むと
「ぜあっ!」
気合いの声を挙げると、一気に跳んだ。そして、ニーズヘッグの左足に一撃入れたが、弾かれた。
「流石に硬いか!?」
「こちらも弾かれた! なんという堅さだ!」
実は間髪入れずに剣聖も右足に攻撃していたが、同じように弾かれた。見た限り、鱗には傷一つ付いてない。予想以上の堅さに、二人は驚きながらも即座に離脱。そこに
「いっくよー!!」
跳んでいた勇者が、聖剣を翼に叩き込んだ。
聖剣、あらゆる魔に対して絶大な威力を秘める剣で、勇者はそれをある冒険の最中に自身が最初に使ってた剣が折れた際に、台座から抜いて使用。
その後、聖剣使用の適性アリと認められ、勇者になった。その後は剣聖や賢者と共に対魔神の最前線に立ち、幾多の戦果を挙げて白金等級を認められた。
幾ら堅さを誇る鱗だろうが、流石に聖剣の一撃は効いたらしい。ニーズヘッグの翼から血が溢れ、大地を濡らし苦痛の叫び声をあげる。
「ヨシッ、ラッキー!」
嬉しそうな声を出しながら、勇者は更に追撃。今度は右手に一撃入れ、手首から先を斬り飛ばした。
「一人だけ、別次元の戦いになってるな……」
「あいつの攻撃は、どうしてか全部が
剣舞士の呟きを聞いて、半ば同意する形で剣聖が説明した。それを聞いて、剣舞士は
「仕方ない……起きろ、黒椿……第一封印、解除」
と黒刀の柄尻を軽く叩いた。その直後、劇的な変化が起きた。黒刀、黒椿の鍔の辺りから、影の様なモノが伸びて、剣舞士の右腕に絡み付いた。
その直後、剣舞士の顔が苦痛に歪み、右腕全体から針の様な突起が出てきた。更に、剣舞士の右目が黒く染まる。
「剣舞士殿!?」
「少シ、奥ノ手ヲ解放シタダケダ……問題ナイ……」
剣聖の問い掛けにそう答える剣舞士だったが、見た目だけでなく声まで変質している。明らかに通常を逸しており、その根源は右手の黒椿にある。
「アマリ、長クハ持タナイ……直グニ攻メルゾ」
「……分かった」
「後で説明してよね、お兄さん」
「……今は、ニーズヘッグが優先」
短く会話した後、四人は一気に攻勢に出た。先と同じように、三人は不規則に左右に体を振りながら、ニーズヘッグに迫り、賢者が三人の支援として雷撃魔法を放ち、それに同調して白雪が巨大な氷柱の槍を放った。
二人が放った魔法は、真っ直ぐにニーズヘッグに直撃し、微々たるものだが、ダメージを蓄積させる。
その隙を突いて、三人が斬りかかる。
最初に攻撃したのは、やはり勇者。聖剣を大上段から振り下ろし、ニーズヘッグの右目を切り裂いた。それに苦痛の叫び声を上げた直後、今度は剣聖がその切り傷に剣を突き刺した。炎が付与されているために、ニーズヘッグは体内を焼かれる苦痛を味わう羽目になる。
その痛みは、想像を絶するものだろう。
そこに、剣舞士が斬りかかった。剣舞士が斬り付けたのは、腹部。先は弾かれた黒椿の一撃が、容易く鱗を切り裂き深々と傷を作る。
しかも、切り裂かれたと同時に焼かれるためにその痛さは倍。ニーズヘッグは痛みでその巨体をのたうち回し、それだけで周囲に甚大な被害をもたらす。
しかし、ニーズヘッグもヤられてばかりではなく、再び黒炎を吐いた。その瞬間、巨大な氷の壁が形成され、黒炎を防ぐ。白雪が形成したようだ。しかし、一枚で防げるものではなく、次々と氷の壁を形成していく。先ほどより長く吐かれた黒炎により融かされた氷の壁は、全部で8枚。9枚目で、ようやく黒炎を防げた。黒炎自体は防げたが、その炎熱は防げずに前衛三人は汗だくになっていた。
「熱いな、もう!」
やはり女の子だから気になるのか、勇者は少し怒った様子で駆け出した。その勇者を狙い、ニーズヘッグは尻尾を叩き付ける。しかし勇者は、その尻尾を途中から斬り飛ばした。
「よし! これで、攻撃手段の一つは潰した!」
勇者は嬉しそうにしながらも、更に接近を計る。だが、ニーズヘッグは逃走を考えたのか、羽を動かして飛び上がった。
だが
「逃ガスト思ウカ……? 忌剣……鬼牙絶刀!」
そこに、剣舞士が黒椿を振った。その瞬間、空間が切り裂かれたと幻視する程の斬撃が放たれ、同時にニーズヘッグの翼が両方共に切り裂かれた。それにより、ニーズヘッグは墜落。ニーズヘッグは、痛みで悶絶していた。
最早、衰勢は明らか。
「これで……終わり!!」
勇者は気合いの声を上げながら、聖剣でニーズヘッグの眉間を突き刺した。その直後、ニーズヘッグは雄叫びを挙げて、力なく地面に横たわった。
こうして、ニーズヘッグとの戦いは終わりを迎えた。