勇者の一撃を喰らい、ニーズヘッグは大きな音を立てながら倒れ伏した。そして念のために少し待ったが、動く気配は無い。それを確認した勇者は
「うん……もう、大丈夫そうだね」
そう言いながら、聖剣を鞘に納めた。それを見た他のメンバーも、戦闘態勢を解除した。
「第一封印……結」
剣舞士がそう呟くと、黒椿から伸びていた影が収まっていく。そして収まった直後、剣舞士がカクンッと膝を突き、黒椿を手から落とした。
「剣舞士殿!?」
「ちょっ、お兄さん!?」
そんな剣舞士を、剣聖と勇者が慌てて支えた。だが、直ぐに気付いた。
「右腕が!?」
「攻撃を受けていたのか!?」
剣舞士の右腕が、真っ赤に染まっていたのだ。しかもよく見れば、幾つか穴が空いている。剣舞士は、荒く呼吸しながら
「黒椿の……副作用だ……」
そう言って、白雪が鞘に納めた黒椿を受け取った。それを聞いた勇者が
「副作用って、どういう……」
と困惑していた。そこに、監査嬢が駆け寄ってきて
「治療します!」
と言って、腰の雑嚢から包帯や傷薬を取り出して治療を始めた。やはり神官としての修行の成果なのか、治療の手際はかなりいい。
そして、治療しながら
「剣舞士さん……その刀……呪われてるんですか? 先ほどそれから放たれていた禍々しい雰囲気……そうでないと、説明出来ません」
と問い掛けてきた。
流石は神官か、そういう気配には敏感らしい。剣舞士は、治療を受けながら
「呪装具と言ってな……」
と呪装具の説明を始めた。様々な材料により、千変万化の能力を得ること。しかし同時に、大きなリスクを背負うことも説明した。
「そんな武器が……」
「……もしかして、この白雪って子も?」
剣聖が腕組みしていると、賢者がそう問い掛けてきた。どうやら、確信に近いらしい。
「……そうだ。白雪は、俺の妹を素材にした呪装具だ」
「妹……を……?」
剣舞士の説明を聞いて、勇者は呆然としながら剣舞士が撫でている白雪を見た。撫でられている白雪は、目を細めている。
「それが、剣舞士さんが戦争に参加した理由なんですか……?」
「……そうだ……俺のたった一人残された家族を取り戻すために、宗教に対する戦争に参加した……」
監査嬢からの問い掛けに、剣舞士はそう肯定した。
「戦争……」
「宗教との戦争……」
「その戦争で、呪装具が編み出され、運用されたのか……」
「そういうことだ……最初は宗教側が採用したと聞いたが、俺には分からない……」
剣舞士が説明している間も、監査嬢は黙々と治療を続けた。そして、一段落したのか
「その刀のデメリットは……貴方の血……ですか?」
と問い掛けた。すると剣舞士は、少し驚いた様子で
「ああ……黒椿は鬼神を素材にしていてな……効果は、一時的な鬼神化と魔力を使った斬撃が出来る……デメリットがそちらの推測通りに、血と殺戮衝動だ」
と説明した。
「血は分かるが、殺戮衝動……?」
「素材になった鬼神は、怨みで人間の殺戮を行っていた……その鬼神一体に、街が一つ消えた位だ……」
「たった一体に、街が……」
「よっぽど、人間が憎かったのかな……」
「その鬼神を素材にしたから、殺戮衝動……」
治療が終わると、剣舞士は白雪に目を向けて
「白雪、しばらくは休んでいろ……お疲れ」
剣舞士の言葉を聞いて、白雪は頷いた後に姿を消した。
「消えた……」
「白雪は、周囲への影響が強いからな……普段は、異空間に封印しているんだ……さて、あのデカブツはどうするか」
剣舞士はそう言って、ニーズヘッグの死骸を見た。放置したら、それはそれで面倒である。
「アレは、僕達の方で何とかするよ」
「……試したい魔法もあるし」
勇者が快諾すると、賢者が何処か好奇心に満ちた目で頷いた。どうやら、新しい魔法を使いたいらしい。
「それなら任せるが……」
「剣舞士さんは、今は休んでください」
「確かに……貴殿は、休むことを優先した方がいい」
剣舞士が動こうとしたら、監査嬢と剣聖に引き留められた。誰が見ても、今の剣舞士は重傷者であり、休んだ方がいいのは確実である。
そう言われたら、剣舞士も休まない訳にはいかない。剣舞士は、戦闘の余波で薙ぎ倒された木に腰掛けた。
そして剣舞士は、西の方に視線を向けて
「まあ、あちらは大丈夫か……」
と何処か確信した様子で呟いた。
この少し後、ゴブリンスレイヤー達が闇人とその闇人が召喚した百手神とやらを討伐し、西の街に迫っていた危機は去り、後に西の街事変と呼ばれる事件は幕を下ろした。