騒動があった収穫祭から、数日後。
「昇格……?」
「はい。これは、既にギルド長と話し合って決まったことです」
怪我も大分治り、数日振りにギルドに訪れた剣舞士を、受付嬢が呼び、初めて会談したあの部屋にて切り出したのが、剣舞士の昇格であった。
「……しかし俺は、最初が高かったから、当分先だと思っていたが……」
「剣舞士さんに関しましては、街の人達から色々と話を聞いてます……不審者の捕縛に衛兵達への指導、様々なトラブルの解決や仲裁……何よりも大きいのは、今まで貴方が行ってきた冒険の成果です……」
受付嬢はそう言いながら、机の上の本に手を置いた。実はその本には、剣舞士の冒険の事が詳細に纏められている。それは剣舞士だけでなく、各冒険者もだが、登録してから死ぬまでの間書かれ続け、評価に用いられる。
「それに冒険ではありませんが……収穫祭の時の防衛戦……貴方が戦った闇人ですが、
そう言って受付嬢は、一枚の紙を出した。それには、剣舞士が戦った闇人の特徴が描かれた絵とその闇人による被害が書かれてあった。
詳細に見ると、軍だけでなく、どうやら街も一つ壊滅したらしい。軍でも最重要討伐対象の一人に選ばれていたようだ。
「それらを考慮した結果、貴方の昇格が決まりました」
「……分かった」
ここまで来たら拒否出来ないと判断した剣舞士は、受付嬢の言葉を受け入れた。そうして剣舞士に手渡されたのは、青玉のタグだった。
剣舞士は自身の持っていた鋼鉄のタグと交換し、首に掛けた。
「一応包帯は取れたようですが、貴方は病み上がりには変わりません。無茶は控えてくださいね?」
「……分かった」
笑顔なのだが、凄まじい圧の受付嬢の言葉に剣舞士は頷いた。すると、ドアが開き
「ああ、間に合って良かった」
とギルド長が入ってきた。
「ああ、ギルド長。街の有権者の方々との会合が終わったんですね?」
「ああ、少し前にな」
どうやら、何らかの会合があり、今しがた帰ってきたようだ。するとギルド長は、隣の部屋に一度入ると、両手でお金が入った袋が乗せられたお盆を持って現れた。それも、一つではなく三つの袋が乗せられている。
「これを」
「これは……」
「貴方が倒した闇人に関する報酬です」
ギルド長が差し出した袋に剣舞士が困惑していると、ギルド長がそう説明した。
「待ってくれ……確かに最初は俺が戦ったが、最後は勇者達も居た……」
「それに関しまして、勇者殿達から伝言があります……ボク達が戦ったのは、最後だけ。あの闇人が率いた死者の軍勢は貴方が一人で倒したのだから、報酬は貴方が受け取るべき……以上です」
剣舞士が受け取りを拒否しようとしたら、ギルド長が勇者から聞いたという伝言を告げた。
確かに、勇者達が参戦したのは闇人が竜化した後。その前に闇人が率いた死者の軍勢100体以上を剣舞士が一人で殲滅した。それは、監査嬢からも報告されており、虚偽ではないのはギルド長も受付嬢も把握していた。
「む……」
「何にせよ、貴方と彼らの活躍によりこの街が救われたのは確か……納めてください」
剣舞士が言葉を詰まらせていると、ギルド長はそう言って袋を乗せたお盆を剣舞士の前に置いた。
ここまで来たら、ギルド側は引かないだろう。そう判断した剣舞士は、小さくため息を吐いて
「分かった……受け取ろう」
そう言って、袋を受け取った。
部屋から退室した剣舞士は、階段を下りてホールに出た。すると、ちょうど冒険から帰ってきたらしいゴブリンスレイヤー達が居た。
すると、戦士娘が気付いたらしく
「師匠! お怪我は大丈夫なんですか?」
駆け寄ってきて、剣舞士に調子を聞いてきた。
「ああ……大方は治ってきた……まだ全力戦闘は厳しいが、私生活は問題ない」
剣舞士がそう報告した時、ゴブリンスレイヤーが
「階位が上がったか……」
と呟いた。よく見れば、剣舞士の胸元から青玉のタグが僅かに見える。
「ああ……収穫祭の時の死霊術師との戦いが高く評価されたようだ」
剣舞士はそう説明しながら、タグを仕舞い直した。
「聞いた話では、死者が百人以上と聞きました……それほどの数を相手にして殲滅したんですから、評価されるのも納得ですよ」
「しかも、死霊伯爵と呼ばれる名付き……評価が高いのも納得よ」
神官娘と上妖精弓手は納得していた。特に上妖精弓手は魔神との戦にも興味があり、度々情報収集していたから、相手のことを把握していたようだ。
上妖精弓手のその表情は、かなり苦虫を噛み潰したようなモノだ。
恐らくだが、死霊魔術に良い思いが無いのだろう。
「とりあえず、アンタはまだ大人しくしてなさいな。聞いた話だと、相当出血もしたんでしょ?」
上妖精弓手の指摘に、剣舞士は頷いた。実際、黒椿の発動で大分血を失った。血自体は補われただろうが、怪我の度合いは大きかったのだ。まだ数日では完治は難しい。
「まあ、今日は私達も帰ってきたばっかりだし……休みたいわ」
魔法使い娘の言葉がきっかけになり、一行は解散した。
剣舞士は一度部屋に戻ると、棚を開けてお金を確認した。
「ふむ……これで、行けるか……」
実は剣舞士は、かねてからある計画を進めていた。そして、今回の報酬でその目標金額を超えた。
翌日、一行が冒険に行ったのを見送り、剣舞士はお金を持ってその場所に向かった。
その場所というのは、不動産屋だ。
「失礼する」
「はい……お、あんたは噂の剣舞士さんか。何用ですかな?」
剣舞士が入ると、奥から店主らしい男性が現れた。
「ああ……実は、この家を買いたい」
剣舞士はそう言って、ある不動産情報が書かれた紙を取った。それを見て、店主は
「おや、その物件ですか? 失礼ですが、お金は……」
「問題ない」
剣舞士はそう言って、机の上に金貨が詰まった袋を幾つか置いた。
「これで足りる筈だ」
「これは……まさか、一括とは思いませんでした……分かりました。今から案内し、最後の確認をしましょう」
店主はそう言うと、一旦奥に入ってから再度出てきて
「では、付いてきてください。こちらです」
と言って、先導開始した。そして、十数分後
「こちらです」
二人の前にあったのは、豪邸と言っても差し支えない家だった。二階建てで、敷地の端にも倉庫用なのか小屋がある。しかし、かなり年季を感じる建物だ。
「こちらは今から約20年程前に、貴族が別荘用にと建てたらしく、見た目は年季を感じるでしょうが、造りはしっかりしてますから、見た目に反して頑丈ですよ」
「なるほど……中を見たいんだが」
「ええ、勿論」
店主は頷くと、上着の胸ポケットから一つの鍵を取り出し鍵を解錠し
「では、どうぞ」
とドアを開けた。中は確かに、貴族向けらしい華美な装飾が幾つか見受けられた。しかし、店主の言う通りに造り自体はしっかりしているのが分かった。
その後も店主の案内で台所、浴室等を見て回り
「いかがでしたか?」
「ああ、大丈夫だった……ここにする」
剣舞士の言葉を聞いて、店主は頭を下げた。
「誠にありがとうございます。では、こちらの契約書に、サインをお願いいたします。それで、晴れてこちらのお宅はお客様の所有となります」
それを聞いた剣舞士は、店主が差し出した契約書を一度よく確認してから、契約書にサインした。そして店主は、サインを確認し
「はい、確認しました。これで、こちらのお宅は正式にお客様の所有となりました。備え付けの家具は、サービスです。では」
鍵を剣舞士に手渡しすると一礼し、最後に注釈すると去っていった。それを見送った剣舞士は、一度外に出ると家を見上げて
「まさか、俺が家を持つとはな……まあ、ある方が何かと便利だから、構わないか……さて、荷物を運び込むか……まあ、私物は少ないから直ぐに終わるが」
そう呟くと、歩き始めた。
こうして、剣舞士は家を手に入れたのだった。