季節は秋から冬に代わり、西の街も雪に覆われるようになってきた。そんなある日、ゴブリンスレイヤー一党にある人物、剣の乙女から手紙が来た。内容は要約すれば、ゴブリン退治とそのゴブリンの巣に向かったある冒険者の捜索だった。
日数的には手遅れの可能性が非常に高いが、依頼されたならば捜すのが仕事である。
故に一党は、西の街から遥か北の山脈の麓の村にやってきた。目的は情報収集だったが
「かなりの数が居るわね……大体、20前後よ」
「まさか、ゴブリンが来ているなんて……」
その村に、ゴブリンの集団が襲撃してきていたのだ。上妖精弓手の耳が確かならば、どうやら20体は確実に居るようだ。それを聞いて、ゴブリンスレイヤーは少し黙考してから
「……動くぞ」
とだけ、告げた。その後、蜥蜴人僧侶が囮になりゴブリンを誘引している間に、ゴブリンスレイヤー、剣舞士、戦士娘が中心になってゴブリンを狩り尽くした。
そしてゴブリンスレイヤーは、村人達が村の中心地に集められ、かつ怪我をしていないことを知ると
「……気に入らないな……何を考えている……」
そう言って、何やら考え始めた。その後、村人達が助けてもらったお礼がしたいと宴を開いてくれたが、その料理は質素だった。その理由は、少し前に来た冒険者の一党が大半を買い取っていったかららしい。
間違いなく、対象の一党だろう。
「……情報は聞かなかったか……」
「はい、食糧だけを買い取ったらしいです」
神官娘の言葉を聞いて、ゴブリンスレイヤーは腕組みした。そして、少しすると
「……上位種が居るな……」
「上位種……まさか、ロードですか?」
ゴブリンスレイヤーの呟きを聞いて、神官娘が問い掛けた。しかし、ゴブリンスレイヤーは首を振って
「……分からん……しかし、ホブやシャーマンではないことは確実だ……」
と答え、件の古要塞が有るという雪山を見た。
そして翌日、一党はその雪山に向かった。そんな中、蜥蜴人僧侶は身を縮ませながら
「うぅ……拙僧にはこの寒さは堪えますな……」
と体だけでなく、声も震わせていた。蜥蜴人僧侶は、種族的に寒さに弱いらしく、動きも硬くなっていた。それを見て、神官娘が背負っていたリュックから大きめかつ厚手のマントを取り出して
「これをどうぞ」
「おお、これはかたじけない」
蜥蜴人僧侶は、感謝してからそれを羽織った。
「お前も、あれ位の気遣いをみせんか、耳長の」
「ぬむっ」
鉱人術士の言葉に、上妖精弓手は渋面を浮かべることしか出来なかった。それから、少しして
「止まれ」
剣舞士が突然制止すると、その場でしゃがんで雪に手を入れた。
「……罠か……」
「ああ……不自然に雪が浅い……」
ゴブリンスレイヤーの問い掛けに、剣舞士はそう答えた。確かに、深い所だと膝まで埋まるのに、そこは手首辺りまでだ。少しすると
「ふんっ」
と剣舞士が、大きな板を持ち上げた。その下には穴が掘られていて、中には槍が穂先を上にしてあった。
「うわぁ……」
中を見て、魔法使い娘は思わず声を漏らした。その間、剣舞士は板の厚さを見ていた。
(一人ではなく、数人を対象にしているな……だが……そうなると……)
「……おい」
剣舞士が考えていると、ゴブリンスレイヤーがある方向を指差した。そこに先を見ると、焚き火の跡があった。しかも、その周囲には無惨な死体が転がっていた。
「……ここで休憩してて、奇襲された……?」
「可能性としては、それが高いが……足りないな」
「何が、ですか?」
「死体だよ……一人分、足りない……捕まった可能性が高いな」
魔法使い娘、剣舞士、戦士娘が確認している間に、神官娘は祈りを捧げ、上妖精弓手と蜥蜴人僧侶がタグを回収。鉱人術士が周囲の警戒をしていた。
すると、ゴブリンスレイヤーが
「……読めない……ゴブリン達の考えが……」
と呟いた。確かに、ゴブリンスレイヤーより期間は短いが、一党もかなりの間ゴブリンと戦ってきたから、ある程度はゴブリンの傾向が分かってきた。だが、それでも今回は読めなかった。
「……進むぞ」
ゴブリンスレイヤーの言葉に全員頷き、歩き始めた。深い雪を掻き分けながら進んでいると、洞窟を見つけた。
「……行くぞ」
どうやら、ゴブリンスレイヤーは中に何かあると考えたらしい。ゴブリンスレイヤーの判断に従い、一党は中に入った。洞窟にも罠が仕掛けられていたが、回避しつつ奥へと進んだ。中はまるで迷路のようになっており、多少時間は掛かりながらも進んでいく。その途中でゴブリンを見つけて
「……弓2、斧1、棍棒3、短剣が5……術無し」
「……最初は、私が目潰しします」
「……それで行くぞ……各員、準備」
ゴブリンスレイヤーの言葉を聞いて、一党は各々武器を構えた。それを見て、神官娘は呪文を小声で唱えて
「《聖光》!!」
強烈な光を起こし、ゴブリン達の目を潰した。その直後、一党が動いた。ゴブリンスレイヤー、剣舞士、戦士娘が一気に雪崩れ込み、近くに居たゴブリン達を葬っていく。
突然の奇襲に、ゴブリン達は何も出来ずに骸に成り果てる。だが、少しすると中には目が治ったゴブリンも現れてきた。
しかし、神官娘はそれを見計らい
「《聖光》!」
再度、光の術を発動させた。だが、一体の弓持ちのゴブリンが、目潰しされる前に矢を放っていた。
その一矢は、誰かが警告する暇もなく、上妖精弓手の足に刺さった。
「つあっ!?」
上妖精弓手はその場で倒れ、矢を放ったゴブリンは魔法使い娘が放っていた力矢で倒され、その場に居たゴブリンは全滅した。ゴブリンが全滅したのを確認した一党は、急いで上妖精弓手に駆け寄り
「大丈夫ですか!?」
「まだ、大丈夫……つうっ」
戦士娘が助け起こすと、上妖精弓手は矢が刺さった場所を押さえた。
「ごめんなさい……先に、《矢避け》を発動させるべきだったわ……」
「仕方ないわよ……私も、優先から外しちゃったし……」
会話している間に、ゴブリンスレイヤーは素早く松明に火を点けて、神官娘が矢に手を伸ばし
「抜きますよ……?」
「ええ……ぐうっ!?」
神官娘が抜こうと力を込めた直後、矢が折れた。しかもよく見れば、矢尻の付け根辺りに切れ込みがあった。
「学習した……だと……?」
実は先日のゴブリンの襲撃の時、ゴブリンスレイヤーはわざと矢尻が外れやすくなるように細工した矢を放っていて、一体だけ逃がしていたのだ。
狙いは、矢尻が体内に残り、壊死を起こさせて疫病として蔓延させようとしたのだ。
しかし、矢を放ったゴブリンの足には治療された痕跡があり、矢が矢尻辺りで折れる細工が施された矢を放ってきた。
つまり、一晩の間に対処しそれを学習してきた。
その速度は、ゴブリンスレイヤーが知るゴブリン達を超えていた。
「矢尻を抉り出すしかない……放置すると、そこから壊死する……」
「うぅ……嫌だけど……やるしかないわよね……」
剣舞士の言葉を聞いて、上妖精弓手は心底嫌な表情をしながらも受け入れ、準備を始めた。短刀の刃を熱し、上妖精弓手にタオルを噛ませ、蜥蜴人僧侶、鉱人術士、戦士娘が体を押さえた。
「いくぞ……」
剣舞士の言葉に上妖精弓手が頷くと、治療が始まり、数分後
「うぅ……」
「大丈夫ですか……?」
傷口は神官娘の奇跡で治したが、まだ痛むらしく歩き方が少しぎこちない。そんな上妖精弓手を戦士娘がサポートしつつ、一党は更に奥へと進んだ。
そして暫く進むと、広い場所に出た。
「なんじゃ……倉庫かの?」
「それにしては、何も有りませんな……」
鉱人術士と蜥蜴人僧侶は不思議そうにしていたが、剣舞士は地面に土が盛られていて、それが一定の間隔であることに気付いた。
その時、ゴブリンスレイヤーが奥に何かを見つけた。
ゴブリンスレイヤーが松明を奥に向けると、台の上に一人の少女が横たわっていた。
長い金髪に、ボロボロだが赤い服を着ている。その特徴は、剣の乙女からの手紙に記されていた、貴族の少女に間違いない。
「……彼女に間違いなさそうだな」
令嬢冒険者を見て、ゴブリンスレイヤーは小さく呟いた。魔法使い娘が助け起こすと、神官娘が令嬢冒険者の首筋に焼き印があることに気付き
「酷い……」
と労るように、そこに布を宛がった。剣舞士は、激しく暴行された跡はあるが、凌辱された痕跡が見られない 令嬢冒険者、そして広間を見て
「ここは……祭壇か」
と呟いた。その後、令嬢冒険者を保護して、村まで一度後退することにした。
これが、雪山での戦いの幕開け。