救助した令嬢冒険者が目覚めたのは、翌朝だった。
「つっ……!? はぁ、はぁ、はぁ……ここは……」
ゴブリン達に敗北し暴行を受けた彼女は、夢でもそれに魘されて目覚めた。
そして、見覚えの無い部屋に戸惑っていると、ドアが開いて
「あ、起きたんですね」
と桶を持った戦士娘が入ってきた。
「……貴女は……」
「私は、依頼で貴女の救助に来た一党の一人です。痛みは有りますか?」
戦士娘が椅子に座りながら問い掛けると、令嬢冒険者は軽く体を動かしてから
「……今のところは、大丈夫……」
「分かりました……体ですが、拭きますか?」
「自分でやるわ……」
令嬢冒険者の言葉を聞いた戦士娘は、桶を近くの机の上に置いた。そして
「では私は、一応部屋から出ますね……」
と言って、部屋から出ていった。それを見送った令嬢冒険者は、少しひきつる感覚のある首筋に触ってから
「……皆さん、ごめんなさい……」
と呟きながら、死んだ冒険者達に謝った。
あの洞窟から令嬢冒険者を救助した一党は、あの後一度村まで後退し、休憩してから作戦会議をすることにした。村の人達の懇意で、使っていなかった集会所を貸してもらい、その一部屋に令嬢冒険者を寝かせてから、一党も就寝。
朝食を取りながら、作戦会議を始めた。
「……やはり、奴らの行動が読めない……学習も早い……」
「確かに……まさか、一晩で学習して対処と逆に利用してくるなんて……」
ゴブリンスレイヤーの言葉に、神官娘が同意を口にしたが、一党全員が同意していた。恐らく今や、全冒険者達の中でもゴブリンに精通している一党だが、そんな一党でも今回のゴブリン達の行動は未知数だった。
「……もしかしたらだが……」
全員が唸る中、剣舞士が何やら考えながら発言を始めた。
「師匠……?」
「本当にもしかしたらだが、今回のゴブリン達だが……何らかの儀式をしようとしているのではないか?」
「……儀式、だと……?」
ゴブリンスレイヤーが首を傾げると、剣舞士は頷き
「確かに彼女は、激しく暴行されてはいたが、陵辱された痕跡はなかった……恐らくだが、生け贄にするためだ……」
「生け贄……」
「昔から、人柱として選ばれるのは……女性が多かった……特に、未婚かつ処女が選ばれた……それも、何らかの特質があるなら尚更だ」
「……そういえば彼女は、魔法が使えるんだったわね……」
剣舞士の話を聞いた魔法使い娘は、依頼の手紙に書かれていた内容を思い出した。特徴の欄の一つに、雷系統の魔法が使えると記載されていたのだ。
「それに……彼女の首筋にあった焼き印……あれは多分、目印だ……神への生け贄の」
剣舞士がそこまで推測混じりに言うと、上妖精弓手が
「なるほど……それなら、説明がつくわね……」
と同意した。気づけば、ゴブリンスレイヤーも頷いている。だが
「しかし、確証は無い……それに、問題はまだある」
「拐われたっていう、村の女性達ね?」
「ああ……あの洞窟には居なかった……恐らくは、古要塞だろう……」
古要塞。
それは、雪山の頂上付近に遥か過去に建設された古の城塞だ。村の人から聞いた話では、神代のドワーフが建設したらしく、まさに難攻不落の城塞なんだとか。
「……はっきり言って、正面から攻め落とすのはかなり難しいだろう……」
要は、今までの方法での攻略は不可能。
すると、ゴブリンスレイヤーは
「……方法は、ある……」
と言った。その時
「それ、私も手伝うわ……」
気付けば、令嬢冒険者がホールに居た。
令嬢冒険者の言葉を聞いた上妖精弓手は、椅子から立ち上がり
「貴女ね……私達は、貴女を救助するように依頼されたのよ? その貴女を、またゴブリンの所に連れていける訳がないでしょう?」
と非難した。だが、令嬢冒険者は
「それでも私は、行きたいの……彼らの、仇を取りたいの……」
と譲らなかった。上妖精弓手の非難は正論で、確かに救助対象を危険に曝す訳にはいかない。だが、令嬢冒険者の気持ちも分からないでもなかった。
一時の一党かもしれないが、それでもこの地までの旅を共にした仲間である。その仲間が無惨に殺されたのだから、仇を取りたいという願いも分かった。
その狭間で、一党の殆どが悩んでいると
「……だから、これは前金代わり」
令嬢冒険者はそう言って、何処からか取り出した短剣でその長い金髪を切った。
「あ……」
「今、私の手元にはお金が無いから……」
令嬢冒険者はそう言いながら、自身の髪を机の上に置いた。そこまで見て、剣舞士が
「……こうなっては、連れていくしかないだろう……例えここに置いていっても、勝手に着いてくる可能性が高い……単独行動をして、危機に曝すよりかは、一緒に居させた方が護衛もしやすい」
「ちょっ!? フェイヒリッター、本気!?」
剣舞士の言葉を聞いて、上妖精弓手が目を見開いて剣舞士を睨んだ。すると、剣舞士は
「ああ……一応、俺が近くには居るようにする……それに、ゴブリンスレイヤーはどうせ連れていくつもりだろう?」
そう言って、ゴブリンスレイヤーを見た。
「……ああ……使えるならば、なんでも使う……確認するが、何が使えて、何回まで使える」
「……《稲妻》が二回よ」
令嬢冒険者が言った魔法が分からないゴブリンスレイヤーは、視線を鉱人術士と魔法使い娘に向けた。
「強力な雷系の魔法じゃな」
「扱いは難しいけどね」
二人の説明を聞いて、ゴブリンスレイヤーは頷き
「タイミングは俺が指示する……いいな?」
「わかったわ」
「ああ、もう……わかったわよ……仕方ないわね……」
話が最終段階なことに気づいた上妖精弓手は、止められないと諦めて、深々とため息を吐いた。
そしてゴブリンスレイヤーは一言
「……今夜、仕掛けるぞ」
とだけ告げた。
二度目の攻略が、始まろうとしていた。