数日間後、陽が沈み暗い山中を一党が歩いていたのだが
「納得いかなーーーい!!」
と上妖精弓手が叫んだ。彼女、否、上妖精弓手、神官娘、令嬢冒険者の三人は木材で作った檻に入れられて運ばれていた。
「あはは……まあ、何となく予想はしてました……」
「貴女はもっと怒りなさい!! 私達の扱い、あまりにも酷いわよ!?」
神官娘は諦めたように笑い、上妖精弓手は文句を言いながら檻の床を叩いた。
「あまり叩くな……急造品だから、壊れるぞ……雪の中を、裸足で歩きたいか?」
「うぎぎぎぎぎ……!」
仮面を着けた剣舞士が告げると、上妖精弓手は頭を抱えて唸った。そして、令嬢冒険者に
「貴女も、文句言っていいんだからね!?」
「……耐えられるわ」
「うぎぎぎぎぎ……」
見事に一蹴されて、上妖精弓手は頭を抱えて転がった。なお、檻を運んでいるのはゴブリンスレイヤーと鉱人術士で、その前を蜥蜴人僧侶、後ろに剣舞士が居る。戦士娘と魔法使い娘は居ないが、その理由は後程説明する。
ゴブリンスレイヤーは何時もの鎧を、少し黒くしている。端から見たら、リビングメイルに見えないこともない。鉱人術士と蜥蜴人僧侶は顔に炭で模様が書かれている。そして剣舞士は、頭のてっぺんから足首辺りまである黒いマントを羽織り、仮面を装着している。雰囲気的には、闇騎士に見えなくもない。
そうして暫く歩くと、見事な要塞が姿を現した。木と金属を組み合わせた門は、簡単には突破出来ないだろう。
「頼もう! 我々は」
その門の前に立ち、蜥蜴人僧侶は翻訳の魔法を使ってゴブリン達に声を掛けた。少しすると、門が開いて中に入れられた。中に入ると、武器を持ったゴブリン達が通路の両側に立ち見つめきている。その数は、優に50は超えている。
「凄い数……」
「正面からでは、勝てそうにありませんね……」
その数と武器もだが、ホブも数体居る。それだけで、それより上位が居るのが確定した。そして、何やら杖を持ったゴブリンが前を歩き始めた。恐らくは、先導なのだろう。一党も、後に続いた。しばらく歩くと、地下へと続く階段を降りていく。武器庫、何らかの倉庫。そして、牢屋区画。そこに、捕らえられた女性達が鎖に繋がれていた。
一党はゴブリンに指示された場所に檻を置くと、紐を解いて中から三人を出した。その直後だった。
「アアアァァァァァァァ!」
令嬢冒険者が怒声を張り上げながら、ゴブリンに飛び掛かった。
「ちょっ!? 何してるのよ!?」
「落ち着いてください!」
令嬢冒険者の予想外の凶行に、上妖精弓手と神官娘は令嬢冒険者を止めようと抑えに掛かった。しかし、二人では中々抑えられない。そこに
「止めなさい!」
「落ち着いて!!」
なんと、魔法使い娘と戦士娘が現れて、一緒に抑えこんだ。流石に四人に抑えられては、令嬢冒険者も暴れられなくなり、何とか引き離せた。しかし、時既に遅い。先導していたゴブリンは、令嬢冒険者が殴り殺してしまった。
「貴女ねぇ……!」
「待て、やってしまったからには仕方ない……」
上妖精弓手は令嬢冒険者に掴み掛かるが、それは剣舞士が止めた。さて、何故魔法使い娘と戦士娘が現れたのか。実は、剣舞士が羽織っている黒いマント。それが呪装具で、効果は2つの影を繋いで、門に出来るという物だ。それの効果で、村から直接来たのである。
そして、神官娘、上妖精弓手、令嬢冒険者は魔法使い娘と戦士娘が持ってきた服に着替えていたのだが
「あ、そこ怪我してる!」
「え? ……まあ、痛みはそんなに無いので、大丈夫かと」
どうやら、令嬢冒険者を抑えてる際に爪が掠めたのか、神官娘の頬にうっすらと引っ掻き傷があった。神官娘曰く、痛みは無いらしいから、手当ての奇跡は使わないらしい。そして、手早く先に着替えた上妖精弓手は見張りに回ったゴブリンスレイヤーと剣舞士の所に向かい
「ねえ、なんで彼女を連れてきたのよ。お蔭で、最初の計画がパーよ?」
と文句を言ってきた。すると、先にゴブリンスレイヤーが
「……彼女には必要だったんだ……」
と呟いた。要領を得んと上妖精弓手が首を傾げていると
「……理由の一つは、村で言った通りだが……もし俺たちが帰らなかったら、彼女は罪悪感で押し潰されていただろう……そして、彼女を置いて、俺たちだけで依頼を完遂していたら……行き場を失くした復讐心と仲間を喪ったという喪失感と申し訳なさ……それらで彼女は、最悪は自我を崩壊させていた可能性が高い……それに、彼女は家宝だった剣も奪われたそうだ。それも取り返さないといけない」
剣舞士の説明を聞き、上妖精弓手は渋い顔をしながら下がっていった。どうやら、渋々だが受け入れてくれたらしい。
なお最初の計画というのは、要塞に入った後は仲間のフリ、もしくは隠れながらこのゴブリン達の親玉が何を企んでいるか調べるというものだった。
しかし、令嬢冒険者が暴れて一体殺してしまったために、もうそれは無理だろう。ゴブリンは鼻が効くために、女性や他種族の匂い。更には血の匂いも嗅ぎとる庫とが出来る。
「問題は、彼女が殺してしまった個体だ……アレだけ、どうも赴きが違う……戦力という風体では無かった」
「確かにそうね……
剣舞士の考察に、上妖精弓手は同意した。そして、少し考えた剣舞士は
「……不味いかもしれん……あのゴブリン、司祭かもしれない」
と呟いた。
「司祭……?」
「あくまでな……さて、どうなるか」
そうして一党は、令嬢冒険者が殺してしまったゴブリンを処理し、隠密行動を開始した。最初に寄ったのは、武器庫だ。そこには、剣や斧、槍などが多く収容されていた。恐らくは、殺した冒険者からだけでなく、不運にも近くを通った行商人から奪ったのだろう。
その中から幾つかを見繕い持っていくことにして、他は鉱人術士の術で使用不能にした。
すると、鉱人術士が一本の剣を
「一応、お主も持っておけ」
と令嬢冒険者に差し出した。だが令嬢冒険者は
「いい……私が使うのは、あの剣だけって決めてるから……」
と拒否した。令嬢冒険者が使っていた剣は、銀を雷を使って鍛えたとされており、魔法も使いやすいらしい。
それを聞いた鉱人術士は
「なるほどの。それほどならば、武器も武器冥利に尽きるわ」
と満足そうに頷きながら、籠にしまった。そこから、更に移動すると、要塞の中庭が見える通路に出た。そしてゴブリンスレイヤーは、見事な鎧を着た大きなゴブリンを見て
「……ゴブリン……パラディン」
と相手を特定した。