一同がこれからどうしようか考えていると、何やら太鼓の音がし始めた。何かと思い、中庭を見る一同。すると
、いつの間にかゴブリンパラディンの近くに祭壇が置かれ、更に中庭に集まっていたゴブリン達が真ん中を空けて道を作っていた。
その光景に一同が困惑していると、ゴブリンパラディンが剣を抜いて掲げて声を上げた。すると、令嬢冒険者がゴブリンパラディンの持つ剣を睨んだ。どうやら、ゴブリンパラディンが持つ剣が奪われた剣のようだ。
確かに、かなりいい剣だと分かる。聞いた話では、軽銀を雷を以て鍛えた業物らしく、家宝なのだとか。
なるほど、奪還したくなるのも頷ける。
それから少ししたが、何も起きない。一同とゴブリン達が不思議そうにしている中、一番先に気づいたのは剣舞士だった。
「しまった……式典か……! あのゴブリンは、式の進行役だったんだ……!」
「叙勲式か……!!」
剣舞士とゴブリンスレイヤーの言葉を聞いて、令嬢冒険者は自身の失態に気づいた。そのゴブリンは、自身が殺してしまった。するとゴブリンパラディンは、胸元で何かを握った。何を握ったのかは、暗くて見えない。
だがその直後、令嬢冒険者が首筋を抑えて
「あ、ああ……アアアアアァァァァァアァァ!?」
と叫び始めた。その段階になり、剣舞士は勘違いに気づいた。
「しまった!? あの焼き印は、生け贄の証であると同時に呪いか!!」
今令嬢冒険者は、仲間が無惨に殺された場面と自身がゴブリン達に激しく暴行されている場面を繰り返し見せられて、精神に異常を来していた。
「だったら、あれを止めれば!!」
そう言って、上妖精弓手がゴブリンパラディンを狙って矢を放った。放たれた矢は、飛燕を彷彿する速さでゴブリンパラディンに迫る。だがその射線上に、一匹のゴブリンが飛び込んで自ら盾になった。
「なっ?!」
まさかゴブリンが自ら盾になるとは予想しておらず、上妖精弓手は固まった。その直後、凄まじい数の矢が放たれて、上妖精弓手は石垣に身を隠した。
「まさか、ゴブリンが自ら盾になるなんて!?」
そうこうしている間に、ゴブリンパラディンが指示を下したのかゴブリン達が次々と武装し、動き始める。だが、令嬢冒険者はまだ苛まれているようで、叫んでいる。
「浄化の奇跡は!?」
「すいません。まだ、私は使えません!」
剣舞士の問い掛けに、神官娘が謝罪しながら答えた。しかし、それも無理は無い。浄化の奇跡は、殆どが高位の神官かよほど相性が良い神官しか覚えていない。
確かに神官娘は他の新人に比べて回数と使える種類は多いが、それでも新人の域をまだ出ておらず、まだ覚えてないのも仕方ないだろう。
(このまま放置すると、最悪は彼女の精神が保たないか! ならば、仕方ない!)
精神への攻撃は、よほどの耐性か訓練をした者でなければ、廃人に至る可能性が高過ぎる。そして廃人になったとしても、生け贄にするには何ら困らない。ある意味で、ゴブリンパラディンのやり方は正しいのだ。
ただ予想外だったのは、対処の仕方を知っている剣舞士が居たことだった。
剣舞士は、矢が当たりそうになった戦士娘と魔法使い娘を通路の方に押し飛ばし、自身も矢を籠手で弾いてから令嬢冒険者を押し倒し
「文句は聞かん!」
「んむっ!?」
僅かな時間だが、令嬢冒険者に口付けした。そして、令嬢冒険者と目を合わせて
「俺が分かるな?」
「はい……分かります」
剣舞士の問い掛けに、令嬢冒険者は少しボーっとしながら答えた。
「今から移動する。お前は神官娘と戦士娘の二人と一緒に走れ。いいな?」
「分かりました……」
剣舞士は令嬢冒険者が頷いたのを確認し、次にゴブリンスレイヤーを見て
「ゴブリンスレイヤー!」
「先ほど話した通りに動くぞ……そっちは任せた」
「ほいきた!」
「お任せあれ」
ゴブリンスレイヤーの指示の直後、一党は動き始めた。一度鉱人術士、蜥蜴人僧侶、上妖精弓手、魔法使い娘達とは別行動を始め、ゴブリンスレイヤー、剣舞士、戦士娘、神官娘、令嬢冒険者がゴブリン達と戦いながら、この古要塞に対して破壊工作を開始する。
「師匠……さっきのは」
「お前にもやっただろ……俺は精神干渉の魔法が不得手でな……ああしないと、相手の精神に干渉出来ないんだ……」
戦士娘からの問い掛けに剣舞士が答えると、戦士娘はオーガ戦の時を思い出した。確かにあの時も剣舞士が口付けしてきたら、戦士娘を苛んでいた激しい殺戮衝動が一瞬にして収まった。
「俺はどうも、最初に相手に心の動揺を与えないと、上手く干渉出来ないんだ……痛みでも上手くいくかもしれんが、それも確実とは言えないからな……」
「なるほど」
剣舞士の説明に、戦士娘は不承不承だが納得することにした。事実、自身と令嬢冒険者はそれで元に戻れたのだから、文句は言えない。
「ゴブリンスレイヤー……何やら、一体早いのが来るが」
「……今のところは、手筈通りに動く……接敵したら、対処は任せる」
「分かった」
短く会話しながら、ゴブリンスレイヤー達は階段や縄を上がってきたゴブリン達を次々と撃破する。その時、一体のゴブリンが剣舞士に飛び掛かってきた。だが剣舞士は、慌てることなくそのゴブリンの腕を掴んで投げた。
のだが、そのゴブリンは空中で身を捻って着地した。
ゴブリンの中では、高い背に引き締まった体。それに、高い身体能力。
「言うならば、ゴブリンファイターか……」
武器は使わず、己の肉体が武器なのだろう。武器と言えるのは、籠手と脚甲のみ。
「……俺が引き受ける、行け」
「御武運を、師匠!」
「剣舞士さん、ご無事で!」
ゴブリンファイターを剣舞士が足止めし、その間にゴブリンスレイヤー達は走っていく。その後を、ゴブリンファイターが追い掛けようとしたが、ジャギンっという甲高い音がして、剣舞士の足下に一本の線が引かれた。
その線を、剣舞士は超えて
「さて……この先に行きたいのならば……俺を倒してからにしてもらおうか……後ろの雑魚共もだ……命懸けで来い」
刀片手に、ゴブリン達を挑発した。その剣舞士に向かい、ゴブリンファイターが飛び掛かり、戦いが始まった。