剣舞士が冒険者になってから、数時間後。ギルドの掲示板に、剣舞士が冒険者になったことを知らせる張り紙が出され、その隣に剣舞士がこれまで討伐した魔物の種類と数が記載された張り紙が出された。
それらを見た大多数の冒険者は、剣舞士が異例の鋼鉄から冒険者を始めたことに驚いた。
冒険者は本来、白磁から始まるのが通常であり、その後の活躍、報酬総額、人格といった要素が重なって、白磁から等級を上げていくのだ。
白磁、黒曜、鋼鉄、青玉、翠玉、紅玉、銅、銀、金、白金となる。
それを剣舞士は、二段飛ばしで鋼鉄から始まった。
当然、やっかみを覚える者も出るわけで
「おい、てめぇ……どういう手でギルドに取り入りやがった?」
「……取り入った覚えはない……事実を話しただけだ」
それに対して、剣舞士は閉じていた目を開いて短く返答。それが気に入らなかったのか、圓人斥候は腰の短刀を抜いて
「調子乗ってるんじゃねぇぞ、ガキが……その顔、切り刻むぞ……」
と突き付けた。しかし、剣舞士は冷静に
「……つまり、腕を見たいのだろう? 相手をしてやる……」
と言いながら、その短刀の刃を躊躇いなく掴んだ。
常人では、理解しがたい行動だろう。特に、彼は斥候。その役割をこなす為には、毒も駆使する。
「てめぇ……どういう神経してやがる……」
「なに……戦場慣れしているだけだ……一目見れば、毒が塗られているかいないかなど、判断できる」
圓人は理解出来ないといった風体で、剣舞士を睨むが、剣舞士は何処吹く風といった様子で立ち上がりながら、短刀を放した。
そして、受付嬢に視線を向けて
「すまんが、外の訓練所を借りるぞ……」
と言って、外に出た。
そして、訓練所。その真ん中辺りで剣舞士と圓人斥候はある一定の距離を取って立ち合っていた。
「さて、審判は私が勤める。殺しや重傷に至る攻撃は即座に止めるから、そのつもりで」
そう宣言したのは、銀等級の女騎士だ。その女騎士の言葉を聞いて、剣舞士と圓人斥候は頷いた。
それを見た女騎士は、二人が決められた位置に居ることを確認して
「試合……開始!」
と手を振り下ろした。
その直後、圓人斥候が動いた。圓人は持っていたのとは違う短刀を腰の装甲の裏から取り出し、投擲した。
その数、全部で四本。それらが、飛鳥の如く剣舞士に迫る。
(どうせ避けるだろうが、それが狙いだ! 安心しろ、再起不能にはしねぇからな!!)
そう思考しながら、圓人斥候は短刀を逆手持ちしながら剣舞士に迫った。しかし、圓人斥候の予想を裏切り、剣舞士避ける素振りを見せない。
それどけろか、両手に持っていた刀を一度手放した。
それに、全員が驚いた直後、剣舞士は両手を霞むような速度で動かして、圓人斥候が投げた短刀を全て掴んだ。
「なっ!?」
「ふっ!」
圓人斥候が驚いた直後、剣舞士はそれを全身を使って投擲した。剣舞士が投擲した短刀は、圓人斥候が投げた比ではない速度で圓人斥候に全部。
「ちいっ!?」
圓人斥候は、その小柄な体を地面に這わせるようにして短刀を回避。剣舞士が投げた短刀は、そのままの勢いで圓人斥候の後ろにあった人形に深々と突き刺さった。
もし避け損ねていたらと思うと、圓人斥候は動きを止めてしまった。
しかし、それは致命的な隙であり、ほんの僅かな時間だが、圓人斥候は剣舞士から視線を外してしまった。
そして視線を戻せば、剣舞士の姿は無い。
「あいつ、何処に!?」
と圓人斥候が驚いた時、影が覆った。まさかと思った圓人斥候は、上を見上げた。
だが上には、剣舞士が羽織っていたマントが有るだけ。
「くそ、ふざけやがって!!」
圓人斥候は、落ちてきたマントを避けた。だが、その瞬間
「……降服しろ」
気付けば、剣舞士が真後ろに立っていた。
「なっ……!?」
「そこまで!! 勝者、剣舞士!」
女騎士が宣言した直後、歓声が沸いた。
しかし、圓人斥候は納得いかないらしく
「待て! こいつは、何をしやがった!?」
と女騎士に食って掛かった。
すると、見ていた重戦士が
「こいつ、お前が視線を外した直後に飛んで、更にはマントを下に投げたのさ。それでお前の視線を遮っている間に、お前の後ろに着地。後ろを取ったんだ」
と説明した。
その間に、剣舞士はマントを回収し羽織っていた。最早、誰も剣舞士の動きを疑う者は居なかった。
取った戦術もだが、圓人斥候が投げた短刀を掴んだ際の手の動き。明らかに、実戦慣れしている証拠だった。
すると、重戦士が
「こいつの能力の高さは、本来ならば銀等級でも何らおかしくはない。それは、俺だけでなく槍使いも同じ判断だ! シルバーバック、ダイアーウルフ、エビルプランター! それらを単独で撃破出来るだけの力を、こいつは有している!」
とその場に集まった全員に聞こえるように言った。
今重戦士が挙げた魔物は、単独での撃破は難しい群れを成す魔物達だ。
特に、シルバーバックは銀等級でも重傷を負いかねない魔物だ。それを単独で討伐しているのであれば、疑う理由は無い。
「いいな?」
「……っち……」
重戦士が視線を向けると、圓人斥候は舌打ちしてから短刀を回収しにいった。
それを見送りつつ、重戦士は
「しかし、お前さん。よく掴もうって判断したな……普通だったら、避けるか防ぐだろうに」
「……掴んだほうが、意表を突けると判断した……視線を誘導出来るともな……」
重戦士の問い掛けに、剣舞士はそう答えてからギルド内に戻っていった。
そして、ギルドから貸し出された部屋で休んでいると
『あの、今いいでしょうか?』
とあの格闘娘の声が、ドア越しに聞こえた。
「構わない……入っていいぞ」
と剣舞士が入室を促すと、ドアが開き格闘娘が入ってきた。
「どうした?」
「……その……私を、弟子にしてくれませんか?」
剣舞士が問い掛けると、格闘娘はそう告げた。