剣舞士と別れ、走っていたゴブリンスレイヤー達は目的の場所に向かっていた。道中に居たゴブリンを殺し、更には所々にあった坪や樽を転がしてゴブリンにダメージを与えたり、殺したりしながら。
「ねえ、彼は一人で大丈夫なの!?」
と正気に戻った令嬢冒険者が、戦士娘に問い掛けた。戦士娘は、飛び掛かってきたゴブリンの顔面に棍棒を叩き込み
「師匠なら、一人でもなんら問題はありません!」
「むしろ、私達が居たら邪魔になる事もありますから!」
戦士娘に続いて、神官娘も令嬢冒険者に答えた。その言葉には、強い信頼が伺えた。ゴブリンスレイヤーも、不意に横から現れたゴブリンに拾った剣を叩き付けて撃破。そして、櫓に近づくと登り始めた。
下からゴブリンが上ろうとしたら、それを戦士娘や神官娘が蹴ったり錫杖で叩いたりして落としていく。
そして一番上まで登ると、隣の城壁に渡り櫓に火を放ってから、思い切り蹴ってみた。実は登る直前に、櫓の足の一ヶ所に深い切れ込みを入れていて、ゴブリンスレイヤーの蹴りでそこが折れて、櫓が倒壊。それだけでなく、火が燃え広がっていった。
それを尻目に、更に走る。その中で、令嬢冒険者が遅れ始めた。だが、それも仕方ない。彼女はゴブリンパラディンの呪いで、心身共に衰弱してしまっている。むしろ、走れているだけまだマシと考えられるだろう。
そして令嬢冒険者は、剣舞士が戦っている辺りに視線を向けた。時折一瞬だけ明るくなっているのは、恐らくは火花が散っているのだろう。その火花から、まだ剣舞士が健在だと分かる。
そして場所は変わり、剣舞士はゴブリンファイターと戦っていた。しかし、既に残っているゴブリンはゴブリンファイターのみ。他のゴブリンは、一太刀で両断され転がっている。
(なるほど……何処で格闘技を知ったかは甚だ疑問だが……力量は分かった……)
剣舞士の見立てでは、今の戦士娘より少し上という所だろう。そこは、自分が引き受けて良かったと剣舞士は思った。
(さて……そろそろ終わらせるか)
剣舞士がそう思った時、ゴブリンファイターが上段回し蹴放ってきた。それを剣舞士は軽く回避し、その場でゴブリンファイターに背を向けた。それを見たゴブリンファイターは、にやりと笑みを浮かべた。恐らく、逃げると考えたのだろう。ゴブリンファイターは、大きく跳躍して飛び蹴りをしようとした。だが次の瞬間、剣舞士の姿が消えて
「相手が背を向けたら、フェイントも考えろ……戯け」
頭上からそう声が聞こえた直後、ゴブリンファイターは縦に両断されていた。剣舞士がやったのは、至極単純である。
ゴブリンファイターが跳んだタイミングで、更に高く跳躍。ゴブリンファイターの頭上を取ったら、刀を振り下ろしただけである。着地した剣舞士は、付近に他のゴブリンが居ないことを確認し
「さて、合流を急ごう……あっちか、分かりやすい」
剣舞士は、火が燃え広がっている方に駆け出した。
場所は戻り、ゴブリンスレイヤー達は道中で遭遇したゴブリンを倒しながら、城壁の上を走り、更には城のあちこちに放火し回っていた。勿論、無策に走り回っていた訳ではない。時間稼ぎと、脱出ポイントを探していたのだ。
走りながら放火したために、相当数のゴブリンは倒せた筈である。後は、ゴブリンパラディンを倒して、令嬢冒険者から頼まれた剣を取り返すのみになるだろう。残党も、ゴブリンスレイヤーが考えている策でほぼ殲滅出来る筈だ。
そう考えながら、ゴブリンスレイヤーは周囲を把握して、脱出ポイントに到着すると
「冒険者キットから、鉤縄を出せ!」
とゴブリン達の怒声に負けないように、大声で指示を下す。それを聞いて、神官娘と戦士娘は背中の雑嚢入れから冒険者キットを取り出し、更にその中から鉤縄を取り出した。ゴブリンスレイヤーは神官娘から受けとると
「跳ぶぞ」
言葉短く言って、神官娘を脇に抱えて、そして鉤縄を城壁に掛けると壁外に向けて跳んだ。
その後を、令嬢冒険者を背負った戦士娘も跳ぶ。
「ひゃあああぁぁぁぁぁ!?」
神官娘は叫ぶが、ゴブリンスレイヤーは冷静に途中で縄を強く掴んで停止。それから僅かに遅れて戦士娘も止まった。その直後、四人の後ろをゴブリン達が落ちていった。
「……持っていて良かった、冒険者キット……だな」
「それは分かりますけど……いきなり跳ぶのは、やめてください……」
「……努力はする」
神官娘の文句に答え、ゴブリンスレイヤーはゆっくりと地面に着地。その後に、戦士娘と令嬢冒険者も着地した。その数秒後、上から剣舞士がゴブリンスレイヤーが使っていた鉤縄を片手で掴んで減速しながら着地した。
「師匠、ケガは?」
「問題ない……あっちも無事だったようだな」
剣舞士が視線を向けた先の地面から、別れて行動していた残りのメンバーがゴブリン達に拐われていた女性達と一緒に出てきた。
「ふう……やれやれじゃわい……」
「やっぱり、あの
「まあ、お陰で一ヶ所崩せばゴブリン達が潰れて、撤退は楽だったけど」
「さて、問題はここからでありましょうや……小鬼殺し殿」
確かに、女性達を守りつつ山の麓の方に後退を開始。更には追撃してくるだろうゴブリンパラディンの部隊を撃滅し、剣を回収する。文章にすると楽かもしれないが、恐らくはゴブリン側にはまだ上位体が居るだろう。
「走るぞ……門が開いた」
剣舞士の視線の先を見ると、開いた門を通ってまだ30を超えるゴブリン達とパラディン。そしてチャンピオンが現れた。
「チャンピオンが居るじゃない!」
「走れ!!」
なるべく走り易い場所を、一党は走り始めた。
そして、パラディン達との最後の戦いが始まった。