「上妖精弓手、どちらか狙えるか!?」
「任せなさい!」
剣舞士の言葉を聞いて上妖精弓手は、振り向き様に矢を放った。放たれた矢は、チャンピオンに向かっていく。だが当たる直前、少し手前に居たゴブリンがチャンピオンの前に飛び込み、その身に矢を受けた。
「くっ!? やっぱり、別のゴブリンが肉盾になる!!」
「だったら、雑魚共から片付けるだけだ!!」
上妖精弓手からの報告を受けて、剣舞士は雑嚢入れから何やら取り出して、投げた。剣舞士が投げた物は、大きく弧を描いてゴブリンの首を斬り飛ばし、剣舞士の手元に戻ってきた。形は十字だ。
「それも、呪装具!?」
「まあな! 飛燕刃だ!」
呪装具、飛燕刃。効果は、狙った相手に飛んでいき、刃で攻撃しまた使い手の手元に戻るという物だ。素材は、その名前の通りに燕が二羽。副作用は、飛んでいる間だけだが、痛覚が鋭敏になるのだ。つまり、使っている最中に負傷すると普段以上の痛みが襲ってくるのだ。
剣舞士は次々と投げ続け、ゴブリンを減らしていく。中には、接近してきたゴブリンも居たが、それらはゴブリンスレイヤーや鉱人術士が撃破していった。
その時、ゴブリンスレイヤーが突如として方向転換。ゴブリンパラディンに向かっていった。それを見て、剣舞士も方向転換。ゴブリンチャンピオンに突撃した。
それを見た神官娘が、令嬢冒険者に
「呪文の詠唱の準備をしておいてください! タイミングは、ゴブリンスレイヤーさんが指示します!」
と指示した。そして、蜥蜴人僧侶以外の一党は支援攻撃を開始した。投石紐を使ったり、弓矢を放ったりしてゴブリンスレイヤーと剣舞士を襲おうとしたゴブリン達を次々と撃破していく。
攻撃されていると知りながら、ゴブリン達は一党には向かわずにゴブリンスレイヤーか剣舞士に突撃する。実はゴブリンパラディンは、配下のゴブリン達にある魔法を掛けていた。その魔法の名前は、《狂気》。
これを掛けられた相手は、通常の思考が出来なくなり、魔法を掛けた使い手の命令を命懸けで遂行し、更には使い手を守る行動を取るのだ。
この時点で、ゴブリンパラディンが下した命令は以下になる。
1、自分が下した命令は絶対。
2、女が居たら、全員捕縛。
3、敵は全て殺せ。
4、上位は守れ。
になる。パラディンからしたら、通常のゴブリンなど捨て駒に過ぎず、そして自分が最上位に至る為の駒に過ぎなかった。
もう少しで最上位に到達出来るのに、それを邪魔されてしまった。その邪魔をする冒険者達を全員殺し、生け贄の令嬢冒険者を捕縛し、適当なゴブリンを神官役に据えて、また式を行う。
そうすれば、まだ間に合う。
そう考えたゴブリンパラディンは、残った全戦力全てを投入し、ゴブリンスレイヤー一党を追い掛けた。
それが、ゴブリンスレイヤーの策略と気づかないで。
ゴブリンパラディンは、目前のゴブリンスレイヤーに対して、令嬢冒険者から奪った軽銀の宝剣を振り下ろした。ゴブリンスレイヤーはその一撃を盾で受け流したのだが、盾に深々と斬り込みが入った。
(何度も受けることは出来ないな)
そう考えたゴブリンスレイヤーは、なるべく攻撃を受けないように戦うことにした。パラディンからの攻撃はギリギリで避けて、チマチマとダメージを与えていく。
ふと気付けば、剣舞士はチャンピオン相手に押している。チャンピオンは大きな
(あちらは大丈夫だな)
そう判断したゴブリンスレイヤーは、いよいよパラディンから剣を奪還することにした。
(後で、神官娘に泣かれそうだが……)
そう考えながらも、ゴブリンスレイヤーはパラディンからのある攻撃を待っていた。そして、その一撃。突き攻撃が来た。それを見たゴブリンスレイヤーは、盾を構えた。その直後、剣が盾を貫通。ゴブリンスレイヤーは痛みを堪えながら、盾を僅かに動かした。
確かに、剣は盾を貫き、剣が当たった腕から血が流れた。それを見たゴブリンパラディンは、ニヤリと笑みを浮かべて、剣を抜こうとした。だが、抜けずに驚いた。
その理由は、ゴブリンスレイヤーが盾を動かしたことだった。
幾ら名剣だろうが、刺した時と角度が変われば簡単に抜けないのは道理。抜けないことに動揺し、パラディンが動きを止めた瞬間、ゴブリンスレイヤーは雑嚢入れから一つの陶器製の小さな瓶を取り出して、ゴブリンパラディンに投げつけた。当たった瞬間、ゴブリンパラディンは驚きから剣から手を離し、それを見たゴブリンスレイヤーは一気に後退し
「呪文だ!」
と令嬢冒険者に指示を飛ばした。それを受けて、呪文の詠唱を始める令嬢冒険者。剣舞士はゴブリンチャンピオンを倒したようで、ゴブリンスレイヤーの方に走っている。問題はここからだった。
令嬢冒険者が呪文を詠唱していくと、その両手に光が集まっていく。そして
「《
轟音を伴いながら、閃光が放たれた。放たれた閃光は、数体のゴブリンを消し炭にしながらも、天へと向かっていった。それから数秒後、地鳴りが響き渡り、山頂から白い壁。雪崩が迫ってきていた。
「皆さん、私の後ろに!!」
神官娘はそう言うと、聖壁の詠唱に入った。意図を察して、次々と集まる一党の仲間達。しかし、ゴブリンスレイヤーと剣舞士は距離が離れていて、雪崩が到着するまでに間に合わない。
しかし、そんなことは二人も承知している。だから
「ゴブリンスレイヤー!」
剣舞士が懐から札を取り出しながらゴブリンスレイヤーの名前を呼び、その意図を察したゴブリンスレイヤーは剣舞士の近くになるべく寄った。そうして、剣舞士が手を地面に突いた直後、雪崩が二人に襲い掛かかり、聖壁を展開していた一党にも襲い掛かった。
激しい衝撃が一党を襲い、それを神官娘は終わるまで耐えた。長そうで短い雪崩は終わり、一党は周囲を見渡した。多数居たゴブリンの生き残りも、パラディンも雪に潰された。
そして、令嬢冒険者は両膝を突いて
「私の……せいで……」
どうやら、ゴブリンスレイヤーと剣舞士が雪に押し潰されたと思っているようだ。しかし、一党。特に、戦士娘と魔法使い娘は冷静に
「大丈夫ですよ」
「ええ……あの二人なら……ほら、あそこ」
と言って、ある場所を指差した。令嬢冒険者がその指の先を追うと、一ヶ所が不自然に盛り上がっていき
「ふう……やはり、雪崩を考えていたか……」
「……あれが、多数を一片に片付けるのに丁度良かったからな……」
その雪の下から、ゴブリンスレイヤーと剣舞士が姿を現した。そしてゴブリンスレイヤーは、足下から宝剣を拾い上げて
「……取り返したぞ……」
短く、令嬢冒険者に告げた。そして、剣舞士も少し離れた場所に腕を突っ込み
「……これか、鞘は」
と宝剣の鞘を、雪の中から見つけた。その2つを受け取った令嬢冒険者は、涙を流した。
こうして、雪山での依頼は幕を下ろす。