ゴブリンスレイヤーの一党が雪山の古要塞から令嬢冒険者を救助し、数日後の水の都。そこまで馬車に乗って移動し、降りて
「お世話になったわね」
「貴女だけでも、助けられて良かったです」
令嬢冒険者が頭を下げると、神官娘は令嬢冒険者の両手を優しく握った。そこまで見守ってから、魔法使い娘が
「それで、これからどうするか決まってるのかしら?」
「そうね……とりあえず、一度実家に戻って考えてみるわ……」
実は令嬢冒険者だが、冒険者になりたかった為に家宝の剣を持ち出し、親の制止を振り切る形で実家を出たのだ。今まで何回か、親から心配だから帰ってきなさいという手紙が来ていたが無視していた。
しかし、今回の冒険で仲間達は全員死亡。自分も呪いを受けてしまった。
こうなってしまっては、今まで通りの冒険者生活をやっていける自信は無い。進退を考えるために、一度実家に帰ってゆっくりしようと考えていた。
「それが良いですよ。ご両親も安心するでしょう」
戦士娘の言葉に、令嬢冒険者は頷いた。
そうして、少し考えてから
「その……もし良かったら、手紙を書いていいかしら?」
「大丈夫ですよ。だって私達、友達じゃないですか」
令嬢冒険者の問い掛けに一瞬キョトンとした神官娘だったが、すぐに朗らかな笑みを浮かべて答えた。
「戦友から始まったけれどね」
「一緒に同じ冒険を乗り越えたのなら、もう友達ですよ」
令嬢冒険者が固まっていると、魔法使い娘と戦士娘がそれぞれ令嬢冒険者の肩に手を置きながら言った。
令嬢冒険者が感極まった様子で震えていると、上妖精弓手が手を挙げて
「あ、私にも欲しい! 手紙のやり取りってやったことないから、やりたい!」
と朗らかに告げた。その言葉に、令嬢冒険者は嬉し涙を流した。そして、水の都で一党と別れた後、令嬢冒険者は呪いの治療のために暫く水の都に滞在しながら、ボンヤリとしていた。
そんな時、吟遊詩人の唄が聞こえてきた。その内容は、少し前まで共に行動していた冒険者。
ゴブリンスレイヤーと剣舞士に関した唄。
「ゴブリンスレイヤーに剣舞士か……」
名前自体は、前から知っていた。しかし、大して気にしていなかった。
「まあ、唄で聞いたのよりも色々とね……」
ゴブリンスレイヤーに関しては、唄に聞いていたのよりも華々しくはなかった。そして、剣舞士。剣舞士の方は、唄に違わぬ剣の腕前を誇っていた、
上位のゴブリンを相手にして、二体共葬っていた。
そして
「……つ!」
剣舞士から口付けされた事を思い出した令嬢冒険者は、一気に顔が赤く染まった。令嬢冒険者は今は冒険者とはいっても、一応は貴族の娘。
口付けされた経験が無いと言ったら嘘になるが、それは大抵で手の甲になり、直接唇にされたのは初めてだ。
だが、その口付けによって、呪いで錯乱していたのに一気に落ち着いた。
あの瞬間のことはよく覚えていないが、恐らくは気付け剤か何かを飲まされたのだろう、令嬢冒険者はそう結論した。しかし、やはり恥ずかしいものは恥ずかしいので、令嬢冒険者は暫くの間はベッドで身悶えていたのだった。
それから更に数日後、令嬢冒険者は水の都から離れて自分の故郷に帰って、自宅の自室に居た。
数年振りに入った自室は昔のままで、今考えてみると夢見る少女だったと思う。
それはさておき、令嬢冒険者は机に向き合って羊皮紙にペンを走らせていた。あの冒険後から初めて、神官娘達宛ての手紙を書いていた。
内容は、差し障りの無い季節の挨拶から入り、自宅に戻ったことを書いた。そして今は、進退を考えているために冒険者業は半ば引退したこと。そこまで書いた令嬢は、横の本棚を見た。そこには、実家の書庫から持ってきた本が何冊か納められている。
そのほとんどが、商売に関する本になる。彼女の実家は貴族だが商人もやっており、その手の本が書庫には山ほど所蔵してある。
そして、やはり彼女も商人の娘だったらしい。スルスルと、その内容が頭に入ってくるのが分かった。
「さて……」
手紙の書き終えた令嬢は、机の上に置いてあったハンドベルを鳴らした。そして、少し間を置いて
「お呼びですか、お嬢様」
と一人のメイドが入ってきた。令嬢は、椅子から立ち上がり
「剣を持ってきてくれる?」
とメイドに告げた。そうして、彼女は新しく旅立つことになる。