次回、監査嬢とです
年末に近づいたある日、冒険者ギルドは一年間最後の営業を止め、仕事納めの準備をしていた。
入り口付近に置いてある本棚を奥に移動し、カウンターの上にあるポーション等の値段表を仕舞っていた。
その中に、剣舞士が私服を着て力仕事をしていた。その近くに監査嬢が居る為に、どうやら手伝っているようだ。
「すいません、それは彼方に……」
「あっちだな。分かった」
監査嬢の指示に従い、剣舞士は担いだ本棚を奥に運んでいく。それを見た他の受付嬢達は、一様に驚いている。その本棚は、中の本を全て抜いても約30kgを超えている物だ。普段なら、人二人で運んでいる物を、剣舞士はその細身からは予想出来ない力で運んでいる。
しかし、実は剣舞士からしたら多少バランスが悪いが、フル装備時と重量差は無いのである。
それはさておき、剣舞士の手伝いも相まって、冒険者ギルドの仕事納めは順調に終了。
すると最後に、ギルド長が近寄ってきて
「いやはや、助かりました。今回は貴方のおかげで、例年より早く順調に終わりました」
と感謝の言葉を述べた。
「俺は彼女に頼まれ、出来ることをやったに過ぎない……」
剣舞士はそう言って、冒険者ギルドが終わるまで監査嬢を待った後に、監査嬢と冒険者ギルドを出た。
西の町も雪が降り、至るところに雪が積もっている。剣舞士は冒険の為にスパイク付きの靴を履いてるが、監査嬢は普通の靴な為に
「わわっ!?」
「掴まれ」
時々雪に足を取られて倒れそうになるが、その度に剣舞士が腕や腰を掴んで助け、自分の腕に掴まるように促した。そうして二人は、家への帰路の最中に買い物していく。
今日だが、同居人の戦士娘と魔法使い娘は少女を連れて出掛けており、翌日まで帰ってこない。
なんでも、牛飼い娘を介して農家からある作物の種を貰う代わりに、1日手伝うことにしたらしく、戦士娘と魔法使い娘は道中の護衛に着いていった。
そういった訳で、今日は二人で過ごすことになっている。
そうして二人は買い物を済まして、帰宅。
夕食は剣舞士が作った料理を食べたのだが
「剣舞士さん……意外と、料理上手なんですね……」
「必要に迫られて、覚えただけだ。そちらには劣る」
剣舞士の料理に、監査嬢は少し驚いていた。
普段は戦士娘や魔法使い娘に任せているために、予想出来なかったようだ。なお監査嬢も、寮では自炊していた為にある程度は料理が出来るし、なんならこの家でも何回か作ったこともある。
それはさておいて、料理を食べ終わった後はお風呂に入ってからゆっくりとした。
何時もだったら少女の相手を戦士娘がしたりしているので、それなりに賑やかな時間だが、今日は静かである。
剣舞士は自室で椅子に座り、飲み物片手に本を読んでいた。その時、ドアがノックされて
『すいません、今大丈夫ですか?』
と監査嬢の声が聞こえた。剣舞士は、カップと本を机に置くと
「どうした?」
とドアを開けて、監査嬢を迎え入れた。
監査嬢は寝間着の上に上着を羽織っており、ある程度話をする態勢だった。それを察した剣舞士は、適当に腰掛けるように促してから、予備のカップに飲み物を注いで
「余りですまないが」
と監査嬢に手渡した。
「いえ、ありがとうございます」
飲み物を受け取った監査嬢は、一口飲むと
「改めて聞かせてください……剣舞士さんは、戦争を駆け抜けたんですよね……?」
と剣舞士に問い掛けた。
「……そうだな……物心付いた頃から、約10年……戦場を駆け抜けた……最初は、連れ去られた妹を助ける為に……その後は、もう俺みたいな存在を産み出さない為に駆け抜けた……」
「……逃げたくなったりは、しなかったんですか? 嫌になったりしなかったんですか?」
「……最初だけだったな……血の匂いに吐きそうになって、逃げたくなった……だが、妹を助けたいという思いが勝った……そこからは、敵を斬り続けた……途中からは、何もかもから血の匂いしか感じなくなったが、それでも最後まで戦った……」
剣舞士は語りながら、星空を見上げた。何を思っているのかは、監査嬢からはわからない。だが、強い決意で戦争に参戦したのは確かだった。
「……その後は、ここに来た……」
「ああ……そして、独り善がりに人助けを繰り返している……殺した罪は消えないってのにな……」
呟くように言った剣舞士の表情からは、何も感じられなかった。それを見た監査嬢は、どう声を掛けるべきか分からなかった。ただ分かったのは、剣舞士からしたら独り善がりな人助けでも、その人助けに助けられた人達が居るのは確かだ。
監査嬢も、そのうちの一人だ。
貞操と命の危機を助けてもらった。
そして、監査嬢も乙女なために、初めては好きな人に捧げたいと思っている。
そして今夜は、二人きりという状況。
だから監査嬢は、腹を決めた。監査嬢は腰掛けていた椅子から立ち上がり、ベッドに座って夜空を見上げていた剣舞士に近寄り
「剣舞士さん……」
「ん? どうし……んむ」
顔を向けた剣舞士と唇を重ねて、全体重を掛けて押し倒した。